嫌われ者の記 (198回)


4月×日…『特盛DVD人妻熟姦Comic』の下版。2カ所ほど“ゾーガン”が。象眼、象嵌、または象含とも表記するらしいが、青焼き段階(かつては鉛板)の誤植を訂正するため、同じ大きさのDTP文字を添え、下版時に印刷屋に直してもらう事を言う。数カ月前、尾山泰永のいずみコミックス下版の際だ。責了後の青焼きを持ち帰った、三共グラフィックの若い営業マンが電話を。「…ところでゾーガンて何ですか?」しばらくの沈黙後、優しく答えた。「先輩に尋ねてもらった方が…」「わかりました。お忙しいトコを…」後で上役が詫び電話を寄こしたが、初老編集者の疎外感はつのる一方。“版下”も死語化しつつある編集用語だが、本誌表紙は依然版下入稿。廃刊になるまでデータ入稿はしないぞっ!!!(威張る程の事も…)。夜、「早稲田松竹」で『彼女について私が知っている二、三の事柄』(監督・ゴダール・’66仏)。相変わらずの女性人気で、知的でファッションセンス溢れる姉ちゃんで一杯。20世紀は左翼思想で、21世紀はファッションで生き延びるゴダール。東西線で『松本清張への召集令状』(森四朗・文春新書・本体890円)読了、『夢小説・闇への逃走他一篇』(シュニッツラー・岩波文庫’90)に。『夢小説』がキューブリックの『アイズ ワイド シャット』の原作と初めて知る。無論、原作の方が数十倍いい。

4月×日…出勤途中、高崎駅構内のマックで時々100円コーヒーを飲むように。春のダイヤ改正で、いつも乗ってた同駅10時29分発の「とき316号」が、2階建てのMaxでなくなり、全く座れなくなった。(8両)。後続の「Maxたにがわ406号」は、越後湯沢始発で16両連結。ガラガラもいいトコだが、約30分をつぶさねば。マックを出た後、同じ駅構内の「くまざわ書店」に寄り、「マツモトキヨシ」では他では150円のお茶を100円で買い、ちんたら歩いて行くとやっとたにがわ号が。『カラシニコフ自伝 世界一有名な銃を創った男』(エレナ・ジョリー・朝日新書・本体740円)を。題名負けした、愚書揃いの同新書にしては出色(NHKBSの海外ドキュメンタリーは素晴らしいが、自局製作国内ネタはゴミ番組揃いなのと同じ)。夕方、“2丁目風美少年”好善信士が下描きを。「頼むから吹き出しもっとでかくしてヨ!」「すみませ〜ん!」ネームはツバつけて、無理矢理ネジ込む訳にゃいかねんだ。カワディMAXの下描きがFAXで。問題ないと電話した際、奴のいずみコミックス、『少女奴隷スクール』のカバー折り返し部分の、少女の着てる上着の“SCHOOL”のスペル、“H”が抜けてると教えようとしたが、もう間に合わねんだしと中止。帰りの新幹線、大宮の辺から『戦争の映画史 恐怖と快楽のフィルム学』(藤崎康・朝日選書・本体1200円)を。中身は可も不可もないが、蓮實重彦の“文体模写”振りが笑える(声帯模写の元祖、古川ロッパ真っ青?)。

4月×日…田植えを控え、拙宅裏を流れる用水路の恒例の泥上げ。老人ばかりで年々負担が増す一方だが、10年振りにしてユンボが1台登場、大いにはかどる(冬場土方に出てる人も多く、俺を除くほとんどが操作も巧み。もっと早く出動させて欲しかった)。俺んち、今年から老いた父ちゃん母ちゃんが、米作りを断念。体が昔のように動かねえし、買った方が安いと。ロクでなし長男ですまねえ! 2時間位で終了。シャワー浴びすぐ横に。『素白随筆集』(岩本素白・平凡社ライブラリー・本体1600円)を、10ページも読まぬうちにグーグー(評判ほどオモロない)。

5月×日…あるのに絶対に電話に出ない、おがともよしに連絡しろとハガキを。面倒くせえ野郎。ティーアイから、矢上健喜朗(月下冴喜)の『蝕姦』が、増刷になったと電話。本人に伝えると大いに喜ぶ。この人、色々工夫してるもの(その点、神楽ゆういちこと鬼姫は…)。夜、三信ビル隣の定食屋、「まさみ」で『週刊金曜日』の女性編集者、数人と宴会。俺のコラム(香山リカ他の『信じぬ者は救われる』〈かもがわ出版〉をボロクソに)、期待してた反発ハガキの類は来なかったと。無反応は最悪(トホホホ…)。今、左翼雑誌を編集し続ける苦労話を色々と(編集後記くらい、各自の好きにさせりゃいいのに。投稿者の県名さえ入れない読者欄といい…)。9時過ぎに別れ、1人で「大王」へ。『ボマルツォのどんぐり』(扉野良人・晶文社・本体1800円)。『sumus』の同人仲間、荻原魚雷同様にスカしまくってムカムカする凡書。この類を書きたがったり、読んで感動したがる知的下層民は一定数いるので、飽きもせずに刊行され続けようが。

5月×日…恒例春の、千駄木一箱古本市。今回は旧安田邸軒下に、下の愚娘を助手に出店するが、雨にたたられ散々。しかし「これが一箱古本市の底力とでも申しましょうか…」(南陀楼綾繁氏談)、午後から天気が回復したため、約1万8千円と、昨秋に比べ約1万減の売り上げを確保(営業時間も午前11時〜午後4時と、1時間も短縮されたのに)。見ものだったのが同市の“中興の祖”、南陀楼センセのイライラ振り。午前中は客もサッパリ(結局文庫が2冊売れたのみ)。会場でウロついてたセンセ、我が「嫌記箱」に来て、文庫本(丸谷才一篇の集英社文庫、『花柳小説名作選』300円なり)を買おうとする。全然売れんので気を遣った訳だ。対する俺の台詞がイカす。「いいよ。あんたが客1号じゃ縁起悪いし。どうしてもってゆんなら、売ってやってもいいけど」「いらないですヨ、そこまで言われちゃ!!」(でも4時の終了直前また訪れ、「やっぱり売れちゃいましたネ?」とブツブツ。煮え切らねえ野郎)。『編集者 国木田独歩の時代』(角川選書)の著者、黒岩比佐子も顔を。同書、判明分だけで35媒体に書評が出たが、増刷にならないとため息(初版5000部。拙著『東京の暴れん坊』の2倍)。余り皆が口を揃えてほめたのが、逆効果だった? 黒岩女史、美人なのは知ってたが、スタイル・シルエットも抜群。S女を勤めれば、初版1万部級の物書きの収入間違いなし。

5月×日…年回りからして仕方ないが、周囲はまんだらけ、いやガンだらけ。内澤旬子(乳ガン)、いがらしみきお(甲状腺ガン)、そして我が漫画屋HPの草1号こと、小倉智充までがいがらしに対抗(?)、甲状腺ガンに。転移してるらしく、手術は3時間の予定が8時間もかかったと(出血多量で)。そのため今は声が出ず、退院後も家族とは筆談と。塩山さんに千葉くんだりまでお見舞いに来られても、お相手できませんとメールが。“千葉にゃ前から散歩に行きてえと思ってた。しゃべれるようになったら連絡を”との返事。無論、奴が古くからのエロ漫画コレクターなので、万一の場合は全部俺に安く売ってくれとの交渉話も…、何てことは1行も打たず。40半ばのおたく第一世代。独身。孫の顔も両親に見せぬままガンとは、本当に親不孝者。事務所で『招魂の賦』(中谷孝雄・講談社文芸文庫’98)。予想外に面白い。滝井孝作なんて眼じゃない。上信線、山名駅の辺で読了、『詩は、自転車に乗って』(荒川洋治・思潮社’81)に。当時から既に言いたい放題。硬派物を最初に読めば良かった(新潮文庫化された、風俗ネタ本から入り回り道を)。自室でセックスピストルズのドキュメント映画、『D.O.A』(監督・レック・コワルスキー’81米)。画面は汚ないが中身は上等(市内のワンダーグーで980円)。

5月×日…やっと風邪が治る。今月初旬、新橋の「とり銀」なる高級焼き鳥屋で、ティーアイネット、クロエの両社から一水社のタコ多田他と接待を受け、意地汚なく喰いまくったあげくに、蒲団かけずに寝て一発で(クロエ、雑誌問題懇話会入会にあたり、一水社がスイセン役をしたためと。俺はオマケ)。料理は確かにうまかったが、女性従業員共は感じ悪かった。全員の全身から、「この店はあんたらのような連中が来るトコじゃない!」とのオーラが。確かにその通りだが、引き受けたのならもっと態度良くしろ(“オマケタカリ人”がここまで言うか?)

5月×日…「神保町シアター」で『氷壁』(監督・増村保造・’58大映東京)。初めてだが、ここまで面白いとは。主演が巨顔の山本富士子で期待してなかったが、それなりにダイエットを。野添ひとみはすっかり“増村の女達”に。97分。約50人の客が見事に振り回される。ピッケルをペニスに擬したり、野添と菅原謙次とのキスの際、濃そうなよだれが糸を引いたり、スケベムードもタップリ。御茶の水駅から中央線快速に。『青春の回想−ロマンチシスムの歴史−』(ゴーチェ・富山房百科文庫’77)をずっと。倍の量が欲しい。(つづく)