こんなカーネルはイヤだ

ロックマンが攫われ、バレルの指示で彼のナビであるカーネルが臨時のパートナーとなって
最初の夜。
場所は、ネットの部屋。
何とか、母・はる香にはロックマンの不在はばれずに自分の部屋に戻って、熱斗は一つ、深
く、溜息をついた。
見慣れたPETの中には、見慣れない黒いナビ。なんだか窮屈そうに見えるのは、気のせいだ
ろうか。
ぴくりとも動かない無表情が、こちらを見つめていて、なんだか気後れしてしまう。
それでも、臨時のオペレーターで、臨時のナビでこれからお互いコンビを組んでいくのなら、
歩みよりは必要で。

「まあ、とにかくこれからよろしくな、カーネル」

精一杯の笑顔でそう告げると。
無骨なナビは、そのままの表情で口を開くが、しかし。

『うむ。しかし光熱斗、まずは言っておくが、私にロックマンと同じことは求めるな』

まず放たれたのは、冷酷にも聞こえる厳しい言葉だった。

『お前もわかっているとは思うが、彼は民間用ナビであり、私は軍用だ』

言われるまでもない確認に、熱斗はきゅっと眉を寄せる。悔しくて、どこか、悲しくて、ロッ
クマンがいないことを再認識させられたことが、つらくて。
心を硬くし、カーネルの次の言葉に身構える。
けれど。
続けられたのは。

『彼のような全身スーツのような格好は絶対にしないし』

は?

『彼のように『頑張れ☆そこだよ☆熱斗君!』のような応援もしないから、そのつもりでい
ろ』

いや。いやいやいやいや。
ちょっと待ってくださいカーネルさん。
熱斗は呆然と目の前の軍用ナビを凝視する。
今の『頑張れ☆熱斗君』……思い切り裏声で、思い切り棒読みのそのセリフを、あなたはど
んな顔で言ってるんですか。
しかもロックマンのような全身タイツ……思わず想像してしまった熱斗は、机に突っ伏して
しまった。
成人男性の、筋骨隆々の全身タイツ…!

『話の途中で寝るな、行儀の悪い。まあ、今日は大目に見よう。それと宿題も、私の軍用の
検索機能を駆使し助言はしてやるが、それ以上は期待するな。軍事機密関連情報や、それら
へのアクセス方法は教えられん』

いや、あのですね。
熱斗は口の中で突っ込んだが、言葉にならない。
アメロッパ(多分)の軍事機密に関係する宿題、て何。そんな小学校の宿題はないし、そん
な宿題、イヤだ。
そしておそらく、この黒いナビは、本気だ。
場を和まそうとか、つかみのギャグ、とかそんな気遣い系ではなく、心から本気で、こんな
注意を言っているのだ。
おかげで熱斗の横隔膜は痙攣して、横腹も痛い。

「バレルさーん…」

机に突っ伏し、痙攣する横隔膜と格闘しながら臨時相棒の、本来のオペレータの名前を呼ん
でしまう。
なんだか、これからのコンビが思いやられて熱斗は泣きたくなった。……当初とは、
全く逆の意味で。

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イヤですよ、こんなすっとぼけた軍事ナビ(でも本人大真面目)。

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