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● ハッピー・ハロウィン?  ●

インターネットシティ中が、黒とオレンジの衣装を纏っている今日、ハロウィン当日。
 ネットナビ達も、思い思いの仮装をして、HP(家々)を回る。
 ここにも、そんな少年型ナビが二人。
 ところどころ血の滲んだような赤い色がついた包帯を巻いたロックマンと、
 ハロウィンの象徴、ジャック・オー・ランタンをかぶり、黒マントを羽織ったトマホークマン。
 二人はそれまでに回った家で貰ったお菓子を仲良くつまみながら歩いていた。

「結構色々貰えたな」

 トマホークマンは電脳キャラメルを口にほおり入れた。

「ニホンだから、あんまりもらえないかなーとか思っていたんだけど」
「日本でもハロウィンが広まってきた証拠だね。街中でも、結構凝った仮装しているナビもいるし」

 ロックマンもトマホークマンの袋から電脳チョコをつまんだ。
 ぱく、と口に入れると、甘い味が口中に広がる。

「あ、トマホークマン、このチョコおいしいよ」
「どれだ、どれ」

 そんな微笑ましいやり取りを続けながら、二人の足は、バレルのHPに向かう。
 本日最後のイベントにして、最後の試練。
 『カーネルに、「Trick orTreat!」を言おう!』
 あの生真面目な、こういうイベント事には疎い、どころか下手をすると怒鳴られる相手だが。
 せっかくのハロウィン。
 いつもは出来ないことをしてみよう!
 なんといってもお祭りだし! 
 と少年二人は、決心した。
 決心はした。が、やはり怖いので、二人で行くことにした。 

  *****   *****   *****

 そうして到着した、バレルのHP。
 ごくり、と二人は喉を鳴らした。

「ところでトマホークマン」
「んだよ」
「……突然来たけど、まさか不法侵入とかで、排除されないよね?僕ら」
「…トラップしかけられているとか?」

 なんだかもの凄く、ありそうで怖い。
 たっぷり二人は15秒間考えて。

「まあ…もしトラップあったら、仲良く引っかかろうぜ。てゆーか、引っかかってくれるよな!ロックマン」
「一蓮托生が前提条件なんだね…」

 ロックマンは溜息をついた。

「じゃあ、一緒に踏み込みよ?良い?トマホークマン」
「おお!」

 二人は『せーの!』で同時にHPに飛び込んだ。

「「Trick orTreat!」」
「……………」

 チームリーダーは。
 “鬼神”と称されたナビは。
 無言だった。
 無表情だった。
 突然飛び込んできた、ミイラ男とジャック・オー・ランタンを、冷徹に見下ろす。
 気まずかった。
 闖入者二人は、とても、気まずかった。
 驚くなり(ありえないが)、呆然とするなり(これもありえない)、怒るなり(十分ありえる)してくれれば対処のしようもあるが。
 無反応、では、少年二人も、どうしていいかわからない。
 しばらくお互いに何も言わず、動かず。
 口を開いたのは、カーネルだった。

「『Trick orTreat!』…ハロウィンか。『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』だったな」
 
 口調は、普段の作戦を指揮する時と変らず、淡々としている。

「残念だが、私は菓子を用意しておらん」

 カーネルがお菓子を用意しているとは、ロックマンもトマホークマンも思ってはいなかった。
ただ、いつも冷静沈着な自チームリーダーを、少しぐらい驚かしてみたかっただけだ。

「で、どうする」
「?どうする、て?」
「なにを?」

 少年二人は揃って首を捻った。カーネルが何を言いたいのかわからない。

「いたずらをしてみるか、というのだ、この私に」
「「!!」」
 
 いっそ傲慢ともいえる物言いに、瞬間、二人の顔から血の気が引いた。
 『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』ということは、お菓子をくれない相手に
はイタズラを仕掛けるわけで。

「ごめんなさい」
「それだけは勘弁して下さい」

 反射的に、少年ナビ二人は黒いナビの前で土下座した。
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