ど う し て

 

 

 

 

「どうして、カーネル」

今の僕には、もう、そう呟くしかなかった。

電脳世界の地面に押し付けられた僕は、両腕をしっかりと押さえつけられ、大きな身体がのしかかるような体勢で、身動きが取れなくなっていた。

「どうしてこんなことを……」

僕を見下ろす彼の表情は、冷たい。まるで観察でもしているような眼差しで、精悍な顔立ちのどこにも、何の感情も見つけられない。

そうして、今更ながら僕は実感した。

    ああ、“この人”は、“彼”じゃないんだ……

頭のどこかでは、ちゃんと分かっていて  でも、認めたくなくて、先送りにしていた回答を、胸で呟く。

だって、顔も、姿も、名前も、声だって同じなのに。

この人  ビヨンダートのカーネルが、僕を何度も何度も助けてくれた優しいカーネルと別の存在だなんて、納得できるわけ、ないじゃないか。

それでも、やっぱり“この人”は、違うんだ。

僕の知っているカーネルとは、別の人なんだ。

「どうして…」

そういえば、“彼”にも  僕や熱斗君を助けてくれたカーネルにも、『どうして』が一杯だったことを、不意に思い出した。

 

「どうして」カーネルはいつも僕を助けてくれるんだろう。

「どうして」そんなに優しい目で僕を見下ろすんだろう。

      「どうして」僕は、こんなにも彼に助けられたことが嬉しくて、嬉しくて仕方ないんだろう。

そして、彼の素性の全てを知ったときに思ったのは

「どうして」彼は過去の(ナビ)なんだろう

てこと。

彼が過去に存在していたナビで、時間を越えて現れる、ということは、ずっと一緒にはいられない、ってことで

もっともっと、話したいことや聞いてみたいことが、本当にたくさん、あるのに。

バレルさんと共に、デューオの彗星で旅立ってしまった時は、不思議と「どうして」とは思わなかったけど。

    『行かないで』とは、思ったけどね。

 

そして、今、こうしてビヨンダートに来てしまった時。

一人、炎山君たちとはぐれてしまった熱斗君を助けてくれたのは、やっぱりバレルさんとカーネルで。

なのにカーネルは…。

「どうして」こんなに素っ気ないんだろう。

がっかりして、しょんぼりしてしまった僕に、バレルさんは説明してくれたけど。

でも、別世界だから、て。バレルさんはバレルさんのままなのに。

「どうして」カーネルだけが、こんなに違うの。

僕を『知らない(ナビ)』と認識しているのはしょうがない。しょうがないけど…!!

優しさとかの感情取っちゃった、て何!!何なのそれ!

「どうして」カーネルもそれ納得しちゃうの!

 

「どうして」がどんどんどんどん積み重なって、僕の胸を塞いでいく。

その重さに、僕は堪えきれずに目を閉じた。

もう“この人”を見ないように。

 

そうして、最後に胸に残ったのは、さっき途中で言いかけた「どうして」

 

 

どうして“この人”は“彼”じゃないんだろう……

                                      会いたいよ……カーネル……