刹那の触れあい


 

 

それは、ほんの数瞬のことの筈なのに。

 

「バレル様、ただいま帰還しました」

黒いPETの中で、黒を基調とした成人型のナビが自分の帰還を報告した。

「ご苦労、カーネル」

バレルの端的なねぎらいの言葉に、カーネルは軽く目礼することで応じる。

今回のミッションも、パストトンネルとワープゲートを併用した、彼らにとって二十年後の未来でのものだった。リアルタイムでの、詳しい戦況はわからず、また、オペレーターであるバレルからのプログレスチップなどの援護などもない中で、作戦行動を無事に完遂できることこそが、カーネルの基本スペックの高さを証明している。

そのまま、今日は休ませようと考えていたバレルは、ふと、カーネルの視線が右方向  カーネルからすれば左  にずれていることに気付いた。

常ならば、カーネルはPETの中からまっすぐにバレルを見据える。

「お前の左手に、何かあるのか?」

珍しいこともある、とたずねてみると、カーネルは驚いたように視線をバレルに向けた。

「いえ。何もありませんが。何か」

「それがわからないからお前に訊いているんだろうが」

生真面目な返答は、今の行動がカーネルの無意識のものであることをバレルに推測させた。

  まあ、いい。俺の気のせいだろう。もう休め、カーネル」

軍用として設定されたため、感情や気まぐれといったフレキシブルな対応をほとんど見せないカーネルが見せた、無意識の些細な行動は、バレルの好奇心をくすぐりはしたが、それ以上追求することはせず、彼は自分の相棒を解放した。

 

PETの電源が切られ、周囲の電脳空間から遮断されることで、PET内部はカーネルの個人的な空間となる。

一人、今日一日の出来事や、二十年後の世界での戦いをまとめていたカーネルは、ふと、自分の左手に目を向けた。

奇妙な違和感が、消えなかった。

まじまじと、自分の左右の手を見比べる。

ほんの、数瞬の事のはずだった。

 

 

いつものように、アステロイドとの交戦中のロックマンの加勢に入った。

アステロイドの集中砲火を浴びそうになったロックマンを反射的に小脇に抱え、三ブロック先に移動した。

それだけのはずだ。

それなのに、あの重みがまだ腕に残っているようで、戸惑ってしまう。

論理的にはありえない。

それなのに、腕の先に残る違和感は、何なのだろう思う。

 

 

同じ頃。

ロックマンは、一人PETの中で今日の戦いを思い返していた。

相変わらず手強かったアステロイド。

熱斗との噛み合ったコンビプレイ。

そして     

ふと、右手を自分の顔の上にかざした。

アステロイドの攻撃が迫った時、自分をマントの内側に抱き寄せ、高くジャンプし攻撃をかわした長身の彼。

掴まれた腕と、抱えられた腰。

ほんの数瞬のことの筈なのに、まだ触れられていた時の感触が残っているようだ。

論理的にはありえないはずなのに、それがひどく、嬉しかった。

 

そして、別の時代、別の国で、二人は同時に呟いた。

 

「また、会えるかな……」

それは希望。

自分の危機には必ず現れても、多くは謎に包まれたカーネルに対する、ささやかな願い。

 

「また会おう……」

それは必然の未来。

彼のオペレーターの少年がネットセイバーであり、デューオの紋章を持つ限り、違えることのない事実。