メイド中里さん続編!
啓介×中里

小説KH様v






another story 〜啓中Version〜








最近バイトから解放され、毎日のように毅は妙義山へ出掛けていた。
バイトの内容は一言で言うならば家政夫というもので、普段やっている家事の延長と考えれば面倒な事ではなかったが、さすがに給料をもらっているだけに手を抜くことも出来ずにちょっと疲れた。
だがそのおかげで愛車のパーツを交換出来たので成果は甚大だった。



最近頗る調子の良いR32に乗って妙義山を訪れた毅は、駐車場で仰々しく存在を示す黄色いFDを見つけた。
一ヶ月も共同生活をしていたおかげで苦手意識はなくなっており、毅は友人見つけた時くらいの気軽さで啓介に近付いていった。
「啓介? どうしたんだよ、こんな所で?」
「俺だってたまには他の峠に行ったっていいだろ」
「あぁ、まぁそりゃそうだな」
本当は走りに来たなんて建前で、中里に会いに来たのだが啓介は素直に言い出せない。
「最近、どうよ?」
「最近ってまだ一週間ちょっとくらいしか経ってないだろ」
啓介にはもっと長く感じていた。
「なぁ中里。別にまたウチに来てもイイんだぞ」
偉そうに言ってしまって啓介は少し後悔した。そんな事が言いたかったのではなかった。
「薮から棒になんだよ?」
「別に‥‥。こっちから誘ってやらないと来辛いんじゃないかと思ってさ」
「用事があるならまだしも無いんだから、わざわざお前の所へ行くこともないだろ」

兄にバイトということで呼ばれたのだからそれ終わった今、ウチに来る理由がないというのも当然だ。
言い返す言葉が見つけられず啓介が口どもっていると、毅が何かを察したのか口を開く。
「またお手伝いさんがいないのか?」
「来てるけど夕飯作ると帰っちまうし‥‥」

毅は涼介の計らいで住み込みにしてもらっていたため、高橋家のお手伝いさんはそういうものだろうと思ってしまっていたが、現任のお手伝いさんはそうではないのだと意識する。
「だから、なんか家に人がいないと落ち着かなくてしょうがない」
「大袈裟だな。俺がいなくなったくらいで‥‥。誰もいないわけじゃないだろ?」
「いねーよ」
「え? 涼介は?」
両親だって戻って来ているはずだ。
「両親は仕事優先だから家まで帰る時間が惜しいとかで、仕事場に近いマンションで寝泊まりすることが大半だし、アニキは中里がいなくなってからあんまり帰って来なくなった」
「涼介もいないのか?」
両親はともかく、毅が高橋家にいた最中は、帰りが遅いことは何度かあったが、涼介が外泊したことは一度もはなかった。
「何かあったのか?」
「いや。大学の研究所だよ。両親と一緒でハードワーカーだから、毎度の事さ。ちゃんと帰って来てたほうが珍しかったんだ」
「そうなのか?」

そうなんだよ、と啓介は頷く。
正直、それだけ毅に対する兄の執着ぶりが感じられ、啓介にとってみれば少し面白くないことだった。
「中里、土日は会社休みだよな? どうせ暇なんだろ? 来いよ」
共同生活のおかげで毅の仕事のスケジュールは把握している。
「ふん、暇で悪かったな。まぁでも行くこともないと思うけど」
「バイトだったら来てくれのか?」
怪訝な顔をする毅に断られる前に、と合間を開けずに啓介は続ける。
「土日どっちかだけでもイイし。アニキほどお給料出せないかもしれないけど」
「どうしてそんなにしてバイトさせようとするんだ?」

うっ‥‥と啓介は答えに詰まる。

そう言われると何故なのか答えが返せない。
「ハルさんが‥‥あ、家政婦なんだけど、土曜の夜と日曜は休みだから」
「だから?」
「バイトに来いって行ってんだよ! 俺が家事出来ないの知ってんだろ」

高橋家の人間が絶望的に家事が出来ないことは見て分かった。
しかし元の生活に戻っただけだと思えば、さほど騒ぐことでははない。

「土日だけだろ。それくらい自分でどうにかしろ」
「俺を飢え死にさせる気かよ?」
恨めしそうに睨む啓介を見て納得する。
自分が会社勤めをしている関係で、平日の炊事以外は多少免除してもらっていたが、それでは雇われている立場として気も治まらず、土日に家事を徹底してやっていた。
炊事にいたっては、仕事が遅かろうとバイトの休みをもらった日であろうとも自分が食べるついでだったので、頼まれれば弁当まで毎日作っており、そう考えるとメシ当番がいなくなったのは少し辛いのかもしれない。
バイトを始めて最初に作った料理が口に合ったようで、自分が会社から戻ると餌付けをされた雛のように「腹減ったぁ。メシは?」と今にも死にそうな顔で寄って来ていた。
毎日講義に遅れそうな時間でもきっちり食事を抜くことはなく、しかも起きぬけだろうとがっつりと食べる啓介の食に対する執着は大きいと思う。
それに自分の料理を食べながらファミレスやコンビニ弁当は食べ飽きたと話していたことはまだ記憶に残っている。

「メシか‥‥。お前にとっては大問題だな」
「だろ〜!」
「しょうがねぇな。行ってやるよ。でも、もうバイトなんかしないからな」
慈善奉仕だと言って毅は土曜日の午後から行くという約束をする。
「それで、何が食いたいんだ?」
「え? ‥‥えーっと、考えてなかった。なんでもいい。作ってくれるなら」
「それが一番困る。買い物だってしてかなきゃならないんだから考えとけよ。金曜くらいに電話するから」
「買い物なら一緒に行けばいいんじゃねぇ?」
「いいよ。行くついでに買って行ったほうが手間がなくていい」
そうだよな、と言った啓介の顔は少しだけ残念そうに見えた。



金曜の夜、毅は啓介へと電話をした。
すると待ち構えていたかにコールが繰り返される前に繋がった。
「急に出るからビックリした」
「携帯、いじってたんだよ。明日来るんだよな?」
「リクエスト考えたか?」
「んーっと、プリン!」
「プリン〜? 夕飯の話してんのにプリンはねぇだろ」
「でもよ、食いたい」
家政婦にプリンを食べたいと言っても、「プリンなんてお店の物のほうが美味しいですよ」と言われ、評判の店でプリンを買ってくるだけで作ってくれることはなかった。
平凡な味でも手作りのものが食べたい。
「プリンは置いといて、夕飯のメニューだよ。決めてないなら俺が勝手に決めるぞ」
「待ってって。えーっと‥‥」
毅は啓介の挙げる料理に必要な食材をメモに書き留めていった。




朝、毅は新聞の折込チラシの中に特売広告を見つけ、啓介の携帯電話へ連絡をした。
いつまで経っても出ないのも無理はない。まだ7時半を過ぎたばかりだ。単位がギリギリの講義でもないかぎり土曜の朝に自主的に啓介が起きていることはない。

やっと繋がった受話口からは呻きのような返事が聞こえた。

「‥‥‥誰だよ‥‥こんな朝っぱらから」
やっとのことで口にしたと思われる啓介の声はひどく掠れていて、やはり寝起きなのが判る。
「起きろ、啓介! 買い物行くぞ!」
「んぁ? ‥‥買い、もの?」
「早くしろ。プリン作ってやんねーぞ」
「でも来るの、夕方だろ? 買い物なら昼からでも‥‥」
「それじゃ遅いんだよっ! 卵Mサイズ1パック32円、お一人様1パック限り。昼から行ったら無くなっちまう!」
「卵なんて普通に買えば‥‥」
「バカヤロ! 1パック32円がどんなに安いか解ってねーだろ?! プリンは卵大量に使わなきゃならないんだからな!」
毅の熱弁が啓介の睡魔を妨げ、観念した啓介はのっそりと起き上がった。
「あ〜もぅ、分かった。起きる」
「じゃあ迎えに行くから支度しとけよ」
そう言うと電話が切れた。


着替えを済ませ、啓介が朝食にありつけた頃、インターフォンが鳴った。家政婦がそれを取り、啓介に告げる。
「啓介さん。お客様ですよ」
「来るの早過ぎだぜ」
出掛けられる状態になっていないのは、頭をセットするのに時間がかかったせいなのだが、焦ろうともせずに黙々と飯を咀嚼する。
「すぐ出れないから上がってもらって」
啓介に言われるがまま家政婦は玄関へ向かう。
「いらっしゃいませ。啓介さんが上がってくださいとのことなので、どうぞお上がりください」
年配の女性を目の前にして毅は一瞬戸惑う。

「あの‥‥」

「啓介さん、まだ食事の最中なんですよ。上がって待っていてくださいな」
「あ、はい。‥‥お邪魔します」

玄関を上がるとリビングに通された。
「よっ、中里。今食い終わったからすぐ行く」
「お出かけですか? 啓介さん」
「うん。あ、ハルさん。今日昼飯作らなくていいから早く帰ってもイイよ。ごちそうさん。じゃ、行ってくる」

家へ上がったばかりだというのに、毅は啓介に連れ立たれて来たばかりの高橋家を出た。



「なんか怒ってる?」
卵も無事に一人1パックずつの合計2パックも手に入れられた。
それなのに何故か毅の表情は優れない。
「やっぱFDで来たのがマズかった? 今度ん時は32でいきゃイーじゃん」
「お前に聞いてもどうしようもないかもしれないけど、一つ確認していいか?」
「何?」
「さっきの人が家政婦さんだよな?」
「うん。それが?」
「俺がバイトする時、涼介が持ってきた服‥‥アレ、由緒正しい制服じゃなかったのかよ?」
「んー? そうだけど」
「あの家政婦さんは着てなかったじゃないか」

今の家政婦は着物に割烹着という格好である。
言いたいことが解って啓介は言う。

「騙されたと思ったのかよ」
「お前ら兄弟は俺をからかうためならそれくらいやりかねない」
「ハルさんのあれもまぁ制服っちゃあ制服だし。あの歳でメイド服ってのは酷だろ?」
「男の俺は酷じゃないのかよ?」
「あははー。似合ってんだからイイじゃん」
「メイド服着るくらいなら着物のほうがマシだ」
「仕事終わって帰って来てから着物着る気かよ? あれ着るの大変だぜ。つか、女物の着物一人で着れるのか?」
「う‥‥」
男物の浴衣くらいしか着たことがない毅には到底無理だ。
「それに何だかんだ言っときながら、実はアニキに内緒でスカートの下に短パン履いてたの知ってんだけど」
「スカートってやつはなっ、穿くと情けない気分になんだよ! テメーも一度穿いてみろ!」
耳まで真っ赤にして言い訳する毅を見て、啓介はククッと喉を鳴らして笑った。








早くから出掛けたせいもあって軽井沢まで足をのばして、帰ってくると昼過ぎだった。
途中で昼飯を済ませようと言う毅に我が儘を言って、家で昼食を作ってもらうことにした。

メニューは軽井沢で買ってきた野沢菜を使った炒飯にしようと話しながらリビングに入ると、思いがけなかったことに兄がいた。

「お帰り、啓介。中里も」
「帰ってたのかよ、アニキ」
啓介の胸の裡に本人に気付かないほど小さく“面白くない”という感情が芽吹いた。

「帰って来てほしくなかったように聞こえるぞ、啓介」
鉄壁の微笑を浮かべながら涼介は言う。何もかも見透かしたような目をしている。
「んなことねーけど‥‥。アニキ、中里がいてもあんまり驚かないのな」
「さっきハルさんに聞いたからな」
啓介にはそれが嘘だと直感的に分かる。絶対今日毅が来ると分かっていて帰って来たに違いない。
「ま、いいけどさ‥‥」
拗ねた様子で呟く啓介を見て兄はクスリと笑った。
分かっていない毅だけが涼介に平常に話しかけた。
「涼介は昼済ませたのか?」
「いや」
「炒飯を作ろうかと話していたんだけど、それで良ければすぐ作れるけど」
「作ってもらうのに文句なんて言えないさ」
「あー、米足りるかな?」
バイトのおかげで勝手を知りつくした台所を進み、炊飯ジャーを開ける。
普通の量で考えればギリギリ三人分ありそうだが、啓介の食欲を考えたらおそらく足りない。
もう一度炊かないといけないなと思いながら、ボウルにご飯を移した。



「あー食った食った」
「ごちそうさま、中里」
自分の食器を片付けようとする毅の横で涼介が立ち上がった。
自分が片付けるのが当たり前だと思っていた毅は驚く。
「もうバイトじゃないんだから中里だけが片付けることはない。俺も手伝うよ」
「そうか? ありがとう」
涼介と毅が片付けを始めたのを見て、啓介もそれに倣う。
だが毅は洗い物を手伝わせるつもりはなかったようで、結局二人とも食器を運んだだけで台所から追い出された。
啓介はリビングのソファに身体を横たえて脱力する。
「あー、腹一杯になったら眠くなってきた」
「行儀悪いぞ」
「だってさー、朝早くから起こされてスーパーまで買い物付き合わされたんだぜ」
「良かったじゃないか。おかげでプリン作ってもらえるんだろ?」
「なんで知ってんだよ?!」
涼介にその話はしていないはずだ。
秘密だと涼介は笑った。
味方でいる内はこれほど頼もしい者はいないが、そうでなくなった場合は脅威になる人物だと啓介は身をもって実感した。




毅が食器を洗い終え、夕食のデザートに間に合うようにとプリンのタネを作り始めていると、背後から涼介に声をかけられて振り返った。
そこにいるのは涼介だけで、啓介はソファで寝てしまったようで静かだった。
「何か手伝えることはあるか?」
「いや、気持ちだけで十分だ」
そうか、と言って涼介は笑んだ。
そして少し間を置くと、また口を開いた。

「今日は啓介が随分と我が儘を言ったようだな」
「こんなの我が儘に入らねぇよ」
夕飯を作れと頼まれただけで、料理分の材料費だって啓介が全部負担してくれた。
「それは良かった。アイツが人に懐くのは珍しいんだ」
「そうなのか?」
「ああ。しかも、かなり気に入ったらしい」
プリン液を混ぜていた手が止まる。人に懐かないというのが本当ならば自分を気に入ったというのが信じられない。
「単に飯番がほしかっただけだろ」
呆れたように苦笑った涼介は言う。
「理由でも作ってやらなきゃ、中里はここに来なかっただろう?」
「理由‥‥?」
「啓介自身それが見つからなくて随分行くのを迷ってたみたいだ」
涼介はほのかに口元を上げて笑んだ。
「もう少し待っても啓介が行かないようだったら、俺が攫いに行くつもりだったんだが」
さらりと犯罪臭い台詞を言ったような気がするが毅に聞き返す勇気はない。
メイド服を取り出した時よりもタチの悪い表情を浮かべる涼介に毅は怯んだ。
「その必要も無くなったから、これを渡しておく」
一瞬何が出てくるかとかまえたてしまったが、それは家の鍵だった。

「鍵?」
「ここの鍵だ。一度返してもらったが、中里にと作っらせたものだから持っててくれ。これから色々と役に立つこともあるだろう」
非の打ち様がない笑みを向けられては受け取るしかなく、毅はジーンズの尻ポケットへ小さな鍵を押し込んだ。






日も傾いた頃、啓介は目を開けた。

薄暗くなってきていたのに電気も点いておらず、何度か目を瞬かせた。

「中里‥? いない‥‥‥?」

勢い良く身体を起こすと目眩がした。
ソファでなんて寝なきゃ良かったと、啓介は寝乱れ額にかかった髪を欝陶しそうに払い、長い脚を机にぶつけそうになりながら立ち上がってと玄関へと向かった。
いつ出て行ったのかも判らなかったが、とにかく追い掛けなければならないと感じたからだ。

だかしかし玄関には毅の靴が置いてあった。
「なんだ‥‥まだいるんじゃんか」
ふぅと安堵の息を吐くと啓介は家の奥に戻った。


「中里ぉ、中里ーぉ。いるんだろ?」
普通より広いと言っても一軒家である。啓介が呼びながら歩くと、すぐに奥の部屋のドアが開いた。
「そんな大声で呼ばなくとも聞こえる」
啓介は立ち止まった。
なんだか似たようなことがあった気がする。
靄がかかっている頭に女性の声が蘇る。

『そんなに呼ばなくても聞こえてるわよ。あらあら、泥だらけで、今日はどうしたの?』
メイド服を来た女性が困ったように笑いながら言っているのは判るのだが、顔ははっきりと思い出せない。
デジャヴともいえる感覚に囚われて短い間だが動けずにいると毅が近付いて来た。

「啓介? どうかしたかの?」
「いや、なんでもっ! そ、それより、アニキは?」
咄嗟に言うことが見つからず、苦し紛れに姿の見えない兄の所在を聞いてみた。
すると毅は涼介が出掛けて行ったことを告げた。
「急用とかで一時間くらい前に出掛けて行った。夕飯の時間までに帰れるか分からないってさ」
「そっか‥‥」
「残念だな。久しぶりに三人で夕飯食べれると思ったのにな」
兄の不在を残念がるような口ぶりにむしょうに腹が立った。
「‥‥ッ! なんだよ、それ?! 俺だけじゃ不満なのかよ!?」
自分が家に呼んだのに毅が兄ばかり気にかけているように思えて仕方ない。
驚きと戸惑いを浮かべた顔で毅が啓介を見た。

「俺、何かおかしなこと言ったか? ただ涼介がいたほうがお前も嬉しいんじゃないかと思っただけなんだけど‥‥」
涼介がいたほうが嬉しい‥‥?

たしかに兄が家にいるのは自分にとって嬉しいことである‥‥はずだ。
それを毅は代弁したというだけなのに、自分は何を怒っているのだろうか。

理解の及ばない己の行動に啓介は戸惑った。
毅は啓介の様子から怒り出した理由を勝手に推測すると小さく笑った。そしてからかうような口調で言う。
「まさか、プリン取られるとでも思ったのか?」
「え?」
「たくさん作ったから少しくらい涼介に分けてやっても大丈夫だぞ?」

本当はプリンなんてどうでも良かったが素直になれなくて啓介は毅から目を逸らした。
「‥‥‥‥イヤだ」
小さく不満を吐き出す啓介が幼く見えて毅は笑みを深めた。
「無くなったらまた作ってやるから。な?」
「また?」
「涼介にもお前のこと頼まれたし、お前みたいなヤツ一人にしておいたら不健康極まりない生活に戻っちまいそうだしな」
自分は帰れば家族の誰かしらが迎えてくれる家に育ったので啓介ほどの気持ちは解らないだろう。
しかし、一ヶ月間のバイトが終わって誰もいないアパートへ戻った時に、一人暮しを始めたばかりの頃に感じた虚しさを思い出した。
そのせいなのか、毅は啓介を放っとくことなど出来なかった。

「毎週は無理かもしれないけど、たまには飯作りに来てやる。だからそんな子供みたいにいつまでも拗ねてるな」
「誰が拗ねてなんて‥‥。俺は朝早くから起きて買い物まで付き合ったんたし、俺が全部食ったっていいだろ」
「そう言うな。それなら今度作る時は涼介に卵買ってきてもらおうぜ。そうしたらおあいこだろ?」
「アニキに‥‥卵を? ははっ、それいいな!」
「よしよし。やっと機嫌治ったみてぇだな」
手を伸ばし毅は啓介の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でた。
「ガキじゃねーんだから、そーゆーのやめろ」
「はいはい」と言いながらも、毅の手は啓介の頭を掻き回した。
いい歳にもなって頭を撫でられたくないが、毅が馴れ合うように自分に触れるのが嬉しく思えた。



結局涼介は帰って来なかったため、二人だけで夕食を済ませた。
カウンターに肘をついて寄り掛かりながら、夕食の片付けをする毅を暫く眺めていた啓介がさも当然とばかりに聞いた。
「今晩、泊まっていくんだよな?」
尋ねるというよりほぼ決定に近い確認を口にする啓介へ毅はあっさりと答える。
「いや、帰る」
「なんでっ?」
泊まると答えが返ってくると思っていた啓介は目を丸くした。
「今晩は峠に顔出さなきゃなんねーし。また時間がある時来るから」
「ダメだ!」
神妙な顔で引き留める啓介に怪訝な顔を返すと慌てたようにその場を繕う。

「あ、明日の飯とか‥‥どうすんだよ?」
「そこまで面倒見ろってことかよ? 図々しいヤツだな」
「ああ、図々しいぜ! 悪かったなっ!」

無茶苦茶なことを言っているのは分かっている。しかし言わなければ帰ってしまうのだから言わざるえない。
自棄で投げやりに言った啓介を毅はしょうがないなといったように小さく苦笑う。

「高橋啓介だもんなぁ」
「どういう意味だよ、それ?」
どうせ俺なんてと拗ねた様子を見せる啓介は年齢以上に幼い。
「それなら顔出したら戻ってくる。バイトしてた時だってそうしてただろ」
「なら、俺も行く!」
「来んなって。鍵預かってるから夜中でも家入れるし」
「鍵?」
「ああ。涼介から預かった」
「なんで?」
「なんか言ってたみたいだけど、さっぱり解らなかった」

兄はまた何か企んでいるのだろうか。いつも兄の思い通りに終わってから気付かされる。
それは悔しいことだが、また来てくれるという確証に気付く。
「絶対だからな。帰って来なかったら妙義に乗り込んでやるから覚悟しろよ」
「怖いこと言うな。そんな釘指さなくとも帰ってくる。客間使って良いんだろ?」
勿論だと答えた啓介は洗い物が終わるまで、ずっと毅の背中を見つめていた。








二ヶ月ほど経過した。
毅に会えるのは週末だけ。しかも毎週というわけではない。
だが週末まで待ち切れない啓介は平日に妙義へ足を運ぶことを選んだ。しかし、そこでの毅は家で会う時とは違ってよそよそしく接するため普段とのギャップに堪えられなくなってすぐ帰ることが多かった。
だからといって啓介にはどうしようという考えは浮かばず、妙義へ行くのを反復するだけだった。


啓介が去った後の妙義山は、興味本位のメンバー達によってたいてい彼の話題になった。
「あれ、なんなんでしょうね? 高橋啓介。最近よく来るわりにおっかない顔してすぐ帰ってくし、嫌なら来なきゃいいのにさ」
「毅さんが相手にしないから拗ねてるんだぜ。きっと」
「あははっ。そうだな、きっと」
メンバーは茶化して勝手なことを言っている。それは、核心に触れていないとしても間違いではない。

かまうのは簡単だが、啓介を良く思っていないメンバーの前で深く関わるのは余計チーム内の不満を強くしそうで好ましくなかった。
怒り出しそうなのにどこか寂しそうな雰囲気を残す啓介を見てしまうと週末に行ってやらなきゃと感じてしまう。
そしてまた週末になると高橋家へ足を運んでしまうのだ。
この状態が続いているのは、啓介が何も言わないせいだろう。自分に対して不満があるのならば言えば良いのに、何も言おうとはしないから自分も触れない。
そのまま日数だけが過ぎていた。


そんな時、家庭の事情‥‥と言うと大袈裟に聞こえるが、地方に住んでいる祖母が暫く実家に滞在することとなったせいで、その間毅は実家へ帰らなければならなくなった。
行ってはいけないと強制されていたわけでは無いが、何事にも厳しい祖母の手前妙義へ走りにも行けず、土日は祖母と観光もしくは話し相手になっていたため高崎へも行けない日々が続いた。
時々携帯電話に着信があるので、気にかからないわけではなかったが、滅多に会えない祖母の相手も楽しく、毅の頭には啓介のことを考える時間はほとんどなかった。


金曜の夜、啓介からまた電話があった。
家にいてもマナーモードを解除することがほとんどない毅は後になって着信に気付くことが多いのだが、この時はばかりは偶然にも気付いた。
「啓介か? 悪いな。今週も行けそうにない」
「またかよ」
「しょうがないだろ。でももうすぐばーちゃんも帰るらしいから‥‥」
「俺に会いたくなくなったんならそう言えよ。言い訳されるよりマシだ」
「何拗ねてんだよ? またプリン作ってやるからさ」
「もう来なくていい」
「おいっ、啓‥ッ、‥‥切りやがった」
ツーツーと途切れた音だけが毅の耳に残った。

暫し携帯を見ながら思案した毅はジッとしていられずに立ち上がる。
「‥ったく‥‥。おふくろ、ちょっと出掛けてくる。ばーちゃんにもそう言っといて」
まったくしょうがないといった様子で毅は家を出た。



高橋家に到着すると呼び鈴を鳴らしたが、一向に開かれず、毅はスペアキーで玄関を開けた。
呼んでも開かないということはおそらく啓介しかいないのだろう。
毅は明かりの付いていない一階の部屋には目もくれず、二階にある啓介の部屋へ向かった。
ドアの前で毅は呼び掛ける。

「啓介。いるんだろ? 啓介」
「‥‥‥‥」
「入るぞ」
返事が返ってこず、毅は了承も得ぬまま扉を開いた。
部屋の中は電灯が点っておらず、青白いテレビの光だけがうっすらと部屋の中を浮かび上がらせていた。
あれだけ片付けたのにまた部屋中に啓介の私物‥‥本人いわく宝物が乱雑に散らばっていた。
その中に啓介の姿を探すと、ベッドの脇に膝を抱えてうずくまっているのを発見した。

「啓介」
「‥‥来んなって言っただろ」
「来れなかった事は謝る。だから怒るな」
「怒ってなんてねぇ! いいから出てけ」
毅は啓介の近くを選んでベッドに腰掛ける。
「どうしてお前はそんなに極端なんだ。ガキじゃねぇんだからさ」
宥めすかすように啓介の頭を撫でた。
「どいつもガキ扱いしやがって‥‥どうせアンタも俺を置いていくんだろ」
「?」

ゆらりと啓介の身体が動き、毅の目の前に立ち塞がった。
近すぎるほど距離を詰められて、毅は反り返った身体を肘で支えた。

「な、なぁ啓介?」
「どうすればアンタは俺と一緒にいてくれるんだ?」
「だから時間の空いてる時に来るって言ってるだろ?」
「違う」
「何が‥‥えっ?」
毅を見下ろす啓介が強引に肩を押した。ボスンと身体がベッドで弾んだ。
「何す‥ッ?!」
見上げると啓介の顔が近くにあって息を飲んだ。
その距離は拳一つほどしか開いていない。
沈黙したまま強い眼光を突き付けられて毅は首を横に捻る。
整った顔に間近で見つめられるというのは、こんなにもいたたまれないものなのだと知った。

「そんなに‥‥怒ることじゃないだろ」
来れなかったのは事情があったのだし、それに多少不便があったとしても自分がいなかったからといって生活に困るほど子供ではない。
機嫌を治そうと毅は無理矢理笑んだ。
それを見た啓介の柳眉が僅かに上がる。
「中里‥、俺がアンタを好きだって言ったらどうする?」
「どうするって‥‥別に。こんなに懐かれるとは思わなかったけど、お前見てたらそんなの分かったし」
溜め息がてらそういうと、啓介の瞳が驚きに見開かれた。

「知ってた、のか?」
「? ああ」
「だから俺のこと避けたのか?」
「避けてない。ウチのばーちゃんの相手してたって何度説明させれば気が済むんだ?」
「じゃあ俺が好きだって言っても嫌じゃないか?」
「ん? ああ」
「中里は俺のことは好きなのか?」
真剣な顔で聞くので、何も考えず成り行きで頷いてしまった。
「あ、ああ」

啓介の表情が大輪の花が咲いたように綻ぶ。
毅はそれに魅入ってしまった。
「俺も好きだ」
他人の唇の感触が柔らかい皮膚に直に触れる。
毅は目を見開き、啓介とキスしていることを理解した。
啓介と‥キスしてる‥‥?
対処しきれない状況が大きな渦となって毅を巻き込み、血の上った脳は沸騰してしまいそうだ。
毅は耳朶まで真っ赤にして啓介を押し返した。

「何しやがんだ、お前はっ!」
「キスくらいで怒るなよ」
もう一度迫ってきた顔を掌で拒み、腕を突っ張って押し返し身を起こした。
啓介は毅の手首を掴み顔から引き剥がす。

「出来れば合意の上でしたいんだけど」
「何を?」
「‥‥っとに、俺の気持ち解ってんのかよ? それとも相当鈍感なのか? 中里を抱きたいっつったんだよ」

「‥‥‥‥‥‥は?」
声を出せるまでだいぶ時間がかかった。
「は? じゃねぇよ。好きってのは、そういう意味の好きなんだぞ」
開いた口を閉じることもできないほど茫然としている内に再び押し倒された。
痛いほどに掴まれてる手の指先を啓介の紅い舌がなぞる。
啓介の艶めきを帯びた顔とぬるりとした感触に毅は身体をすくませた。

「ま、待てっ! もももも物には順序ってものがなッ!」
順序を踏めば良いのか? と目で語る啓介へ毅は叫んだ。
「違っ! そうじゃなくてっ‥‥なんか間違ってるだろ?!」
「間違ってない」
「真顔で怖いこというんじゃねぇ! 俺は家事は出来るけど女じゃない!」
それがどうしたという啓介の目は毅を見据えており、いや、むしろ目が据わっていると言えよう。

「メイドの格好してなくても俺は中里が好きだ」
言葉と顔からは冗談などではない覚悟が見える。

「む、無理だ!」
「俺が嫌いなのか?」
「どうしてそう飛躍すんだよ? 嫌いとかそういう次元じゃなくて、男とこういうこと考えたことないし‥‥」
「じゃあ大丈夫だな?」
「いや、大丈夫じゃ‥‥」

唇を強引に重ねられて、飲み込んだ息がくぅと喉奥で鳴った。
嫌悪感でもあれば渾身の力をもってしても振り解いていただろうが、不思議とそういう気になれず抵抗となる反撃は出来なかった。

やめてくれと懇願する毅を啓介は離そうとしなかった。
啓介には離したら戻ってこないという不安しかなかったからだ。
毅の両脚の間に割り込ませ、ジタバタと暴れる脚から膝辺りまで下着ごと無理やりずり下ろしたジーンズを片脚で踏み付けて下肢の身動きを封じた。

キスはいっそう深くなり、絡まる舌が痺れを帯びるほど長く毅を翻弄する。
あらわになった太腿を啓介の骨張った掌が大腿筋に沿って下から中心部へ向けて撫でてゆき、毅の中央に触れた。
するとビクリと大袈裟なほど毅の身体が跳ねる。
こんな風に触れられたことなどないのだろう。耐え忍ぶ姿に啓介はひどくそそられた。

毅の中心を握り込んだ手を上下に扱くと、固く目を閉じた毅は堪えられないといった様子で声を上げた。
「けいすっ‥んぅ‥っ、そんなとこッ触ん‥‥ぁあっ」
口付けで混ざり合った唾液で濡れる唇を拭う余裕もなく、啓介の手淫に毅は身をよじらせた。
今毅を支配している感情の大部分は戸惑いのようだ。自分に対しての拒絶は無い。‥‥無いと思いたい。
バラ色に上気した頬や戸惑うように震える長い睫毛が啓介の欲を突き動かす。
「俺の手の中で感じてんのがスゲェ嬉しい」
都合良く解釈しているだけだろうが、身体が反応を返してくれるうちはどんなに毅から罵詈雑言を言われたとしても、全部嘘に聞こえるだろう。
「そんなわけなっ‥‥、くぅっ! ‥‥手ぇ放せっ!」
「イくまで放さない」

毅の揺れる瞳には啓介の狂おしいほどの恋慕と激しい熱情が映っていた。
それが自分に向けられている理由が解らない。
身体は刺激に昇り詰めてゆくのに感情がついてゆかず、毅は軽いパニック状態だった。

「嫌だっ、やめっ‥‥やめろ、啓介! 絶対おかしい、こんなのはッ‥‥」
啓介の行動も自分の反応も全ておかしい。どこかで何かを間違ったとしか思えない。
「好きなんだ、中里」
「‥‥ッ!」
扱く指に力が篭り、毅は息を詰めた。
変な声が漏れてしまいそうで、毅は声を出さないように気をかけながら、ゆっくりと不規則に息を吐いた。
身動きしたらその振動で達してしまいそうで、啓介の袖をギュッと握り締めたまま毅は動けない。
それは啓介を拒むというより縋っているようにも見える。
「待ッ‥‥て、けぇすけ」
「イきそうなんだろ? イってイイぜ」
「そんな、わけには‥‥、ひぁっ! ダメっ、ダメだ! 啓介‥ッ!!」
押さえていた快感が微粒の電流のようなざわめきになり腰から脳天に突き抜ける勢いで駆け抜け、脳内が真っ白になると同時に毅は白濁した体液を放っていた。
自分の掌の中に放たれた体液を目で確認すると、啓介は嬉しそうに目を細め、更に先の行為を強要した。

開放の余韻から抜け切れていない毅は手早くジーンズを下ろす啓介に対応できなかった。
完全にジーンズを取り去られる。
「な、何を‥‥」
覗かれる視線に羞恥を感じ、毅は膝を閉じて股間を隠したが、両膝を同時に持ち上げられたことで無意味となる。
そして脚は啓介の左肩に荷物のように担がれ、身体をくの字に折り曲げられた。
体液に濡れた啓介の指が最奥の蕾に触れて、制止する声を上げる猶予も無く人差し指を突き立てられた。
半分ほどで進入は一度止まるが、捩るように進めると粘着質なぬめりを借りて難無く付け根まで埋まってしまう。
その指が触診しながら動き回り、大丈夫だと判断したのか二本目の指が追加される。
「やっ‥‥やめっ‥、ううぅ‥‥ッ」
排泄感と似た感覚に羞恥と情けなさが毅を襲う。
「抜いてくれ、頼むから‥‥啓介」
抜き差しされるたびにジュクジュクと水音を発し、精液の匂いが広がってゆく。それがいたたまれない。
三本目の指が入口に宛がわれ、毅は必死の思いで突破口を探した。
するとその時、家の横を通った車の音が毅の耳に届いた。
通りすがっただけの車の音だが、毅の脳裏に閃く。

「りょ、涼介! 涼介が‥‥」
啓介の動きがピタリと止まる。
成功だと毅は思った。
だが、三本目の指は強引に突き立てられた。
「ひあぁッ!」
「なぁ、中里はアニキとどういう関係なんだよ?」
「‥‥うぅっ、指っ動かすな!」
「アニキに頼まれたからメイドの話も受けたんだろ?突然中里呼べなんて言い出してさ、変だと思ったんだ。いつの間にか合鍵だって受け取ってるし、‥‥もしかしてアニキとこういうことしてるのか?」
「す、するわけないだろ! バイトの件だって涼介がどうやって選択したか知らないけど、俺が受けたのは金のためであって‥‥それだけ、だ」
金のためにメイド服を着たというのは少なからず後悔している。
しかしそれは済んだことであり、今後はありえない。
涼介とこういうことをするのは、メイド以上にもっとありえないことだ。

「信じても良いんだよな?」
「当たり前だ!」
少しだけ啓介の指が大人しくなる。
だが今度はゆっくりと内壁を探り出す。
何かを探すかに隅々まで強弱をつけて胎内をえぐる。
その指がある一点を発見した時、若木がしなるように毅は大きく背を反らせた。
信じられないことだが、グンッと自身が膨らんだのが分かる。
二,三度擦ると紅く熟した搾まりから啓介が出て行った。
緊張を身体中から押し出すように深く息を吐いた毅の耳に啓介の声が届く。

「入れるからな」
指ではない熱い塊が狭い入口を押し拓いた。
桁外れな質量に毅は目を見開く。
「うぁ、ああッ! そんな、入らなっ‥‥あぁッ!!」
腸が逆流しているような今まで感じたことのない感覚だ。
「う‥‥、く‥ぅ‥‥」

脅威が徐々に侵食してゆく。
限界まで拡げられた局部の痛みと中から開かれる圧力で毅は息をするのも忘れて呻いた。
視野がチカチカとスパークし、滲む涙が玉になって目尻から流れた。
「痛‥‥ぇ、もぅ‥‥限界‥だ」
「まだほとんど入ってない」
「うそ‥‥だろ‥?」
カリ首を過ぎたおかげで男茎が進むペースが上がり、毅をいっそう深く貫く。
そのまま啓介は、目も眩むほどに溢れ出した想いを抑え切れずに毅を蹂躙した。









目を開けると見覚えのない天井が映った。
身体が重い。まるでベッドに縫い付けられているかのようだ。
「中里っ! 気がついたのか?!」

引っ張られて持ち上がった右手は啓介に握り込まれていた。
首を傾けるとベッドの下に膝をついて自分を覗く啓介がいた。
啓介の不安そうな様子を見てると自分が死にかけている病人にでもなった気分になる。
「ヒデェ顔だな」
笑ってやろうと思って出した声がしゃがれており驚いた。途中からほとんど覚えていないが、だいぶ声を上げたのだろう。
「大丈夫か? どこか痛いところは?」
咳ばらいをすると幾分か話しやすくなった。
「ケツも腰も背中も‥‥あーもう、体中痛ぇ。‥‥っとに、無茶苦茶なんだよ、テメェは」
告白してその場で抱いたのは強引だっただけに返す言葉がない。
「そんな目で見んな」

泣きたいのはこっちのほうなのに、まるで自分が啓介をいじめてるように錯覚しそうだ。
「怒ってる、よな?」
「‥‥…」
怒りたいわけじゃない。かといって、啓介のしたことを容認することは出来ない。
「中里が好きだから! 好きだから‥‥」
「恥ずかしいことも言うな」
毅は天井を向き、手の平で顔を隠した。
真っすぐに真剣な想いをぶつける啓介から目を逸らしたかった。
「‥‥こういうことされるのも困る」
「でも、何もしなかったら伝わんねーと思ったし」

啓介が強行しなければ、きっといつまでも気付かなかっただろう。
ギュウッと右手に力が篭る。
「俺、どうしたら良いか分からないんだ。なぁどうしたら一緒にいてくれる?」
それはどういう意味なのだろうか。
真理を探りきれない毅は言う。

「家政夫としてなら一緒にいてやれる」
「それじゃダメだ。ずっと一緒にはいられない」
そんな約束では、あの好きだった家政婦のようにいなくなってしまう。
幼かった自分には何も出来なかったが、大人の事情などというていの良い言葉で誤魔化されるほど子供ではなくなってしまった。
「友達じゃダメなのか? 啓介」
「もし毅に恋人が出来たりしたら俺は普通じゃいられない。今以上に酷いことする。絶対に」

きっと啓介ならするだろうと判る。
「でもこういうことはダメだ。まだ頭グチャグチャで、何言われても冷静に答えてやれる自信がない。だから家政夫で我慢しろ」
「でも‥‥ッ」
「俺なりに譲歩してやってんだから、大人しくきけ。こんなことしないって約束しろ。出来ないならもうお前とは会えない」
いいな? と有無を言わせないような言い方で啓介に言い聞かせる。
複雑な気持ちで啓介は頷いた。
それを確認して毅はホッと息をついた。
「それでいい。でも、今日は飯作ってやれねぇからな」
「え?」
あんなことの後で夕飯を作れなどという酷なことは言う気はない。それに夕飯の時間は過ぎているのに空腹だという感覚も全く頭の中から抜けていた。

「お前のせいで動けないんだから我慢しろ。それからな、動けるようになるまでここにいるからな」
家政夫(メイド)でも、こんな時くらいベッドを占領するくらい許されるだろう。
啓介のことは‥‥身体が動くようになったら考えよう。

啓介に背を向けて寝返った反動で疼いた鈍痛に顔を顰ると毅は目を閉じた。






終わり






うおおおお!!!(≧∇≦)!!
素晴らしい続編をありがとうございました!!!はあはあ
あまりにも萌え所が大過ぎて、何をどう申し上げて良いやら分らないのですがっ(≧□≦)
タマゴ買うのにGT-R出しちゃったらガス代考えると収支が合ってない気がするのに
ノリノリで買いに出てしまう毅さんが果てしなく愛しくて!!
あいかわらずソツの無い涼介さんは素晴らしく!
そして啓介の暴走がすごい嬉しかったです!やっぱり好きなら勢いでゴー!
是非お気が向かれて余裕があられましたら、続きとか続きとかあっちのお話とかもvvv
もっと読ませてくださいませーvvv


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