ヴァン幸せルート小説4






「ん………」

寝返りをうつと、冷えたシーツの感触が心地良い。
遠くでシャワーの音がしている。

ガイはゆらゆらとしたまどろみの中にいた。

じんわりとした、だるいような甘い痺れのような感覚に、身体が浸されている。
瞼を開くことすら重く感じて、重力に逆らえないまま、ベッドに身体を大人しく沈ませているしか出来ない。


あれからヴァンの手で、何度も高みに上らされた。
使用人として働きずめだった日だって、剣の特訓をさせられた時だってこんなに身体がダルくなったことなんか無かったのに。
恐怖症という体質を抱えているせいで、健康な成人男子として適度に自分一人で処理はしてきたけれど、…あんな感覚は初めて過ぎだった。


「うーー………」
ヴァンにされたことをぼやけた頭で思い返しても、恥ずかしさでいっそう身体がベッドに沈みこみそうになってしまう。

もうイヤだと懇願しているのに、果てている最中に敏感な部分に更にしつこく指を使われた。
何とかそれから逃げようとあがくのに、丸まろうとする身体を、足に足を絡ませて強制的に開かされて、放たれたモノで濡れた掌と指が、過ぎた快楽を与えようと好き勝手をしてくるのだ。
ヴァンのもう片方の手が、胸のあたりを好きに撫でては敏感な突起に指を這わせてくる。

こちらはほとんど抵抗できないのに、ヴァンの掌だけで踊らされているのが悔しくて。

自由の効かない手が、胸に延びたヴァンの腕に届いたのを喜んで、せめてもの抵抗とひっかいてやった。
ちょっと痛そうだったので胸がすっとしたけれど。

結局その後「いたずらな子にはお仕置きです」とか訳の分からない理由で、信じられないことに、身体をずらして覆い被さってヴァンは…俺の…アレを………く…口に……。

動く舌の感触にただ翻弄されて、悔しいくらいに喘いでしまった…気がする。

実はあまりにショックが大きかったのと、その後すぐに果ててから、多分気を失ったか眠ってしまったか、覚えがないまま、今こうして眠気とダルさに負けているのだ。

広いシーツには、ヴァンの熱は今は無い。

眠っている間にヴァンが清めてくれたのか、身体が感じるシーツの感触はさらさらとしていて心地良い。ブラウスシャツは着ておらず、バスローブを着せられているようだ。寝返りをうつ度にはだけてしまうのだが、直す気力も体力も無い。

シャワーの音。

まだ…ヴァンはシャワーを浴びてるのか。
長風呂なんだなあ…と頭の片隅で思い浮かんだのを最後に、また意識はまったりとした眠りに引き込まれていった。


眠りは深くなり、浅くなり、まどろむ意識の中で、暖かくて大きな掌に、髪を撫でられるのを感じていた。子供の頃に聞いた子守歌を遠く聞いている。

「ヴァンデ…ス…デル…カ」

広い胸に甘える気持ちのまま額を寄せると、
撫でてくれていた掌がびくりと止まってから、強い腕で抱き込められた。

歌を…止めないで欲しいのに。

そんな言葉を紡ぐこともできないまま、意識がまた深く眠りに落ちてゆく。







窓から差し込む朝日は、部屋全体を明るさで満たしていた。

小さい頃に大切な騎士が、夜を怖がる自分と一緒に寝てくれたことがあったけれど。抱きしめてくれる腕が、その重さが、額あたりに押し当てられている唇が…。
その感触だけで。
ああ、ヴァンデスデルカが還ってきてくれたのだと、ガイに実感させてくれた。

「……お目覚めですか? ガイラルディア様…」
あの頃とは違う、低く、けれど甘い声が耳元で響く。
「ん……… おはよう…ヴァンデスデルカ…」
照れくさくて顔を上げられない。

ヴァンが優しく髪を撫でてくれる。夢の中で感じていたのは、この掌だったのだ。

身体のダルさはもう感じない。ただ心地良さだけで身体が作り替えられたみたいだった。まだ起きるのが勿体なくて、ヴァンの胸に額を押しつける。

髪を撫でてくれていた掌が、背中を辿って腰のあたりを怪しくさまよったかと思うと、ぐいっと強く、ヴァンの方へ引き寄せられた。

「あ…」
互いにバスローブだけを身につけているようで、足が触れる。……が、何だか太股あたりに足とは別のモノが当たって………

………

何か…ずいぶんと元気なんじゃ…

あ、そうだ夕べ、考えてみたらヴァンは俺ばかり………。俺は全然ヴァンになにもしてやってなくて…。

ってことは…


「ガイラルディアさま……」
熱を持った吐息と共に耳元で囁き続けられながら、掌の動きがいけない方向に向かっている気がする。

いや、でも、朝なんだし! 

お、落ち着けヴァン!

と焦る身体を押さえ込もうとヴァンがのしかかろうとしてきた時、


ぐううううう……


元気に腹が鳴いてくれた。


俺もびっくりしたが、ヴァンもびっくりして。

けれどすぐに相好を崩し
「そういえば、昨日は会議の最中の軽食ばかりで、まともな食事をしないままでしたね。お腹空いたでしょう。食事に参りましょうか」
身体を退かせながら、起きるのを手伝ってくれる。

ガイはそのヴァンの優しさに甘えて、シャワーを浴びたあと、
ヴァンがきっちりハンガーにかけておいてくれた衣服に袖を通し、
階下の食堂へと空腹を満たしに二人揃って降りて行ったのだった。




食堂では朝食に集まってくるパーティーメンバーが、ヴァンの姿に改めて内心、やっぱり本当に仲間になったんだ、昨日のは夢じゃなかったんだ…という思いを浮かべていた。

「あの……兄さん…おはよう」
ティアが少し夢見るような視線で兄に朝の挨拶をする。
「おはようメシュティアリカ」
ヴァンの返事にティアが頬を染める。
そんな光景がガイはひたすらに嬉しかった。そして

「おはようガイ! お…おはようございますっヴァン師匠…」
ヴァンのことを未だに尊敬しているルークが挨拶をしてくる。ガイは少し心配したが、ヴァンは
「おはようルーク」
と穏やかに返答していた。







一行はベルケンド港に停泊しているアルビオールに乗り込み、海路をダアトへ向かった。
目的はイオンとタトリン夫妻の保護、そしてダアトで奪われたというアルビオールの飛行譜石の回収にあった。
イオンはルークたちのために、密かに秘譜石を詠むという作業もしてくれている。
その情報も世界を救う対策をするのには重要なものとなる。

ダアト港から峠を越えてローレライ教団総本山の都市ダアトへ入る。姿を見られるべきでないメンバーは街の入り口近くにある宿屋で待機。

アニスとティアが、イオンとタトリン夫妻を宿屋まで密かに連れてくることに。

ヴァンは六神将と連絡をとって、飛行譜石を入手。

ヴァンは六神将に密かに詠師トリトハイムを中心にダアトの武力図を整える準備を続けさせている。
モースの側近の抵抗さえ押さえることができれば、モースを反逆の罪にでも問うて、一気に制圧が可能となる。
六神将は元々ヴァンにのみ忠誠を誓っている組織なため、モースの勢力さえ押さえ込めば大した争いも起こさずダアトの制圧は完了するはずだ。


イオン導師とタトリン夫妻はすんなりと宿屋にやって来て、飛行譜石も何事もなく入手できた。順調さに油断をせずに一行は街を出ようとしたのだが…


「アニス! ママの仇!!」
「アリエッタ!?」

街の入り口近くで、アリエッタが急襲してきたのだ。
狙いはアニスだけらしく、イオンやヴァンの姿は復讐に目の眩んだアリエッタの視界に入っていない。街の人々に被害が及ばないようにジェイドたちは陣形を取ったが、

「イオン様!危ない」

標的であるアニスの近くにいたイオンに被害が及びそうになり、タトリン婦人がイオンを庇って倒れ伏した。
「パメラ!」
「ママ!」
「!!!!!」

その光景を目にしたガイが、衝撃を受けたようにその場に崩れる。

「ガイラルディア様!?」
「ガイ!?」

アリエッタはすぐにジェイドによって取り押さえられ、ヴァンが呼び寄せたラルゴに引き渡した。

タトリン婦人はナタリアとティアの回復術によって直ぐに怪我は回復したのだが、回復術は一時的に体力を奪うため、念のため今日一日はダアトに宿泊することになった。
イオンはタトリン婦人の見舞いで宿屋にいる、ということにしておけば、数日はモース派から疑いを持たれることも無い。

問題はガイだった。

いつも穏やかで明るく皆の保護者的立場として弱さを見せたことのないガイが、酷く動揺しているのが分かる。

どうしたのか話しかけても、
「大丈夫だよ…」と
まったく大丈夫には見えない顔色で笑う。

笑顔が笑顔になっていないことに、本人が全く気づいていない酷さだ。

皆心配でたまらないのだが…。


いつもガイにべったりのルークも、ずっとガイをからかうことに愉しみを見いだしているようなカーティス大佐も、そして彼の騎士であるヴァンまでが。

彼に近づき難いものを感じ、見守るしかできないでいた。

まるで… 傷を負っている人を救いたくても、不用意に触れれば痛みしか与えないのが分かるような…そんな空気だった。




皆でタトリン婦人の見舞いをしたが、ガイだけは来られないようだった。
「ガイは?」
「それが。イオン様をちょっと貸して欲しいって言って、二人で部屋に籠もっちゃった…」

アニスは部屋の警護をヴァン謡将にまかせ、母親の看護につくことにしたらしい。

イオンの宿泊する部屋の前はソファーなどが置かれた少し広さのあるスペースになっている。
ヴァン謡将はそこで、部屋の中にいるガイのことを案じながら警護をしていた。
自然とそこに、仲間達が集まってくる。

「ガイの様子は?兄さん」
「あんなガイ…初めて見ましたわ… 心配…ですわね」
「ガイ……一体どうしたんだろ…」
「‘思い出した’という呟きを聞きましたが」

あの時、一番ガイの近くにいたジェイドのその発言に、ヴァンが痛そうに眉を顰める。


ガイは部屋の中で、イオンに祈りを捧げているのだという。

懺悔のようなものなのだろう。
祈らずにはいられないことを思い出してしまったということなのか。




かなりの時間を経てから、ドアの開く気配がして、皆に自然と緊張が走る。

「時間取らせて済まなかったなイオン。疲れちゃったろ…ありがとう…」
「いいんですよガイ。少しでもあなたの苦しみが楽になれば良いのですが…」

そんな言葉が少し開いたドアから漏れ聞こえてから、ガイが姿を現した。

「!」

そのドアをぐるりと囲むように仲間達が立っていて、ガイは流石に驚いてしまう。

「!? み、みんな、どうしたんだい?」
「どうしたって、皆あなたを心配しているのですわ」
「え? 心配って…???」

自分が心配されるように見えているとは、気づいていないガイなのだ。

「何か思い出した様子でしたが」

そのジェイドの言葉に、そのことで仲間が心配してくれているのかと、ようやくガイは思い至る。

「そんな心配してもらうような事じゃないんだけど」
「ガイ…思い出したこと話してもらっちゃダメかな。もしガイがどうしても嫌なら無理にとは言わないけど」

遠慮がちにそう懇願するルークに、ガイが苦笑する。

「話すよ。別にわざわざ話すようなことでも無いんだけどな。気になるなら…心配してもらっちまったみたいだし」

ルークたちを気遣って、ガイは優しく笑んでみせる。

アニスも戻ってきていたので、イオンがどうぞと招いてくれたまま、結局全員でイオンの部屋でガイの話を聞くことになった。


「思い出したのは、無くした記憶があるって前に言ったろ? あの時の記憶なんだ」

そこから先に続く話に、全員が戦慄した。

幼いガイを襲った悲劇。無くさなければ生きられないほどの記憶。

折り重なり次第に冷たくなってゆく身体。
優しく暖かかった大切な存在が、自分の存在のせいで失われていく…。


ルークやナタリアにとっては、それは親族が与えた凶事であり…。

ヴァンは静かに、記憶を語るガイを見守っていた。
騎士でありながら、一番守るべき時に彼を守ることができなかった。
悔やんでも悔やみきれはしない。

そしてジェイドの言葉で、特にパーティーの女性陣がショックを受けることになる。

「では、あなたの女性恐怖症は、その時の記憶によるトラウマなのでしょうね。幼少期の外的要因による精神的な外傷が原因なのでしょう」
「……ガイ…」

ガイに酷いことをしてしまっていたのだと、小さい頃からガイの女性恐怖症をからかってきたナタリアはショックを隠せなかった。

アニスもティアも、ガイの女性恐怖症を重く考えたことはなく。

けれど、そこに傷はあったのだ。
未だに生々しく血を流しつづける塞がりようのない傷が。

痛みを感じるからこそ逃げていたガイの姿が、知らない者には可愛らしく滑稽にしか見えなくて。

誰よりも女性に優しい紳士なガイが、女性を恐怖するという状況を何とかしてあげたいという軽い気持ちもあって、からかいついでに不用意に近寄ったり触れたりしていてた。

けれど、そこに傷はあったのだ。

ガイは記憶を失っていて、そこに傷があることを知らないまま、純粋な痛みだけを感じていたのだ。
それは純粋な恐怖だったのだろう。

女性が近寄ると、ただ純粋な恐怖が身体を突き抜けるのだ。
ガイにはその理由も全く分からないまま。

ナタリアは自らの行いをガイに謝罪する。
アニスもティアもそれに続き… ガイは慌てた。

フェミニスト過ぎるガイは、彼女たちが全く悪くないのだと、
だから謝ったりしないで欲しいと懇願した。

「情けないのはオレなんだ。命をかけて守ってくれた姉上やメイドたちだったのに……それなのに、怖いと思っちまうなんて 本当に…なさけないね、まったく…」
「そんな! 情けないなんて」

悲鳴のようにティアが言葉を次ぐ。

彼が怖がっていたのは、女性そのものではないと分かるから。

優しい彼女たちが、自分に近寄ると死んでしまう…
その暖かな存在が冷たくなってしまう。
二度とその目を開かなくなる…その純粋な恐怖。

だからガイは、女性に優し過ぎるくらい優しくて、そして自分に近寄ることは許せないのだ。

女性たちのために。
その優しい存在が自分のせいで消えたりしないように。

ガイは本当に本当に優しいのだと、その優しさにいつも驚かされてきた仲間たちは、誰もがガイの優しすぎる優しさを知っていたから。


「イオンに祈りも捧げさせてもらえたし、こうして皆にも心配させちまったけど、話せてすっきりしたよ。オレは大丈夫だから その、きみたちは本当に気にしないでくれよ?」
女性陣のことをガイは気遣い続けた。

「ガイ あなたも無理はしないで。記憶を取り戻したばかりですからね。不安に思うことがあったら私にも相談してください」

ジェイドが珍しく優しさを込めて言葉をかける。

「ありがとう。でも大丈夫だよホント。本当に辛かったのは姉上たちなんだから。オレは守られてただけなんだ。オレが辛がることなんて何も無いよ」
「ガイ………」

それぞれにガイを案じてくれる言葉に、ガイは明るく礼を言った。

これ以上はガイの負担になるばかりなので、それぞれに部屋へと戻ることにした。
ガイもヴァンと同室に戻ったが…。

「………ガイラルディアさま…」
「……ごめんヴァン……オレ…今夜は…」
「私はいくつか調べたいことが出来ましたので、今夜は神殿の方に戻らなくてはなりません。…お一人で大丈夫ですか?」
「うん………

ありがとうヴァンデスデルカ」

ヴァンには分かっていた。
ガイは今夜は一人で苦しみたいのだろうと…
幼いガイラルディアに罪など無いのに。

けれど彼は自分を簡単には許してやらないのだろう。

ここにヴァンがいれば、きっと甘えてしまう、
その甘えさえ、きっとガイラルディアを苦しめる。

それが分かるから、ヴァンは今夜はガイラルディアを一人にしてあげるのだ。

いつも一人で苦しんで、苦しんで、そうして次の日には明るく笑う。

そうやって彼は今まで生き抜いて来たのだろう。

「では私は失礼いたします 明日またこちらで」
「うん…」

そっと一度だけ金の髪に指を通してから、ヴァンは振り返らずに部屋を出て行った。
その心遣いに、ガイも心から感謝をするのだった。








一晩。ガイは失ってしまっていた記憶を静かに反芻した。
その記憶が無くても、セントビナーで過ごした頃は喪失感ばかりで。
仇を討つという手段があることを知って、ようやく前に進もうとした。

あれからたくさんの出会いがあって、ずいぶんと方向が変わってしまったけれど。

‘今’があるのは‘過去’があるからだ。

過去に感謝できるような‘今’にしなければ、
過去に犠牲になってしまった皆に顔向けができない。

ただ、ありがとう と呟いて。
与えられた生を、ガイは暗い部屋の中で、一人静かに噛みしめていた。







ほんの少し白み始めた空には、まだ多くの星が残り、夜の香りも消えない時間。


小さく。本当に微かに。詩が聞こえた。

二人きりの時の子守歌。ずっとずっと聞いていたくて。

「ヴァン……」

窓を開くと、やはりそこに、大切な騎士の姿。

「申し訳ありません。起こしてしまいましたか」
「いいや」

眠っていないことなど知っていたろうに。

「上がってこいよ」

部屋は一階だったが半階分ほど高い造りになっていて、窓からガイが手を差し出す。

「よろしいのですか?」
「心配かけたな。もう大丈夫だから」

深い静かな笑みには悲しみも滲んでいたけれど、それは決して暗いものではなく。

ヴァンは差し出されていた手に手を重ねる。
窓から部屋へと身軽にヴァンは長躯を踊り込ませた。

部屋に入っても、手を離そうとしないヴァンに、ガイは苦笑する。

「もう朝だけど、まだ時間はあるし。少し眠ろうぜ?」

ヴァンの姿を見て、ようやく気持ちを全て切り替えることができたガイは、それで急に眠気が襲ってきたことに気づいた。

ヴァンの手を引いてさっさとベッドに行くと、有無を言わせず一緒にごろんと横になった。

ちょっと驚いているヴァンの表情が胸をくすぐる。
今、自分はとても幸せなのだな…と感じながら、目を閉じた。

繋いだ手から伝わる温もりが、身体中を支配してゆく。

ヴァンもそれを感じながら、夜明けまでを、幸福に満たされたまま微睡むのだった。





それぞれ朝食を済ませて、タトリン婦人の体調も大丈夫との医者の診断を得てから、街からダアト港までは目立たないよう移動した。

ダアト港で全員がアルビオールに乗り込んだ時

「ガイー!ペタペタペタペタぺた!」
「うわああああああ!!!」

アニスが元気いっぱいにガイにペタペタアタックを仕掛けてきた。

「大佐がね、ガイの女性恐怖症の原因が分かったんだから、やっぱり積極的に逆療法で触ってあげた方がガイには良いはずだからって」
「そっ…そう…」

ガタガタと震えながらアニスの攻撃を避けようとガイは壁際まで追いつめられていた。
けれど、アニスやジェイドのその気遣いはガイには有り難いものだった。
ヘンに傷に触れないよう気遣われるよりは、遠慮の無い扱いの方が気が楽でいられる。
それは他の仲間たちも理解できたようで

「そういう事でしたら、私も協力させていただきますわ」
「そうね、なら私も」

と、女性メンバー全員でペタペタとガイを触り出した。
ガイは有り難過ぎる扱いに ひゃああああ と何とも言えない悲鳴をあげて、ガタガタ震えている。

「おやあガイ モテモテですね♪ ではついでに私もペタペタ…」

便乗した大佐にまでペタペタ触られたが、震えるガイはツッコミも出来ない。

「こらあ! ガイを苛めるなあっ」

と助け船を出してくれるルークだが、顔は笑っていて、本気で助けだそうとは思っていないようだ。
いつでも自分のことより皆のことを気遣ってばかりいる優しいガイは、
パーティーメンバー全員から心から愛されているのだ。

そして、そのノリに入れなかったヴァンは、それを眺めながら、軽く眉を顰めていた。
が、内心は地響きがしそうな程、嫉妬しまくりだったのだった。





次へ→




←目次へ