「扉」
ジェイド×ガイ











それはある宿でのことだった。
その日の部屋割は、久しぶりに酒を飲みたいという理由で、ガイとジェイドの保護者組の二人で。

「それにしても、あなたのその体質だと、当然女性を抱いた経験は無いんですよね」
「そんなこと、改めて言葉にされたくないんだけど」

世界の運命やら何やら重いモノを、少人数で分けあっての旅の途中。

行きあたりばったりに身を任せるような気分で、強敵やら雑魚敵に命を削る日々の中での、

久しぶりのまともな休息だった。


少し飲ませ過ぎたか、ガイがくったりとベッドにつっぷしているのに、追い打ちをかけたジェイドだった。

「別に好きでこんな体質してる訳じゃないし。女性は大好きなんだ」
「気の毒ですねえ」

彼が女性恐怖症になったトラウマの原因は重過ぎるものであったけれど、
恐怖症自体はあえて彼のために、からかいのネタとして軽く扱い続けている。

軽装な姿でベッドに投げ出されたガイの長身の体躯は、均整が取れてそれだけで若々しい美しさがあった。

ジェイドはくつくつと笑いながら、そのベッドの端に腰を下ろす。

「だったら男はどうなんです?」
「!!……」

その質問に弛緩していた身体がびくりと震え。
その反応を予測していながら、ジェイドは少し眉を顰めた。

「おや、そちらは経験があるようですねえ」
「…………」
「まああなたは女性だけでなく男性にもモテるようですから、誘いは多かったでしょう」

その言葉に、ガイが枕に伏せている顔を強ばらせたのが分かる。

「私が相手ではどうです?」

もう一杯飲みませんか? というくらいの気軽さで言葉をかけると、ガイは肩から上だけを器用に枕から飛び上がらせ

「……は?」
「何となくそんな気分なので、私相手ではいかがかと思いまして」

にこりと笑って見せると、ガイは驚愕をそのままに

「旦那と…?」
「貴方が宜しければ」

大人の関係で、と、あえて心は挟まずに。

「あんたは…あるのかよ、その…男と…」
「同姓相手というのは初めてですが、無駄に生物学の知識はあります。私は下手では無いはずですよ。ああ、勿論私が抱く方限定でのお誘いなんですが」

腰をかけているベッドがきしりと鳴る。

「男を抱いたことは無いよ」

それまで惚けたような表情だったガイが、憎々しさを瞳に乗せて、その言葉を小さく吐き捨てた。

二人とも言葉もなく、
ジェイドが手袋を外した手でガイの髪を解き、
ガイがそれを黙し許したわずかな時間だけで、

その先の全てが許された。








衣服をはぎ取りながら肌に素手を這わせる。ひくりと震えながら堪えるその暖かい肌。

ただそれに触れるだけで、己が歓喜していることを、
ジェイドはけれど冷静に客観的に受け止めていた。

(年下の青年に情欲をかきたてられて、ずっと触れたいと望んでいたんですから、全く驚きです。)

このガイという青年と出会ってからもたらされた自身の変化に流されながら。

実験台に上った哀れな被験者を、ジェイドは自分の知る限りの慈しみ方で愛することにした。

初めて出会った瞬間から興味をかき立てられた。
あまりにあからさまに、謎をきらめかせて現れた青年。

ただの使用人と称するには剣の腕が立ちすぎて、
見目も振る舞いも気品がありすぎた。
そうして初めは彼の正体を探る名目で近づいて。

そうしてガイを知れば知るほどに。

惹きつけられて逃れられなくなっている己自身を知ることになった。


もっと。もっと近いところへ。

もっと深く、触れて、絡めて


触れがたい深い闇と、
誰もを照らす暖かさを合わせ持つ
この希有な青年の、

その闇と光の狭間をこじ開けて入り込んで。

乱して鳴かせたい、

甘い言葉や愛撫で溶かして、無垢な笑みを貪りたい。

彼に起きるあらゆる変化を、全て余すことなく記録し続けたい。

「…ジェイ…ド…」

とまどうように漏れる声が、自分の名前なのだと気づくだけで、心が満たされるのはどういうことなのか。

そうして満たされたと感じて尚、欲しいと望むこの尽きない貪欲さは。

できうる限り、彼には優しく触れた。そうされてることに慣れていないようだったからだ。

「ン……旦那……くすぐった…」

身体中を唇で柔らかく辿ると、くすぐったいと訴えながらも、その甘さに彼はとまどっている。

それが可哀想で可愛らしかった。
幼い頃から公爵家での奉公生活。それなのにどうにもごまかしようの無い生まれ持った貴族としての気品。
そして目立ちすぎる容姿の良さ。
そんなモノを抱えたままの使用人生活がどんなものか、簡単に想像がついた。

それでも辛い過去の殆どを、深い暗闇に無造作に放り込んで。
守るべき者達に、屈託の無い逞しく明るい笑顔を向けてくれる彼。

その強さに恋い焦がれているのだ。
その哀しさが愛しくて仕方ないのだ。

こんな感情が自分に在ったのだと。驚かされるばかりの旅の中。

甘く愛撫を続けると、もう良いから先へとと、こんな時すら気遣いを見せるガイの言葉を口づけで遮った。

もう何度も飽きないで口づけているので、柔らかなそこは少し赤味を増してしまっている。
ジェイドにとって、こんなに激しく誰かを求めるなど初めての経験で、どうにも加減が分からない。

指や唇で、入り口を奥までたっぷりと慣らしてあげると

「ンっ………ぁ…アっ…」

ガイの甘く堪える声に切なさが増した。

十二分にとろけさせてからガイを俯せにして、慎重にジェイドは儀式を進めた。

「うっ……くっ」

久しぶりなのか、少しきつそうにしていたけれど、それでもガイのそこは、ジェイドを暖かく迎え入れた。

「とても気持ち良いですよ…」
「……そりゃ…どう…も……ア!!ァ」

息をつめながらも何とか強気に返答しようとするガイの、その口が閉じないタイミングで意地悪く突き上げる。

多分堪え続けるつもりだった甘い悲鳴を、最初から漏らさせられて、ガイは悔しそうにこちらを睨もうとするのだが

そんな可愛い抵抗を許してあげはしないのだ。

「ほら、もっと鳴いて良いんですよ」
「誰っ…がっ………ぁっアっ…んあっ」

腰を高く上げさせて、枕にしがみつくガイを鳴かせるために、反応の強いところばかりを突き上げる。

「ソコ…やっ………無っ理!…っ」

逃げようとする腰を引き戻す。

(気の毒ですが…逃がしてなんてあげません)

初めて識るガイの何もかもを感覚に刻み込みながら。
「すごく…良いですよ…ガイ…」
「くっ……ァっ……ア! あうっぁッ ジェイ…ド…やっ」
「もっと…」
耳元に息をかけながら熱く突き上げ続ける。理性なんてものが下らないと信じてしまうくらいに、その交わりはただただ心地良かった。
結局体位を何度か変えて、果てる果てないなど関係なしに、ただ二人で熱をむさぼり合った。






「……旦那は淡泊なんだと思ってた」

事後にガイは気を失ったようにぐったりとベッドに突っ伏していて。そのガイの髪に柔らかく触れていると、ガイは枕に顔を埋めながらも、ジェイドに気丈に文句を言い出した。

「そう思っていた時期が、私にもありました」
「なんだそれ…」
「天然タラシに私も狂わされたってことなんでしょう。責任とっていただきたいですね」
「なんだそりゃ…責任なんか取れるか。大体勝手に散々色々…しといて…」
その“散々色々”を思い返してしまったのか、ガイは途中で言いよどむ。
そんな可愛い反応をいちいちするから、こんな悪魔につけ込まれてしまうというのに。
「仕方ありませんから、私が責任をとってあげましょう」
やれやれという風に言うと
「どういう理屈なんだそりゃ」
やはり気丈に言い返してくる。

こんなこと大したことでは無いのだと。
ただの行為なのだと。

彼にとってはそんな位置づけにしておきたいのだろう。

そんな彼の弱味に付け込んだ。
ずっと集め続けた彼のデータを全て利用して。
断らないと分かるタイミングで。

こんな行為では傷つかないのだと。身体に与えられる行為など、どうでも良いことなのだと。

強くあろうとする、
その彼の弱味に……

「こうしているのが気持ち良いものだと、初めて知りました」
背中を向け続けるガイの、そのサラサラと心地良い背中に身体を寄せながら。そのガイの強がりに甘えてみせる。
ガイはジェイドの髪が当たるのがくすぐったいのを嫌がりながら。
「旦那は恐怖症なんて無いんだから、相手なんかいくらでもいるんだろ」
「やっかみですか?」
「…ぐっ……悪かったな」
「いえいえ。まあ相手にはそれなりに困ったことはありませんでしたが、あなたが考えていたように、普通に淡泊だったと思いますよ」
「………」
「だから今日のことは、自分でもとても興味深かったりします」
「…………」
あくまでも、きっかけは軽い気持ちだったと強調してみせて。
「是非、研究対象にしてみたい」
「そっ…それはヤダ! やめてくれっ」
青ざめたガイがひきつった悲鳴をあげる。
けれど散々貪られた身体は自由が利かないようで。
ジェイドの腕、という檻の中で僅かにもがいたせいで、その青い瞳をうっかりと、深紅の瞳に向けてしまった。

その無防備に開かれた瞳に映る、自身の捕食者の瞳にジェイドは苦笑する。

可哀想に。
もう逃がしてなんかあげないんですよ。
あなたの甘さを既に知ってしまっているから。
あなたが甘える者に甘いことを
あなたが最高に甘い味なことも。

そのままゆっくりと顔を近づける。
ガイは怯えなのか、驚愕なのか、身動きできないまま。
その瞬間に付け込み続けて。
視線を合わせたまま、ゆっくりと
唇を触れ合わせ…

そのリアルな感触にビクリと反応したガイが、慌ててぎゅっと目を閉じる。
その可愛い反応に心の底から笑みたくなるのを堪えながら、
ジェイドは唇から舌を強引に潜りこませた。
ざらりと味わうガイの舌は濡れていて
「ん…ふっ……」
その漏れる吐息だけで
その甘さを甘いと感じる理性すら、直ぐに感じることが出来なくなった。













「朝食に少し遅れてしまいましたね。身体の方は大丈夫ですか? まあ大丈夫では無いでしょうけど」
「分かってるなら聞くなよ。とにかく早く。ルークの寝坊に文句言えなくなるだろ」

今日からまたアルビオールで各地を飛び回る。ホテルにゆっくり滞在できるのは数日後になるだろう。
夕べのことを話題にすれば、彼は顔を赤らめて反応するが
きっと食堂で皆と顔を合わせれば、“いつものガイ”であり続けるのだろう。
(嘘が上手いですからね。ガイは)

そう彼はいつだって、嘘が上手いのに酷く無防備。
その矛盾の結晶を追いたくなるほどに魅惑的で。

(次に二人きりになれた時、彼はどんな反応をしてくれるんでしょうね)

それを楽しみにも怖いとも感じながら。

「さあ行きましょうか」

二人だけの世界だった部屋の。
その扉を二人で後にした。



続きが書けたら嬉しいなーと。
色々な経験をしちゃってるガイ様ですっ
(受け限定っ)
ハム×ガイはデフォってことで
一つよろしくお願いいたしますー!

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