小説
櫻太郎様
(啓中)

『ヒステリックアワー』









「……」

一緒に朝を迎えると中里の機嫌が幾分悪い様に感じるのは何時もの事だったが、今日は又格別に不機嫌そうだ。

ナビに座りながらも窓を睨み付けたままこちらをちらりと見ようともしない中里を苦い表情で見遣り、啓介はへらりと笑った。
どういう態度をとったら善いのか解らない場合はやはり笑ってしまうものだ。
しかしそれは更に中里の機嫌を下げる効果にしかならず、啓介の表情は口元を歪めさせたまま固まってしまった。

「あー…ゴメン‥、な…?」


止めろと言われた時点で止めておけばよかったのかもしれない。しかし出来る事と出来ない事があるのだと、啓介は隣で仏頂面を下げている男に言いたかった。

「でも、だって、お前も乗り気みたいだった‥から、だから…」

そうだ。そうなのだ。二人きりのカラオケを楽しんで、帰るのが面倒だからこのまま秋名のハチロクの様子でも見に行こうという話になって、当然まだまだ人気も疎らな秋名湖の駐車場に車を止めて。
目が合ったから何となくキスをして。
触れ合わせただけのそれが激しいものに変わろうとした時も中里からの抵抗は無かった筈だ。

と云うか寧ろ舌を絡めてきたのは中里の方が先だったから、啓介は今現在の中里の態度が腐に落ちないのだ。

『なぁ。一回だけ。‥な、いいか?』

上擦った声で誘いをかける啓介に、中里は自ら舌を絡めてきた。あれが了解の合図でなくて何だと云うのだ。


狭い空間に籠もる熱気は彼らの情欲を上昇させ、かなりの不自由を強いられた行為であったにも関わらず、中里は惜し気も無く艶を含ませた声を啓介に聞かせてくれていた。


『‥中里…』
『‥ッは、あァ、ア…』


車体が揺れているのは夜目にも明らかだから、中の様子を想像するのも容易であっただろう。
あの理性的な中里が、それでも許してくれたのだ。彼処で乗らなければ男ではないと啓介は思う。

『なぁ、気持ちイイ…?』
『‥ルセ、‥ッ…ンな事より早くイけ‥よッ…ァ!』

執拗に責め立ててくる啓介に少しでも早く達して貰いたくて、中里は自分の内にあるソレを締め付ける様に入り口を蠢かせる。
結果それで余計に感じてしまい、喘がされる羽目になるのは自身だったのだが。
それも全く効果を為していない訳ではなくて、中里の内で体積を増したそれが物語っている。

『ん、ァ…!』
『すげ、‥っ、中里…!』


中里の必死の技巧が功を為してか、啓介が達したのはその直後だった。
内に流し込まれた熱いものに中里の身が震え、自身も又啓介の腹の上に蜜を吐き出した。


『スゲェ興奮した‥車ン中で、っての初めてじゃねェんだけど、やっぱ最高だ、お前…』
自分の上に乗り、放出したそのまま虚脱している中里の腰から背を撫で上げながら啓介が吐いた科白。


そして。
『も一回、‥な?中里‥』
あれは、放心状態にある今ならと啓介がそう囁いたその答えだった。
『も‥ヤメろ、よ…。‥離せ…』
『ンでだよ…まだイけんだろ‥?ホラ。』
内に収まった儘の啓介は再び昂ぶり始めた自身で中里を突き、情欲を促す。

‥が。
『ヤメロっつってんだ!』

尚も中里の唐突な抵抗は治まらない。
結局その後も無理に及ばれたそれは中里が失神するまで続けられ、今のこの状態にある訳なのだが

…。


「お前とはもうヤんねェ!」


何やら雲行きが怪しくなってきた中里の機嫌に啓介は焦る。
「ゴメン!中里。止めろっつわれたらもう止めるから、な?許してくれよ」
多分無理だろうけど、とは心の中で付け足して。
コイツが艶っぽすぎるのが悪いのだ。
何とかこの場さえ凌げれば良いと謝り通しの啓介の中では既に、罪人は中里へとすり替えられている。

しかし急降下した中里の機嫌の要因は全く別の処にあった。

(結局お前は相手が俺じゃなくてもいいんだよな…)


「そんな事ねぇぞ!!」
しかし急に声を張り上げた啓介にビクリと身を竦ませる。
知らぬ内に声に出していたのかと中里は焦る。その彼の内をそれまで占めていたのは紛れも無く嫉妬心であるうえ、不覚にもそれを認めてしまい、気不味げに顔を逸らせた。

今は、人の動向に妙に聡い隣の男を振り返りたくない。多分、間違いなくあのだらしない表情をしてこちらを見ているに違いないのだ。それを見て情けない気持ちにさせられるのも、更にはそれで

この男を浮上させるのも分かり切った事であり、中里はそれらが許せない。


(成る程、そういう事か…)

啓介はナビで赤面している男を眺めて頬を緩めた。
普段はクールに遣り過ごしてみても、こういうふとした瞬間に本来の自身を晒け出してしまう彼が愛しくてならない。無理に隠そうとするからボロが出るのだと、教えてやろうか。

(間違いなく臍曲げるだろうけど)

憤慨しながらも染められた頬の理由は別に在るという不器用なその表情を思い浮かべ、啓介は口の端を再び緩やかに上げた。

end.





ぎゃああ!嫉妬する中里さんがあまりにも可愛くて!!
啓介の失言は仕方ありませんが(笑)
中里さんの失言は可愛すぎでしにそうです〜vvv
車の中で盛り上がってる最中にハッと我に返る中里さんの
切ない感じがたまらないですvvv
素敵なお話ありがとうございました!!
また宜しく御願いいたしますvvv

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