涼→中inナイトキッズな感じです〜

ナイトキッズの苦悩…トランスフォーマーGT-R記念

見国かや
それにしても写真が何がなんだか分からないです…すみません…


ナイトキッズは妙義山に集う走り屋の集団である。
走り屋と言っても、走りに命やプライドをかけて臨んでいるのはリーダーの中里毅とセカンドの庄司慎吾くらいのもので、他のメンバーはその中里毅の走りを惚れ惚れと眺めつつ、夜の峠で仲間と雑談を楽しむのが主だった活動であったりした。
聞くところによると、群馬でトップレベルの走り屋集団といわれる赤城レッドサンズなどは、一軍二軍とレベル分けまでされていて、更にレッドサンズに入ること自体、高いハードルがあるらしい。メンバーになったらなったで、よりレベルを上げるための練習が課せられるのだそうだ。

そんな話を聞く度、ああ、俺達ナイトキッズで本当に良かったなあ〜とメンバー達はほのぼのとした幸せな気分で満たされた。
リーダーの中里毅という男は、漆黒のR32GT−Rを駆る、走りに猛烈に情熱を傾けている人物だが、メンバー達には走りの上達を無理に押し付けたりすることはない。
かと言ってメンバーを放置しているということもなく、むしろとても面倒見が良かった。
彼が熱くRについて語るのを聞いていると、その愛車への愛情の深さに聞いているこちらも心熱くなれた。
重量級マシンを自在に操る技量も度量も十分で、群馬でもトップクラス、屈指の走り屋であることは間違いなく、少々負けが続いた時期があったものの、メンバーにとっては、誇るべきリーダーとして尊敬も集めている。

ナイトキッズがレッドサンズと対戦した時など、ヒルクライムで中里が敗北を喫し、庄司慎吾が怪我のためダウンヒルを走れず、チームとして対戦させられる弾が無い理由で敗北が決まってしまうという状況に陥いったというのに、中里は、チームメンバーの不甲斐なさを一切責めたりせず、ただ己の弱さのみをメンバーに詫びた。

敗北に傷つきながらも、リーダーとして最後まで責任ある真摯な態度でバトルを仕切る姿に、メンバーは誰しも胸が締め付けられるような、切なすぎる気持ちでいっぱいになった。

車があるなしに係わらず、一生この人について生きたい…などと思ってしまった者も少なくなかった。

派閥争いなどで一時は問題も抱えていたナイトキッズだったが、その後はメンバー全員で中里毅を生暖かく見守ることで一致団結していたのだった。

中里は走りを変化させようとスランプに陥ったりもしていたが、箱根で因縁の相手に勝利してからは、走りに磨きがかかりまくり絶好調が続いていた。
喜びに満ちた彼を見守るだけで、ナイトキッズメンバーは幸福と愛でいっぱいになっていた…

その平和な日々に暗雲が訪れるとは…。



「なあ…あの二人ってさ、……どっちがどっちなんだろうな…」

その日、一人のナイトキッズメンバーがつぶやいた言葉に、彼の周囲にいたチームメンバー達に衝撃が走った。

メンバー誰しもその疑問が渦巻いていたものの、それは言わない暗黙の約束のようなものが出来上がっていたからだった。
だがその発言をしたメンバーは、KYというか 疑問が膨れ上がって我慢ならなくなったのか、好奇心に負けてしまったのか、とうとうそれを口にしてしまったのだった。

「…どっちがどっちって…なあ。いや、それ以前に、あの二人ほんとに…そうなんかな」

“あの二人”とは、彼等のリーダー中里毅と、彼の傍でくつろいでいる、長身の美形、峠のカリスマ、天に二物も三物も与えられまくった、人間規格外、高橋涼介のことであった。

高橋涼介は群馬でもトップの走り屋の一人で、秋名のハチロクに敗北した後走り屋を引退したらしいのだが、その後プロジェクトDというチームを組んで、他県の峠のベスト記録を荒らしまわるという暴挙を続けていた。

高橋涼介自身は走らず、参謀として知略を駆しているらしい。

プロジェクトDは負けなしの記録を打ちたて、群馬の走り屋のレベルの高さを他県に知らしめることに成功し、群馬の走り屋からは熱い憧れと支持を受けていた。

高橋涼介自身が、元々走り屋として群馬ではトップを張っていた存在であるから、当然ここ妙義でも、リーダーを含め、尊敬の眼差しで見られていたのだが…… それはリーダーを除くと最初のうちだけであった。

高橋涼介は、メンバー達からはかなり離れた駐車場の一角に組み立て式のテーブルと椅子をしつらえ、パソコンを弄りながら、隣に座る中里毅と時折会話をしていた。

椅子とテーブルを組み立てたのは高橋涼介ではなく、一緒にワゴンで来ているプロジェクトメンバーである。
彼等は先ほどまで中里毅のR32の調整をしていたが、それも一段落したようで、少し離れたところにあるワンボックス周辺で缶コーヒーを飲みながらくつろいでいる。

高橋涼介がパソコン画面を指指すと、中里毅がそれを覗きこむ。
何か会話をして、中里の方は画面に集中しながら話を続けているのだが、相槌を打つ高橋涼介の視線は中里毅の方にあり、どこかうっとりしたような表情で彼を間近で眺めている。

そのうちに、高橋涼介が唇を中里の耳に寄せ、何かをつぶやく。
中里はビクッ!っと、傍目から見ても大げさに身体を震わせ、椅子から転がりそうになってから、あたふた体勢を整えるのにかなりの時間を要し、それから高橋涼介の方を怒ったように睨みつけた。
怒って睨みつけるのは良いのだが、夜で遠目だというのに、頬が赤く染まっているのが、ありありと分かった。ついでに涙目だ。
高橋涼介の方は、可笑しくてたまらないのを堪えるようにくつくつと笑いながら、悪びれた風もなく会話を続けている。
最初は怒っていた中里も、そのうちにあきれたような表情になり、それから二人でまた少し会話して、中里が頬を赤らめたまま、ニコリと笑った。

「うああああああ」
「ああああああああ」
「あーあーあー………」

ついついそんな二人を見続けてしまっていたナイトキッズメンバーから、押し殺したようなうめき声が上がった。
こんな状況が日を置いてだが、ここ数ヶ月続いていて、メンバー達は砂と砂糖とアルミホイルの混合物をムリヤリ咀嚼させられているような、恐ろしい気分を味わい続けているのだった。
精神的暴力である。理由は不明だが、辛くてたまらない。
けれども彼等のリーダーの中里毅を見守ることがメンバーの使命であるから、彼等は耐え忍んで峠に通っているのである。

プロジェクトDの活動が有名になったせいでプチ遠征ブームが起き、他県からの遠征が群馬にも増えたのだが、ハチロクと高橋兄弟がプロジェクトで遠征の間、群馬トップと言える中里毅にその分の負担が押し寄せた。
そこで高橋涼介がお詫びも兼ねて、プロジェクトメンバーを連れてR32のメンテナンスやアドバイスなどサポートをするようになった、という経緯があった。
車貧乏の集まるナイトキッズであるから、金持ちのプロジェクトのサポートは受けて損はないのだが、そこは矜持の問題である。
最初は意地を張ろうとしていた中里だったが、涼介に頭を下げる姿勢をとられると無碍には出来ない性格で、結局色々と受け入れることになった。
それは全然問題ないのだが、高橋涼介である。忙しいだろうに、ナゼかこの妙義山に用事も無い時でも顔を出すようになったのだ。
リーダー曰く、妙義の風が高橋涼介を妙に落ち着く気分にさせてくれるのだそうだ。

一度、高橋涼介が中里をFCに同乗させ、全開の走りを披露したことがある。

その走りはやはり本当に素晴らしくて、降りてきた中里は興奮を過ぎてうっとりとした表情になっていた。

元々走り屋として高橋涼介のことを尊敬はしていたものの、いずれバトルをしたいという野望めいたものを抱いていた中里だったが、成長著しい弟の啓介にバトルで敗北してからは、その望みも途絶えてしまっている。

お互い群馬で覇権を争うトップレベルのチームのリーダーとしては対等であるものの、やはり中里にとって高橋涼介は伝説に近い走り屋で、憧れの存在なのである。

だから、高橋涼介の妙義来訪は中里にとっては緊張はもたらすものの別段悪いものではなかった。
勉強の夜食にと手作りおにぎりまで差し入れると、それがまたいたく高橋涼介の舌に合ったらしい。
なんかあいつ、両親がほとんど家にいなくて、手作りの弁当とか食った経験が無いらしい、金持ちの坊ちゃんも苦労はしてんだな… と中里がチームメンバーにこぼしたことがあったが、誰も、いやいや家政婦とかが作ってますって!と反論ができないほど、中里の高橋涼介への同情は深いものだった。

おにぎりは、だんだんに暖か手作り弁当にと変化を遂げていった。

ちょっと無骨さはあるものの、手作りの感じがたまらなく暖かそうで、実際心温まる味らしい。

うらやましい。激しくうらやましい。

最近では高橋涼介は中里毅に迎えを頼んだり、走りこみをした後、中里毅の家で朝まで仮眠(仮眠!?)をとったりするらしい。

中里も口では困ったヤツだと言いながら、頼られることが幸せそうである。

高橋涼介もとても幸せそうである。

誰も口が出せなかった。

口に出してはいけないような気分だった。

そして誰かが口に出してしまえば、その危うい空気は脆く崩れてしまうものだった。


「……どっちがどっち…か……」
「いやでも、俺はまだあの二人、そこまで行ってないって気がするんだよな」
「そこまでとか言うなよ、考えちまうだろ」
「考えるもなにも、そういう話だし」

うーん…とナイトキッズメンバー達は、深刻な顔で集まってヒソヒソと会話を続けていた。

「毅さんの性格を考えるとさ、もし何かそういう展開になってたとしたら、二人でいてあんな落ち着いた雰囲気は出せねえと思うわけだ、毅さんウソつけねー人だからな」
「隠そうとしてもダダ漏れなんだよなあ」

そこが愛すべき我らがリーダーと、各自うんうんと納得しながらも、今や高橋涼介に奪われそうな状況を認めざるを得なかった。

「高橋涼介は、隠す気全然無いって感じだよなあ」
「毅さんに用事があって近寄るとさ、高橋涼介が…こえーんだよ……」
「それ……オレもあったな……」
「オレも………別に睨まれるとかじゃねーんだよ。普通な感じなのに」
「空気が冷たいんだろ… オレもあの冷気痛かった」
「痛いんだよなアレ」
「こえーな………」

全員で背負う空気がしょんぼりとする。

「じゃあアレか、高橋涼介が毅さんちには行くけどこっちには来なくなったら、二人がそうなっちゃったって事になるのか」
「……なる…かな」
「……………なるな」

空気がどんよりとなる。

「で、でもよ、今こうして高橋涼介様がおいでになってるってことは、毅さんはまだそんなんじゃねえってコトだよな!」
「そ、そうだな、大体毅さんて、何つーか、交際するにしても交換日記からって感じじゃね?」
「いや、あの人日記とか書かなそうじゃね?」
「メールとかも面倒がってる時あるもんな」
「文字とか書くくらいなら、実行に移した方が面倒じゃねえみたいな」
「んじゃ、手をつなぐとか、そのくらいからか」
「そうだな、お付き合いはまず手をつなぐ辺りからだな」

二人の関係が進展するにしても、清らかな交際を望もうとする、まるで年頃の娘を持った頭の固い父親のようなメンバー達の希望は、だが同じメンバーの一言で打ち砕かれることになった。

「でもオレ………見ちまった」

その言葉に全員が嫌な予感を覚えて青ざめた。

「桜の里の入り口辺りって、丁度歩道が終わってるだろ? オレあの辺で一般車の見張りしてたんだよ。そしたらあの二人が歩いて降りて来て。……妙義のコースは下りも上りもこの辺りが一番のポイントだとか、まあ細かい路面のチェックとかだな。オレ邪魔しねえように、影の方にいたから気づかれてねえと思うんだけど。そんで二人がまた上に上って行こうとした時、何か落としたとか言って、高橋涼介がガードレールの外に降りたんだよ。すぐに戻ろうとしてガードレール乗り越えるとき、毅さんに手貸してくれっつって……毅さんの手握ってた」
「…………い、いやでもそれは手を貸したんであって、つなぐってのとはちょっと違うんじゃ」
「でも高橋涼介はガードレール乗り越えても毅さんの手放そうとしなくって、駐車場まで戻るのにひっぱってってくれって。これだから生っ白いヤツはしょーがねえなあって毅さんが……」
「………」
「けっこう上の方まで、二人でずっと……手…つないで帰ってった………」

既に第一段階突破されちゃってるし!!!!


メンバー達は頭を抱えてうずくまりたくなった。


「で、でもよ、あの毅さんだぜ? あの人女の子にはモテねーけど、野郎にはやたらめったらモテるじゃねーか。でもそれ全然気づいてねーっつーか、意識に無いっつーか、あの人がその気が少しでもあったら、今頃ハーレムの一つや二つできてるだろ」

ある意味逆ハーレム状態のナイトキッズが言うと痛いのだが、そこはあえて目を瞑っておく。

「大体高橋涼介も、女にはモテまくりだろうに、女に飽きて男に走るにしても、もう少し可愛いのとかカッコ良いのとかいるだろうに何で毅さんなんだよ」

その意見には異論が噴出した。

「毅さんじゃ役不足だってのかよ!」

そういう問題じゃないのだが。

「まあでも、オレ高橋涼介の気持ちは分からなくもねえかなー」

この辺から微妙に告白タイムに入った。

「毅さんの必死な姿とか見てっと、すげー胸が苦しくなるんだけどよ、その分あの人がのんびり幸せそーにしてっと、オレもすげーホカホカした気分になるっつーか」
「今時どこ探しても、あんな人いねーよな」
「良い意味で人間臭いんだよなあ。秋名のハチロクなんかモンスターとか言われてっし、高橋兄弟も人間離れした天才だけど、毅さんは人間代表っつうか」
「だな。三連敗した後必死に立ち直ってく毅さんに、前より他の峠とかでもファンが増えてるんだよな。まあ野郎ばっかだけど」
「男心をツンとさせる人なんだよなあ」
「そこで女心もツンとさせられれば良いんだろうけどなあ」
「女なんかに、毅さんの真の良さが分かるわけねえだろ!」
「そうだそうだ!分かってたまるか!」

こういう所が問題を更に悪化させている。

「毅さんの良さはオレ達だけが分かってりゃ良いと思ってたんだけどな」
「さすが高橋涼介と言っておこうか」
「悔しいけど、ヤツの実力は本物だしな。毅さんも認める男なんだし」
「あいつになら、毅さんを嫁に出しても…?」
「っつーか……… 嫁 ………なのか?」

そこで話が元に戻った。
つまり、あの二人は、どっちがどっち、なのかという問題だ。
曰く、雌雄を決するという問題。同じオス同士の場合、暗黙でもリアルでもとにかく闘いを経て、どちらがオスでどちらがメスかを決するのだ。オスの方が優位とは限らないだろうが、自分達の大切なリーダーがどう扱われてしまうのか、気になるのだから仕方ない。

「でもよ、男らしいっつったら毅さんの方だろ?」
「背は高橋涼介の方が高いじゃねえか」
「女装したら高橋涼介はすげえ美人になりそうだけどなあ。めっちゃ怖いだろうけど」
「女装が似合う似合わないの問題なんか?」
「毅さんだって、オールバックにしてるから漢ってイメージあるかも知れねえけど、たまに風呂上りすぐに車乗ってきたって感じのときとか、前髪全部降りてたりする時、すげー……可愛くね?」
「あ、それはオレも思った。イメージかなり変るよな。最初見たときとかしばらく誰だか分かんなかったぜ」
「あのくっきりしてる眉毛が半分くらい隠れっからかな。オレ毅さんの眉毛好きだけど」
「目も大きいし、まつ毛長いし」
「可愛い分類なのか? ウチの毅さん…」
「可愛いのは性格なんじゃねえの? たまに間違ったこととか言って、それ指摘されたりすると頑張って誤魔化そうとするんだけど、その後ちょっと恥ずかしそうにしてたりすると、オレもうすっげクルわ」
「お前変態だなあ」
「なんだよ、お前は何も感じねえのかよ」
「オレは毅さんが恥ずかしそうにしてても、してなくてもクル」
「お前の方が変態じゃねーか」
「こんな変態ばっかのチームだったなんて」
「オレはドノーマルだっての。でも何か毅さんは…」
「毅さんは別なんだよなあ」

全員で揃ってため息をついた。

「でもよ、どっちがどっちってのは、毅さんがヤるかヤられるかっつーことだよな」
「そのまんまだけどよ、高橋涼介をヤる毅さんて…」
「想像つかねーっ」
「その場合は高橋涼介が毅さんに御願い抱いてとか強請らないと、たとえ好き同士でも毅さんは動かねえような」
「頼まれても動かない気はするけど」
「逆はどうなんだよ」
「毅さんは高橋涼介に抱いて欲しいって頼まねえだろ。高橋涼介を抱きたいって言い出すのもねえだろうし。そんくらいそっち方面に思い切りがあったら、今頃とっくに彼女の一人や二人いるっての」
「やっぱ動くのは高橋涼介からって感じだな」
「毅さんけっこう押しに弱いトコあるっていうか、流されやすいっていうか、情に厚い人だから、食い下がられると断り切れないトコあるもんな…」
「そこだな…やっぱ。」
「だな」

ちなみに、メンバー自身が毅さんともし付き合えるとしたら、どっちがどっちなのか、というアンケートには、ほぼ全員が、毅さんが気持ち良くなってくれるならどっちでも…という回答であった。中里毅ファン倶楽部と化しているナイトキッズが平和を保っているのは、この辺がポイントなのかも知れない。

「ああっ みすみす毅さんが食われちまうのをオレ達は黙って見てて良いのかよ」
「でも無理に引き離そうとしたら、毅さん悲しみそうだし」
「ロミオとジュリエットみたいになったらヤバいもんなあ」
「何だそれ」
「知らねーならいい」
「一番平和なのが、毅さんに可愛い彼女が出来るってことなんじゃね?」
「沙雪さんレベルはなかなかいねえだろ」
「毅さん一筋の女じゃねえと認めたくねえな」
「誰でも良いって訳じゃねーよな」
「オレ的には毅さんの彼女はミスユニバースで三位以内でなきゃ認めねえけど」
「どんだけハードル高いんだよ」
「彼女にすんなら見てくれとかより、小柄で家庭的で優しいけど芯がしっかりしてて、必要なときは叱ってくれたりするよーな、そんな子だったら理想的なんじゃね?」

「…高橋涼介にとっちゃ、それが毅さんなんだろ…」
「………」
「………」


「まあでも、毅さんにそういう理想的な彼女が出来ないんだったら、その辺の半端な女に遊ばれるよりは、峠の魔王の方がマシじゃね?」
「家柄も容姿も頭脳も問題ねえし」
「……人柄は問題ある気はすっけど…」
「それでもオレらよりは格段にマシなんだよな」
「マシって、比べるのは無理だろ」
「まともなヤツの方が少ねもんな」
「いや、まともな奴がそもそもいねーんだって」

「そういや、ウチのロクデナシ代表はどうしたんだ?ここ何日か来てねえけど」
「慎吾か? あいつ玉砕したらしいぜ?」
「マジかよ、さすが鉄砲玉だなあ… 玉砕かあ」
「まあ結果は見えてるけどよ、今回ばかりはあいつにとことん頑張って欲しいもんだよな」
「あいつのことだから、すぐに復活すんだろ」
「それを待つしかねえか。間に合うと良いんだけどな」

庄司慎吾はここナイトキッズでは裏で鉄砲玉と呼ばれていた。

以前中里毅が秋名のハチロクに敗れた後、庄司慎吾が敵討ちのためにハチロクにダブルクラッシュをしかけて失敗し、名誉の負傷を負ってみんなに迷惑をかけるという事件があって以来のことである。

本人は中里毅をチームのナンバー1から引き摺り下ろすためと豪語していたが、チームの中では敵討ちだろうということで納得されてしまっていた。
もし怪我をしたりせず、ハチロク撃墜に成功していた場合、中里の負けた高橋啓介やエンペラーのポニーテール野郎にも追撃をしかけただろうと陰で噂されたりしていた。
ずっと二言目には毅、毅と中里の名前ばかりを繰り返す奴である。
どんだけ毅さんが好きなんだよ、と誰もが思っていたが、本人にそれを言うと冗談ではなく谷に突き落とされるので、本人にはバレないように陰で中里毅の鉄砲玉と呼んでいたりするのである。

今回高橋涼介が誰の目にも明らかに中里毅狙いで妙義に通っていることに鉄砲玉が反応しない訳はなく、中里毅のために、あえて何か行動に移したらしい。
それがどんなことなのかは、場所が妙義山でなかったので分からないのだが、結果は高橋涼介の圧勝だったらしい。

だがそんなことで諦めるなら、庄司慎吾はガムテデスマッチとかダブルクラッシュなんてやらないし、デンジャラスとあだ名されて喜んだりしない。ロクデナシなのは確実なので、大事な毅さんを慎吾の嫁に出すのはメンバー的には反対なのだが、反対勢力として今は慎吾の力が何よりも頼りであった。

「まあ一番肝心なのは、毅さんにとって幸せなのが何かってトコなんだけどな」
「そーだな…」


ふと力強いエンジン音が響き、その腹の奥を振るわせる音色にメンバーの視線が動く。


新しいセッティングの最終的な調整のために、中里がRをゆっくりと駐車場からコースに動かしているところだった。

漆黒のRにおさまる中里の姿は凛として誇らしげで、その重量級の車体は峠の王者の存在感に満ちている。助手席にはおそらくセッティングの確認のためであろう、高橋涼介の姿がある。

だが、ここでチームメンバー達は気が付いた。

先ほどまで蜜月のようにパソコンを前にして寄り添い合っていた二人だが(単にパソコンでDのDVDでも夢中で見ている毅さんに高橋涼介がくっついていたのかも知れないが)一旦Rの運転席におさまってしまった中里毅の瞳には、もうRしか映っていないようなのである。

「もしかして、高橋涼介の最大のライバルってGT−Rなんじゃね?」

そうかもな、と全員がうなづいた。

「峠の魔王対峠の王者か〜」
「そういわれると、毅さんの理想の恋人なんだよな、GT−Rは」

どんな人より物より、中里毅に似つかわしく寄り添って、共に高みを目指している。
何より、中里毅の愛を一身に受けて、輝いている。王者の名を冠するにふさわしい存在であり、それでいて何処か人の良さそうな、実直さや真摯さにも満ちている。
そんな情熱の塊、それがRであり、中里毅だった。

「そのうち、Rが人間の言葉とか喋りだすとか、ありえそうなんだよな」
「あるある」
「高橋涼介がセッティングとかしてるから、人型にトランスフォームとかしても不思議じゃねえな」
「あるある!」

恋人候補が既に人間じゃないという時点でツッコミを入れるべきなのだろうが、そんな事を気にするような人間はこのチームにはいないのであった。

「とにかくオレ達は、これからも毅さんを生暖かく見守っていこうぜ」
「そうだな」
「もちろんだ!」

深い悩みを抱えつつも、なんだかんだで妙義山は今日のところは平和なのであった。








タカラトミーのトランスフォーマー十周年記念で
R35GT−Rがコンボイに変形するオモチャが発売されてたりします。
黒買ってしまいました。(∋_∈)
だって、コンボイですよ………
声はついてないですけど、喋ったとしたら声はあの人なんですよ。
GT−Rから涼介の声がしたら、毅さん………気の毒だ…(笑)
今回はそういうネタの話だったりです。(←え)オレのバナナはどこだあ!!
32がコンボイに変形するの出してくれないかな!!


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