Moon bow+K

Moon bow+K

拓海の血を飲んだので、その日の夜は世界全てが自分のものだと錯覚しそうなくらい毅は気分が良かった。
最初に可愛い女の子の血を飲みたいという夢は叶わなかったが、次こそは可愛い女の子の血を飲むのだと毅は改めて思った。
慎吾が女の子を紹介してくれるのは慎吾の都合で来週になってしまったので、他の女の子を探そうと毅はふらふらと『外』を彷徨いだす。
慎吾が紹介すると言ったから、自分で碓氷峠まで見に行けばいいという発想に至らないのは毅が慎吾に対して無条件で信頼して甘えている証拠だが毅にその辺の自覚はない。
美味しそうな血を求めて彷徨っていた毅は赤城山の近くまで来てやっぱりか…と正直な自分に溜息を吐いた。
今まで女の子の血を飲むのだという夢のためにたぶん無意識にここに来ないように自分を制御していたのだろうが、拓海の血を飲んでしまったのでその辺の制御はなくなったらしい。
まだ女の子のことは諦めていないのに。
やっぱりこの辺だと藤原と高橋ぐらいなのなのかなぁと毅は思いながら折角だし啓介を見ていこうと決める。
どこにいるだろうかと探すと山にはいなかった。
近くのファミレスで他の人間とご飯を食べている。
啓介の皿はもう空だがまだ食べている途中のものもいるし話が盛り上がればしばらくそこに留まるかもしれない。
とりあえずファミレスまで移動してみたがいつ啓介が走りに行くのか予想がつかないので毅はどうしようか悩む。
女の子を探しに出かけて啓介が走り出した頃にまたここに戻ってきてもいいし、赤城山で啓介が走りに来るまで時間を潰していてもいい。
本当にどっちでもよくてぼんやりしていると啓介が一人で動くのを感じる。
どうやら入り口の自販機で煙草を買うようだ。
毅は入り口に移動してガラス張りのドアを叩いてみる。
買った煙草を拾い上げた啓介が音に気付いて顔を上げる。
「何してんだお前?」
驚いた顔で出てきた啓介に毅は「偶然だな。」と人間らしい挨拶をしてみたのだが駄目だったようだ。
「偶然は無理あるだろ。」
「やっぱ無理か?まあ、高橋とこうして会えたのは本当に偶然だし。」
「また見に来たのか?」
「うん。」
「そっか…」
今ここに兄はいないがやがて兄もやってくるので啓介はどうしようか悩む。
毅と兄を会わせたくない。
「よし、今から行くぞ。何回か走ったらまた秋名に連れてってやる。」
「ええっいいのか!?あの人たちは?」
啓介に引き摺られながら毅はまだ店の中に居る啓介の仲間のことを聞く。
「どうとでもなる。ほら行くぞ。」
毅はいいのだろうかと疑問で一杯だが引き摺られないように
付いていく。
啓介の助手席に大人しく納まっていると、啓介が「あっ」と声を上げた。
「お前、いっつもあいつに送り迎えさせてんのか?」
「あいつ?」
「ショージシンゴ」
「慎吾?違うけど?」
「昨日迎えにきたじゃん?」
「あーあれはあの状況だったからしょうがなく…とにかく慎吾じゃない。」
「あいつじゃないのか?あいつだからいいかと思って勝手に連れてきたけど、じゃあお前を乗せてきた奴あの駐車場に置いてきちまったじゃねーか!?」
「ああ、それは気にするな。」
「お前なんにも言ってきてねーだろ。」
「気にしなくていい。必要な時に呼べばいいんだから。」
「……」
啓介はもしかしてと感じていたことを確信した。
自分で車を運転する必要が全くない生活をし、そのことを当たり前だと思っている。
こいつはマジで坊ちゃんだ。
「毅はショージシンゴとどういう関係なんだ?」
「幼馴染だ。物心つく頃から一緒だったな。」
家の主人の息子とその使用人の息子とか、そういう関係だろうかと啓介はドラマのようなことを考える。
「仲良いのか?」
「そうだなぁ、結局、友達っていえるのは慎吾くらいだろうな。」
それはちょっと聞き捨てならない。
「なんで?あいつを友達にする方が大変そうだけどな。」
「あははっひでえな。けど、慎吾以外は友達になる前からちょっと壁があったんだよ。どうやってもオレにはそれが崩せなかったんだ。慎吾だけ壁がなかった。」
本当のところ壁はあったのだが無視をしてくれた。
「だから、友達は慎吾だけ。」
「つまんねーの。」
「つまんなくはないが、まあ寂しくはあるよな。」
「だろうな。」
「高橋は友達多そうだな。」
「友達ねーまあ多い方だろうな。」
「だろ。」
「けど、多ければいいってもんじゃないだろ。勝手に友達面してる奴とか見ると腹立つしな。」
なんとなく冷たい言い方になってしまって啓介は毅を見た。
何故か落ち込んでいる。
「なんでお前が落ち込むんだよ。」
「いや、オレも友達にして欲しいなって思ってたから…そっか」
「勝手に諦めんな。」
「じゃあ、友達になってくれるか?」
期待に光る毅の目に啓介は少し引く。
啓介も毅と仲良くなりたい。
しかし友達はなんか違うと思って即答できずにいると毅の目から光が消える。
「あのなっ、もう友達だと思うぞ!」
「ホントか!」
慌てた啓介の台詞に毅は目を輝かせてぱっと笑顔になる。
「そっか、もう友達だったのか!」
嬉しそうな毅を見て啓介は頭がくらりとして車を止めていた。
「お前さ、あんまりそういう風に見るな。」
啓介の顔が近づいてきて唇に柔らかなものが触れる。
キスをされているのだと分かったが、なぜ啓介がキスをするのか分からなくて抵抗もしないままでいるとあごを掴まれて口が開いた。
そこに舌が入ってきて毅は驚いて噛んでしまった。
「イッッテ!何すんだよ!」
「だって高橋が舌入れてくるからビックリしたんだっ」
「次は噛むなよ。」
「っん〜」
今度のキスだってどうしてなのか分からないが、噛むなと言われたから毅は啓介の舌を噛まないように口を開いて啓介のなすがままだ。
啓介の舌が牙を撫でた。
その刺激に毅は背筋が震えた。
ぞわりと震えが走って熱に浮かれたように思考が鈍ってくる。
毅の反応に気を良くした啓介に何度も牙を舐められてくたくたになった毅は少し理性が飛んでいた。
朝に拓海の血を飲んで満足を味わったとはいえ、満腹になったわけではなく、まだまだ吸血欲求の強くなる丸い月が浮かんでいる時期だ。
ふはっと満足気にキスを止めた啓介が少し離れて毅を見つめる。
毅は暗い車内で外の明かりを受けて浮かぶ啓介の首筋に惹きつけられる様に唇で触れた。
驚いたのか啓介の体に一瞬力が入り、こくりと喉が一度上下する。
毅はその反応をすべて感じながら啓介の首筋に噛み付いた。
啓介の血は拓海とはまた違った味わいで美味しくて夢中で飲む。
飛んでいた理性が戻ってきて、毅が慌てて牙を抜いた時には意識を失った啓介の顔が青褪めていたので毅は焦った。
傷口を素早く治しシートに寝かせて下がってしまった体温を毅の力で無理やり上げさせる。
毅たちは肉体を再生することは出来ても血を作ることは出来ない。
だからこそ人の血を求めるのだ。
体温が下がらないようにしながら啓介の体が新しい血を作るように働きかける。
さっき啓介が食事を摂ったばかりで良かったと思う。
力を使わなくても啓介の体が温かくなって毅はほっと力を抜いた。
しばらく貧血になるかもしれないが死ぬことはない。
まだ若いし無理をさせてしまった体も直ぐに元に戻るだろう。
血の気が戻ってきた啓介が目を開ける。
「お前、何した?」
「ごめんな。」
起きた啓介の目を虹色が浮かぶ目で見つめて今のことを忘れさせる。
覚えていないように最初から誘導したのならともかく、一度記憶したものを消すのはその存在をも消している気がして毅は好きじゃない。
しかも今回は車を止めて休んでいる理由を偽造しなければいけない。
それはその存在を汚してしまうようで記憶を消すよりもっと好きではないが、記憶を消しただけでは啓介が困ってしまうだろう。
ファミレスで自分と会ったことから記憶を変えて、一人で運転していたことにして車を止めて休んでいた理由を眩暈が起きた所為にする。
せっかく啓介に友達だと言ってもらえたのにこれでなかったことになってしまうのは悲しいが、自分と会わなかったことにした方が手っ取り早い。
そういえば啓介が忘れてしまえば何故キスをしたのか理由を聞くこともできなくなってしまうことに思い至った。
ごめんっ本当にごめんっ二度としないから!
毅は心の中で謝って啓介の気持ちを少しだけ探る。
見つけた啓介の気持ちは、キスをしたい衝動だけで理由までは自分でもわかっていない感じだった。
もっと深く探れば啓介自身すら気づいていない気持ちを見つけることができるが、それはさすがに止めておく。
とりあえず、特に意味はなかったらしいとわかれば毅には十分だった。
毅の目が光るのを止めると啓介は再び目を閉じて穏やかな呼吸を始める。
あとは啓介が起きた頃にまた来ようと毅は啓介の車から姿を消した。
何か造血作用のありそうな食べ物を持ってきてやろうと考えながら。







うわああああ!可愛い箱入り中里さんを!ありがとうございます〜vvv!!!
何という箱入りっぷり!!もう滅茶苦茶可愛がって大切にしてあげたいです!
最強の力を持っているバンパイアさんのはずなのに、この可愛らしさに撃沈です(≧□≦)
そして合宿所に然くんも初登場!!やったーーーvvv 
然くんと慎吾に過保護にされてる毅さん万歳ですv 慎吾は苦労してますが激幸福です。
たっくんも啓介もそしてまだ見ぬアニキ様も、みんな良いキャラ過ぎて
もっともっとこの世界に浸っていたいです〜vv
是非気分が向かれましたら、彼等の世界にまた浸らせてください!



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