小説…櫻太郎様
『奪いたい愛5のお題』
月の咲く空様(http://etarnalmoonsky.nobody.jp)からお借りしました。
01.好きになったのは俺の方が先だったとしても(お前の目に映るのは、あいつなんだろう)
啓介×中里←慎吾で
02.ただ、こっちを見て欲しいだけ(あいつの話なんてすんな。こっち見ろよ)
拓海×中里←啓介で
03.その横顔に言葉をなくして(お前が、あまりにも幸せそうに微笑むから)
慎吾×中里←啓介+拓海で
04.気づいたら、掴んでいた手(あいつの元に行くお前を、止めたいのか、奪いたいのか)
啓介×中里←拓海で
05.ずっと…消えなかったらいいのに(お前に残した痕くらい、俺のものであって欲しいと)
涼介×中里←→啓介で
01.好きになったのは俺の方が先だったとしても
(お前の目に映るのは、あいつなんだろう)
啓中、慎→中
きっかけは噂話からだった。
オレとアイツの仲といえば険悪としか言いようもなく、だがだからこそ何処か深い所で繋がっている様な、優越感(というのもムカつくが)みたいなのを持っていた。だからその話を聴いた時には『ウソだろ?』の一言でそれを口にした奴のケツにケリを一発入れて済ませたんだが…
アイツの事で知らない事はないと思っていた。例えあったとしても、それを真っ先に知るのは自分であると。
軽い口調で訊いたつもりだったが、声は震えてなかっただろうか。らしくもなくアイツの顔がまともに見られない。
…今ヤツは何と答えた?
「おい、慎吾…何固まってんだよ」
気付けば下から顔を覗き込んできたヤツと目が合った。太い眉が困ったように下がった、笑顔。結構気に入ってる、コイツのこの表情。
「黙ってて悪かったな。…何か言えないだろ、あんな…」
「うるせえ!」
はにかみ、幸せそうなツラで謝る…全てがありえねぇ!そんなアイツの顔も言葉も気にくわなくて、怒鳴り散らしてやった…にも関わらず更に申し訳なさげなカオしてオレの傍にいる。
(それでもコイツの事が嫌いになれねぇなんてな、畜生!)
例えば奴より先に好きだと言ったとしても、この状況に変わりは無かっただろう。付かず離れずのこの関係は長いだけに厄介なんだ。
end.
02.ただ、こっちを見て欲しいだけ
(あいつの話なんてすんな。こっち見ろよ)
拓中、啓→中
『この前遠征だったんだろ?どうだったんだよ?…は?お前じゃなくて拓海だよ!』
『あー…その日は拓海と出掛ける約束しててよ…』
お前が訊きたがるのはアイツの事だけ。お前の口から出る名前はアイツのものだけ。
惚れたのも、そして落としにかかったのも俺が先だった筈なのに、いつの間にか先を越されていた。車の趣味がここまで影響されるとは思わなかった。…否、違う。らしくもなく俺がグズグズ狼狽えていたせいだ。遠慮するなんて、人生で初めて経験したかもしれない。
モヤモヤしたものを振り切ろうとした瞬間にアイツの声が聴こえてきてまた狼狽えた。
流石に落ち込みかけた目の前にソイツが現れて吃驚した。隣にいるのはやはり拓海だ。
(こっち向け!)
頼むから気付いてくれ。
end.
03.その横顔に言葉をなくして
(お前が、あまりにも幸せそうに微笑むから)
慎中、啓+拓→中
(‥あ)
あいつは確か、いつも中里と連んでる奴だ。名前は知らないが、赤シビックのドライバーだったか。目付きが性格の悪さを現している男。
中里とは犬猿の関係だと聞いている。なのに、いつも一緒にいるらしい。
「庄司慎吾?」
背後からいつも通りのボソボソした声で
話しかけられて(?)振り向くと、珍しく不機嫌を露わにした藤原がいた。
「ショウジってのか?アイツ」
「啓介さんこそ、アイツなんか見てどうしたんすか?」
他人を悪く言う事などほぼ皆無だと思っていた奴から軽く吐き出された毒に少々驚きつつ、視線をその男に戻す。
「「!」」
親しげに組まれた肩(とはいえ一方的なものなので中里が抱き寄せてられているように見える)、必然的に耳元に寄せられた唇。近い息にか囁かれた何かにか、僅かに染まる中里の頬。
「アイツ中里の何なんだ!」
憤慨する啓介を余所に、彼等が続けて目にしたのは、そんな“アイツ”に向けられた、中里の照れながらも幸せそうな、柔らかな微笑だった。
end.
04.気づいたら、掴んでいた手
(あいつの元に行くお前を、止めたいのか、奪いたいのか)
啓中、拓→中
好きです、と何度言いかけた事か。
プロDの遠征を観戦しに来るあの人を見掛ける様になって数戦目、偶然その場面を見てしまった。
『や‥こんなとこで…っ、ん…』
『景気付けだって。いーじゃんこんくらい‥な?』
『なんだよそれ…』
これまで気付かなかった自分の鈍さに腹が立つ。好きだと思った時に言ってしまえれば或いは…
否、言えるわけがない。碓氷の片割れに振られたと聞いて安心したのと同時に落胆もしたのだ。あの人に同性からの好意は迷惑でしかないと。
なのにこの状況は何だ。女の子になら…と諦められるかもしれないものを、男に盗られるとは。
『離…せ、って…ん…』
嫌がっている素振りが全くそう見えないのがもの凄く悔しい。
『やだ。離さねぇ』
ほら、調子に乗った男が畳み掛けるようにして追い討ちをかけにいった。
「啓介さん、そこにいるんですか?涼介さんが探してましたけど」
我慢しきれなくて邪魔してやった。涼介さんが呼んでたのも嘘ではないし。
「そっか、悪ィな藤原」
そんな事で謝る必要はない。俺からこの人を遠ざけた事。奪い去った事を。
「あ…あの、な…藤原…」
見られていた事を恥じらい、遠慮がちに呼び掛けてくる彼の方を振り返る。
「知ってますよ、啓介さんに好きだって言われたんですよね?」
そしてそのまま、イエスの返事もしない内に流されかかっているのも知っている。
居心地悪そうに、それでも逃げるという選択肢がこの人には無いらしく、ただただオレの次の言葉を待っている。
「中里さん…」
「!!」
思わず掴んだ手首。すぐに振り解かれたそこに答えを見た。
留めたいし奪いたい。けれど辛い顔は見たくない。ただそれだけ。
「答え、出てるじゃないですか」
笑って見送るしか、今は出来ないけれど、いつか。
end.
05.ずっと…消えなかったらいいのに
(お前に残した痕くらい、俺のものであって欲しいと)
涼中、啓←→中
灯りを落とした其処からは、激しい水音と肌が肌を打つ音が木霊している。手加減無しの暴行を受けた身体が痛々しい。
しかし何よりも、中里を想う心が痛みを訴えて止まなかった。零れ落ちた涙。暴走する感情。それを微笑って赦そうとする彼が憎い。あの男との絆は俺になど断ち切れぬだろうと嘲笑われているようにも見えて。
お前とは付き合えないと言う中里に、何故だと尋ねたら『お前を汚してしまうから』という答えが返ってきた。それだけで納得出来るものか。しかし更に問い詰めても中里は益々頑なにその口を閉ざし顔を背けてしまうだけで。両肩を掴んで揺さぶる自分から逃れようとする彼に理性を砕かれた。
逃げる肩を背後から掴み、引き倒す。無造作に物が散らばる床に背中を痛めた中里が表情を歪めたが、もうそんな事を気にしている余裕など残されていなかった。男を抱くのは初めてだったが、本能がそれを教えてくれる。胸元を引かれたシャツは釦が弾け飛び、素肌を露わにした。
無理矢理に快楽を引き出される。肌を這う彼の掌・唇。身体は熱くなってゆくのに、心は急速に冷えていく。
その表情に昏いものを落としながら、
彼は中里を犯し機械的に達した後、ふらりと出ていった。
愛しい相手の背中を、曇った侭の視界の中、ただ見送る事しか出来ない中里に残された大切な疵痕。
謝罪を繰り返す掠れた声は届かぬまま。
end.