小説 みのり様 S13シルビアを追って
いきなり迎えにこいと呼び出され、毅は深夜、高崎駅まで慎吾のバカを迎えに行った。電話口で薄々感づいていたが慎吾はベロンベロンに酔っており、毅が迎えに行った時には植木に半ばめり込む様にして熟睡していた。 慎吾の大学時代のツレに(彼等も相当酔っている様子だったが)頭を下げ、毅は慎吾を助手席に放り込むとさっさと帰途につく。悪態をつきつつもちゃんと迎えに来ている毅には、慎吾と仲が良いと揶揄されてももう否定できる要素はない。 それはともかく…… (どんだけ飲んだんだこいつは……) おかしな体勢で熟睡している慎吾を見やり、毅は呆れを通り越して悲しくなって来た。慎吾が起きていたら、お前だってしょっちゅう泥酔して自我失ってるじゃねーかと異議を唱えられるだろうが。ま、お互い様なのだ。 エンジンの始動音で意識を取り戻した慎吾は、毅の助手席に座っていると気付くと何故かケラケラと笑い出した。そして、陽気に毅の肩やら頭やらを叩いてくる。運転中だっちゅーに。 「おーおー、毅。お迎えご苦労」 「何で俺がお前を迎えに来にゃならんのだ」 「そりゃオメ、ナイトキッズのリーダー様だろうが。チームのメンバーの面倒を見るのが仕事だろうよぉ」 「はあ? リーダーってだけでどうしてそこまでせにゃならんのだ」 「でも迎えに来たじゃねーか。有言実行。恐れ入るぜ」 「……」 早々に、酔っぱらいとの議論に疲れを感じた毅は、慎吾を無視する事に決めた。いくら毅だって、ナイトキッズのメンバーと言う理由だけで、呼び出されれば誰でもほいほい迎えに行く訳ないじゃないか。慎吾は幸せ者である。 毅は無言で愛車を飛ばす。さっさとこのお荷物をを送り届け、家に帰って眠りたかった。 ふと気付くと、諸悪の根源である慎吾は熟睡していた。起きていられるとうるさいので、全く有り難い事である。 市街地から離れて行くため、道路の交通量はだんだんと減って行く。それと比例する様に、GT-Rの速度は上がる。 その時、前方から近づいてくる車のヘッドライトに、毅はひどく既視感を覚えた。眩しさを厭わず、思わず注視してしまう。 ライトに照らされたその車を見た瞬間、毅は思わずサイドを引きハンドルを切っていた。 GT-Rのすぐ横を、S13シルビアが通り過ぎて行く。 キキキキーッ、とスキール音を響かせながら、GT-RはUターンする。 いきなりの急制動に、シートベルトを付けていなかった慎吾はダッシュボードに強か頭をぶつけた。ぎゃふんと悲鳴が上がる。 「危ねーなバカヤロウ!」 痛みで眠気が吹っ飛んだ慎吾は、グチグチ言いながら緩慢な動作でシートベルトを締める。少し寝て血中から少々酒が抜けたらしい、しらふに近い声色だ。しかし、慎吾は何故自分がGT-Rの助手席に座っているのか理解できず、首を傾げて固まった。慎吾は記憶が少々吹っ飛んでしまっている様子である。よくあることだが。 「おい毅?」 「話かけるな」 「何で俺はここにいるんだ?」 「ハァ!? テメー、夜中にいきなり呼び出してきたのを忘れたのか」 苛立った様子で返事をする毅に、だから気分屋は困るぜと自分の事は棚に置いて慎吾は呆れる。 「そう言われればそうだったな」 本当は全く記憶にないが、相手の車に乗っている以上とりあえず同調する慎吾。しかし、その毅の少なすぎる説明では解せない事があった。 「で、一つ訊きたいんだが、何でこの車は高崎駅の方へ向かってるんだ? 俺の家はそっちじゃねーぞ」 少なくとも、高崎駅周辺で大学時代の友人達と一緒に酒を飲みに行ったのを慎吾は覚えている。しかし、今GT-Rが向かっているのは明らかに高崎駅だった。慎吾の家は 「お前は、アレが見えないのか?」 「アレ??」 そんな慎吾の疑問に、毅はもどかしそうに答える。 毅の視線の先を見ると、そこにはシルビアがいた。黒のS13シルビア。走り屋的には見慣れた車である。いきなりGT-Rが追って来た事に恐れをなし、必死に逃げている様に伺えた。馬力全然違うので、ストレートならばいずれは追いつかれるのであろうが。 それにしても、目の前の車に毅が執着する理由がわからず、慎吾は眉間にしわを寄せた。 「アレがどうしたんだ? 喧嘩売られたのか??」 「……そりゃまあ、お前に察しろと言っても無理だよな。 あれはな、あの車は……」 ふっ、と毅の顔が緩む。 「昔俺が乗ってたS13なんだよ」 「はぁ〜〜あ!? そんだけの理由で追っかけてんのかよ」 「そ、それだけとはなんだ、それだけとは! 昔乗ってた車だぞ!? 一番最初に買った車だぞっ!! 今どんな奴が乗ってるのか気になるだろうが」 「ガッカリするだけだろ。てか、あんな車ゴマンといるじゃねーか。何で前乗ってたヤツってわかるんだよ」 「そりゃ、改造のされ方とか、ぶつけた跡だとか。そもそも全体的に纏っている雰囲気っツーか、わかるだろ??」 「どうだかねぇ」 必死な調子の毅に気のない返事をし、慎吾は話を打ち切った。 会話を続けるのが面倒だと言う理由もあったが……前を走っていたシルビアがストレートでは追いつかれると気付いたのか、そもそも曲がる予定だったのか、小さな十字路を左折したのだ。ケツを滑らせ最小のスピードロスで曲がるシルビアに、慎吾は思わず驚嘆する。どうやらかのS13シルビアは、腕の立つ走り屋に買われたらしい。 一方の毅は、今のドリフトを目の当たりにし闘争心に火がつけられた様子で、負けじとシルビアを追走する。その気持ちは、慎吾もわからなくはない。慎吾だって毅の立場だったらシルビアを追いかけていただろう。 しかし。しかしだ、 「おいおい、もう住宅街に入ってるんだぜ」 「……」 両者、エンジン音やらスキール音やらエキゾーストやら、けたたましい音を立てながら住宅街の小道を縫う様にカーチェイスしていた。このままだと、住民によって確実に警察を呼ばれる。こんな場所で逮捕だけは絶対に避けたい。この年齢で暴走族と言われたくない! 「おい毅!」 「畜生、わかってる!!」 いやいや、全然わかってないから! 本日何度目かの横Gを感じつつ、慎吾は心の中で鋭く突っ込んだ。 あいにく毅に慎吾の気持ちは伝わらなかったが、シルビアのドライバーには通じたらしい。シルビアも住宅街でこれは不味いと気付いたのか、ハザードランプを焚いてスピードを緩めてゆく。そこでようやく、毅も減速を始めた。 路肩に止まったシルビアの後ろに、GT-Rがぴったりと付ける。 エンジンを止めると、毅と慎吾はすぐさまGT-Rから飛び降りた。毅はともかく慎吾が外へ出たのは、新鮮な茎が吸いたかったかったからだけだが。さっきまで記憶が飛ぶくらい飲んでたんだって! 二人が出て来たと同時に、シルビアのドアも開く。 街中でさえ躊躇なくカーブを突っ込むクソ度胸とドラテク。どんな奴が乗っているのかと、毅も慎吾も相手が出て来るのを息を飲んで待った。 そこから出て来たのは…… 「「ふ、藤原ァ!?」」 「お久しぶりです」 そう、シルビアから出て来たのは、秋名のハチロクこと藤原拓海だった。 相変わらずぼう洋とした調子で頭を下げる拓海に、毅も慎吾も絶句して固まる。 「あの、何で追いかけて来たんですか?」 「えーっと、そのシルビア」 毅は気が抜けた様に、拓海が乗っていたシルビアを指差した。 「そいつは昔、俺が乗ってたシルビアだったんだ」 「ああ、そうだったんですか。てっきり、俺が乗ってるのに気付いて追いかけて来たのだと……」 「さすがに運転席までは見えなかったな。えらく腕のいいドライバーが乗っているなとは思ったんだが。どうして逃げたりしたんだ?」 「いきなりUターンして追いかけて来たんで驚いて。すぐに中里さんのスカイラインだってわかったんですけど……中里さんが追いかけてくるからついつい」 「あー、わかる。こう、アツくなるよな。後ろから煽られると」煽っていた自覚はあるらしい「でも、ハチロクはどうしたんだ?」 「あいつは親父が乗ってっちまいました。えーっと、昔バイトしてたスタンドの店長に、ちょうどいいシルビアが手に入りそうだからいっちょ受け取りに行ってくれ、って頼まれちゃって。スピードスターズの新入りが乗るとかで」 「なるほど……」 毅は、思わずシルビアを撫でる。拓海の言うスピードスターズの新入りは、毅が手放してから2人目のシルビアのオーナーなのだろう。前のオーナーは大切に使っていてくれたみたいだが、初心者が乗るとなると傷だらけになる可能性が高い。 「シルビアはドリフトの練習にもってこいだもんな。今回は一目で俺のってわかったけど、次ぎ会う時はわからないかもな」 何度クラッシュしてもいいから大切に乗ってくれるといい、と毅は思う。自分もこいつを何度ぶつけたことか。その度に板金屋のお世話になって、常に金欠状態だったが。 それは今と変わらないか…… しかし、そんな毅の感傷をぶった切る男が居た。もちろん、デンジャラス慎吾こと庄司慎吾である。 慎吾は毅のケツを思いっきり蹴り上げると、呆れた様に大きくため息を吐いてみせた。 「ナニ浸ってんだよ。藤原もさっさと帰りたいだろうし、そろそろ行くぞ」 「痛ってェな!」 「俺は別に迷惑だとかは……」 「いや、確かに慎吾の言う通りだ。藤原って未成年だよな? こんな遅くにすまなかったな」 「はあ」 今の時間は3時ちょい前。いくら明日が土曜とは言え、遅いのは確かだった。しかも、毅は明日も仕事が入っているし、拓海だって配達がある。 お互いに別れの挨拶をし、それぞれの車に戻る。その途中、ふと気付いた様に拓海は振り向き、毅に叫んだ。 「中里さん!」 「なんだ?」 「良ければ、また秋名にこいつ見に来て下さい」 「いいのか!?」 「はい!!」 そして、シルビアとGT-Rはそれぞれ逆方向に車を発進する。 帰り道、気が抜けたためか毅も慎吾もしばらく車の中で無言になる。 先に口を開いたのは毅だった。 「やっぱあいつはすげーな」 「だな」 「しかもいい奴だよなー」 「……いや、俺には下心がある様に思えたが」 「そりゃ、お前の性根が腐ってるからそう思えるんだ」 「ヒデエ言われ様だな、おい」 久しぶりにシルビアと出会えたことに、毅は晴れ晴れとした気分だった。そして、無性に走りたいと思う。 「俺ももっとドラテク磨かねーとな」 「……」 「なあ慎吾。明日は久しぶりにバトルするか!?」 「……」 「? 慎吾??」 いきなり返事のなくなった慎吾を怪訝に思い、毅はちらりと助手席を伺う。助手席の慎吾はと言うと、口元を押さえてダッシュボードに突っ伏していた。 え、ちょ、これって…… 「気持ち悪ィ」 「だ、大丈夫か?」 「吐く……」 そりゃ、しこたま飲んで食ってした後いきなり胃の中身をシャッフルされたら、誰だって吐き気をもよおすだろう。違う意味でデンジャラス慎吾だ。いや、ギャグを言ってる場合ではない。 「バカ、家まで我慢しろ。車内で吐いたら殺すぞ!」 「ムリ……」 「無理じゃねえ。絶対吐くなよ。絶対汚すなよ」 オチがついたのでこの辺で。慎吾がRの中で吐いたかどうかは、それはまた別の話…… |
わああvvvたっくんも参戦ですよ!慎吾酔ってる場合じゃないですよ!(笑)
頭文字Gが!!(笑)(笑)(笑)
中里さんのシルビアネタって意外と読ませていただいたことがなかったので
何という良いお目の付け所!!!!と感動しました!
確かに毅はRを愛してますけど、シルビアのことも忘れることは無さそうですvvv
情の深い毅さん万歳(≧∇≦)//!!
今後シルビアネタも増えると嬉しいですね!
素晴らしい作品ありがとうございます!!もっともっとみのりさんの作品が
読めますように(〃∇〃) vvv
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