小説 麗音 様v
『お昼寝 毅くんv』
ここは頭文字幼稚園。
ちょっとクセのある園児がいる幼稚園です。
そんな幼稚園で、入園と同時にアイドルとなった園児が数人。年長さんの涼介くんに、年中さんの啓介くん。そして、年少さんの拓海くんです。
けれどそんな3人を抜いて、さらに大人気な子がいるんですよ!
今はお昼寝中なので、そーっと、そーっと、覗いてくださいね。
その子のお名前は…、
「なかざとぉ! あそぼうぜぇ!」
「むうう?」
……中里、毅くんです。
「コラ啓介。なかざとが起きてしまうだろう。しずかにしないか」
「ゲ。アニキッ! いいんだよ! なかざとはオレにメロメロなんだから!」
「バカだなお前は。なかざとが好きなのは、このオレだ!」
親御さんに大人気な高橋兄弟。今日も今日とて、年少組の中里毅くん争奪戦をしています。
周りからすれば迷惑な程騒ぎまくる2人ですが、涼介くんはとても賢くて、啓介くんはちょっと恐いので、誰も文句を言えません。
「うるさい…」
むくり。
2人のせいで起きてしまった毅くん。
大きな黒い目をウルウルさせて、今にも泣きそうです!
「だいじょーぶですよ。おれが、ついてますから!」
「「ふじわら!!!」」
「…たくみ…」
毅くんをギュッと抱きしめて登場したのは、藤原拓海くん。
まだ年少さんですが、とってもお利口さんで常にボーッとしている子です。
けれど、いざとなったらやる子なのです。キッ!と眉を吊り上げて高橋兄弟を威嚇する様は、毅くんには勇者に見えました。
「ンだよぉ! オレのなかざとにベタベタさわんじゃねぇ!!」
「…啓介の言い方は気にいらないが、どうかんだ。なかざと、そんなヤツではなくオレのむねの中に来い!」
「だれがいくか!!!」
ナチュラルに変態な涼介くんは、これでも一応園児の中で最も賢い男の子です。そこはお忘れないように。
…さて、未だ拓海くんに抱きしめられている毅くんは、やっと今の状況に気付き、慌てて離れました。
恥ずかしかったんでしょう。
その事に、表面上はボーッとしながらも残念に思った拓海くんは、少し眉をさげてしまいます。
そんな拓海くんに、啓介くんが止めを刺しました。
「なかざとさ、いってたよな。とうふはキライだって」
「!!! そう、なんですか…?」
拓海くんの家はお豆腐屋さんです。
「たけしさんに、しょうらいおよめさんにきてもらうんだ!」と思っていた拓海くんは、ガックリ肩を落としてしまいました。
拓海くんが凄まじく落ち込んだ事に毅くんはビックリ! いそいでフォローをします。
「ち、ちがっ! ちょっとだけ、にがてなんだ! きらいじゃないぞ!」
嫌いではなく苦手。
フォローになっているのかなっていないのか、それはイマイチ分かりませんが、まぁそこらへんは毅くんの個性です。
この必死のフォローによって、拓海くんは少し元気になりました。心なしか笑顔です。
「(ちっ。だめだったか)」
「(せっかくの情報をムダにするな、啓介)」
「(ごめんってアニキ…)」
どうやら、『涼介くんの情報を啓介くんがタイミングよく言って、拓海くんを毅くんから引き離す』という作戦だったようですね。
失敗に終わってしまいましたが、もしこれが成功していたら、未来ある1人の園児が絶望のどん底に突き落とされていた事でしょう。
成功しなくてよかったですよねホント。
「ねぇたけしさん。おれ、おなかがすきました」
「ん。わかった。おれ、しんごにいってくる!」
慎吾というのは、毅くんや拓海くんたちの年少クラスの保育士さんです。
毅くんを苛める事が人生最大の楽しみ!とでも言わんばかりの心意気で、毎日毅くんをいじめています。(でもそれは、「好きな子ほど苛めちゃう」っていう性格のせいなんですけどね)
そんな慎吾先生ですから、この毅くん大好き3人組からは不人気。かなり嫌われています。
なので、
「いわなくていいですよっ。 それよりも、いっしょにおひるねしましょう!」
「え。でも、はらへってるんじゃ…」
「いいえ。おなかいっぱいになりました!」
拓海くんは、さっきの言葉を必死に取り消しました。
「だいじょうぶなのか…?」
「…ふじわらが大丈夫だと言っているんだ。大丈夫なんだろう」
涼介も、冷静さを保ちながら拓海くんをフォローします。
1人の敵に絞られると、協力的になるものなんですね。
「そうだぜなかざと! そんなチビのいうこと、いちいちきいてんな。オマエはオレだけのいうことだけ、きけばいいんだ!」
おおっと。ここでまさかの啓介くん、亭主関白宣言です!
あまりにもストレートな物言いに、察しのいい涼介くんは内心で怒り、大事な弟の筈の啓介くんの向こう脛を蹴り上げました。笑顔で。
痛がる啓介くんなんて気にしません。
そして、床に放置されていたタオルケットを手に取り、「さぁ、昼寝しよう」なんて爽やかに言ってのけます。
「一緒に寝よう」という事なんでしょう。
「たけしさんは、おれとねるんです!」
「オレだ」
「オレだオレッ!」
「……」
「「「なかざと(たけしさん)は、どうおもう!?」」」
「え?」
突然ふられた話題の為、毅くんは瞬時に反応できません。
それでも一生懸命に頭をフル回転させ、言いました。
「みんないっしょにねたら?」
「「「!!!」」」
時として、無邪気は凶器になります。
毅くんの言うとおり、みんなで寝ればいいのですが、毅くんの両脇に寝られるのは2人。
しかしここにいるのは3人。
誰か1人あまってしまうのです。
そんな事には気付かない毅くんをよそに、3人の中でまた新たな戦いの火蓋が切って開かれました。
お昼寝毅くんの両脇争奪戦、開始!!