鬼畜眼鏡SS(御堂×克哉-接待未通過IFルート-)
Glasses Changing?〜ワインとホテル〜(後編)
これは、一体どういうことだ……!?
オレは瞬きさえ出来ずに、すぐ目の前にある端整な寝顔を凝視し、フリーズしていた。
<2>
とりあえず、オレはそうっと息を吐いて、今日一日を振り返ってみた。
朝は普通に起きて、いつも通りに会社に行った。
今日は外回りメインで、でもそんなに遅くならないよう気をつけて、直帰した。
なんで遅くならないようにしたかと言うと、今夜は約束があったからだ。
そう、御堂さんに飲みに連れて行ってもらう約束をしていて。
約束よりも少し早い時間に、ワインバーに来たのはいいけれど、ドアをくぐる勇気が持てなくて、胸ポケットの眼鏡に手が伸びた。
そして、それから―――。
(<俺>ってば、御堂さんに何やったんだよ!?)
そして、今。
何故かオレは、ホテルのベッドに居た。
そして隣では、御堂さんが眠っている。
さっきまでオレも寝ていて、目が覚めたら隣で同じように御堂さんが寝ていたから、心臓が止まるかと思った。
いや、さっき絶対、一回止まった。
叫び出さなかった自分を、褒めてやりたいくらいだ。
なんでワインバーから、ホテルに移動してるんだよッ、<俺>!?
わけがわからない。
眼鏡をかけている時の記憶は、いつもならうっすらとあるんだけど、今夜はワインを飲んでいたからか、霞がかたように、曖昧だ。
一体、<俺>が何をしでかしたのか、想像するだに恐ろしい。
失礼な事、してなきゃいいんだけど……。
「………ん」
かすかに身じろぐ気配がして、御堂さんがぱちりと目を開けた。
目をそらす暇もなく、バッチリと目が合う。
「あ、あの、えっと……」
何か言わなきゃ。
でも、何を?
「ああ、君か」
「は、はい!」
起き抜けの御堂さんは、ちょっとだけ、ぼうっとしていて、常日頃の切れるような怜悧さが感じられなかった。
それに、いつもはあげている前髪が、下りているせいだろうか。
若いっていうか、幼く見える。
なんだか、可愛い、かも………。
とか、つい、そんなことをうっかり思っていたため、いぶかしそうに問いかけてきた御堂さんに答えるのが、遅れた。
「……聞こえなかったのか?ここはどこだと聞いている」
「あっ、はい、その、ホテル?です」
って、ここ、ホテルでいいんだよな?
いかにもビジネスホテルって内装だし。
「何故、ホテルに」
そして、当然の疑問を尋ねられるが、そんなのオレが知りたい。
ワインバーから、どうやってホテルに……。
必死で思い出そうとして、眼鏡をかけていた<俺>の行動をが、何とか脳裏に浮かび上がってきた。
そうだ、薬!
あいつ、ポケットから何かの薬を入れたんだよ!
御堂さんがちょっと目を離した隙に、ワイングラスに。
しばらくはそのまま何ともなかったけど、少ししたら御堂さん、眠っちゃって。
で、お店の人にタクシー呼んでもらって、そのままここに……。
うわああああ!<俺>、何てことをっ!?
内心だらだら汗をかきながら、オレは説明した。
「あの、御堂さん、ワインバーで眠ってしまったんですよ。ええと、その、きっとお疲れだったんですね。それで、オレ、ホテルで、休んでもらおうと思って」
「なるほど。それで、君も一緒に眠ってしまったと?」
「あ、あの……は、はい」
お互い、ベッドで横になったまま会話してるって事は、そうなんだよな。
オレは、いつ、<俺>が眼鏡を外したのかさえ、覚えていない。
ここまでお膳立てしておいて、どうして<俺>が、眼鏡を外したのかも……。
(ま、まあ、<俺>が御堂さんにこの機にイロイロやらなかったのはよかったけど。って、何もやってないよな、<俺>!?)
酒は魔物だ。
今度から、飲む機会があっても、絶対眼鏡をかけないようにしなくては。
オレが密かにそんな決意をしている間、御堂さんは何も言わなかった。
「…………」
「あ、あの、御堂さん……?」
黙ったまま、じっと見詰められているのも、居心地が悪い。
しかも、かなりの至近距離だ。
「それで、今夜はどうするんだ」
「はい!?」
どうするもこうするも。
起きたんだし、帰るんじゃないのか!?
時間、時間……。
ああ、よかった。
この時間なら、まだ終電に間に合う。
「まだ終電も終わってないですし、そろそろ帰ろうかと」
思います、と続ける前に、さらりと言われた言葉の意味が、とっさにつかめなかった。
「泊まらないのか」
泊まるって、どこに?
誰が?
「え……?」
オレはたぶん、思いっきり、間抜けな顔をしてたんだと思う。
御堂さんは、そんなオレをじっと見て、なんだ、と言った。
「違うのか」
「え、あの、その……?」
「わかった。なら、今夜は帰るとしよう」
尋ねてきた時と同じようにあっさりと言うと、御堂さんはさっさと起き上がった。
下りていた前髪をかきあげたら、そこにはいつもの御堂さんがいた。
「何をしている。出るぞ」
まだベッドから起き上がれないままでいたオレを見下ろして、御堂さんが言うのに、オレははっとして、起き上がった。
ぐしゃぐしゃになっているであろう髪を、手櫛でざっと直す。
「は、はい……!」
すたすたと、ドアに向かう御堂さんの後に続いた。
部屋を出る前に、ちょっとだけ振り返ったとき、初めて、そこがツインじゃなくダブルだということに、気付いた。
――――せっかくのチャンスをふいにするなよ、馬鹿。
胸ポケットを軽く押えると、呆れたような声が、どこからか耳に響いた。
to be continued……