chapter2-1.Classroom
僕は、なんとなく自分の教室に向かった。
意味はあんまりない。
ただ、こんなにそっくりに作られた『学校』の自分の席が見てみたかったというか……。
それが、大きな間違いだったことに気付くのに、時間はさほどかからなかった。
「フユ」
席の並びまで本物と一緒だ、と僕が教室の中を見渡していた時、後ろから声がかかった。
実際は、メッセージウィンドウに文字が流れたんだけど。
ドアが開いて、教壇の前に居た僕に近寄ってきた人物――アバターは、僕の良く知るものだった。
「ひさしぶりだね。フユ。会いたかったよ」
「マコト……」
そう、文字を打ち込んだ後、何て続ければいいのかわからなかった。
マコトは、つい先日まで、僕がパーティーを組んでいた相手。
色々あって今はパーティーを解散してしまったけど、マコトがそれを納得していないってことは、わかりすぎるくらいにわかっている……。
「ここは、フユのクラス?」
そう聞かれて、僕はハッとした。
そして、自分のうかつさを呪った。
「違うよ! たまたま、近くの教室に入ってみただけだ」
「ふうん、そうなんだ……」
マコトはそれ以上深く追求しなかったけど、誤魔化しきれたのかどうかはわからない。
すぐに自分の席を確かめに行ってみなかったのだけが、せめてもの救いだ。
「俺は、廊下でフユを見かけて、追いかけてきたんだ。フユの可愛いピンクの髪は、遠くからでも良く見えて、すぐにわかったよ」
「そう……」
僕は改めて、この目立つ髪色を怨んだ。今さらだけど。
マコトは、僕の隣までやってくると、同じように教室内を見渡した。
「それにしても、本当によくできているね。ここが現実じゃないのが嘘みたいだ」
「うん。席の並びも、ロッカーの配置も、窓にかかったカーテンの色も、本物と同じだ」
「フユの席は、どこ?」
「それは……、って、ここは、僕のクラスじゃないんだって!」
「ちぇっ。そんなに簡単に、引っかかってくれないか」
マコトは、ちょっと残念そうな顔の表情アイコンを使って、メッセージウィンドウに文字を流した。
あ、危ない……。
思わずあっさり、答えそうになっちゃったよ。
これ以上、ここでグズグズしていたら、ボロがでそうだ。
早く、この場を後にしないと。
「じゃあ、僕はそろそろ、」
「俺と組んでくれないか、フユ」
「マコト、僕は……」
「わかってるよ。君の言いたいことは。だから、今だけ。このイベントの間だけでいいんだ。どっちみち、君もこのイベントで組む相手を探さなきゃいけないだろう?」
「それは、そうだけど」
「だったら、俺と組んで。時間もあまりないんだ。今から組む相手を探してたら、イベントクリアできなくなるよ」
「………わかった。このイベントだけ、なら」
「うん。今はね。それで、我慢するよ」
マコトは、にっこり笑顔の表情アイコンで答えた。
それはおそらく、マコトの真意ではないのだろう。
そのことに、僕も、マコトも気付いていたけど、それ以上は触れなかった。
気を取り直して、僕はマコトに尋ねた。
「それで……どうする? これから」
「一応、この教室を探って……みなくても、いいみたいだね!」
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