chapter2-5b-1.Rooftop
「フユ!?」
マコトが驚いて僕の名を呼んだけど、返事をしないで、前に出た。
そしてそのまま、マコトの横につく。
(冗談じゃない……!!)
僕は、メッセージウィンドウに打ちこまなかった言葉を、心の中で叫んだ。
いつも、そうだった。
マコトとパーティーを組んでいた時は、いつも。
フユは、下がってて。
フユは、俺が守るから。
そこに僕の意思はなくて。
それも仕方ないって、思ってた。
レベル的にも、僕はマコトに全然敵わない。
それどころか、足を引っ張りかねない存在で。
法術師のジョブを活かしてサポートに回ろうと思っても、マコトはそんなの必要ないくらい強くて。
何のために、このパーティーにいるんだろうって、思ってた。
だから、マコトとのパーティーを抜けた時は、本当にホッとした。
もう役立たずのパーティーメンバーの1人でいなくても、いいんだって。
だけど………!
(僕だって、変わったんだ!)
マコト達とは違う、新しいパーティーに僕は自分の居場所を見つけた。
自分がやれることを、できることを見つけた。
そして僕は、気付いたんだ。
僕は役立たずなんかじゃなかった。
そうじゃなくて、役立たずだって思い込んで、諦めてたんだ。
何かを意見する事も、行動する事もしないで、ただマコトの言う事を聞いていた。
マコトの方が強いから、レベルが上だから、と。
それじゃ、何も変わらない、変えようがなかったんだ。
僕は叫ぶように、メッセージを打ちこんだ。
「後ろに引っ込んでるだけなら、一緒にパーティーを組んでる意味がないだろ!」
「フユ………」
表情アイコンは変わらないままだったけど、マコトは一瞬、戸惑ったかのように見えた。
だが、すぐにメッセージウィンドウに文字が流れる。
「わかった。サポート、頼むよ、フユ!」
「うん!」
僕が、どこまでやれるのかは、わからない。
そしてやっぱり、マコトは僕の手助けなんて、いらないのかもしれない。
だけど僕は今、このイベントで、マコトと2人で、パーティーを組んでいるんだ。
僕だけ後ろに下がって、安全な場所で戦いを見てるだけなんて、そんなのおかしい。
法術師として僕にもやれることが、必ずあるはずだ。
あの頃、パーティーを組んでいた時には、やれなかった事、出来なかった事。
後ろで、ただ守られているだけなんて、嫌だったんだ。
それを、マコトに見せたい。
見せてやるんだ………!!
ドラゴンの鋭く長い爪が、上空から、僕らを引き裂こうと狙っている。
マコトは、ぎりぎりまで見極めてから、攻撃を仕掛けるようだ。
もしかして、使えるまでにターン数がかかるけど、確実に大ダメージを与えられる必殺技を使うんだろうか?
だとしたら、それまでの時間稼ぎは、僕がしなきゃいけない……!
法術師の魔法は、回復がメインだけど、攻撃魔法も少しなら使える。
僕は、魔法を詠唱した。
「ウォーターシュート!!」
水の魔法が、ドラゴンに降り注ぐ。
ドラゴンは体勢を崩して、大きく傾いた。
だけど、ダメージは大して与えられない。
ドラゴンが、反撃してくる!
翼をはためかせて、風の刃を繰り出してきた。
僕とマコト、両方にダメージを与える。
HPが、みるみる減っていった。
レベルが高いマコトはともかく、僕は結構ヤバイレベルのダメージだ。
「フユ、大丈夫……!?」
「平気! マコトはそのまま続けて!」
マコトから、心配そうなメッセージが流れてくる。
だけど、僕が平気だと言うと、マコトはそれ以上は言わなかった。
前だったらこんな時、マコトは絶対、僕を下がらせていたのに。
(少しは、信じてくれてるって事なのかな……?)
だったら僕は、その信頼に応えたい。
とりあえず、そのまま戦闘不能にならないように、回復呪文を唱えた。
「ヒーリング!!」
全回復じゃないけど、これで次の攻撃でいきなり死ぬ事はないだろう。
ターン数がたまったマコトが、ドラゴンに向かって一撃必殺の技を繰り出した。
「フレイムフォース!」
マコトの剣が、炎をまとってドラゴンに向かって一気に走る。
青いドラゴンが、真っ赤な炎に包まれた。
ドラゴンの咆哮が、響く。
やった! 大ダメージだ!
「よし! これで、あとひと踏ん張りだよ、フユ!」
「うん……!!」
マコトのメッセージに、僕は高揚した気分で頷き返した。
一緒に、戦っているんだ……!
その実感が、ようやく沸いてきた。
それはかつて、マコトとパーティーを組んでいた時には、覚えたことのない感情だった。
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