Close encounter―real blade―


chapter3-4a-1.Club Rooms


 ここまで来て、開けないというのもないだろう。
 僕は、ハクに頷いた。
 まさか、ロッカーの中まで現実と同じなんてことは、ないよな……?
 入れてあるのは、ユニフォームやタオルくらいのものだ。
 仮に、個人名が分かるような物があったとしても、流石にそこまでの再現はしないだろう、たぶん。
 そんな僕の不安をよそに、ハクはあっさりとロッカーを開けた。
 すると……。

「何だ……!?」
「え、うわっ!?」

 ハクと僕は、ロッカーの中に吸い込まれた!
 さっき生徒会室に引き込まれた時と言い、これで2度目なんだけど……!?
 だけど今度は、ハクの仕業ではない。
 吸い込まれたロッカーの中は、真っ暗だった。

「罠、だったのかな……?」
「さあな」

 慌てる僕に対して、ハクは落ち着いている、というよりも素っ気ない。
 画面は真っ暗だけど、僕とハクのアバターは表示されている。
 ためしに歩いてみたら、2歩進んだところで見えない壁にぶつかった。
 やっぱり、ロッカーの中に閉じ込められたようだ。

「どうしよう……」

 閉じ込められていると分かっているのに、僕は狭い範囲をぐるぐる歩いた。
 ハクは、その場でじっとしている。
 何かを考えているようだ。

「フユ、少しは落ち着け」
「でも、このままじゃタイムアウトになっちゃうよ?」
「そうだとしても、うろうろしたからどうにかなると言うモノでもないだろう」

 こう言う時のハクの落ち着き払ったとこって、頼もしいけどちょっと憎たらしい。
 ハクは、慌てたりする事って、ないんだろうか?
 鼻で笑うみたいな言葉が、メッセージウィンドウに流れた。

「お前って、パニックに弱いんだな」 
「普通だよ。こんなとこに閉じ込められたら、誰だって落ち着かないと思う」
「そうか? 俺は結構楽しいぞ。これが、リアルじゃないのが惜しいくらいだ」
「何言って……」

 呆れた僕が文字を打ち込もうとすると、それより早く、ハクの文字が打ちこまれた。

「狭い場所に、お前と2人っきり。そして、お前は逃げられない。いいシチュエーションだろう?」

 なっ……!!
 何言い出すんだ、こいつは……!?
 動揺する僕をよそに、ハクは続けた。

「そしたら、またキスができる。春寿」

 バレー部の予算の提出書類を溝口に渡すために、情報処理室に行った時の事を思い出した。
 田之上と柴田がやってきて、溝口に隣の準備室に押し込められた時の事を……。

「僕は、フユだ。君が、誰の事を言っているのか、知らない」

 頭が煮えそうになりながら、その言葉を打ちこめた自分を褒めてやりたいと思う。
 認めるわけには、いかない。
 僕は、ハクに……、溝口に、捕まったりなんかしない。

「強情だな」

 ハクは一言そう言うと、剣を取りだした。
 また、殺される……!?
 PKされた時の事を思い出して、身構えた。
 だけどその剣は、僕には向かわなかった。
 行き止まりの、壁に向かって振りおろされた。
 立て続けに数度振りおろして、止まる。
 そしてもう1度。また止まってから、今度は2回続けて……。


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