chapter4-1.School cafeteria
しばらく廊下を歩き続けると、学食に出た。
ここも、ちゃんと本物そっくりに作ってあるんだな……。
感心しながら、僕は辺りを見渡した。
すると、テーブルに誰かの姿を発見した。
見覚えがある、戦士の鎧。
あれは……
「ジェイク?」
メッセージウィンドウに名前を打ち込むと、すぐにレスが返ってきた。
「フユ!」
やっぱり、ジェイクで間違いなかったようだ。
こんなところで、何をやっているんだろう?
僕は、ジェイクの傍に近づいた。
テーブルの上には、何かが置かれている。
これは、どう見ても……
「どんぶり? 何、それ」
「うどんだよ。きつねうどん。食べると、HPの回復だけじゃなくて、ステータス補正もしてくれるんだぜ! 素早さがアップするんだ」
何故、きつねうどんで、素早さアップなんだろう?
僕はモニターのこちら側で、首をかしげた。
「フユも、何か頼んだら? あ、A定食は、HPの回復と、魔力をアップさせるんだって」
「じゃあ、それにしようかな」
HPは減ってないけど、魔力が上がるのはありがたい。
僕は、カウンターまで行って、A定食を注文した。
向こうに人の姿は見えないが、カウンターに近づいたらメニューが表示されて、その中から選ぶようになっていた。
頼むとすぐに、A定食が出てきたので、それを取って、ジェイクの隣に座った。
すごい。なんだか、ホントの学食みたいだ。
「へー、それがA定食か。ハンバーグとみそ汁と、ごはん? ごはんが、お子様ランチみたいになってるのな」
アイテム欄には、まるでお子様ランチのようなA定食が表示されている。
ハンバーグの横に盛られたご飯、たぶんチキンライスには、ご丁寧に旗まで立てられていた。
コマンドを見ると、ちゃんと、『食べる』という行動が選べるようになっていた。
「それじゃ、いただきます……って、なんかヘンな感じだね」
「そうか?」
「そうだよ。リアブレ内で、物を食べるなんて思わなかった」
「確かに。どうせなら、本物を食べたいよな! あ〜、俺、うどん食いたくなってきた! カップめん、作ってこようかな」
「ダメだよ。そんな事してたら、制限時間過ぎちゃうって」
「食べるの早いから大丈夫だと思うけど。いや、でもまあ、リアブレしながら汁物食うのはヤバイかも。うっかり汁こぼしたら大惨事だな」
「そうだよ。って、やっぱ、ヘンな感じ……。本当に、学校の学食で、ジェイクと昼ごはんしてるみたいだ」
「だな! なんか、面白い。いいな、こういうのも」
「うん」
ジェイクは、新しくパーティーを組むようになったメンバーだ。
携帯の番号は交換してて、個人的にメールも、電話もしている。
だけど、本人の声は聞いたことがあっても、ジェイク本人には会った事がない。
ジェイクの名前も、まだ知らない。
それなのに、リアブレ内のイベントとは言え、学食で一緒にご飯を食べているなんて、不思議な感じだ。
「ごちそーさま! あ、何か残ってる……」
きつねうどんを完食したはずの、ジェイクのどんぶりの底に、何かが表示されている。
形からして、なるとっぽいけど……
「なるとに、何か記号が描かれてる」
そして、A定食を完食した僕の皿にも、何かが表示されていた。
それは、ランチに立てられていた、旗だ。
旗にカーソルを当ててクリックし、拡大表示させてみる。
こちらにも、何かの記号が描かれていた。
「ト音記号」
「四分休符」
ジェイクと僕は、描かれていた記号を確認した。
それらから、連想されるものと言えば……
「音楽室……?」
「に、行けってことじゃないかな」
ジェイクの呟きの後を拾って、僕は言葉を続けた。
たぶん、次の行き先のヒントなのだろう。
「それじゃ、音楽室。行ってみるか?」
「そうだね」
僕とジェイクは、食べ終わった容器を、カウンターに戻しに行った。
もしかしたら、置きっぱなしでも良かったのかもしれないけど、ここは学食だしね。
そして連れだって学食を後にしながら、ジェイクが振りかえって尋ねた。
「あ、言い忘れてたけど。今回のイベントのパーティー。俺と一緒でいいんだよな?」
「もちろん。よろしくね、ジェイク」
「ああ。よろしくな!」
僕は最初から、そのつもりだったのに。
ジェイクって、意外と律儀なんだな。
次へ進む