*優しい繋がり〜10*



土壇場で登場した白鳳は、フローズンとハチにとって、救いの神に見えた。友の離脱を阻止しようと、精一杯訴えたけれど、押しの弱いフローズンと、脳みそ3グラムのハチでは、DEATH夫の心をかき乱すことは出来そうもない。思い掛けない援軍の到着は、彼らをいたく喜ばせた。いつもなら不安の種となる掟破りの言動も、今だけは力強く頼もしい。暴れうしの突進で、煮詰まっていた状況を、豪快に打破してくれるに違いない。ところが、ひとりと1匹の期待も虚しく、おもむろに歩み寄った白鳳が、真っ先に取った行動は、ハチへ張り手をかますことだった。
「非常時なら見逃されると思ったか、このスットコドッコイ」
「あてっ」
無様に墜落したハチだったが、根っから頑健なのに加え、最近、オーディンの指導により、受け身を会得したおかげで、これっぽちもダメージはない。元気に立ち上がったハチは、にんまり笑いながら、白鳳の面前へ飛んできた。
「締まりのない顔して、気味の悪いコ」
「かあちゃんの愛の鞭、しっかり受け取ったぜ」
「まだ、かあちゃん言うんだね」
下心がある時以外、ハチのかあちゃん呼ばわりには厳しく対処。美形モンスターの愛人なら大歓迎だが、誰が一寸の虫と縁を結びたいものか。怒りに任せ、白鳳は再びしなやかな腕を一閃させたが、ハチは素早く身をかわした。
「おっとっとい」
白鳳やDEATH夫の理不尽な制裁に鍛えられ、ハチの動体視力は今や、戦闘要員と比べても遜色ない。DEATH夫の一撃ですら、5分の1の確率で見切れるらしい。でも、ひょうきんな姿を目の当たりにすると、白鳳はどうしても事実を受け容れられなかった。高レベルの魔物ならともかく、小太りの珍生物にあしらわれるのは許せない。バックスイング付きの手刀が空振りし、白鳳はこめかみへ青筋を立て、地団駄踏んだ。
「く〜っ、ハチの分際で生意気だよ」
「えっへん」
ハチが誇らしげに腹を突き出す様を見て、白鳳のはらわたは煮えくりかえった。ハチに負けっぱなしなんて、華麗なる人生(自己申告)の汚点だ。直接攻撃がダメなら、精神的ダメージを与えてやる。白鳳は整った唇を意地悪く歪め、ハチへぴしゃりと言い渡した。
「よし、私の教育的指導を避けた罰として、明日から3日間おやつ抜きっ」
「げげーん!!」
白鳳から致命的な宣告を受け、ハチは落ち葉のごとく、へなへなと地べたにくずおれた。打ちひしがれたちっこい背中が痛々しい。心身共に打たれ強いハチだが、唯一、食い物に関しては耐久力がなかった。毎食、きっちりどんぶり飯10杯。並外れた食欲こそ、ハチの生命力の源だ。知っていて、チョップを避けられた腹いせに、最大の弱点を突くなんて、あまりにも大人げなさ過ぎる。いたいけな子供を凹ませ、得意げにしている白鳳に呆れ、フローズンが冷たく言いかけた。
「・・・・白鳳さまがハチと漫才をしている間に、DEATH夫は行ってしまいました・・・・・」
「げっ、嘘ぉ!?」
慌てて周囲を見渡せば、DEATH夫は仲間を打ち捨て、大股で街道を闊歩しているではないか。一言の会話もなく、DEATH夫に去られたら、何のためにポーズまで決めて現れたのか分からない。
「早く、ですおを止めてくりよう」
「もうっ、DEATH夫ってば、ほんの数分待ってくれたっていいじゃない」
ハチに促され、白鳳はあたふたとDEATH夫を追い掛けて行く。落ち着かない主人を見送るフローズンの胸中で、希望が萎み、代わりに不安が膨れ上がった。
「・・・・白鳳さまに任せても、大丈夫でしょうか・・・・」
良くも悪くも常軌を逸した発想と行動力は、良識派ゆえに、枠をはみ出せないフローズンにはない要素だ。とは言うものの、白鳳に中庸の2文字はない。空気を読まず、我が道を暴走するため、成否のいずれでも極端な結果しか出せないし、あっさり本題を忘れ、脱線する場面もしばしばだ。もっとも、バカとはさみは使いようとの諺もある。普通の思考回路とかけ離れているからこそ、突拍子もない言動で、DEATH夫の決意を覆してくれるかもしれない。
(・・・・リスクはあっても、今は白鳳さまの底力に賭けるしかありません・・・・)
万策尽きた現状では、白鳳の腐れ××パワーのみが頼りだ。脇でいつになく神妙な顔をしたハチを掌に乗せると、フローズンはふたりのやり取りを見届けるべく、裾を乱して走り始めた。



一同を置き去りにしたDEATH夫は、特に逃げも隠れもせず、マイペースで歩き続ける。白鳳は程なく追いつくと、彼の正面へ回り込もうとした。けれども、DEATH夫は白鳳との対峙を避けるため、斜め前へ飛び退いた。背を向けたまま、前進を続けるDEATH夫へ、白鳳は刺々しく言葉の礫を投げた。
「逃げるの?」
こういう表現は、誇り高い彼がもっともスルーし難いものだ。案の定、DEATH夫はぴたりと立ち止まり、首だけ動かして白鳳を見据えた。
「逃げる・・・俺がか」
「自らしでかした行為の結末も見ずに、姿を消すなんて男らしくないよ」
「お前たちがどうなろうと、もう、俺には関係ない」
白鳳の意図的な挑発を、DEATH夫はそっけなく切り捨てた。マスターとして、信じたくないが、DEATH夫の脳内では、白鳳パーティーとの縁はすでに消滅し、神風の容態など問題にもならないのだろうか。いや、少なくとも神風に関しては、手加減したのだから、命に別状ないと判断したように思われた。
「・・・・白鳳さま、DEATH夫・・・・」
「ですおー、もいちど話し合おうぜー」
ふたりが立ち止まっているところへ、フローズンとハチもやって来た。再び、全員が揃ったのを確認して、白鳳は噛み締めるがごとく、言いかけた。
「ねえ、私にはなぜDEATH夫がパーティー離脱にこだわるのか、理解出来ないんだけど。話を聞く限りでは、神風の件とはさして関わりなさそうだし」
実のところ、白鳳は到着して、いきなりしゃしゃり出たわけではない。従者たちのやり取りに耳を傾け、事情の把握に努めていた。誰でも無意識のうちに、いくつもの顔を持っている。主人に対する顔と仲間に対する顔が、多少なりとも異なるのは、むしろ自然なことだ。男の子モンスター同士、内輪でしか話せない内容もあろう。ないしょ話を盗聴するのは、極小の良心が咎めたが、幸い、狙いは外しておらず、DEATH夫の胸中が垣間見えたのは大収穫だった。常に輪の外へいながら、彼がメンバーを認めていることを知ったし、白鳳を神風へ託すセリフを聞いた時は驚愕且つ感激した。が、それはフローズンやハチ相手だからこそ、漏らした本音であって、白鳳が面と向かって尋ねても、DEATH夫は答えようとしなかった。
「俺はパーティーを去る。理由などない」
「納得出来ないよ。もし、将来、マスターが迎えに来れば、私たちは寂しいけど、喜んでDEATH夫を送り出そうと思ってる。でも、訳も分からずお別れなんて、あんまりじゃない」
深刻な状況だけに、綺麗にまとめてはいるが、喜んで送り出しても、白鳳は愛人ロードを諦める気はさらさらない。
「しつこいヤツだな」
「フローズンやハチもいることだし、動機くらい教えてくれたって・・・・・はっ、ま、まさかっ」
「?」
突然、何事かを悟ったらしく、白鳳はあからさまに血相を変えた。お調子者ではあるが、オトコに迫る場合を除けば、他者の心の機微を察する能力は高い。
「・・・・いかがいたしました・・・・」
「ひょっとして、ですおの考えが分かったんかっ」
近しい自分たちでも思い当たらなかったのに、DEATH夫の真意にぴんと来たらしい。フローズンとハチは、双眸をきらきら輝かせ、白鳳へ敬愛の眼差しを向けた。性懲りもなく、暴走と脱線を繰り返しているが、肝心な場面では決めてくれる。やはり、白鳳は尽くすに値する立派なマスターだ。お供たちにじっと見つめられ、気を良くした白鳳は顔を上げ、自信たっぷりに言い放った。
「仮初めの主人の美貌と知性に魅せられたんでしょ!!これ以上、私と道中を共にすれば、身も心も虜になって、悪魔界のマスターを裏切りかねないから、やむなくパーティーを抜けようと・・・。ああ、美し過ぎるって罪だなあ」
「そうだったんか、く〜っ、全然気付かなかったぜ」
白鳳の戯れ言に疑問すら持たず、マジで感心するハチ。しかし、フローズンは主人から顔を逸らすと、がっくり脱力しながら、ひとりごちた。
「・・・・白鳳さま、相変わらずムダに前向きですね・・・・」
不覚にも失念していた。真性××野郎は、己に都合の良い白日夢を、大真面目に語るキャラクターだった。ここに神風がいたら、白鳳の妄想モードを即座に見抜いてだろう。まだまだ、白鳳に対する認識が甘いと、フローズンはため息混じりに、痛感せざるを得なかった。



背後に立つフローズンの零下100度の瞳にも気付かず、白鳳は会心の推理に酔いしれていた。あのDEATH夫がクールな仮面の下で、人間への禁断の愛に、身を焦がしている。ときめきのシチュエーションを考えると、白鳳の気分は著しく高揚した。
(悪魔の使徒さえ魅了するなんて、自分で自分が怖くなっちゃうv)
自画自賛と共に、白鳳はうっとり目を細めた。が、無論、そんな事実はおポンチ者の脳内にしかない。迷惑な願望を垂れ流す白鳳を睨み付け、DEATH夫は突き放すごとく吐き捨てた。
「死ね」
「が〜〜〜ん、酷いっ」
本心を見透かす鋭い指摘に、DEATH夫がどう反応するか、期待していたのに、いきなり全面否定されてしまった。しかも、よくよく見れば、日頃は穏やかなフローズンの表情も氷雪吹雪だ。凍える4つの眼光に深々と射抜かれ、白鳳はようやっと現状のやばさを察知した。
(ま・・・まずい)
メンバーのまとめ役として、満を持して登場したにもかかわらず、これではただの狂言回しで終わりかねない。辛辣なふたりを感嘆させるセリフを決めて、マスターの威信を取り戻さなくては。DEATH夫とフローズンの顔色を窺いつつ、白鳳は速やかに話題を転換した。
「あっ、そうそう、理由より先に確かめたいことがあったんだ」
「何だ」
DEATH夫の声は不機嫌の極みだったが、黙秘に比べれば遙かにマシだ。白鳳は相手の逆鱗に触れないよう、言葉を選んで先を続けた。
「意識を取り戻した神風が言ってた。私を庇って、刃に身を投げ出した時、DEATH夫がわずかに鎌を引いたから、致命傷を受けずに済んだって」
「・・・・本当ですか・・・・」
「やたっ、かみかぜ、気が付いたんだ」
新たな事実が判明して、フローズンとハチは我知らず微笑み合った。DEATH夫に情状酌量の余地が出たことが、彼らの面持ちを明朗に輝かせた。しかし、当のDEATH夫はにこりともせず、白鳳へ侮蔑混じりに問いかけた。
「ふん、目の前にいて、分からなかったのか」
「・・・・私の事情はどうでもいいでしょ、嫌なコ」
当時は気が動転して、的確に状況を把握する余裕がなかった。未熟さを露呈したと言われたら、返す言葉もないけれど、面と向かって茶化されるといい気はしない。自分に甘く、他者に厳しい白鳳だ。怒りで当初の目的を忘れ、DEATH夫を罵ることもあり得たが、パーティー浮沈に関わる大事な場面だけに、なんとか平静さを保った。
「どうして、わざわざ手加減したのさ」
「くだらん詮索はやめておけ」
「くだらなくないよ。ある意味、最重要ポイントじゃない。一言でいいから、教えてくれないかな」
DEATH夫が容赦したと知り、オーディンとまじしゃんはかなり軟化している。回答次第では、留守番組の怒りを静められるかもしれない。白鳳の真摯な頼みに、DEATH夫は数秒沈思していたが、やがて面倒そうに口を開いた。
「・・・・・惜しくなった」
「え」
説明不足の答えにきょとんとする白鳳へ、フローズンが友の心裏を補足した訂正版を言い立てた。
「・・・・白鳳さまのため、躊躇いなく命を賭ける姿を見届け、殺すには惜しいと感じたのでは・・・・」
「そっか、男同士認め合ったんだなー」
「本当にフローズンが言った通りなの?」
「さあな」
DEATH夫は結論をぼかしたが、先程の会話からも、彼が神風への評価を改めたことは明らかだ。白鳳の面持ちに、はっきり喜色が浮かんだ。神風とDEATH夫の不仲に、ずっと心を痛めていたので、死神の心境の変化が素直に嬉しかった。神風はDEATH夫の悪意に戸惑いこそすれ、憎んでいたわけではない。DEATH夫の方が折れれば、神風は彼を快く受け容れよう。急に意気投合するとは思えないが、ふたりの間柄も徐々に好転して行くに相違ない。



神風との仲に光明が見えた今、考えれば考えるほど、DEATH夫がパーティーを離れる理由はない。ここでのやり取りを交えて弁護すれば、オーディンたちも必ず納得するはずだ。フローズンやハチと力を合わせ、何としても彼を引き止めなくては。白鳳は胸に闘志を漲らせ、やや芝居がかった口調で切り出した。
「さっき、フローズンが言った通り、私もDEATH夫ひとりで諸国を巡るのは無理な気がする」
「パーティーを抜けることで、お前らとの縁も切れる。俺の生死などどうでもよかろう」
彼の気性から、冷淡に突き放して来るのは予想していた。白鳳は目線を逸らさず、なおもしぶとく食い下がった。
「途中で力尽きたら、命運もそこまでとか嘯いてたのは本気?」
「やむを得まい」
「ふぅん、DEATH夫のマスターへの想いは、その程度だったんだ」
「!!」
侮りさえ含んだ白鳳の問いかけに、蜜色の虹彩がかっと見開かれた。相手の反応に確かな手応えを感じ、白鳳は勢いづいて高らかに言い募った。
「方向性こそ違えど、全てを賭けた願いのため、旅を続けてるって点では、私とDEATH夫は同じだと思ってた」
「・・・・・・・・・・」
「私はスイを元に戻すまでは、死んでも死に切れないよ。たとえ、不本意な行動を強いられ、時には他者を踏みにじる形になろうと、絶対、生き延びてみせる」
DEATH夫へではなく、むしろ、自らに言い聞かせるように、白鳳は毅然と胸を張った。もっとも、表明はあくまで心構えであり、育ちが良く、根は優しい白鳳に、非情に徹することなど出来はしないのだが。
「わざわざ命を捨てるつもりはない」
一見、平静を保っているが、薄明かりに照らされたDEATH夫の面持ちに、微かな迷いが窺えた。彼とて支援のない旅の危険性は十分、自覚しているのだろう。好機到来と見た白鳳は、今度はDEATH夫の存在意義をアピールする作戦に出た。
「それに、やはりDEATH夫がいないと、先の道中が心配なんだよね」
フローズンのみならず、DEATH夫だって掛け替えのないパーティーの一員だ。居場所がないとは言わせない。
「ダンジョン巡りなら、現在の戦力で十分だ」
「でも、いつかみたいに、封じられた魔物やレベル3クラスの敵と遭遇したら、神風やオーディンでも通用しないかもしれないでしょ。安堵して旅を続けるには、悪魔界で鍛えたDEATH夫の戦闘力は欠かせないよ」
白々しいヨイショにならない範囲で、DEATH夫を褒め称えた白鳳は、傍らのフローズンとハチに軽く目くばせした。合図を受けたひとりと1匹は、主人の説得に加勢して、進んで会話へ参加した。
「・・・・宿とダンジョンの往復なら、レアな強敵には出会いません・・・・けれども、並外れた好奇心ゆえに、規格外の敵と対峙する羽目に陥ってしまうのが白鳳さまです・・・・」
「んだんだ、はくほー、無茶苦茶するかんな」
「・・・・せっかく慎重に行動しても、白鳳さまの巻き添えを食って、一行が災難に見舞われかねません・・・・」
「ヤツの迷走をコントロールするのは、お前たちの役目だ」
「えっ、えっ、この話の流れはいったい何?」
いつの間にか、DEATH夫の価値から白鳳のダメっぷりへ論点がシフトしているではないか。予想もしなかった展開に、白鳳は目を白黒させたが、従者の議論は更に核心へ迫って行った。
「・・・・簡単にコントロ−ルされるくらいなら、数々の不祥事は起こっておりません・・・・」
「はくほー、厳しく叱られても、全然めげないよな」
白鳳の人となりを語る場合、誰もが真っ先に閃く、ムダに前向きというヤツである。ハチの指摘に、フローズンは顔を曇らせ、やるせない仕草で訴えた。
「・・・・DEATH夫もずっと見てきたでしょう・・・・何度粉砕されようと反省せず、性懲りもなく、姑息な策略を繰り返す姿を・・・・」
「神風がヤツを管理しているんじゃないのか」
「かみかぜも肝心なとこは、はくほーに甘いんだぜー」
「・・・・ええ、白鳳さまを容赦なく叩けるのは、DEATH夫ひとりです・・・・」
「・・・・・・・・・・」
他者に興味が薄いだけに、DEATH夫は相互関係の細部までは、完璧に把握していない。実のところ、白鳳に一番厳しいのも、甘いのも神風だった。フローズンとハチは、さすがに忠義者の複雑な気持ちをしっかり心得ていた。
「はくほー、こけたら、皆こける。オレたちにはですおが必要なんだよう」
「・・・・立ち去ることはいつでも出来ます・・・・もう少し、私たちを護ってくれませんか・・・・」
親しい連中から、縋りつかんばかりに見つめられ、今度はDEATH夫も拒絶出来なかった。一瞬、目を伏せた後、呆れたように白鳳を見遣りつつ、薄い唇を渋々開いた。
「・・・・・分かった」
「えええええっ、なぜ、あっさりオッケーしちゃうわけぇぇ!?」
まさか、フローズンの懇願に、DEATH夫が首を縦に振るとは。白鳳が求めた理想と違い過ぎる。これでは、困った主人を野放しに出来ないから、出立を断念したのと同じだ。現実を容れられず、放心状態で立ち尽くす白鳳を残し、フローズンとハチは、DEATH夫を真ん中に挟んで、軽やかに踵を返した。
「・・・・さあ、宿へ戻りましょう・・・・」
「オーディンやまじしゃんには、オレが一緒に謝ってやっから」
「別に詫びるようなことはない」
とにもかくにも、DEATH夫の同道まで漕ぎつけ、雪ん子と虫は口元を綻ばせている。白鳳が来てくれて良かった。話し合いの糸口を示してくれたし、へっぽこな言動で彼らの主張に、多大な説得力を与えてくれた。根拠はどうあれ、彼らは真底、白鳳を功労者と認め、感謝していた。しかし、妄想と勘違いで生きている、おめでたい白鳳は、シナリオ外の決着に歯噛みしていた。
「私のありがたい御言葉じゃなく、フローズンたちの意見を聞くなんておかしいよ。私が頼りにならない3流マスターとでも思ってるの。ったく、ムカつくったら、ありゃしないっ」
数年間の経緯を思えば、至極当然の結果なのだが、白鳳のお花畑の脳内では、自分は非の打ちどころのないマスターらしい。割り切れない顔付きで愚痴りながら、白鳳は従者たちの後をとぼとぼ付いて行った。


TO BE CONTINUED


 

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