*優しい繋がり〜6*
虚ろな瞳でへたり込む男の子モンスターの間をぬって、神風はようやっと出口近くまで辿り着いた。直前まで下卑た眼を光らせていた見張り役は、DEATH夫の一突きで視界から消えている。気の状態から判断するに、外で活動しているのは、白鳳とDEATH夫のみで、密売組織の構成員は5人とも、白鳳たちの軍門へ下ったらしい。ハチがいないのは、どこかで待機している仲間とスイへ報告するため、一旦、戻ったからだろう。主人はじめ、パーティーが被害を受けることなく解決し、神風は心から安堵した。
(誰も傷付かないで、密売団を無事、退治出来て良かった)
と言っても、手放しで喜んでいるわけではない。極めて責任感が強いだけに、神風は全員に申し訳ない気持ちで一杯だった。いくら、主人の家宝を落としたとはいえ、冷静さを失い、邪な輩に捕獲されるなんて、最古参の従者にあるまじき失態だ。救援が首尾良く成功したから良かったものの、もし、他のメンバーにまで危害が及んだら、悔やんでも悔やみ切れないところだった。ゆえに、神風は封印破りまでして、敵を全滅させたDEATH夫に対し、素直に感謝していた。力を解放したのは、白鳳とハチを安全圏に置く意図だと分かっているが、動機などさしたる問題ではない。第二の犠牲者を出さなかったという結果で十分だ。たとえ、無視されようと、義理堅い神風は一言、謝意を述べずに居られなかった。
(早く、DEATH夫に礼を言わなければ)
全身を苛む痛みに耐えながら、DEATH夫に対面すべく、神風はのろのろと上体を起こした。だが、単衣から伸びた手が幌の出口を掴む前に、見慣れたチャイナ服の袖が差し出された。袖の次は、銀の糸を揺らす頭が飛び出し、露出した二の腕に力が入る。闖入者が白鳳と確信し、神風は微かに口元を緩めた。中の様子を窺うべく、視線を泳がす白鳳だったが、ふと、自分を見上げる神風に気付き、感極まって目を潤ませた。
「神風、待たせて済まなかったね」
「・・・白鳳さま」
主人を心配させまいと、努めて元気に言いかけたにもかかわらず、半開きの口が紡いだ声音は、驚くほど弱々しかった。しかも、声を出したせいで、上体を支える力を失い、神風は仰向けに床へ転がった。痛々しい従者の姿を目の当たりにして、白鳳は慌てて彼の元へ駆け寄った。
「どうしたの?苦しいの?」
「いえ・・・大したことは・・・ありません」
言葉とは裏腹に、顔は青白いし、動きもぎこちない。こちらの問いかけに応じるのさえ辛そうだ。封印弾の予想以上の威力に愕然としつつ、白鳳はきゅっと眉根を寄せた。
「大したこと大有りじゃない。無理して話さなくていいよ。待機組が到着したら、真っ先に快復魔法をかけてもらわなきゃ」
会話もままならない様を見かね、白鳳は休息を促したが、神風は吐息混じりの不規則なリズムで、先を続けた。
「白鳳さまや・・・皆に多大な迷惑をかけて・・・済みませんでした」
「どうして神風が謝るのさ。悪いのは密売団の連中でしょ」
無鉄砲な駆け出しハンターだった頃、神風に何度ピンチを救ってもらったことか。現在でも、ダンジョン内外を問わず、もっとも手を煩わせているお供なのは間違いない。ある意味、白鳳にとって最大の恩人であり、この程度の功績では、到底借りは返せまい。そもそも、半ば勝手な思い込みで、勾玉を押し付けたばかりに、取るに足らない連中に不覚を取ったのだ。贈られた家宝が精神を乱したのなら、責めは神風よりも自分にある。
(封印弾の作用で苦しんでいるんだもん。せめて、心理的負担くらい軽くしてやらなきゃ)
とにかく、神風に0.1%も落ち度はない。彼がどう主張して詫びても、断固、この姿勢を貫こうと白鳳は心に決めた。けれども、神風無責説はあくまで白鳳の見解であり、灯りを揺らして、乗り込んで来た死神へ強制は出来ない。DEATH夫は横たわる神風を見据えると、侮蔑を含んだ物言いで吐き捨てた。
「本当に無様なヤツだ」
「もうっ、DEATH夫には気遣いってモノがないの?」
白鳳がきつく睨み付けても、DEATH夫は露骨に顔を逸らし、相手にしない。が、外した視線の先に、神風の切れ長の双眸があった。張り詰めた空気の中、一瞬、絡み合う互いの眼差し。鮮やかな火花が散った気がして、白鳳ははっと息を飲んだ。神風が戦闘不能なので、実力行使にはなるまいが、彼らの関係が更にこじれるのは避けたい。しかし、白鳳の懸念は幸い杞憂に終わり、神風は息を切らせながらも、DEATH夫ににっこり微笑みかけた。
「ありがとう・・・DEATH夫のおかげで・・・一同が密売組織から・・・護られた」
「・・・・・・・・・・」
罵られた怒りを微塵も見せない、誠意に溢れた態度。神風の反応が意外だったのか、DEATH夫の金色の瞳がわずかに見開かれた。
DEATH夫の悪態を歯牙にもかけず、神風が友好的に返したので、白鳳も非常に話が繋げやすくなった。必要な会話すらこなせないDEATH夫に、挑発を繰り返す話術などない。神風の大人な対応に感心すると同時に、それだけDEATH夫に深く感謝しているのだと白鳳は思った。
「うん、DEATH夫はよくやってくれたよね。封印まで解除してくれたし」
神風の意を汲んで、白鳳もDEATH夫の闘いぶりを褒め湛えた。
「フローズンにお前のことを頼まれたからだ」
言外に神風のためではないと匂わせるDEATH夫だったが、聡明な神風は百も承知していた。こちらへの助力は端から期待していない。悪魔界仕込みの戦闘力で、白鳳や仲間を護ってくれるだけで十分だ。もちろん、神風はパーティーの盾となり、己の身を捨てて戦う覚悟をしているが、勝敗は常に複数のファクターに左右される。状況によっては、矢折れ刀尽き、敵の手にかかるケースもないとは言えない。万が一、自分が戦場の露と消えても、魔の力を持つDEATH夫がいてくれれば、きっと白鳳一行の旅は安泰に続くだろう。折り合いの悪い相手ではあるが、私情を抜きに、神風はパーティーの一員としてのDEATH夫へ、絶大な信頼を寄せていた。
「いけない、神風にこれを返さなきゃ」
冷たい戦争の勃発を避けられ、一息ついた白鳳は、不意に、懐へ入れた勾玉の存在を思い出した。白鳳は両の指先で革紐を摘むと、神風の眼前にかざした。鈍い光を発する翡翠が、振り子よろしく揺れる。
「・・・白鳳さま、いったい・・・どこで」
焦がれた家宝と嬉しい再会を果たし、神風はおっとり目を細めた。
「ハチが見つけたんだ」
「ハチが・・・よく・・・探し出してくれたなあ」
宝玉を挟んで、しみじみ語り合う白鳳主従を、やや離れた場所から、DEATH夫が退屈そうに眺めている。
「また預かってくれるよね。神風に持っていて欲しいんだ」
「はい・・・白鳳さまの仰せのままに」
悪の組織に囚われる原因となった品だが、神風は白鳳の申し出を拒もうとは思わなかった。断れば、勾玉に役立たずのレッテルがこびりつき、きっと白鳳を傷付けてしまうだろう。長く愛用することで、なんとか名誉挽回の機会を与えたい。それに、白鳳からの贈り物というフレーズは、やはり神風にとって、抗い難い価値があった。
「今度こそ、しっかり神風を守護してくれますように」
「ありがとう・・・ございます」
白鳳は目を閉じて願を掛けると、革紐を神風の首へ近づけた。神風も連係プレイは心得たもので、白鳳の作業を円滑にすべく、頭を持ち上げようとした。ところが、気持ちに反して、頭は動かず、首が不自然に振られるばかりだ。神風らしからぬ要領を得ない動きを見かねた白鳳は、彼の頭を自分の膝に乗せ、手際よく革紐を取り付けた。
「そんなにしんどいの?」
白鳳は膝枕の体勢のまま、掌で神風の頬を撫でながら問いかけた。
「封印弾の効果は・・・半日近く続きます・・・時間が経てば・・・普通に動けるはずです」
「つまり、明朝までは身体の自由が利かないんだね」
「・・・残念ながら」
「しめた♪」
「はあ?」
従者の難儀に同情するどころか、歓声をあげた白鳳に、神風は我が耳目を疑った。無表情だったDEATH夫の眉が、わずかに顰められる。だが、ふたりの訝しげな面持ちもどこ吹く風で、白鳳は早くも浮かれポンチの境地へ突入した。
「神風が動けないなんて・・・・・まさに、千載一遇のビッグチャンス!!」
密売団を仕留め、神風を奪還するまでは、そのことで頭が一杯だった。でも、目的を果たした今、白鳳はお供を案じる良きマスターではなく、元の真性××野郎に戻っていた。神風は自由に動けない→強引に押し倒しても抵抗不可能→夢の愛人ロードへ一直線。脳内で、神風とのいかがわしい絡みを妄想し、気持ちも下半身も盛り上がった白鳳は、いきなり神風の肩を両手で押さえ付けた。
「な、何を・・・するんですっ」
実のところ、答えを聞くまでもなく、白鳳の単純な思考回路は丸分かりだった。好みのオトコを捕捉すれば、いつでもどこでも365日24時間臨戦態勢。神風が敬愛する主人は、悲しいかな、骨の髄まで腐り果てた××者だった。
「決まってるじゃない。神風を取り返した喜びを態度で表すのさ♪」
白鳳が鼻息も荒く迫ってくる。DEATH夫や男の子モンスターはもはや視界に入っていない。せっかく密売組織の魔手を逃れたのに、更なる窮地に立たされ、神風はぎゅっと唇を噛んだ。
時たま、白鳳が実力行使に出ても、敢えなく一蹴されるのがオチだったのに、今日の神風は、肩にくい込む手を払いのけることすら出来ない。これなら絶対、いける。紺袴の従者と契りを結べると確信し、白鳳はにやりとほくそ笑んだ。
「白鳳さま・・・やめて下さいっ」
「うふふ、照れない、照れない」
「DEATH夫も男の子モンスターも・・・呆れてます」
状況をこれっぽちも考えない暴れうしの突進に、一番呆れているのは言うまでもなく神風本人だったが。
「ギャラリーは多ければ多いほどいいよ。私たちの強い絆をたっぷり見せつけてやる」
「冗談じゃありませんっ」
神風は必死の形相で叫んだが、事態が改善される望みはなさそうだ。封印弾の後遺症で、自我を奪われ、ぼんやりと虚空を見つめる男の子モンスター。白鳳主従の攻防の意味を知る由もなく、明るく踊り回るきゃんきゃん。彼らが神風の貞操の危機に、手を差しのべてくれるとは思えない。ましてや、DEATH夫の助け船など期待してもムダだ。白鳳に覆い被さられそうになり、床を転がって避ける神風の目に、端正な氷の面が映った。
(まあ、DEATH夫の場合、ここへ来ただけでも御の字だし)
彼は役目を十分果たした。表情が変わらないので、内心は窺えないが、後は傍観者に徹するつもりなのだろう。神風が災難を回避するためには、ハチが待機組と一緒に、戻って来るのを待つしかない。が、狭いうし車の中では、逃げるにも限界がある。ついに、奮闘虚しく、白鳳に身体を跨がれ、動きを封じられてしまった。もう、寝返りも打てない。馬乗りになった白鳳が、ひんやりした手を単衣の合わせ目に差し入れて来た。
(頼む、皆、早く来てくれ)
もはや、抗う術を失った神風は、胸の奥で仲間の到着をひたすら祈った。単衣を肩から下ろすべく、両手で襟を鷲掴みにする白鳳。しかし、天は清く正しく生きてきた神風を見放さなかった。目にも止まらぬスピードで、鎌の柄が突き出され、白鳳の臀部をしたたかに打ち据えた。獲物を目の前にして、油断し切っていた白鳳は、バランスを崩し、あっけなく転倒した。
「痛〜い」
涙目になりつつ、白鳳は叩かれた箇所を丁寧にさすった。振り向いて、攻撃の主を見ると、黒ずくめの従者が不機嫌のオーラを纏って立っていた。
「いい加減にしろ」
「嘘ぉ!?なぜ、DEATH夫が神風を庇うのさ」
フローズン以外の他者については、我関せずと思われたDEATH夫に邪魔をされ、白鳳のショックは大きかった。神風も思い掛けない顛末に、目を白黒させている。
「ヤツがどうなろうと構わないが、腐った絆とやらを見せられるのは真っ平だ」
いくら周囲に関心がなくても、下品な露出趣味にウンザリするのは当たり前。むしろ、DEATH夫にまで指摘されたという事実に、白鳳は人として、もっと危機感を持った方がいい。だが、私欲にまみれた行為を、これっぽちも恥じていない白鳳は、DEATH夫が妨害した訳を、都合良く解釈し、媚びた色香を振り撒きながら言いかけた。
「分かった。神風ひとりターゲットになって、妬いてるんでしょ」
「バカが」
間髪を容れず、しかも、あからさまに軽蔑した口調で否定され、白鳳はガックリ肩を落とした。あり得ない展開に、DEATH夫の心境の変化を期待したけれど、所詮、敵わぬ白日夢だった。
「ううう。。」
「・・・・・・・・・・」
哀れっぽくうなだれる白鳳に目もくれず、DEATH夫は手首を軽くスナップさせた。ビー玉状のものが弧を描いて飛び、神風のよれた単衣へ落下した。
「?」
ガタピシと首を曲げ、胸元へ目を凝らせば、どうやら蜂蜜玉のようだ。頭の整理がつかず、DEATH夫を見上げる神風へ、服用を促すごとく、尖った顎が突き出された。DEATH夫の意図は読めないが、白鳳とは違って、つまらぬ小細工はして来まい。悪魔の封印すら緩和させるドロップだ。どん底の体調も少しは快復するかもしれない。神風は度胸を決めて、蜂蜜玉を口腔内へ放り込んだ。まろやかで濃い甘味が口一杯に広がる。
(あ)
心地よい甘さと共に、溢れるエナジーがあらゆる筋肉や神経へ染み込んで行く。意識が途切れるほど激しかった苦痛や倦怠感はすっかり薄れ、四肢に力が漲るのを感じた。まさか、こんなに劇的な効果があるとは。滋養のため、蜂蜜玉を食する機会はあったが、封印に対する威力を初めて実感させられた。もっとも、蜂蜜玉の作用は解呪の類とは異なり、個体の生命力を著しく増幅させることで、魔の力を一時的に抑え込むのだろう。神風の具合の変化も知らず、立ち直った白鳳は、なおも愛の一夜を目指し、膝でにじり寄ってきた。
「ふんだ、DEATH夫は可愛がってやらないよ〜だ。さ、神風、私と懇ろになろv」
でも、床に横臥しているのは、さっきまでの弱った神風ではない。瞬時に飛び起きた神風は、白鳳の両手首を掴んで、力任せに捻った。
「ぎゃっ」
「茶番は終わりです、白鳳さま」
目にも止まらぬ熟練の技はいつもの神風だ。白鳳は己の野心が完全に潰えたことを悟った。
「いきなり元へ戻るなんて狡いっ」
「DEATH夫から、蜂蜜玉を貰いました」
「えええっ、DEATH夫らしくもない余計なことをっ」
神風を助けたわけではなく、単に白鳳の行状が目に余っただけなのだが、本人に自覚がないので、DEATH夫の真意に気付くはずもない。××趣味全開の醜態を棚に上げ、白鳳はDEATH夫を叱りつける気満々だった。しかし、DEATH夫に八つ当たりする間もなく、白鳳には神風の厳しい追及が待っていた。アンクレットを外して、乱れた単衣を直しつつ、神風は白鳳へ容赦ない雑言を浴びせた。
「捕まっていた男の子モンスターを無視して、よくも恥知らずな行為が出来ますね」
(ま、まずい)
切れ長の双眸が3角になったのを見て、白鳳の背筋に冷たいものが流れた。このままでは、お目付役勢揃いで、延々と説教されたあげく、外出禁止になりかねない。残りの面子が揃う前に、どうにか、神風の怒りを鎮めなければ。
「そ、そうだ、神風、このコたちは封印が解けてないの?」
白鳳は従者の矛先を逸らそうと、取って付けたように、うし車にいる犠牲者の状態を尋ねた。
神風とのやり取りに夢中で、おざなりにしてしまったが、車内の男の子モンスターも密売団の犠牲者だ。おのおのの状態を見る限り、むしろ、神風より被害は深刻に思える。ダンジョンで遭遇する時の屈託のなさはどこへやら、黙りこくって身動ぎもしない姿は、魂のない人形のようだった。
「封印弾の効力自体は消えています。でも、理不尽に拘束され、苦痛を与えられ続けたせいで、体力のみならず、気力まで奪い取られたのでしょう」
「確かに、はぐれ系ほどの自我を持たないこのコたちじゃ、四肢も動かせない惨状に見舞われたら、精神的に壊れても仕方ないかも」
きゃんきゃんが日頃と変わらず、元気に飛び回っているだけに、他のモンスターの生気のない表情がいっそう際立つ。気の毒な同胞の予後が心配で、神風は声を潜めて問いかけた。
「彼らは元に戻りますか?」
「う〜ん、時間はかかるだろうけど、然るべき施設に入れて治療すれば、身体も心も徐々に快復するんじゃないかな。皆が到着したら、まず応急処置として、蜂蜜玉を飲ませてみよう」
「ああ、それは良い考えです」
症状が重いだけに、神風レベルの快復は望めなくても、少しは改善されるに相違ない。施設云々は、白鳳から当地の行政担当者へ申し出るつもりだ。旅路の途中で、虐待された男の子モンスターを癒すための療養所を見たことがある。モンスターのことだからと、手続きを渋るようなら、腕ずくで依頼を受けさせてやる。
「にしても、私利私欲のため、私の神風やいたいけな男の子モンスターを、傷付けたヤツらは許せないっ」
男の子モンスターたちから命の恩人として、憧れの眼差しを向けられる光景を夢見ていたのに、救援隊の到着さえ認識してくれない。私利私欲と罵りつつ、白鳳の憤りの根拠は正義ではなく、私怨がほとんどだった。
「お気持ちは分かりますが、もう、我々は連中を警備隊に引き渡すくらいしか出来ません。後は法がきっちり裁いてくれるはずです」
「法の裁きっていっても、誰も殺していない以上、終身刑がせいぜいでしょ。醜男の分際で、美形を迫害するなんて、密売団は万死に値するよ」
なだめる神風をじろりと睨み、白鳳は目一杯過激な主張を言い放った。もっとも、××関係を除けば、主人の無茶苦茶な発言は口先のみで、行動を伴わないのは、神風ならよく承知している。だが、”万死に値する”のフレーズは、本来、殺戮マシンたるDEATH夫のスイッチを押すのに十分だった。
「お前の望み、俺が叶えてやろう」
「え」
これまで会話に加わらなかったDEATH夫が口元を歪めて笑った。白鳳の反応を待たずに、DEATH夫はひらりと踵を返し、うし車を後にした。黒い残像が残る出口を、白鳳は紅唇を引き結んで見遣った。なんだか胸騒ぎがする。
「ちょっと、DEATH夫の様子を見てくるよ。神風はここで待ってて」
「いえ、白鳳さま、私も参ります」
不吉な予感に襲われたのは、白鳳ひとりではない。神風もDEATH夫のただならぬ殺気を感じていた。しばらく目を離しても、男の子モンスターに危険はなかろう。今は、DEATH夫の行動の方が気がかりだ。白鳳主従は互いに目くばせすると、DEATH夫を追って、速やかにうし車から飛び降りた。
TO BE CONTINUED
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