*花に嵐〜12*



かつて、失恋した白鳳を元気付けようと、神風が中心となり、従者それぞれとの擬似デートが企画された。もちろん、DEATH夫は参加を拒んだけれど、仲間が必死になだめすかし、どうにか首を縦に振らせたのだ。せわしない日程の隙間へ、おまけイベントを押し込んだため、朝からマラソン状態で決められたスポットを駆け巡った。デートコースは朝市→アミューズメントパーク→美術館→ショッピングモール→高級レストランの五箇所。各会場ではメンバーが交替で白鳳を持てなしてくれ、DEATH夫は高級レストラン担当だった。
(あの時が一番DEATH夫のプライベートに迫れたのかも)
その後、ふたりで魔物退治へ行く羽目に陥ったが、マスター絡みのネタは出たものの、少し毛色の違う展開となり、白鳳が期待する類の話は聞けなかった。ゆえに、DEATH夫自身から直に悪魔界での生活について聞いたのは、擬似デートの日が最初で最後と言って良い。
(そうそう、食事マナーが完璧で驚いたんだっけ)
頭の奥にしまい込んだ記憶を、白鳳はちょっとずつたぐり寄せた。ひとつ思い出せば、連鎖反応的に様々なシーンがフラッシュバックする。ぶっきらぼうな返答から見えて来たのは、DEATH夫は白鳳や仲間たちの想像より、悪魔界で大切にされていたということ。反面、主人への一途な思慕を持ちつつも、彼は未だ方針を決めかねている、と感じられた。白鳳と神風の間にはある種のテレパシーがあって、良くも悪くも互いの思考回路や言動を知り尽くしている。しかし、マスターが一旦放逐した使徒をどうするつもりなのか、当のDEATH夫ですらまるっきり読めないらしい。だからこそ、術者と対面する以外、封印を解く方法がないにもかかわらず、彼らしからぬ迷いが生じていたのだろう。
「神風の見解はもっともだけど、相手からの意思表示がないからさ」
DEATH夫にとって酷な言い方だと承知しているが、事実はしっかり押さえておかなければ。重大な局面での気休めは、速やかな策を講じる妨げにしかならない。とは言うものの、白鳳は決して悲観的に考えてはいない。レアモンスターたる彼は数代にわたって、悪魔界でマスターに仕えており、遺伝子レベルの強固な絆が出来上がっている。そもそも、暇潰し程度の存在に、丁寧にマナーを仕込むはずがないし、命の危機を見過ごさなかったのだから、案外、脈があるのではなかろうか。
「ですが、引導を渡されたわけでもありません」
「こういう曖昧な態度は困るんだよねえ」
白鳳と神風が熱っぽく談義している脇で、DEATH夫は所在なげに虚空へ視線を流している。彼のつれない反応を知ってか知らずか、主従のやり取りはなおも続いた。
「だから、DEATH夫は自らはっきりさせようと決心したのでしょう」
「う・・・ん、いつかはケリを付けるべき問題だし。。」
主人が近くにいると知って、会いに行かないことをハチが不思議がっていたが、受け容れられる保証もなく、当たって砕けろで特攻するDEATH夫ではない。なのに、確信が持てないまま、マスターと再会する覚悟を固めたのは、彼の中でよほど心境の変化があったに違いない。いったい、何がきっかけになったのだろう。ぜひ聞いてみたい、とひとりごちた瞬間、俗っぽい好奇心が顔に出たのかもしれない。余計な問いかけをされる前に、DEATH夫は先回りして結論を述べた。
「他人は当てに出来ないのだから、自分で動くしかない」
「また、そんな身も蓋もないことを言う」
あくまで同士を突き放したセリフに、白鳳は眉をたわめて言い返した。でも、今度はDEATH夫もすげなくあしらわなかった。視線を合わせては来なかったが、口元が微かに綻んだ。
「お前たちのお節介は鬱陶しいが、まあ、気持ちだけ貰っておこう」
「DEATH夫・・・・・」
「彼も白鳳さまや皆の厚意は分かっているんです」
お決まりの皮肉と思いきや、後半部分の素直な物言いに、白鳳は正直、面食らった。けれども、棘のない穏やかな様子を見れば見るほど、彼を翻意させるのは至難の業と、改めて実感せざるを得なかった。



DEATH夫の反応からは、全てを吹っ切った者の悟りが伝わって来た。一旦、己の進む道を定めた以上、いかに帰結しても潔く受け容れるつもりなのだろう。酒宴の席で、いつもより優しげに見えた訳が、少しだけ理解出来た気がする。誰にも相談せず、ひとりで決断したDEATH夫の強さは凄いが、彼が言う通り、自分たちは助けになれなかったと思い、白鳳はいたく寂しかった。
「たとえ何が起ころうと会ってみる。ようやくそんな心境になれた」
「ようやく・・・ということは」
「DEATH夫にも様々な葛藤があったのでしょう」
死神の心とて、木石で出来ているのではない。時には悩み、揺れ動いていた。その事実は彼との数少ない会話の端々からも、稀に察せられた。件のレストランではそぐわない愚痴に驚き、愛人ルートの野心も忘れ、力強く励ましたものだ。DEATH夫は自己完結して、方針を固めたと落ち込んでいたけれど、今のコメントを聞く限り、どうやら早とちりだったらしい。彼へのエールはムダではなかったと、白鳳はほっと胸を撫で下ろしたが、ふと、素朴な疑問が沸き上がった。
「あれ・・・・DEATH夫の言い方だと、我々がいろいろお膳立てしなくても、普通にマスターと会えたんじゃ」
「私にもそう聞こえました」
「じゃあ、今までのインターバルは気持ちの問題ってわけ?」
「こちらの世界へ来た経緯が複雑ですから」
白鳳パーティーへ加入した頃はともかく、ここ数ヶ月、いやひょっとしたら数年間は意思さえあれば、対面可能だったのかもしれない。何代にも及ぶ悪魔界主従の結び付きは、人間界の常識では到底計り知れない。ハチの野性の五感を超えたアンテナが、主人の存在をいち早く認識することは十分あり得る。
(ハチがマスターは付かず離れずでDEATH夫を見守ってるって言ってたし)
いかに珍生物の特殊能力が優れていようと、ハチですら気付く気配をDEATH夫が感知出来ないとは考えづらい。本来、DEATH夫はあらゆる事に、白黒はっきり付けたいタイプ。にもかかわらず、長い間煮え切らなかったのは、やはりマスターが彼にとって唯一無二の存在だからだ。宙ぶらりんの状態は本意ではないけれど、豆粒ほどの望みは抱いていられる。追放された身で関係修復を願うのは、客観的に見て、決して分の良い賭けではあるまい。最悪、フローズンの献身的な介抱で拾った命を失う羽目にもなりかねない。いや、生命そのものより、骨身を惜しまず尽くして来た主人と、ぷっつり縁が切れるリスクに耐えられなかったのか。
(離脱という答えに辿り着くまで、密かに思い悩んで来たんだなあ)
数年に渡る迷いを乗り越え、彼はひとつの結論を出した。DEATH夫が真摯に考えた身の処し方に、今更異議を唱えるつもりはない。しかし、石を投じれば、当然、それに伴う結果がある。万が一、意に添わなかった場合、DEATH夫はいったいどこへ行くのだろう。白鳳からすれば、DEATH夫の決断を尊重して、パーティーを抜けることはギリギリ認めても、ハイさようならとあっさり割り切るなんて無理だ。悪魔界に帰還出来なかったら、白鳳パーティーこそDEATH夫の正式な居場所。メンバー誰もが温かく接してくれる。事前に負の展開を想定した質問をするのはタブーだが、白鳳は敢えて尋ねずにはいられなかった。
「ねえ、会いに行くのはいいけど、もしマスターの許しが貰えなかったら・・・・」
「その時は気の向くままに彷徨うさ」
「なぜ、戻ってこないの?誰もがDEATH夫を喜んで迎えるのに」
「俺はひとりでいる方が性に合う」
「DEATH夫・・・・・」
彼の端正な顔には、ほんのり笑みすら浮かんでいた。マスター絡みの話題が出るたび、戻る場所があるとアピールして来たが、やはり仲間のところへ帰るとは言わなかった。捕獲の旅の真っ最中に、自己都合でパーティーを離れるのだ。当てが外れたからといって、のこのこ出戻るような無様な真似が出来ようか。離脱により、残った連中に迷惑や負担をかける。そんな殊勝な感情があるとは思えないが、二度と復帰しないことがDEATH夫なりのけじめの付け方なのだろう。



悪魔の使徒として育成された、DEATH夫の価値観は他の男の子モンスター、ましてや白鳳とはまるっきり異質のもの。大なり小なり、そう痛感せずにいられないことは、道中数え切れないほどあった。けれども、逆に通じ合える部分もあると、今では自信を持って断言出来る。表現こそぎこちないが、マスターへのひたむきな気持ちは、神風のそれと本質的に変わらないし、フローズン以外のメンバーとも徐々に交流を深めつつある。DEATH夫は冷酷な戦闘マシンなどではなく、むしろ未知の感情を持て余している、と白鳳には思えた。だからこそ、彼の淡々とした物言いに秘められた諦念が胸に響く。容赦なく突き放されたとしても、あんなに執着していた主人を簡単に忘れられるはずがない。人間界住人のお節介かもしれないが、心の傷を癒すには時間の経過と近しい仲間の情が一番の薬。もしもの場合、皆と一緒にDEATH夫の痛みを少しでも和らげたかった。が、彼はその機会すら自ら放棄してしまった。
「パーティーにとって、DEATH夫は掛け替えのない存在なんだよ。ひとりで彷徨うなんて言わないで」
せっかくの年月の積み重ねも、土壇場で無に帰した気がして、白鳳は苦渋の面持ちで肩を落とした。うなだれる紅いチャイナ服を一瞥すると、DEATH夫はいつもの無表情で告げた。
「お前が嘆き悲しむ必要はない」
「だって、ずっと苦楽を共にして来たのに、今更水くさい発言されたらショックだよ。あ、DEATH夫がいないと、男の子モンスターコンプが出来ないとか、セコい理由じゃないからね」
他人の思惑に関心が薄いDEATH夫は裏読みなどしないだろうが、一応付け加えておいた。もっとも、彼なしでは全種類揃わずとわざわざ教えたのは、他でもないDEATH夫自身だ。厳しい事実を知ってなお、白鳳の方針は小揺るぎもしなかった。特異な境遇が当たり前となった彼には大陸は居心地悪かろうし、数年間、文句を言いながらも戦ってくれただけで十分ありがたい。いかにプランナーの呪いを解くためでも、異世界の住人の力を借りるのは、ある意味反則行為。DEATH夫は本来の場所へ戻すのが本道ではないか。ただし、彼の帰還が認められなければ、話は別だ。仮初めとは言え、同じ釜のメシを食べた従者を、宙ぶらりんのまま放っておくことは、白鳳には出来やしない。
「・・・・初めて会った日のことを覚えているか」
「え」
いきなり話題を転換され、白鳳はきょとんと目を見開いた。なぜ、彼がこのような問いかけをしたのか分からない。が、無論、DEATH夫、フローズンとの出会いは鮮烈に記憶している。なにしろ、手負いのDEATH夫は白鳳主従の手当てを拒み、本気で襲いかかって来たのだから。あの殺伐としたやり取りを思うと、彼と普通に話をしているのが夢みたいだ。
「お前の側には神風しかいなかった」
「神風と会って、1年近く経った頃だったかなあ」
「白鳳さまはまだまだ新米ハンターで、捕獲もままならなかったです」
「DEATH夫たちが加わった後、ハチ、オーディン、まじしゃんと揃って、最強のパーティーが完成したんだ」
従者との邂逅を脳内スクリーンに映し、白鳳はしみじみ呟いた。頼れる味方を得て、捕獲も旅も順調そのもの。たまにアクシデントはあるけれど、練り上げた計画をほとんどこなし、確実にお目当てのモンスターを集めて来た。絶望の二文字しか見えないノルマだったが、近頃は弟の解呪を実現出来るかもしれないと、本気で考え始めている。いかに白鳳が死にもの狂いで頑張ろうと、ひとりぼっちだったらこんな展望は持てなかっただろう。が、達成感に浸る白鳳に、水を差すDEATH夫の一言。
「最強のパーティーとやらもいつまで続くことか」
「・・・何が言いたいのさ」
メンバー全員で築き上げた白鳳団をばっさり否定され、紅唇は気色ばんで切り返した。目を三角にした白鳳へ、DEATH夫はゆるりと醒めた眼差しを流した。
「目的を果たせば、パーティーなど不要になる」
「つまり、スイの呪いが解けるってこと」
「ああ」
「!!」
白鳳は正直驚いた。短い会話から察する限り、彼も決して解呪を夢物語とは捉えていない。未だ男の子モンスターの種族数すら不明だし、誰に保証されたわけでもないのに、お調子体質の白鳳のみならず、DEATH夫までがそう認識しているとは思わなかった。



まだまだ課題は多いものの、自身の弛まぬ努力+優れた従者たちのおかげで、八方塞がりだった状況に一筋の光が差し込んだ。無茶をせず、地道な活動を続けて行けば、いつか白鳳の望みが叶う日も来るかもしれない。ただし、スイが人間に戻った時点で、白鳳団はその役目を終える。DEATH夫に指摘されるまでもなく、白鳳もまた最強のパーティーは永遠ではないと知っていた。
「いずれ、俺たちは離れ離れになる」
「うん、皆の厚意に甘え切って、男の子モンスターを率いる状態が当たり前と感じてはいけないんだ」
「遅いか早いかの違いだ、悲しむな」
どうせ来るべき別れなのだから、悲嘆にくれなくてもいいとDEATH夫は言いたいらしい。クールな彼らしい意見だが、現状での慰めやフォローには程遠い。残ったメンバーにも去られる場面が浮かび、寂しがり屋の白鳳はいっそう鬱になった。
「あああ、いつかはスイとふたりきりになるのかな。。」
慣れというのは恐ろしい。兄弟ふたりは本来の姿なのに、長年、わいわい過ごして来たから、完全に大所帯がデフォルトとなっている。お供一同の幸福を願いつつも、彼らが抜けてしまったら、凄まじい喪失感で押しつぶされそうだ。が、たとえ仮定であろうと、白鳳と引き離されて黙っている紺袴の従者ではない。間髪を容れず、神風は高らかに宣言した。
「待って下さい。パーティーの存続にかかわらず、私はずっと白鳳さまのお側にいます」
必死になって主張する神風を見遣り、DEATH夫は喉の奥でくくと笑った。口を真一文字に引き結んで詰め寄る忠臣へ、白鳳は諭すごとく言いかけた。
「神風の誠意はありがたいけど、許可出来ないね」
「なぜです」
「他者ばかり優先して来た神風に、自らの幸せや目標を追い求めて欲しいんだ」
「私の幸福は白鳳さまにお仕えすることです」
「それは単なる思い込みでしょ。だいたい、捕獲さえなければ、皆の手を借りなくても立派にやっていけるんだから」
白鳳はぐうたらに見えて、案外生活能力は高いし、プロ顔負けの料理で十分生計は立てられる。故郷に帰って、スイとふたりなら楽に暮らして行けよう。いざという時は、お人好しの紳士に貢がせる手もある。しかし、主人の裏も表も熟知している神風は使命感に燃え、きっぱり言い放った。
「いいえ、白鳳さまを野放しにしては、周りの住人に申し訳ありません。スイ様だっていい迷惑です」
「ちょっ・・・どういうことさっ」
生真面目な神風の辞書に、冗談という言葉はない。400%本気なのは火を見るより明らかだ。道中、主人が不祥事をしでかすたび、尻拭いをさせられて来たのだから、むしろ当然過ぎる判断なのだが、白鳳は不満げに口を尖らせている。ところが、自覚のない××野郎へ追い打ちをかけるように、いきなり賛同者が現れた。
「当たっているな」
思わぬ援軍の登場に、白鳳の眉は更に釣り上がった。
「もうっ、DEATH夫まで酷いじゃない」
「ふん、割に合わない苦役を願うバカには、好きにさせてやれ」
「マジ!?」
DEATH夫が神風の処遇について、意見を述べるとは思わなかった。しかも、神風の肩を持つようなコメントを。もっとも、方向性は対極と言えるが、ふたりの主人への忠誠心の強さは甲乙付けがたい。モンスター密売団の事件がきっかけで、神風の信念を認めつつある今なら、擁護意見が出るのもうなずける。が、せっかくのDEATH夫のアシストも、若干、神風の意に添わない表現があったようだ。
「大切なマスターのため、働くのは損得勘定じゃない。悪魔界で危険を顧みず、戦って来たDEATH夫なら分かるはずだ」
主従ネタが絡んだ途端、皮肉混じりの物言いを受け流せないところがいかにも神風らしい。ライバルの声高な反論を聞くと、DEATH夫は一瞬目を細め、ポツリと言った。
「・・・・まあ、割りに合わんのはお互いさま、か」



従者全員を平等に扱うのが、マスターとしての正しいあり方。来るべきパーティー解散に際し、ひとりだけ例外扱いするわけにはいかない。と言うのはあくまで表向きの主張で、実のところ、神風が手元に残ってくれたら、めちゃくちゃ嬉しい。ゆえに、DEATH夫の助言は願ったり叶ったりなのだが、白鳳は浮かれポンチになるのをぐっと堪えた。現状がずっと続く限り、神風は私心を捨て、白鳳兄弟の影であり続けるだろう。いくら本人の希望でも、これ以上彼の忠義に甘えることは出来ない。
「とにかく、神風には自分の人生を生きて欲しいんだよ」
「私の人生は白鳳さまと共にあります」
「ったく、強情だねえ」
「それはこちらのセリフです」
白鳳がどう説得を試みても、神風は一歩も引かない。この件に関し、彼らの持論は常に平行線で、結局物別れに終わるのだ。しかし、今日は少し勝手が違う。なぜか、DEATH夫が神風サイドに付いている。まずは味方を切り崩すべく、白鳳は彼に語りかけた。
「人間ごときに忠誠を誓うなど、考えられないって言ってたじゃない。どうして神風に加勢するのさ」
「・・・・・・・・・・」
両の拳を握り締め、白鳳はDEATH夫の変節を声高に詰った。が、彼は問いかけには答えず、意味深に微笑むと、しなやかに半身を返した。黒いシルエットが醸し出すただならぬ気配に、胸がきゅんと締め付けられた。いよいよ公園から、いやパーティーから立ち去るつもりらしい。議論嫌いなDEATH夫に、突っ込んだ質問を投げたのがまずかったのだろうか。白鳳は慌てて彼の傍らへ駆け寄った。
「もう、行っちゃうの」
「ああ」
DEATH夫の表情はかつて見たこともないほど穏やかだった。旅を始めた経緯を思えば、当然のエンディングなのだが、長年運命共同体だった従者とのあっけない別離。浮き世の儚さを、白鳳はしみじみ噛み締めていた。
「幸運を祈ってる」
「先のことは分からん」
神風の心をこめた励ましも、他人事みたいに受け流すDEATH夫。たとえ住む世界が違っても、これきり縁が切れてしまうのは耐えられない。しつこいと百も承知の上で、再び白鳳は彼へ呼びかけた。
「もしもの時は遠慮せず帰っておいでよ」
「騒がしいのは御免だ」
「やっぱりダメなの」
「まあ、偶然旅の空で会うかもな」
「えっ」
白鳳の暗く沈んだ顔に、ぱあっと光が差した。パーティーへは復帰しないけれど、仲間との絆を断つ気もないらしい。孤高の彼としては最大限、白鳳団を認めてくれたと解釈してよかろう。無論、帰還が許されるに越したことはないが、首尾良く行かなかった場合も、皆でDEATH夫の力になれる。感極まった様子の主人を、神風は嬉しげに見遣った。
「遠く離れても、気持ちだけは通じている。そんな間柄も悪くありません」
「うん、うん。だけど、DEATH夫にひとつ約束して欲しいことがあるんだ」
「何だ」
「いずれの結果になろうと、必ず顛末を教えに来て」
大事な同士がどうなったか分からないまま、気を揉み続けるのは嫌だ。フローズンやハチのみならず、他のメンバーとて思いは同じはず。さよならの前に、しっかり言質を取らなければ。白鳳は真摯な眼差しで、DEATH夫を見据えた。が、彼は巧みに視線を逸らすとそっけなく言い捨てた。
「・・・・気が向けば」
別辞のやり取りさえなく、DEATH夫は白鳳と神風へ背を向け、すたすた歩き始めた。死神の後ろ姿を言葉もなく見送る主従。遠ざかる黒いシルエットは、夜桜にほんのり浮き上がり、やがて夜の闇へ溶け込んで行った。


TO BE CONTINUED


 

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