*ナタブーム盗賊団参上〜前編*



男の子モンスターを同行させると確実に捕獲がはかどる。今回も皆の活躍で段取り良く目的を遂げることが出来た。それでも、なるべく力を借りるまいと努めるのは、スイの解呪が本来、己独りに課せられた試練なのに加え、多かれ少なかれ複雑な事情を抱えている彼らに、一文の得にもならないことをさせるのが心苦しいからだ。とはいうものの、期待以上の成果が上がればやはり嬉しいし、気持ちにも余裕が出来る。少し前の荒んだ精神状態が嘘のようだった。
(先日も最初からこうしていれば)
手前勝手な腹いせでアックスをなぶり傷つけることもなかったのに。それでも彼は怒るどころか、温かく優しく包んでくれた。素直になれないまま、テントを立ち去ってしまったが、この先、彼とどう接したらいいのだろう。薬草の件の礼さえまだだし、柄にもなく気まずい気分だ。幸か不幸か、あれから盗賊団の姿は見かけていなかった。ひょっとして、もう追い掛けて殺す価値もないと、避けられているのかもしれない。そう思ったら、なぜかどっと寂しさが押し寄せてきた。
「白鳳さま、具合でも悪いんですか」
「え」
「さっきから何だか元気ないみたいですっ」
「きゅるり〜」
神風とまじしゃんに心配そうに顔を覗き込まれ、白鳳は困惑して言葉に詰まった。今の自分が傍からそんな風に見えていたなんて。
「移動を急いだせいで、少し疲れたのかな。宿屋に戻ったら、ゆっくり休むよ」
目的を果たしたにもかかわらず、気力が減退しているのも疲れのせいに違いない。そうだ、きっとそうに決まってる。
「なら、一刻も早く戻りましょう」
「はいっ」
「おうっ、オレ、もうはらぺこだぞー」
沈みかけた夕陽を背に、帰還を促す神風。傍らのまじしゃんとハチは即座に賛同したが、残念ながら全員一致というわけにはいかなかった。これまで無言で最後方から付いてきたフローズンが、輪を抜け出すとポツリと呟いた。
「・・・・街を少し見て回りたいです・・・・」
思えば、国境を越えたときから、興味深げにあちこち眺めていた。博識で読書好きのフローズンは、この地に息づくかつての古代文明の名残に心惹かれたらしい。確かに歴史上の遺跡も多いし、きっちり区画された街の造りや建物の荘厳さにも目を奪われる。
「ダメだよ。白鳳さまに休養してもらわなきゃ」
「お前らだけ戻ればいい」
DEATH夫がフローズンと同行すべく、白鳳たちから離れた。むろん、彼は遺跡になど興味はない。が、ここ最近、男の子モンスター専門の悪質な売買組織が横行しているため、誰もが単独行動は避けており、おそらく盟友のボディガードのつもりなのだろう。けれども、白鳳至上主義のまじしゃんが納得するはずもなく。
「そ、そんなっ、ひどいじゃないかっ」
「捕獲さえ済めば、後はどうしようが俺たちの勝手だ」
「白鳳さまが苦しんでいるっていうのに」
「きゅるり〜。。」
DEATH夫の取りつく島もない態度に、顔を紅潮させて怒るまじしゃん。双方の間に険悪な空気がどんより流れた。睨み合うふたりを神風とハチが困り顔で眺めている。フローズンも過激な友を制止する気配はない。今日は仲裁役のオーディンがいないだけに、曲がりなりにも彼らの主人として、どうにか場を収めなければ。
「まじしゃんの気持ちは嬉しいけど、病気でも苦しんでもないから、そんなに怒る必要はないよ」
いきり立つ少年魔導師をなだめるべく、出来る限り穏やかに声をかけた。半ば誤解とは言え、こちらの気の迷いで、彼や神風に余計な心配をさせて、実に申し訳ない。
「でも・・・・・」
「DEATH夫の意見ももっともだよ。私たちは先に宿に帰ろう」
「はいっ、分かりました」
DEATH夫とフローズンは十分役目を果たしたし、いつも己の身は後回しにして尽くしてくれるフローズンが、こんな要求を口にするなんてめったにないことだ。せめてもの礼代わりに、ぜひ望み通りにさせてやりたい。
「なら、俺たちはもう行くぞ」
「あまり遅くならないように」
まあ、聡明な二人のことだから、こちらが細かい指示をせずとも抜かりはあるまい。彼らなら自由行動をさせても大丈夫だ。
「ですおもふろーずんも気をつけろよー」
「今日の日誌は私が付けておくから」
「・・・・ありがとうございます。それでは・・・・」
仕事の代行を快く申し出た神風に深々と会釈すると、フローズンはDEATH夫と連れ立って、広場に出る通りを曲がりかけた。が、ふと、硬直したように動きが止まった。訝しく思い、白鳳が近寄ろうとすると、振り返ったフローズンが、繊細な指先でとある方角を指し示している。首を捻りながら示された方を見れば、派手な水飛沫を放つ噴水の周りで、四色バンダナの団体が泣き喚いているではないか。



人数から察するに、ほぼ全員揃っているようだ。アジトを構えた街でひとりふたりを見かけることはあっても、街中で勢揃いの光景を見せられるなんて初めてだ。誰もが手ぶらだし、移動中というわけでもあるまい。
(どうして)
気持ちの整理が付いていないだけに、アックスとは顔を合わせたくなかった。そもそも、フローズンが子分の存在をわざわざ自分に知らせてきたのが納得行かない。
「私には関係ないよ、あんな連中」
露骨に視線を逸らし、乾いた口調で言い放った。
「・・・・・そうですか?・・・・・」
微かに目を細めこちらを窺う表情が、心中の動揺を見透かすようで面白くない。そりゃあ、ほんのちょっぴりだけあの男のことを考えていたかもしれない。でも、直接会って話したいなんて、露ほども望んでいなかったのに。多分。
(と言ってもなあ)
うっかり視界に入ったからには、無様に大泣きする生き物を放っておけないのも事実だった。幸い、彼らは先日アックスに為した酷い仕打ちは知らない。白鳳は足早に広場に入り、石畳を踏みしめて噴水まで歩み寄ると、警戒心を持たせないよう、出来る限り笑顔を作って語りかけた。
「ボクちゃんたち、こんにちは」
「うう、ぐすっ、赤いのだ」
「きゅるり〜」
緑バンダナのひとりが、チャイナ服の肩先でせわしく飛び回るハチ少年と戯れるスイを目に留めた。
「あっ、ちっこいの、元気になってる」
「ホントだ」
「親分が採った薬草、役に立ったんだ」
「わーい、良かったな」
「良かったぞー」
これまでわんわん泣いていたのも一瞬忘れ、口々に喜びを形にする子分たち。親分がお人好しだと下の連中まで、と呆れながらも、決して悪い気はしなかった。
「・・・・・ありがとう」
すんなりお礼の言葉を口に出来たのは、この場にアックスがいなかったせいかもしれない。しかし、可愛い子分を置き去りにして、いったいどこをほっつき歩いているのだろう。
「ところで・・・・・親分さんは」
眉ひとつ動かさず、殊更にそっけない物言いで問いかけてみた。
「そ、そ、それが」
「ううううう」
「うわ〜ん」
「うえ〜ん」
再びどっと涙がこみ上げ、全員泣きじゃくり始めた。ふと、脳裏を不安がよぎり、そわそわと落ち着かないものを感じた。さりとて、催促するわけにもいかず、息を詰めて答えを待っていると、ようやく赤バンダナのひとりが震える声で絞り出した。
「き、昨日、おいらをかばって、警備隊に連れて行かれた。。」
「・・・・・・・・・・ふうん」
気の抜けた声とは裏腹に、白鳳の胸の奥にぐさりと何かが突き刺さった。どこまでバカな男なんだ。子分思いはいいとしても、自分が捕まったら洒落にならないではないか。どんなモノを盗んだかは知らないが、これでしばらく娑婆に出て来れまい。
(あれ)
そこまで考えた途端、胸の傷が抉られたみたいにきりきり痛んだ。
(やっぱり、疲れているんだな)
今の痛みがあの男のせいだなんて認めたくない。そりゃあ先日は不本意な別れ方をしたし、スイのことだってまだ借りを返していないけれど。
「えっえっえっ、おやぶ〜ん」
「うわ〜ん」
「死んじゃいやだよう、ぐっすん」
この件については深く追及せず、受け流してしまいたかったが、子分たちの嘆き様が尋常ではないのが気にかかる。しばし、次の対処を決めかねていたものの、青バンダナの血を吐くごとき絶叫に、自分の認識が甘かったことを思い知らされた。
「おやぶんは、おやぶんは・・・・・明日の夜、処刑されちゃうんだよう〜!!」
「えええっ!?」
「きゅっ、きゅるり〜!?」
不覚にも広場中に響き渡る声を出してしまった。そんな、まさか死罪になるなんて。だいたい、このへっぽこ盗賊団にそこまでの貴重品をゲットするスキルがあるとも考えづらい。
「ボクちゃんたちは国の機密に関わる何かを狙ったのかい」
「ちがわい。おいらたち、メロンパン10個盗んだだけなのに」
「メロンパン10個でいきなり死刑なんてっ!!」
白鳳の大声に驚いて、集まってきた男の子モンスターたちもこの経緯を妙だと思ったようだ。顔を見合わせて、それぞれの見解を述べ始める。
「そんな法律、国民だって認めないでしょう」
「・・・・処刑が早すぎるのも妙です・・・・」
「裁判もなしってことだ」
「う〜ん、何か陰謀の匂いがするな」
それを受けて、バンダナ連中は怪訝そうに小首を傾げた。
「におい?」
「うう、おいらたち、ちゃんと毎日水浴びしてるぞう」
「身体のすみずみまで洗ってるからなー」
「ほら、くさくないだろ、すんすん」
「・・・・・・・・・・・・」
大真面目にこんな主張をされ、相変わらずの天然っぷりに目眩がしてくる。
「ボクちゃんたちのことじゃないよ。親分さんを捕まえた連中が怪しいって言ってるのさ」
「え」
小さい目を最大限に見開いて、白鳳の顔をきょとんと見つめる子分たち。未だに事の次第を理解していない彼らのためにフローズンが一言付け加えた。
「・・・・きっと、罠にはめられたんです・・・・」
残された時間はあまりにも少ない。一刻も早く真相を明らかにして、対策を練らなければ。
「これは調べてみる必要がありそうだね」




白鳳はさっそくスイと戯れていたハチを警備隊の施設まで偵察に行かせた。この大きさだから、どこへ潜入しても気付かれないし、意外に機敏なのでこういう役目には打ってつけだ。一寸の虫の働きで貴重な情報を入手したのも一度や二度ではない。なおもわんわん泣く子分たちをなだめつつ、ひとまず彼らのアジトまで戻って、夕食の準備をしているうちにハチが戻ってきた。
「どうだった」
「やっぱ、とんでもない裏があったぞー」
ハチがこっそり聞いたところによると、警備隊長と大蔵大臣が長年に渡って国の予算を使い込んでいるという。すでに帳簿改竄などではごまかせない規模の金額に膨れ上がっており、それをなかったことにするため、国庫を暴いた犯人としてアックスを処刑するつもりらしい。こんな事情なら、死人に口なしとばかり処刑を急ぐのも納得がいく。
「なんて卑怯な連中だ」
「だから人間なんて信用できん」
「モンスターよりよっぽど始末が悪いよっ」
憤る皆の言葉にうなずきながら、白鳳はハチにこっそり問いかけた。具体的な作戦を立てる前に、彼の現状を知っておきたかった。
「ところで、親分さんはどんな様子だった」
鍋にバターを溶かしつつ、切った野菜を手際よく入れる。
「え、オレっ、ヤツらの話を覚えるのにいっぱいでっ」
「牢屋の場所も確認して来たんだろう」
「う〜ん、まっくらだから、影くらいしか見えなかったなー」
「些細なことでもいいから、何か気付かなかった?」
「ゴメン、食い物じゃないからよく分かんないや。。」
ハチの困り果てた顔を見て、白鳳は我に返った。どうやら、そのちっこい脳みそには過ぎた要求だったようだ。それに、あれだけの仕業をしておきながら、アックスの安否を気にかけている自分が滑稽に思えた。
「・・・・・そう。ご苦労だったね、もういいよ」
労いの言葉を受け、ハチは子分たちに囲まれたスイのところへ飛んでいった。か細い肩を落とし、しょんぼりしている主人の姿に気付かない一同ではない。が、その解釈は個々によってまるっきり異なっていた。
「盗賊団のことでこんなに親身になって、白鳳さまは優しいなあ」
「あいつらに食事まで作ってやってるぞー」
瞳をキラキラ輝かせ、うっとりと白鳳を見つめるまじしゃんとハチに、背後から生温かい視線が注がれた。
「お前たち、本気で言ってるのか」
「な、何だよう」
「DEATH夫こそ、白鳳さまの親切心にケチを付ける気か」
「ふん、とんだ親切心だな」
「それ、どういうことだよっ」
ハチは口を尖らせるだけだったが。カッとしたまじしゃんはDEATH夫に掴みかからんばかりの勢いで飛びかかろうとした。が、これまで双方の主張を黙って聞いていた神風が素早く飛び出し、その胴の辺りをぎゅっと抱きかかえた。
「ちょっと待った」
「あっ、神風、放せよっ」
突然、攻撃を阻止されてじたばた動いたが、神風の腕は微塵も緩まない。その拘束の強さとは裏腹な、兄のような優しい口調で彼はまじしゃんに言いかけた。
「我々が揉めたって仕方ない。今はあくどい連中をやっつけるのが第一だよ」
「・・・・・う、うん」
「そーだ、ケンカはよくないぞー」
「きゅるり〜」
日頃のオーディンの役目を神風が果たしてくれたおかげで、どうやら一触即発の危機は去った。だが、DEATH夫の含みのある言葉とフローズンの意味深な表情が気がかりで堪らない。白鳳は調理に集中して、何とか話しかけられないように勤めた。しかし、その努力も虚しく背後から彼らに忍び寄られ、絶妙のタイミングで一言投げつけられてしまった。
「・・・そんなに彼が気になります・・・」
「べ、別に気にしてなんかいないよ」
手元が狂って、炒めた玉葱をうっかり焦がしてしまうところだった。
「なら、ハチに様子を尋ねる必要もない」
「そ、それはボクちゃんたちが心配だろうと思って」
我ながら苦しい言い訳だった。いや、その気持ちも皆無ではないが、実のところ、アックスの安否を尋ねたのは明らかに己のためだ。あんな形で別れた後、会えないまま、相手が永遠にいなくなってしまうなんて冗談じゃない。まだ彼には何ひとつ言うべき事を伝えていないのに。






いつもなら大好きな親分のこしらえた夕食の時間なのに、テントの主を失ったままの夜が虚しく更ける。白鳳たちのやり取りも耳に入ることなく、子分たちはまだ嘆き悲しんでいた。
「親分が死ぬなんていやだよう」
「うう、どうしたら親分を助けられるのかな」
「おいらたちじゃ牢屋に潜入も出来ないし」
「正面からいってもかなわないし」
アックスを救う意思だけはあっても、悲しいかな、彼らにはそれに見合う知恵と戦闘能力が欠けていた。
「うわ〜ん、おやぶ〜ん」
「な、泣くなよう」
「あきらめちゃダメだ。おやぶんを助けられるのはおいらたちだけなんだぞ」
「でも、いい方法が浮かばないよう」
「うう、どうしよう」
「おやぶん、うわ〜ん」
「うわ〜ん」
「うわ〜ん」
ぎゃーぎゃーぴーぴー泣き喚くガキどもに、元々気の長い方じゃない白鳳は苛立ってきた。アックスみたいに優しく連中をさばくことなど到底出来はしない。木の机を力任せに叩くと、ドスの利いた声で4色バンダナを一喝した。
「ええいっ、いつまでもメソメソしてるんじゃないっっ!!!!!」
白鳳のもの凄い剣幕に子分たちはあっけに取られて顔を上げた。
「泣いてたって何の解決にもならないよ。そんな暇があったら、いい方法を考えなきゃ」
スイが呪いにかかった当初、この言葉で何度自分を叱咤激励したことか。
「で、でもおいらたちじゃ。。」
「今回だけは協力してあげるよ」
これはあくまでも薬草の借りを返すためだと己に言い聞かせながら。予想外の心強い援軍が現れ、子分連中は一斉に顔を上げた。白鳳の実力のほどは十分知っているだけに、真ん丸い顔がぱああと輝いた。
「え、ほ、ホントか」
「赤いの、一緒に親分を取り戻してくれるのか」
「行きがかり上、仕方ないからね」
脳裏に浮かぶアックスの面影に戸惑いつつも、意識的に抑揚のない声音で返した。
「ほら、たくさん食べて。腹が減っては戦が出来ないって言うだろ」
惨めな状況で空腹だとますます惨めに感じられるのは、白鳳自身も幾度となく経験済みだった。食卓に並べられた野菜たっぷりのカレー。子分向けに辛さを抑えるため、少しミルクも入っている。食欲をそそるスパイスの香りが湯気と一緒にもわっと広がった。
「うう・・・・・うん」
まだ半べそのまま、子分たちはカレーに口を付け始めた。
「おっ」
「美味いぞー」
「親分のにも負けないくらいだ」
白鳳が丹念にこしらえたものだけあって、味もボリュームも申し分ない。徐々に食べる速度も増し、全員キレイさっぱり平らげた。お腹一杯になって、志気も上がってきたのか、子分たちはわらわらと白鳳の周りを取り囲むと、口の周りにカレーやご飯粒を付けたまま、力強い物言いで決意を述べ始めた。
「よ〜し、おいらたちの手で親分を取り戻すんだ」
「ナタブーム盗賊団の底力を見せてやれー」
「姐さん、おいら頑張るっす」
「はあっ、姐さん!?」
突拍子もない呼ばれようにさすがの白鳳も愕然とした。どこからこんな呼称が出て来たのだろう。が、子分たちは彼の驚愕に気付くこともなく、更に畳み掛けてきた。
「姐さんがいてくれると心強いっす」
「一緒に親分を助けるっす、姐さん」
「あねさ〜んv」
語尾が敬語表現になっていることだけが救いというべきか。答える術を失い、唇を震わせる白鳳の傍らで神風とフローズンが笑いを噛み殺した。一方、DEATH夫はにこりともせず、事の成り行きを静観している。
「・・・・姐さん・・・・」
「いよいよ盗賊団に入るんですか」
「ええ!?白鳳さまが盗賊団なんてそんなの嫌だよ」
不満たらたらの顔付きで、彼らの発言を否定するまじしゃん。もちろん、白鳳だってアックスとの縁をいたずらに深めるような展開はまっぴらゴメンだ。
「心配しなくても、盗賊団に加入する気なんてこれっぽちもないよ」
「本当ですか」
「うん、当たり前じゃないか」
「ああ、良かったぁ」
毅然とした姿勢にまじしゃんはほっと安堵の息を吐く。肩先のスイの身体を撫でながら、白鳳がおっとり笑みを浮かべたのも束の間、フローズンがポツリとこんな風に囁きかけてきた。
「・・・・姐さんって親分の女って意味もあるんですけど・・・・」
「が〜〜〜〜んっっ」
ショックで固まった白鳳だったが、続くまじしゃんとハチの発言は別の意味で彼を唖然とさせた。
「ええ?!白鳳さまがあの粗野な男とっ」
「はくほー、自分は男だって言ってたじゃないかようっ」」
「きっと、ヤツが無理矢理襲ったんですねっ。そんな最低の男をわざわざ救助する必要などありませんっ」
「やっぱ、はくほ−はオレのかあちゃんなのかっっ」
「きゅるり〜。。」
「・・・・・・・・・・・」
知っての通り、真相はまるっきり逆である。どこまで行っても、白鳳が加害者でアックスは被害者。白鳳だって、この件に関して、恥じたり悪びれたりするつもりはない。だが、自分を信頼し切っている幼いふたりに事実を説明するのはさすがに気が引けた。
「ぼ、ボクちゃんたち、私は男だから姐さんって呼び名はおかしいと思うけど」
神風にも取りなしてもらい、ようやくまじしゃんたちを落ち着かせた白鳳は、これ以上事を荒立てないよう、子分たちに呼称の変更を促した。微妙に顔を引きつらせながら、ようやくここまで言いかけたが。
「そうだったっすか、すみません、姐さん!!」
「姐さん、お許し下さい!!」
拳を握り締めて詫びられたにもかかわらず、事態は全く改善されていない。
「・・・・・だから、姐さんっていうのはね・・・・・」
「怒らないでほしいっす、姐さん」
「姐さん、おいらたち足手まといにならないよう一所懸命頑張るっす!!」
「・・・・・・そ、そう・・・・・・」
白鳳の再三の説得も虚しく、結局、最後まで誰ひとりその意図を理解することはなかった。




TO BE CONTINUED


 

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