*MAYSTORM〜1*



この村で為すべき作業は、滞りなく済ませた。物見遊山の旅ではない以上、速やかに次の目的地へ移動しなければ。白鳳主従に心地よい空間と、安らぎのひとときを与えてくれた宿とも今日でお別れだ。旅立ちの支度を整えた後、簡単に部屋を掃除して、一行はそれぞれの所持品を手に廊下へ出た。
「皆、忘れ物はない?」
二の腕にずり落ちたショールの位置を直しながら、白鳳は頭だけ振り返ると、男の子モンスターたちへ呼びかけた。旅慣れたパーティーの荷物は、常に最小限だ。道中、魔物や賊と遭遇するかもしれないし、万が一の事態に即、動けるよう、極力、身軽であることを志している。
「・・・・室内を隈なく確認いたしましたし、大丈夫だと思います・・・・」
「帳簿や資料は私が持ちました」
「アイテムや薬草は、小物と一緒にオーディンが背負ってるよっ」
「うむ、一覧表と照合したから間違いない」
「ふろーずんの表は丁寧で分かり易いかんな」
几帳面なフローズンは金銭のみならず、用具類の管理も徹底しており、アイテム毎に購入と使用の履歴を詳しく記してある。表を見れば、補充すべき物がすぐ判断出来るし、不心得者が持ち出してもバレバレだし、まさに一石二鳥の使える記録だった。
「じゃあ、後は宿賃を払うだけだね」
「きゅるり〜」
後顧の憂いもなく、美形揃いの従者を引き連れた白鳳は、フロントまでやって来た。カウンターにいたのは、丸顔で小太りの中年男だった。人は良さそうだが、はっきり言って、好みのタイプとはほど遠い。白鳳は軽く愛想笑いをすると、おざなりに部屋のキーを差し出した。
「ご出立ですね」
「ええ、お世話になりました。おいくらですか?」
「1500ゴールドになります」
「分かりました」
6人(スイとハチは無料)で5泊なら、まあ妥当な金額だろう。白鳳は納得して、ベルトへ結びつけた巾着まで手を伸ばした。ところが、探る指先にまるっきり手応えが感じられないではないか。
(あれっ)
己の細腰へ視線を落とせば、財布どころか巾着そのものが存在しない。考えたくないが、巾着ごとなくした?だとしたら、いつ?どこで?焦りと衝撃のあまり、周囲の風景が陽炎のごとく揺らめき始めた。頬骨の上の肉が不規則に脈打っている。どうにか平静を装おうとしても、引きつった顔で心の動揺が丸分かりだ。あたふたとパニくる仕草に、主人の裏も表も知り尽くした、神風が気付かないはずがない。
「白鳳さま、どうしました?」
「な、何でもない」
「私には平穏無事な様子には思えませんが」
「うるさいね、神風は他のコと向こうで待っててよ」
これ以上、追及を受ければ、マスターにあるまじき失態が判明しかねない。反撃される前に神風を追い払おうと、声を荒げた白鳳だったが、まるっきり想定外の相手から、核心を突くツッコミを入れられてしまった。
「お前、財布を落としたな」
「ぎくぅ。。」
「きゅるり〜」
金色の瞳が斜め後ろで冴え冴えと光を放つ。戦闘以外にはことごとく無関心な死神が、持ち物に関する指摘をするなんて。DEATH夫の一言で、瞬時に顔面蒼白になった白鳳を見て、誰もが自分たちが無一文になったことを悟った。
「げげ〜ん!!オレたち、すっからぴんかようっ」
「そんなあっ、この先、まだ5カ国以上回らないといけないのにっ」
「きゅるり〜っ」
ハチとまじしゃんの嘆息に続き、スイがチャイナ服の肩先でがっくりうなだれた。無論、スイの場合は路銀を失った事実より、兄がまたもや同行者へ迷惑をかけた罪悪感に打ちひしがれているのは言うまでもない。



年少組とは異なり、実質的にパーティーを切り回す神風・フローズン・オーディンは、ただ凹んでいるわけにはいかない。白鳳の信じがたいしくじりに対し、早速、真相を究明する尋問が開始された。
「・・・・どこで財布を紛失されたのです・・・・」
「おっかしいなあ、私には全然、心当たりがないんだけど」
「心当たりがなくても、現に見つからんのだろう」
「うん、入れておいた巾着と一緒に消えちゃったみたい」
「きゅるり〜」
真剣な表情の3人に引き換え、致命的なミスをしでかしたにもかかわらず、白鳳にはいまいち緊張感が感じられない。お気楽な主人を一瞥すると、神風は冷ややかに呟いた。
「やはり、白鳳さまに貴重な路銀を預けたのが間違いでした」
いつもなら旅費は小銭に至るまで、フローズンが単独で運用しているのだが、村へ入る時、どういう風の吹き回しか、白鳳自ら路銀を管理すると言い出したのだ。フローズンに頼りっ放しでは、お金の正しい使い方が覚えられない。曲がりなりにもマスターなのだから、たとえ不得意な分野でも、基本的な技能は習得すべきだ。そう説明され、神風たちは散々討論した末、白鳳の自主性を重んじることにした。だらしない白鳳が事務的作業に意欲を示すのは稀だし、長旅の間にはフルメンバーが揃わない場面もあろう。非常事態に備えて、真っ当な金銭感覚を養うのは、決して悪いことではない。白鳳が一人前のマスターに近づけるよう、思い切って首を縦に振ったのだが、皆の配慮が完全に裏目に出たようだ。
「そんな言い方しなくったっていいじゃない。一旦は許可しておいて、ほんのちょっぴり失敗したくらいで、全面的に否定するなんてあんまりだよ」
「・・・・ほんのちょっぴりではございません・・・・」
「そもそも、財布をなくさないよう、何らかの対策を講じましたか」
「保管場所や方法さえ工夫すれば、簡単に落としたりしないはずだが」
「もうっ、お小言はウンザリだよ。落としちゃったものは仕方ないじゃん」
「きゅるり〜っ」
従者の極めて妥当な意見に逆切れして、やけくそ気味に吐き捨てる兄が目に入り、スイは居たたまれない気持ちになった。大方、現金を預かった自覚も責任もなく、気軽にほいほい持ち歩いたのだろう。大事なものは懐深く仕舞い込むとか、衣服や身体の一部にくくりつけるとか、財産防衛の心遣いがこれっぽちもない。諸国を巡り続ける白鳳と男の子モンスターにとって、路銀はまさに命綱だ。そのくらい白鳳とて十分、承知していよう。にもかかわらず、最悪の失敗をやらかすあたりが、白鳳クオリティなのだろう。
「今回は片田舎ということもあって、白鳳さまは宿とダンジョンを往復しただけだから、紛失場所は限られてくるぞ」
「・・・・移動中に落としたとすれば、我々の誰かが気付くでしょう・・・・」
「ダンジョン内と推測するのが自然ですね」
「うむ、戦闘中のどさくさに紛れて、巾着が落下したのかもしれん」
聡明なお目付役はもはや白鳳抜きでどんどん話を進めている。主人たる自分を無視して、勝手に結論を出されたのが気に障り、白鳳は露骨な膨れっ面で問いかけた。
「今から、ダンジョンへ探しに行けって言うの?」
「白鳳さま、まだ財布が残っているとお思いですか」
「え」
神風に呆れ顔で切り返され、白鳳は口をぽかんと半開きにした。一見、要領が良さそうなのに、実のところ、相当抜けているあたり、生来の育ちの良さが滲み出ている。
「・・・・ダンジョンは生き馬の目を抜くところです・・・・」
「仮に財布はあっても、中身は空っぽだ」
「そ、そう。。」
「きゅるり〜」
ダンジョン内にアジトを作る盗賊までいるのだ。無法地帯とも言える空間に財布を落として、無傷で取り戻すつもりだったのは、あまりに見通しが甘過ぎた。もはや路銀は諦めざるを得まい。が、現金を失っても請求は消滅せず、1500ゴールドの重みは白鳳一行へずっしりのし掛かった。
「早く宿賃を払っていただけませんか」
フロント係の男性は、もたもたと精算を引き延ばす客に業を煮やし、当然の権利を主張した。白鳳はしばし紅唇を引き結んで、沈思していたが、改めてカウンターまで歩み寄ると、艶っぽい眼差しを流しながら言い返した。
「訳あって、お金は払えないんですよ。申し訳ありませんけど、この宿の責任者を呼んで来てください」
「お金が払えないって、まさか宿泊料を踏み倒す気なのかっ」
「ふふふ、どうでしょうね」
「うわっ、な、何をっ!?」
支払いを拒否され、血相を変えて怒鳴る二重顎に、白鳳の冷たい指先が蔦のように絡みついた。紅の双眸から放たれる妖しい色香が、気の毒な子羊の背筋を凍り付かせる。ノン気の一般男性にとって、百戦錬磨の××者の手管は、お試し程度でも刺激が強すぎた。ただでも気弱そうなフロント係は恐怖とおぞましさで口をぱくぱくさせるばかりだ。相手が気圧されているのを察した白鳳は、好機を逃さず一気に畳み掛けた。
「やかましいっ、とっとと呼んで来ないと、この場で犯しますよ!!」
「ひいいっ」
明けすけな脅しで止めを刺され、とうとう我慢の限界を超えたに相違ない。フロント係はゼンマイ仕掛けの人形みたいに踵を返すと、足を縺れさせながら、這々の体で奥へ駆け込んでいった。



ある意味、モンスターより始末が悪い、腐れ××野郎と遭遇した哀れな犠牲者を見送りつつ、白鳳はしてやったりとほくそえんだ。
「さ〜て、これからが腕の見せどころだよ」
「・・・・いったい、どうなさるおつもりなのです・・・・」
「平和的に話し合うに決まってるじゃない」
白鳳の表向き妥当な方針に、ハチとまじしゃんは高らかに賛同の意を示した。
「そだな、話し合いが一番だ」
「悪意はなかったんだし、事情を説明すれば、きっと理解してくれますよっ」
ひとりと1匹の可愛い味方を得て、白鳳は嬉しげに目を細めた。しかし、それ以外のメンバーはそつのない言葉の裏に隠された企みをすでに察知していた。単に話を通すだけなら、フロント係でも問題ない。なのに、責任者との対面を望むあたり、白鳳の黒い思惑が見て取れる。一同はため息混じりに目くばせをすると、総意を伝えるべく、神風がおもむろに切り出した。
「白鳳さま、まじしゃんたちは騙せても、我々は騙せませんよ」
「騙すって・・・随分、人聞きの悪い言い方するじゃない」
「白鳳さまの計略は分かっています。責任者を色仕掛けでたらし込み、宿賃をチャラにしてもらって、あわよくば路銀まで巻き上げようと目論んでいるんでしょう」
「はうっ」
「きゅるり〜っ。。」
白鳳の腐った思考回路を把握し切った、年長組&スイに隠し事は出来なかった。失態に対する反省も後悔も感じられない、白鳳のあくどいやり口は当然、皆の糾弾の的となった。
「どこが平和的な話し合いなんだ」
「・・・・客観的に見ても、非はこちらにあるのに、詫びるどころか支払を免れることを狙うなんて・・・・」
「宿賃を工面する方法を、真面目に考えるべきです」
けれども、白鳳はお目付役の叱責もどこ吹く風で、開き直りとしか思えない反論を述べた。
「アクシデントが生じたら、知恵と度胸とお色気で賢く乗り切るのが、優れたマスターというものだよ」
「お金の工面より、責任者が好みのオトコか否かで、頭が一杯のくせに」
小賢しい屁理屈に負けず、神風は刺々しい口調で吐き捨てた。またもや、本音をズバリ言い当てられ、白鳳は頬を紅潮させて言い返した。
「なら、他に適切な手段があるっていうの」
「まず、真っ当な道へ立ち返って、検討して下さい」
「私はいつだって真っ当だもん」
「色仕掛けのどこが真っ当なんです」
「色仕掛けのどこが悪いのさ」
「そもそも、手持ちがなければ、銀行で下ろせばいいじゃありませんか」
果てしない平行線が続く白鳳と神風が、睨み合って火花を散らしたその時だった。フロント係のSOSに呼ばれた責任者が、奥の部屋から現れた。堂々たる体躯を揺すりながら、カウンターの前にのっそり歩み出たのは、赤ら顔の中年婦人だった。
「あたしがこの宿の責任者だよ」
「が〜〜〜〜んっ!!」
「きゅるり〜♪」
なんと、白鳳の期待を裏切り、宿の責任者は女性だった。すっかり当てが外れ、呆然と佇む白鳳の傍らで、神風・フローズン・オーディンが忍び笑いを漏らした。これまでのやり取りに全く無関心だったDEATH夫でさえ、堪え切れず、微かに口元を綻ばせている。
「あんたたち、無一文だって聞いたけど、宿賃はどうしてくれるんだい」
「・・・・銀行に行けば、預金があります」
計画が根本的に頓挫して、白鳳は仕方なくまともな対策を提示した。無銭宿泊で警察沙汰にされては堪らない。ところが、悪巧みの報いか、事態は上手く運ばなかった。
「あいにく、寂れた村だから銀行はないよ。山ふたつ越えた街まで行かないと」
「そ、そんなぁ」
女将の回答には白鳳のみならず、男の子モンスターたちも落胆した。銀行が利用不可能だとすると、すぐには旅費を調達出来そうにない。
「・・・・いかがいたします、白鳳さま・・・・」
「まさか、銀行がないとは思わなかったな」
「街まで行って、送金するとしても、距離があり過ぎて信用して貰えそうにないし」
全員を解放したら最後、ハイそれまでよとトンズラされても文句は言えない。宿側も債権回収のため、確実な保証を求めるはずだ。
「・・・・代表者が銀行へ行くか、もしくは担保を置いて出発するしかございません・・・・」
「捕獲のことを考えれば、移動が遅れるのは好ましくないよねえ。となると、やっぱ担保かな」
とは言うものの、余分な荷物は所持してないので、物的担保は用意出来ない。残念ながら、パーティーが選べる道は人的担保、つまり人質だけだった。意に添わない結論が心苦しいのか、神風はやや躊躇いがちに提案した。
「やむを得ません。宿賃が届くまで、誰かをここへ残しましょう」



仲間たちの苦渋の決断を受け、まじしゃんが真っ先に名乗りを上げた。
「僕が残りますっ。白鳳さまや皆は安心して旅立って」
冗談じゃない。純粋且つ、一途に慕ってくれる健気な少年魔導師と片時でも離れられるものか。白鳳は間髪を容れず、まじしゃんの申し出を断った。
「ダメダメ、可愛いまじしゃんを置き去りには出来ないよ」
「それに、まじしゃんの魔力は戦闘の有無に関わらず必須だ」
「・・・・ええ、まじしゃんがいなくては、魔池の補充もままなりません・・・・」
同じ魔法系でも氷に特化したフローズンと異なり、まじしゃんの力はあらゆる局面で役立つ。たとえ数日でもパーティーから抜けるのは痛手だ。
「う〜ん、不在でも影響の出ないコじゃないとね」
ダンジョンでの活動を考慮すると、神風・オーディン・DEATH夫は外せないし、順調に旅を続けられるのは、事務に明るいフローズンがいればこそだ。パーティーでは誰もが固有の役割を担っており、補充の利かないギリギリの状態ではあるけれど、現状は非常に理想的な構成だった。
「なあなあ、はくほー、どうすんだ」
「おや」
胸元を上下する一寸の虫と目が合った。パーティーの潤滑油ではあるが、料理の味見を除けば、捕獲でも実務でもさして出番はない。正直、宿へ残しても活動に支障はなかろう。しかも、ハチさえいなければ、お供は名実共に美形軍団だ。妄想がそこまで至ると、白鳳はたおやかな手で、ハチの首根っこをむんずと掴んだ。
「なんだよう」
「ハチ、しばらく会えないけど、達者でね」
「げげ〜ん!!イヤだようっ、放せようっ」
白鳳にすげなくあしらわれ、ショックで顔に縦線が入ったハチは、短い手足をばたつかせて、懸命に抵抗した。だが、奮闘虚しく、カウンターテーブルへぽてんと放り投げられてしまった。
「宿賃は必ず街から送金します。証文代わりに、ハチを預けて行きます」
「こりゃあ、男の子モンスターかい。随分ちっこいんだねえ」
掌サイズのモンスターが珍しいのか、女将はハチをまじまじと眺めている。
「万が一、お金が届かない場合には、煮るなり焼くなり好きにどうぞ」
「待っちくりっ!!ひょっとして、はくほー、このままオレを見放すんかっ」
白鳳のそっけない様子に、かつてきゃんきゃん党に引き渡されかけた、暗い過去が甦ったらしい。もちろん、白鳳はハチを放逐しようとは、露ほども考えていない。ハチはソーダ水のチェリーやカレーのらっきょうと同じく、本体を引き立てる上質なスパイスだ。おへちゃなみそっかすに見えても、掛け替えのない存在なのだ。ハチの悲痛な叫びを、白鳳は即座に否定した。
「・・・・そんなことないよ」
すぐ答えたつもりだったが、美貌の従者だけを侍らせる白日夢に酔いしれた分、わずかに反応が遅れた。中途半端なタイムロスに、神風・オーディン・フローズンはまなじりを決して、白鳳を睨みつけた。
「白鳳さま、今の間はなんです」
「本気でハチを置き去りにするつもりなのか」
「・・・・惨いことを・・・・」
「きゅるり〜」
白鳳に対する仲間の糾弾で、”かあちゃん”の真意を誤解したハチは、カウンターに突っ伏して号泣し始めた。
「お〜い、おいおい、あんまりだ〜っっ」
「ハチを捨てるなんて、言ってないじゃない」
早合点で非難する3人に緋の視線を向けると、白鳳は改めてハチの疑惑を打ち消した。もっとも、白鳳自身も悪ふざけが過ぎたことは否めない。泣きじゃくるハチを優しく掌へ移すと、白鳳は素直に頭を下げた。
「からかって済まなかったね。もう、泣くのはおよし」
「うえ〜っ、オレはいつまでもはくほーと一緒だよなっ」
「うん、ずっと一緒だよ」
情のこもった囁きが耳に入るやいなや、単純なハチはあっさり立ち直り、両手を振り上げてにぱっと笑った。
「おうっ、嬉しいぜ、かあちゃん」
「ナチュラルにかあちゃん言うな」
「あてっ」
白鳳が繰り出したデコピンに吹っ飛ばされたハチは、にんまり顔のままでカウンターを越えると、女将のなだらかな三段腹に激突した。ハチを拾い上げた女将は、ドスの利いた重低音で白鳳主従へ問いかけた。
「結局、誰が証文代わりになるんだい」
「え、え〜と」
「きゅるり〜」
重量挙げの選手でもおかしくない、逞しい女将に圧倒され、白鳳は生来の傍若無人さが影を潜め、たじたじになっている。××の奥義が使えないだけに、おばちゃん相手だとかえってやりにくいのだろう。困り果てる主人を見かね、神風は自分なりの最善策を口にのぼせた。
「でしたら、我々が料金に見合う分、宿屋のお手伝いをさせていただきます」
「あんたたちがうちで働くって言うのかい」
「はい」
生真面目な神風らしい案を、一同は快く受け容れ、前向きなコメントを述べた。
「誰かを残して行くより、全員で手伝った方がいいよねっ」
「・・・・数日程度なら、大勢に影響はございません・・・・」
「今のところ、切羽詰まった予定もないしな」
「オレっ、オレっ、頑張って働くぞ〜っ」
「きゅるり〜」
誰ひとり犠牲にせず、窮地を凌げる良い方法が見つかり、メンバーは満足げにうなずき合っている。でも、根っから怠け者の白鳳は納得出来ず、整った眉をたわめると、嫌味たっぷりな物言いでぼやいた。
「どうして、場末の宿屋で無料奉仕をしなきゃいけないのさ」
「お前が財布を紛失したからだ」
「うううっ」
白鳳にも増して、不機嫌の極みのDEATH夫が容赦なく打ち据えた。確かに、白鳳さえ財布を落とさなければ、今頃は山のふもとへ移動すべく、仲良くうし車に乗っていたはずだ。どう取り繕おうと、足止めの原因を作った当事者に、宿屋での勤労を拒む権利などないし、多数決に持ち込んだところで勝算は皆無だ。さすがの白鳳も完全な諦めムードを漂わせていた。
(あ〜あ・・・せめて、私好みの良いオトコが泊まりに来てくれないかなあ)
もはや、反抗する気力も失せ、白鳳は男の子モンスターと共に、宿屋の下働きに甘んじるのだった。


TO BE CONTINUED


 

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