*MAYSTORM〜2*



規模の大小を問わず、宿屋の従業員の朝は早い。客の都合に対応出来るよう、フロントは早朝から人を置いているし、食事の支度やそれに伴う買い出しも欠かせない。この村唯一の宿も例外ではなく、誰もが明け方近くから、忙しく立ち働いていた。
「おばちゃん、蜂蜜採ったー」
朝の光を背に、ハチがはじけ豆のごとく飛び込んできた。全長より大きな瓶を抱えた、懐っこい虫が近づくと、気が急いて険しくなった女将の顔も思わず緩む。
「ご苦労さん、今日もたくさん採れたねえ」
「あたぼうよ」
ハチはえっへんと腹を突き出し、ガラス瓶を女将へ手渡した。次の指示を待ち、意欲満々で鼻の穴を膨らませるハチに、女将が綿棒を数本差し出した。
「じゃあ、頼んだよ」
「ほい来た」
ハチは綿棒をしっかと握り締め、一直線にフロントを通過し、廊下の奥を目指した。突き当たりの部屋では、フローズンとまじしゃんが掃除をしている。不特定多数の者が出入りする建物は、まめに手入れしなければ、清潔感を保てない。清掃も従業員の大事な役目のひとつだった。
「ふろーずん、まじしゃん、待たせたなー」
半開きのドアをすり抜け、綿棒を掲げて登場したハチを、雪ん子と少年魔導師は穏やかな笑みを浮かべ、迎え入れた。
「ハチ、おかえりっ」
「・・・・別に慌てなくてもよいのです・・・・」
「うんにゃ、ちょっとでも皆の役に立ちたいかんな」
蜂蜜採りは日課なので、宿のためと言っても、いつもの作業をしているだけだ。ハチとしては、もっと特別な作業で手助けをしたいらしい。ハチの前向きなやる気を汲み取って、フローズンは雑巾がけの手を休めることなく、おっとり言いかけた。
「・・・・でしたら、この柱時計の中をお願いいたします・・・・」
掌サイズは床や壁を磨くには不向きだが、狭い隙間や細かい部品だと、そのちっこさが逆に利点となる。つまり、綿棒はハチ専用の清掃用具なのだ。
「小さなネジや歯車が多いから、気をつけてねっ」
「おうっ、任せとけ」
まじしゃんのアドバイスに、即答したハチは、振り子の脇から小太りの体躯を潜り込ませ、注意深く綿棒を操り始めた。フローズンとまじしゃんはハチの様子をしばし眺めていたが、意外な手際の良さに大丈夫と判断したのか、おもむろに仕事を再開した。モップで床を擦るまじしゃんの傍らで、背伸びしつつ大きな窓を拭くフローズン。ふと外へ目を遣れば、中庭で仲間が作業に勤しんでいるのが見えた。オーディンが割った薪を、神風が適宜に纏め、いくつもの束をこしらえている。彼らは外回り組で、主に力仕事や使い走りの担当だ。パーティーが宿で働き始めてから、早2日が経過しており、男の子モンスターたちはその真面目で優れた勤務ぶりゆえに、すっかり女将や他の従業員の信頼を得ていた。



朝のノルマを終えたメンバーは、従業員用の居間で、やや遅めの食事にありついた。焼き魚と山菜の煮物がメインの質素な献立だが、素材の味を生かした薄目の味付けに加え、身体を動かして空腹状態なので、ハチならずとも実に食が進む。木造の丸テーブルを囲み、4人と1匹は箸を動かしながら和気藹々と語らった。
「実際に作業をして、宿の仕事の大変さが初めて分かりました」
「オレ、メシのことしか考えてなかったけど、いろいろ手間かかってんだなー」
「快適な環境を作るには、大勢の人々の力が必要ということだ」
「・・・・お金を払ったから、サービスを受けるのが当たり前だと考えてはいけません・・・・」
「うん、常に感謝の気持ちを忘れないようにしなきゃねっ」
まじしゃんの締め括りに同意して、全員、神妙な面持ちで頭を縦に沈めた。好きこのんで、宿の下働きとなったわけではないが、従者たちはどんな経験も決してムダにしないで、己の成長の糧としていく。それに引き換え、彼らのマスターたる白鳳は、過ちに対する反省も後悔もなく、成長などという言葉とはまるっきり無縁だった。
「ふああ・・・おっはよう」
居間の扉が無造作に開け放たれ、右肩へスイを乗せた白鳳が、寝ぼけ眼をこすりつつ、のろのろと入ってきた。大あくびと共に、伸びをする紅いチャイナ服には、労働に取り組む気配は微塵もない。
「ど〜お、皆、仕事には慣れた?」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「きゅるり〜。。」
目一杯能天気な口調で問いかけられ、年長組は白鳳を生温かく見据えた。不肖の兄を恥じて、うなだれるスイとは対照的に、白鳳はこれっぽちも悪びれず、あからさまな非難の視線を不満げに睨み返した。
「ちょっとぉ、どうしてそんな目で見るのさ」
「白鳳さまに尋ねられる筋合はありません」
「・・・・女将さんがおっしゃるのなら、理解できますけど・・・・」
「え〜、私は皆のマスターなのに」
誰が原因で、彼らが宿屋の臨時従業員になったのか、鳥頭の白鳳は綺麗さっぱり忘れ切っている。いや、自分に都合の悪い事実のみを消去する、便利な脳みそと言うべきか。とにかく、神風やフローズンの正論を無視して、あくまで勤労とは無縁の姿勢を崩さない白鳳だったが、世の中、そこまで甘くない。不穏な空気を物ともせず、デザートの果実を手に、宿の女将が現れた。
「このコたちの言うとおりだよ」
「げげっ」
相手がオトコならば、説得や撃退は意のままだが、おばちゃん相手ではせっかく培った××テクニックも使いようがない。ある意味、もっとも扱いづらく手強い難敵だった。
「男の子モンスターを働かせて、あんたひとりのうのうと遊び呆けているなんて、いったいどういう了見なんだい」
「きゅるり〜っっ」
我が意を得たりとばかり、スイが声を張り上げた。なんと、2日の間、白鳳はお供に労働を押し付け、自分は暢気にくつろいでいたのだ。全員に厳しく弾劾され、初っ端こそ嫌々作業に取り組んだものの、筋金入りの怠け者はここが痛い、あそこが苦しいとでっち上げの不調を訴え、あっけなくリタイヤしてしまった。主人の嘘八百を見抜けない年長組ではないが、白鳳に無理やり仕事をさせるより、自ら働いた方が遙かに手間暇かからない。やむを得ず、今回は心ならずも白鳳のワガママを許す形となっていた。当然、女将も納得いかなかったはずだが、真摯に勤める男の子モンスターに免じて、見て見ぬ振りをしていたのだろう。けれども、白鳳のあからさまな開き直りを目の当たりにすると、さすがに腹の虫が収まらない。そんな一同の複雑な感情を逆なでするごとく、白鳳はいけしゃあしゃあと切り返した。
「仕方ないでしょう、繊細な私は肉体労働に不向きなんです」



屁理屈にすらならない、白鳳の言い訳に呆れ、従者たちは女将を差しおいて、口々に胸に溜まった鬱憤を吐き出した。
「・・・・体力が要らない仕事はいくらでもございます・・・・」
肉体の強靱さでは、小柄なフローズンは白鳳に及ばない。そのフローズンがこなせる作業が、白鳳に出来ないわけはない。第一、閨の中では底無しの体力を誇っているくせに、ご都合主義のこじつけもいいところだ。
「忘れたんですか、我々は白鳳さまの尻拭いで働いているんですよ」
「うむ、少しは宿の人にも誠意を見せたらどうなんだ」
「きゅるり〜っ」
400%妥当な意見へ抗う術もなく、白鳳はきゅっと下唇を噛んで沈黙した。明らかに旗色が悪い。とどめを刺される前に、ぐうの音も出させない完璧な理論を展開しなければ。しかし、いくら頭を捻っても、湧いて出るのは冷や汗ばかり。窮地に立たされた白鳳は媚びた上目遣いで、お目付役の機嫌を窺ったが、堪忍袋の緒が切れた彼らは、もはや視線を合わせようともしない。
(うううっ)
が、白鳳はまだ四面楚歌ではなかった。主人を無邪気に慕うまじしゃんとハチは、屈託なく破願すると、躊躇わず救いの手を差しのべた。
「信頼して任せてくれるのは嬉しいけど、僕、白鳳さまと一緒に仕事したいなっ」
「そだ、そだ、はくほーも参加しようぜー」
年少組の誘いに感激して、心を入れ替えるのならまだ可愛い。でも、悲しいかな、真性××野郎はそんな殊勝なタマではなかった。部屋に集った面子を見遣るうち、不意に、この場にいない死神を思い出したのだ。
「ふんだ、私ひとりが遊んでるみたいに叱るけど、DEATH夫だって何もしてないじゃん」
こういう場面で、己の非から目を逸らさせるべく、必ず他人を引き合いに出すのが白鳳の悪い癖だ。DEATH夫がまともに働くのなら、私も手伝ってもいいと続けるつもりなのだ。壊滅的に生活能力が無いDEATH夫に、普通の労働が出来るものか。これで楽ちんな日々は、まだまだ安泰に違いない。だが、白鳳の目論見も虚しく、神風は事務的な声音で、冷ややかに言い返した。
「白鳳さま、DEATH夫はちゃんと仕事をしています」
「嘘ぉ、玄関の前で、ぼうっと突っ立ってるだけでしょ」
所在なげに立つ黒ずくめのシルエットを何度も目撃した。あれなら、ソファで転がる自分とさして変わるまい。けれども、フローズンの説明は、白鳳の期待した回答とかけ離れていた。
「・・・・宿の用心棒をしているのです・・・・」
「ああ、冒険者崩れのならず者が来なくなって、とても助かってるよ」
「そ、そう」
女将にだめ押しされ、白鳳は最後の抵抗も効果がなかったことを悟った。役目自体は、戦闘以外使えないDEATH夫をフォローした苦肉の策だが、部屋でぐうたらする白鳳より、よっぽど役立っているのは確かだ。それに、白鳳はDEATH夫とは異なり、能力があるのに働かないのだから、ただの自堕落な怠け者である。いよいよ追い詰められた白鳳は、皆の糾弾をてっとり早く逃れようと、仕方なく妥協案を提示した。
「じゃあ、私がDEATH夫の代わりに用心棒になる。暇なときは、客引きだってやっちゃうから、DEATH夫なんかよりずっとお得だもんね〜♪」
「ダメです、白鳳さまには任せられません」
「きゅるり〜」
「え〜っ、なぜなのさ」
瞬時に却下され、整った眉をたわめる白鳳を一瞥すると、神風はウンザリした表情で呟いた。
「白鳳さまを玄関に置いたら最後、どんな恐ろしい状況が出来上がるか、想像しただけで背筋が凍り付きます」
長旅の間、不祥事の後始末に悩まされてきた神風たちは、白鳳の腐った思考回路など、1から10までお見通しだった。
「・・・・好みの男性客だけに色目を使い、手段を選ばない強引な客引き・・・・」
「風俗店顔負けの露骨なアピールで、宿の品性も評判もがた落ち」
「下手すると営業停止になるかもしれんな」
「・・・・それのみで済めばまだしも、××者の巣として噂が立ったら、旅人は誰も寄りつかなくなります・・・・」
「きゅるり〜」
変態の言動で宿が被る被害を段階別に聞き、女将も思い当たる節があったのか、赤ら顔をいっそう紅潮させ、白鳳をぴしゃりと怒鳴りつけた。
「あんた、あたしが苦労して大きくした宿を潰す気かいっ!!」
当の白鳳は迫力満点の怒号に肩を竦めたものの、ここまで疎まれる原因がピンと来ない。お気楽な白鳳の脳内では、世界中のオトコは自分の誘いを待ち望む、愛しい獲物だった。
「んもう、人聞きの悪いことばっか言わないでよ」
「人聞きも何も、我々は客観的に見て、当然起こりうる可能性を述べたに過ぎません」
「そんなあっ」
ほんの数日交流した宿の女将ですら、一同の予測を否定しないのだ。白鳳が第三者に災いを及ぼす危険人物なのは、紛れもない事実だった。



神風に容赦なく指摘され、怯んだ白鳳を見逃さず、フローズンが畳み掛けるように言い渡した。
「・・・・白鳳さま、観念して、地道に働いたらいかがです・・・・」
「きゅるり〜」
だが、優雅なごろ寝ライフを手放したくない白鳳は、なおも見苦しいあがきを続けた。
「DEATH夫の例でも分かるように、仕事は適材適所が肝心なんだよ。私だって、厨房を仕切らせてくれたら、一所懸命働いたのに」
この弁明に偽りはなく、調理関連ならやる気はあったのだが、自信満々で申し出たにもかかわらず、あっさり断られ、白鳳のプライドはいたく傷付いた。
「食事はうちの亭主が作ってるんだから、他人の手を借りる必要はないよ」
あの時と一言一句違わぬセリフを返され、白鳳は完全にふてくされた。××の手練手管と同様、料理の腕には絶対の自信を持っている。片田舎のへっぽこ調理人に劣るわけがない。負けず嫌いで大人げない白鳳は、己の手腕が優ると証明せねば気が済まず、スイと戯れる食のエキスパートに話を振った。
「ねえ、ハチ、宿の食事より私のご馳走の方が美味しいでしょ」
「んだ、かあちゃんの料理は世界一だ」
「さすが、ハチは本物の味を知ってるねえ」
望み通りの評価を得て、白鳳は”かあちゃん”呼ばわりに目をつぶり、真ん丸頭を優しく撫でた。しかし、ハチのコメントはこれで終わらず、次の一言で白皙の美貌が凍り付いた。
「でも、おっちゃんの料理もなかなかだぞー」
「な、何を言うのさ」
「ほら、ご覧」
肩をそびやかした女将が、分厚い唇の端をつり上げた。頭に血が上った白鳳は、諸手でハチの首をひっ掴むと、ぶんぶん揺さぶりながら問い詰めた。
「ハチ、正直にお言いっ。私の方が比較にならないくらい美味だってっ」
「ぐええええっ」
「・・・・首を絞められれば、口をきくどころではございません・・・・」
フローズンにやんわりたしなめられ、白鳳は渋々ハチを解放した。ハチはくっきり指の跡がついた首筋を叩きつつ、奇譚のない感想を述べた。
「う〜ん、はくほーとおっちゃんの料理は、別物の旨さだから比べられないな」
「ば、バカな」
愕然とする白鳳を尻目に、男の子モンスターたちは続々とハチの見解に賛同した。
「あ、僕にも何となく分かるよっ」
「ここの料理は白鳳さまのものとは別次元の魅力がありますよね」
「うむ、お互いそれぞれの良さがある」
「きゅるり〜♪」
全体に漂う高級感や味付けの上品さは白鳳に軍配が上がるが、素朴な家庭の味としては、宿の食事も捨てがたい。フルコースと酒のつまみに、二者択一では割り切れない特長があるごとく、方向性の違う対象に、無理やり優劣をつけることはないのだ。しかし、絶対的な優位を否定された白鳳はムカつきのあまり、心の母に身贔屓しないハチへ声高に喚いた。
「この薄情者っ!お前とはもう母でも子でもないよ」
「げげーん!!あんまりだ〜っ!!」
”かあちゃん”にすっぱり縁を切られ、ハチのどんぐり眼に涙が滲んだ。もちろん、白鳳の心ない暴言を黙って見過ごす仲間ではない。
「ハチに八つ当たりするなんて最低です」
「・・・・白鳳さまは得意分野で楽をしたいだけなのでしょう・・・・」
「たまには逃げずに、苦手な作業へ挑戦すべきだ」
神風・フローズン・オーディンの言い分はことごとくもっともだ。正面から逆らっても、更なる集中砲火を受けるのがオチだと察し、小狡い白鳳は速やかに話題を転換した。
「く〜っ、村に銀行があれば、こんな羽目にはならなかったのにっ」
白鳳の責任転嫁も行き着くところまで行き着いた。どうあっても自らの帰責事由を認めたくないらしい。
「それは財布を落としたこととは別問題です」
「・・・・財布を無くさなければ、銀行だって要りません・・・・」
主人の扱いに慣れたお目付役は、稚拙なすり替えに誤魔化されたりしない。かえってやぶへびとなった白鳳は、支離滅裂の理論を展開し出した。
「山ふたつ越えないと、隣街まで到着しないなんておかしいよ」
地理条件まで持ち出したのは、完璧に追い詰められた証拠だ。これで手強い連中を説き伏せられるとは思っていない。ところが、白鳳の愚痴に反応して、女将から意外な証言が飛び出した。
「本当なら、もっと近道があるんだよ」
「え」
「きゅるり〜」
「・・・・近道とおっしゃいますと・・・・」
「川沿いに進んで、吊り橋を渡れば、半日で街へ行けるんだけど、ひと月前から橋の近くにモンスターが出るようになったんだ」
要するに、モンスターさえ出現しなければ、主人の尻拭いのため、タダ働きをしなくて済んだのだ。宿屋での貴重な経験は後悔していないものの、皆は複雑な面持ちで顔を見合わせた。



女将の説明によると、ダンジョンの最奥にいる高レベルのモンスターが、なぜか複数で川沿いに現れたせいで、村人たちは回り道せざるを得なくなったという。戦闘力のない一般人にモンスターは倒せないし、村に滞在した冒険者の類はひとりも力を貸してくれなかったそうだ。
「あたしらの村は小さくて、たいした礼も出来ないから」
ダンジョンを探索する輩は、富や名声目当ての小悪党も多い。さしたる見返りも期待できないと考え、村の窮地を承知しながら知らぬ顔を決め込んだに相違ない。
「全く利己的な連中ばかりだな、許せん」
正義感の強いオーディンは、両の拳を握り締め、こみ上げる怒りを隠さない。他のメンバーとて、穏やかな気持ちではいられまい。人間以上に情が深く、思い遣りのある彼らなのだ。心優しいお供の内面を汲み取り、白鳳は間髪を容れずに切り出した。
「分かりました。我々がモンスターを撃退してあげましょう」
「あんたたちが!?」
「こう見えても、私、モンスターハンターなんです」
”男の子”を抜かしたあたり、微妙に見栄を張っているが、当地に生息するモンスターなら、7分の力でもまず負けることはない。白鳳は自信たっぷりに微笑むと、掌で軽く胸元を叩いた。見かけこそ強面だが、根は気の良い女将は、思わぬ申し出に喜びつつも、恐縮してぺこりと頭を下げた。
「余計な手間をかけて、かえって済まないねえ」
「いえ、罪もない人々が困っているのに、手を拱いているなんて出来ません。モンスターは必ず倒しますから、どうか安心して下さい」
「あたしゃ、あんたのことを誤解してた。人の真価は非常時になって分かるものだよ」
「うふふ、理解していただければいいんです」
「白鳳さま、立派ですっ。僕、白鳳さまにお仕え出来て幸せですっ」
「おうっ、はくほー、輝いてるかんな」
「まじしゃんもハチも少し褒めすぎじゃない。まあ、それほどでもあるけどさ」
「「「・・・・・・・・・・」」」
「きゅるり〜。。」
白鳳の一見、善意の宣言に、素直に感激しているのは、女将と年少組だけで、残りのメンバーは空々しいやり取りを苦い顔で聞いていた。白鳳がモンスター退治を買って出たのは、派手で注目される役目の方が、地道な作業よりやり甲斐を感じるからだ。他者の利便など二の次三の次で、見事、モンスターを粉砕して、村人(男限定)にチヤホヤされる姿を妄想したに決まっている。事実、さっきまで死んだ魚みたいだった瞳は、真紅の輝きを取り戻していた。
(ようやく、面白い展開になってきたよ)
捕獲のノルマもなく、好き放題暴れまくった末、皆の称賛が得られるとは、これほど美味しい仕事があろうか。村の恩人という立場を利用すれば、複数のオトコに伽をさせることも夢ではない。
「よ〜し、私の・・・いえいえ、村の明るい未来のため、モンスター退治、頑張るぞ〜♪」
ともすれば、溢れる下心で緩む口元を引き締め、自らに活を入れる白鳳だった。



TO BE CONTINUED


 

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