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 *プレゼント*
 
 あのひとに英語の辞書を貰った。
 中庭の焼却炉までゴミを捨てにいったため、すっかり遅くなってしまい、
 慌てて教室に戻ると、あのひとがひとりきりでぽつねんと立っていた。
 他のクラスメートは、すでに皆帰ってしまったらしい。
 「僕を待っていてくれたのかい?」
 
 ちょっぴり感激して、笑みを堪えながら尋ねてみる。
 あのひとはそれには答えず、一直線に紙包みを差し出して、
 ぶっきらぼうに「受け取れ。」とだけ言った。
 「えっ!どうして、僕に?」
 
 嬉しいけれど、貰う理由がない。
 確かに今月は僕の誕生日があったけど、もう二週間も過ぎてしまっている。
 結構、他の連中には軽いノリで「プレゼント待ってるよ〜♪」とか
 PRしまくっていたくせに、肝心のあのひとには
 とうとう教えることが出来なかった。
 「訳なんてない。」
 
 あのひとは、まるで怒ったかのように語気も荒く言い放つと、
 帰り支度をしている僕を残して、さっさと教室を出て行ってしまった。
 せっかく、久々にいっしょに帰れるかなと淡い期待をしていたのに。
 仕方がないので、手渡された包みを確かめてみる。
 
 どうしたんだろう。馬鹿に包装が薄汚れているなあ。
 まるであちこち持ち歩いたみたいだ。
 これ、ホントに僕のために買ったものなのかなあ。
 少し不安な気持ちで、僕は恐る恐る包みを開けた。
 中に入っていたのは英語の辞書。
 
 それも普及版じゃなくて、革表紙の高級品だ。
 そして、名刺大のメッセージカードには”誕生日おめでとう”と一言。
 これで僕は全てを理解した。
 あのひとは僕の誕生日を知っていた。
 プレゼントも当日に間に合うように用意していた。
 ただ、今まで渡すことが出来なかったんだ。
 全く困ったひとだなあ。
 
 そろそろ五十に手が届こうというのに、こんなにシャイでどうするんだよ。
 ・・・・・・・・・だけど、ギリギリ9月だし、今回だけは許してあげてもいいかな。
 その代わり、来年の誕生日には、一日中僕とデートしなきゃ駄目だけどね(^o^)。
 
 
 
 TO BE CONTINUED 
  
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