二 人 へ

 

 

 

午後11時50分――

6月10日も、あと10分で終わってしまうその時間、光熱斗と彼のカスタマイズナビロックマンは、熱斗の部屋で『人』を待っていた。

勉強机の上のパソコンは電源が入れられたままになっており、ロックマンもパソコン内で待機している。

いつも片付いている机の上は、今日はいくつもの箱や袋が置かれていた。色とりどり、形も大きさも様々な包みは、軽く10以上はある。

 

今日は、光熱斗の誕生日だった。

 

「しっかし驚いたよなー」

 

熱斗は椅子に寄りかかり、天井を仰いだ。

 

「テスラからもメールが来るなんて思わなかったよ。

相変わらず忙しいんだろ?」

『うん。ガウスコンツェルンの経営は、IPCと同じぐらい順調だって、マグネットマンも胸張っていたし』

「そりゃ凄いや」

 

青いネットナビは、今日届いたメールを、もう一度取り出した。

 

『僕も今日は忙しかったよ    嬉しかったけどね』

 

ロックマンは笑いながらメールの束を確認する。

今日一日で熱斗に    ロックマンに届けられたメールは、伊集院炎山を皮切りに、メイル、デカオ、やいとや透といった元クラスメイト達に、ライカやプライド、燃次にジャスミン、ディンゴといったクロスフュージョンメンバー、名人や闇太郎、などなど、軽く20人は越えていた。

マハ・ジャラマからは『いつもご利用ありがとうございます』というメッセージと共に、マハ壱番の割引クーポン券が届けられた。

    さすがに、ダークミヤビとシャドーマンからは、無かったが。

熱斗の誕生日に届けられたそれらのメールの数々は、それだけ熱斗が皆に愛されている、ということだ。オペレーターが皆に愛されている、というのは、ナビであるロックマンにとっても非常に嬉しいことだ。

けれど。

けれど、もう一人    絶対に来るはずだと、二人が信じて疑わないメールが、まだ届いていなかった。

だから、二人は起きて待っていた。

“彼”の来訪を。

とはいえ、熱斗の誕生日終了まで十分をきったとなると、心配になってしまうのも人情というものだ。

 

『……でも熱斗君、来なかったらどうしよう』

 

ロックマンが心細げに呟いたのも、無理のないことだった。

 

「来るさ!!絶対!!」

 

ロックマンの不安を、熱斗は力強く否定する。

 

「だってお前やサーチマンと同じぐらい生真面目なんだぜ。俺の誕生日に来ない訳ないって!!」

『……だと、いいんだけど    』

 

”彼“の生真面目さは知っているが、同程度かそれ以上に、”彼“自身が”彼“の存在を危険視しているための警戒心というか、距離を置こうとする遠慮のようなものも、ロックマンは知っている。そのため、彼の天秤がどちらに傾くのか、はなはだ不安だった。熱斗の誕生祝と、『世界』に対する警戒と、”彼“はどちらに重点を置くのだろうか、と。

 

「それにさ」

 

不意に声を落として、熱斗は箱と袋の山から、一つの箱を手に取った。

緑色の下地に、金字のロゴが入った包装紙に包まれていた箱だ。それには小さなカードも一枚、添えられていた。

 

「バレルさんからのプレゼントの話もあるし。やっぱ、話したいと思うんだ、あっちも」

 

そのまま、箱を二、三回、手の中で振ってみる。

 

「まさかバレルさんが、俺の誕生日プレゼント買っててくれたなんて思わなかったもんな」

 

その箱から熱斗は一本の万年筆を取り出した。天井の明かりに透かしてみると、目も覚めるような青いボディーが光を閉じ込めているようにすら見えて、うっすらと目を細める。

今日熱斗に贈られたプレゼントの中には、数年前に亡くなったバレルからのものも含まれていた。

“デューオの試練”の開始と時をおかず    けれどこの世界では”デューオの試練“自体がなくなっているのだが    急速に老化したバレルは、アメロッパの自宅マンションで死去した。

全てが終わり、届けられた遺言書には、メディアチップと共に、届けられることの無かった誕生日プレゼントのことも明記されていた。

メディアチップは、バレルのお気に入りだった古いジャズが数曲収録されたものである。それが“彼”の起動スイッチにもなっていたことを熱斗が知ったのは、最近のことだ。

誕生日プレゼントは、その後熱斗の希望で誕生日とクリスマスにそれぞれ2個ずつ、ランダムに届けてもらうことが決定した。熱斗が生まれてからバレルが逝去するまでの11年分のプレゼントだ。一個ずつ貰っていては、熱斗は大人になってしまう。

今年の誕生祝に届けられたのは蒼い万年筆ともう一つ。

だが、もう一つのプレゼントのほうには、熱斗もロックマンも、そして大抵のことには動じない両親も、面食らってしまった。

 

「バレルさんがくれるものは、何だって嬉しいけどさ」

 

万年筆を丁寧に箱にしまうと、熱斗は同じ包装に包まれていた、万年筆よりも一回り以上大きな箱に手を伸ばした。

 

「これ、どうしような、ロックマン……」

『うん…バレルさん、さすが、アメロッパの軍人さんだよね』

 

 

中から取り出されたのは、一本のサバイバルナイフだった。

 

 

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