千の夜を越えても
said N
「て、夢オチかー!」
目覚めた熱斗は、思い切り布団を蹴っ飛ばした。
八つ当たりだった。
折角、折角今これからカレーを食べようとしていたところだったのに。
あの人と一緒に、テーブルを囲んで、炊き立ての御飯で、お肉たっぷりの大好物を食べようというところで。
……楽しい、夢だった。何度か母や友達と一緒にカレーを作ったことはあるけれど、それとは比べ物にならないくらい、楽しい一時だった。カレーの具は、オーソドックス以外の何物でもないけれど。
一緒におしゃべりをして、一緒に野菜の皮を剥いて。
彼の手が、器用に具剤を切り分けるのに感心して。
けれど、彼がいるはずがない。彼は、とうに亡くなっているのだから。
全ては、ありえない夢の話なのだ。
千の夜を越えたとしても、
二人で無邪気に料理を作り、食べる日は、来ない。