明るい午後の光を浴びて、ぴかぴかに輝く、ステンレスの調理台。その上に並べられた材料の山に、熱斗は素直な歓声を上げた。
土のついたジャガイモが二種類――おなじみの、ごつごつした男爵イモと、それより少し小ぶりで、黄色が買ったジャガイモに、
燃えるような強いオレンジ色の人参、
丸々とした玉葱はあめ色の皮が光沢を放ち、
とどめに肉は三種類。豚と牛と、鶏!しかもそれらの新鮮そのものな、赤みがかった肉は、塊!だった。
「すげー!すげー!肉が一杯!うちでもこんなに肉は入れないよ!」
満面の笑みで、熱斗は相手に振り返った。
「さっすがバレルさん、アメロッパの人だね!」
その言葉に、傍らで少年を見下ろしていた男が苦笑した。
「喜んでくれるのは嬉しいんだが熱斗君、そのセリフの前後のつながりがいささか謎だな」
「えー?だってホラ、アメロッパの人、てお肉いっぱい食べるじゃん。映画とか見てても夕食はステーキ!だったりさ」
つまりは、
映画で見たアメロッパの人=肉をよく食べる人達=バレルさんもよく肉を食べる=今回の肉の量
らしい。なんとも熱斗らしい連想に、男はおかしそうに肩を震わせた。
「いやいやただ単に、熱斗君が喜ぶかと思っただけだ。肉がたくさん入ったカレーは好きだろう?」
「うん!」
肉がごろごろしているカレーが嫌いな子供は、滅多にいない。
今日は二人でカレーを作って食べるのだ。
ちなみにカレールーは市販のものが一箱。味は中辛。少し高級そうな写真がきれいなパッケージが、それだけで熱斗の期待を誘う。
「さあ、つくろうか」
「うん!」
二人でおそろいのエプロンをして、二人は包丁を手にとった。
まずは野菜を乱切りに。熱斗の好みで、少し大きめにしてもらう。
熱斗は具沢山のカレーが大好きなのだ。具の少ない、高級そうなカレーも嫌いではないが、やっぱり、具があったほうが『食べた!!」という気がする。
玉葱のみじん切りは、包丁もまな板に匂いがつくので最後に。
思いのほか細かくなる玉葱に、素直に感嘆の声を上げた。
「すっげー!バレルさん、ママぐらい細かいよ!」
「まあ、一人暮らしが長いからな。外食ばかりだと栄養が偏るから、自然に、な」
肉は、彼のイメージどおりに、豪快に切り分ける。これもまた熱斗が(以下略)。
作り方は、教科書どおりというか、カレールーのパッケージ裏の説明書どおりだった。
玉葱をあめ色になるまでバターでじっくりじっくり炒める。
それから塩コショウを軽く振った肉を足して、表面に焼き色をつける。
……それだけで、香ばしいおいしそうな匂いが台所に立ち込める。
「ちょっと味見したいかも」
「……それは、早すぎだよ熱斗君」
手際よく肉と玉葱を炒めながら、豪快に男は笑った。
肉の表面の色が変ったところで、野菜を投入。
ちょっと入れすぎたかな?と熱斗は思ったが、男は気にせず炒め続け、ある程度野菜に油が回ったところで水を入れた。
後はしばらく、野菜に火が通るまで煮るだけだ。
「バレルさんは、カレーになんか隠し味とか入れるー?」
TVではチョコレートやコーヒー、人によってはケチャップなども入れるらしいけれど。
「いや、俺は入れないな」
お玉で鍋をかき混ぜながら、男はルーの箱を手に取った。
「市販のカレールーはそれだけでおいしいようにできているから、あまり足さない方がいいんだ」
市販のものは、それ単品で完成しているようなものなので、そこに色々足すと、味のバランスが崩れ、そのおいしさを損なってしまうそうだ。
熱斗は素直に感心する。言われてみればそうである。
「よく知ってるね、バレルさん。実はカレー好き?」
「いや」
男はゆっくりかぶりを振る。肩まである黒髪が、緩やかにそれに合わせて動く。
「男やもめにカレーは作り置きが出来る重宝なメニューだし、軍隊でも結構カレーを作るし、で、どちらかといえば、必要だから、だな。・・・もちろん、うまいからもあるが。
今のことは、ためし○合点で言っていた」
「…見てるんだ、バレルさん…」
取り留めないおしゃべりをしながら、スープのあくを取り。
一度火を止めて、カレールーを投入。
火を弱めて、じっくりじっくり煮込み始め。
二時間後。
そうして出来上がったのは、これでもか!と肉の入った野菜もたっぷりのカレーと、土鍋で炊いた、炊き立て御飯。
土鍋なのは、彼が炊飯ジャーを買ってなかったから。それが、なぜ土鍋は持っていたかというのが謎だったが。
煮込んでいる間に、野菜サラダも作った。冷蔵庫には、デザートが冷えている(これは買ってきた)
二人で皿を並べ、器にカレーを盛り、スプーンを揃え。
席について。
「それじゃあ、食べようか、熱斗君」
「うん!いっただっきまーす!」
熱斗は、スプーンを振りかぶった。