◆4




大量の料理もあらかた片付いて、食後のコーヒーを楽しみながら、それぞれの愛車について熱く語るまったりとした時間。

「なあ藤原…」
「なんですか中里さん」
「良かったらなんだけどよ、あのハチロク、後でエンジンルームとか見せてもらえないか? あ、嫌だったら別にかまわねーんだが。こういう機会も滅多にねえからな」
「それは別にかまわないですよ。これからもいつでも。あんなボロ車ですけど…」
「ボロってこたーねえだろ。一流の戦闘マシーンじゃねえか。まあお前が操るからってのもあるんだろうけどな、あのハチロクは…」
と、中里くんが窓から外の駐車場に視線を向ける。

「ん? 何か、人だかりできてねーか?」
「ギャラリーしてた奴らだろ、店に入れない連中が集まってるみてーだな」

駐車場に集まったギャラリーは、滅多に揃わない有名な走り屋の名車達を携帯やデジカメで記念撮影しているようで、フラッシュが時折チカチカと光る。

「毅さん、念のため交代で見張り立てましょうか」
「そうだな、頼んで良いか」
「はいv」
ナイトキッズのメンバーは、中里くんから頼られて、嬉しそうな顔で外に出て行った。

「おー、あいつ張り切って見張りしてるぜ、毅」
写真を撮るくらいは良いとして、車に触ろうとしたりする輩を頑張って追い払っているらしい。
「交代で見張りするのも皆大変だろうし、あんま長居する訳にもいかねえみたいだな」
「悪目立ちする車があるせいだろうけどな」
慎吾がイヤミったらしい視線を高橋兄弟に頑張って向けてる。涙ぐましいわ慎吾。

「フン、まあ注目されちまうのはドコでも同じだから、んな気にしなくっても良いんじゃねえ? 中里」
「まあそれもそうだろうが…」
ちょっと皆で気にして駐車場の方に視線が向く。

カメラで撮られまくっている車達を眺めていて、私はふと思いついた。

「ねえねえ、峠で使ったビデオカメラって、写真も撮れるんだよね?」
「あ、はい沙雪さんに録ってもらった後もメモリーカードまだ少し余裕あります」
「せっかくこんなメンバーが集まったんだし、写真撮ってよv ビデオでも良いけど」
「ああ、はい! じゃあ俺、撮影係りになります!」

撮影係になったナイトキッズメンバーは車からカメラを取って来ると、こまめに動いては写真を撮りまくってくれた。

「折角だから、中里、隣に来てくれよ」
お兄様が切れ長の目でフフっと中里くんに微笑みかける。
「オレも後で一緒に…」
「拓海…っ 俺もさ、俺も後で混ざっても良いかなーーーー…なんて」
なかなかこっちの話に混ざれなかった樹くんが、我慢できない感じで拓海くんに強請ってる。
「樹は中里さんファンだからなー」
とはケンジくん。
池谷くんと真子は緑と赤のまんまなので放っておくとして。

「俺たちも毅さんと一緒に撮りたいよなー…」
「高橋兄弟と秋名のハチロクと毅さんと一緒の写真に入りてー」
左右のテーブルのナイトキッズから、ボソボソと会話が聞こえてくる。意外と一緒に写真とか撮ったりする機会って無かったりするものね

でもここで席変えの大移動とか大騒ぎしたら、お店に迷惑かも。

「じゃあ、後で駐車場で皆で撮るのはどう?」
折角だから峠の名車も一緒に。

「あそこで撮るのかよ。良い見せモンになるぜ?」
あ、高橋弟くんと初めて会話になったかも。
「あー。まあ確かにあんなに間近にギャラリーがいるんじゃね。しかも皆撮る気まんまんだし」

「折角だから、もし中里達さえ良ければ、妙義に戻るのはどうだ? 俺達も本当は間に合えば妙義まで行くつもりだったしな」
お兄様が美声で提案してくださる。

「あ、ああ。まああそこなら多少騒いでも問題ねえしな。藤原達と沙雪さんたちは」
「もちろん一緒に行くわよ〜(アタシの運転だけど…ほほ)」
「喜んで」
「じゃあそろそろ出るか? あいつにいつまでも見張りを頑張らせるのも何だし」
「仲間思いだな中里は」
またフフっと笑う高橋涼介に中里くんが焦ったように、そんなんじゃないと言い返している。
高橋涼介ってもっとクールなイメージがあったけど、けっこう笑ったりする表情もするのねー。意外だわ。



まあそんな訳で、店を出た私達は、走り屋車の隊列を組んで妙義山に戻った。







頂上の駐車場に着くと、どうせならカッコ良い記念撮影をしようと、今日の主役の中里くんのGT-Rを中心に綺麗に車を並べた。
「新しいメモリーカードあったんで、もういっくらでも撮れるっすよー」
撮影担当の子は写真に目覚めたようで、駐車場で談笑する走り屋達を撮りまくっている。


「沙雪さん真子さん!こっち入ってください〜」
「あーはいはい☆ ほら、真子ッ歩いてよ」
「ふにゃ〜」
全然ダメダメなままの真子をひきずって、色々な輪に入ってあげる。真子はふにゃふにゃだけど、可愛いからオケ。

「毅さんこっちで一緒に撮ってくださーいッ」
「ん?ああ」
高橋兄弟と話しこんでいた中里くんが、呼ばれてメンバーの方に戻ってくる。


「何か改めて毅さんと一緒に写真とかって感激っスッ」
「そ、そうか」
「感激なんでオレ脱ぎますッ!!」
「バカ脱ぐな!」
沙雪さんたちがいるのに!との中里くんの言葉は気にされず、若いメンバーが元気良く服を脱ぎ捨てていく。
あー、どこの峠にもいるのよねー すぐ脱ぎたがる子(笑) レッドサンズメンバーとかはやらなさ気なんだけど。

「お前ずるいぞ!!毅さん!オレも脱ぎます!」
「オレもオレも脱ぎます毅さん!」
「何でお前らはそんなバカしかいねえんだああああ!」

ナイトキッズは脱ぎたがり度がやたらと高く、さすがというか何と言うか…。バカ度高し。

お祭り騒ぎのテンションは高まるばかりで、お酒も飲んでないのに皆ナチュラルハイ状態に。あっちの方では全裸の若者が自分の車によじ

登って踊ってるし…。真子が正気でなくて良かったわー☆ ま、私は眼福〜って感じなんだけどね!

「せっかくです!毅さんも記念に脱ぎましょうよ!」
「誰が脱ぐか!」
全裸軍団に楽しそうに仲間に引き入れられそうになって、中里くんは後ずさる。

「サービス悪ィな、脱いでやったらどうだ毅」
「へー。中里の裸踊りが拝めんのか、そりゃ楽しみだなー」
「エンターティナーだな 中里はw」
「だから脱がねえって言ってんだろーが!!」

けっこう迫力のある四角い三白眼で中里君がキラリとガンを飛ばしてきたけれど、興奮してか頬が赤らんでいるので、むしろ可愛くなってしまってますわ。

「毅さーん 遠慮しないでくださいって!」
「こらッ いい加減にッ」
「よし、オレ様も協力してやるぜ。お前ら毅の手足押さえとけ」
「コラ!慎吾やめねえか!」
「いいねえ、その嫌そうな顔!」

逃げ出そうとした中里くんは、後ろから全裸軍団の一人に羽交い絞めにされた後、それぞれ手足を押さえられてアスファルトの地面に半分身体を倒される。
黒の薄手のニットがインナーのシャツと一緒に簡単にまくりあげられて、引き締まってるけど柔らかそうな、健康そうなお腹から胸にかけてが露にされた。

ニットの黒と夜の闇に、その白っぽく映るお肌が対照的で何だかちょっとドキドキしてしまうわねーv

「毅さん暴れないでくださいって〜 服が伸びちゃいますよ」
「だったらッ や…やめろっ!」

首から無理やりニットを引き脱がそうとしたものの、暴れる手からは抜けなくて、結局ニットごと腕が万歳をした格好で押さえられることに。

ちょっと涙目で必死に逃げようとしてる中里くんがものすごくエロいことになっちゃってるんですけど。

首からニットが引き抜かれたときに更に暴れたんで、きっちりセットしてあった髪も乱れちゃって、前髪が増えててかなり可愛いし。
こうしてみると中里くんてけっこう童顔な感じだったりしたのねー。
うんうん可愛い可愛い。

暴れるたびに力の入る腹筋の滑らかな感じとか、腰骨からジーンズへのラインとか。

「おい、ちゃんと撮ってんのか? こっからが本番だぜ☆」

悪ノリした慎吾が中里くんのジーンズのボタンに手をかける。
本気で焦ってジタバタしようとするも、体格の良いメンバーにがっちり押さえ込まれちゃてる可愛そうな獲物状態の中里くん。

私には慎吾が本気じゃないのが分かるから、適当なところで止めるんだろうなと予想はつく。
事実そんな雰囲気で、慎吾はわざとファスナーをゆっくりゆっくり下ろしていく。

「オラオラ毅、早く逃げねえと、お前の大事なモンがビデオに撮られちまうぜ♪」
「慎吾!!!いっいい加減にしやがれッ」

かなり涙目な中里くん。ほんとに可愛いわあ。
慎吾が苛めたくなっちゃう気持ちがよくわかるわよね。うんうん。

かなり時間をかけたものの、ジーンズのファスナーなんて全部下ろすのに手間はそんなにかからず。
慎吾はジーンズを腰骨からゆっくりとずらしていく。
インナーのゴムのラインをヒトサシ指でひっかけて、かなり際どいところまで露にしようとした時

「ほら、その辺にしてやれって。泣きそーじゃねえか」

まるで白馬の王子様みたいに助けが現れた。
一緒にニヤニヤして見ていた高橋弟くんが、野郎達に押さえ込まれていた中里くんを信じられないくらいあっさりと、その輪の中から救いあげたのだ。何だか匠の技を感じたんですけど!

お兄様もニヤニヤして見ていた派だったのに、ちゃっかりと「大丈夫か?擦り傷とかできてないか?」と優しく問いかけていて
中里くんは、大丈夫だと繰り返しながら、焦って服を直している。

「おまえらああああああ! 悪ノリしやがって!タダじゃおかねえからな!」
「わああ!毅さんすんません」
「ほら中里良いモノ貸してやろう」
「借りるぜ!」

ナゼかお兄様がどこからともなく取り出した大きなピコピコハンマーを中里君に貸してあげる。
中里くんは疑問を持つヒマもなくそれを手にすると、全裸メンバー達を駐車場中追いかけまわし始めた。

全裸メンバーは追われながらも何だか楽しそう。

はー、もうほんと、良い歳の若者なのに、峠ってガキばっかり。

でもま、そこが良いんだよね。

夜の子供達。


良い名前じゃないの。





追いかけ疲れた中里くんを囲んで、また皆で写真を撮った。
自分の愛車、好きな人の愛車、仲良くケンカする中里くんと慎吾
中里くんにちょっかい出す弟くん、もっと実はタチの悪いお兄様のイタズラ。
中里くんに憧れを告げる樹くん。中里くんを囲むナイトキッズメンバー達。

愛車の話、エロい話、怖い話、バカ話。

中身は思い出せないけど、お腹を抱えて笑った。







朝を迎える前に、私達はそれぞれ帰路に散った。
一部のメンバーは中里くんちに押しかけるみたい。可愛そうにね〜


闇に少しずつ、青い靄が浸透しはじめる時間。

分かれ道で小さなクラクション。合図のパッシング。

峠で皆で作り上げたあの楽しい時間を ずっと忘れずにいたいと

そう想った。












あれからしばらくもしないうちに、ナイトキッズメンバーからDVDが届いた。

私が撮影した中里くんと慎吾のバトルが、ちゃんとナンバーにボカシを入れた完璧仕様で編集されていた。
その後に皆で撮った写真もたっぷりと。
全裸軍団も大事なトコにボカシ入れられて(笑)元気良く映ってるんだけど、中里くんのお楽しみシーンだけは、頑張って探しても見つか

らなかった。一番の楽しみなんだけど!

ちゃんと撮影してたのは分かってるので、機会があったときにあの写真はどうなったのか聞いてみた。
すると、「あの写真は元データごと買い取られてしまったんですよー」って返事。
中里くんが消去しようとしたらしいんだけど、その前にそのデータは無かったらしく、けれども実は別のところに元データごと買い取られ

てしまったらしい。

それが誰なのかは絶対に口を割ろうとしなかったので聞けなかったんだけど。


真相は今も謎のまま。







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