(実写版・涼中)


チームの仲のよく仕方(涼介的方法)


小説 秋羅 様v







 偶然出会った峠で、ほんの少し言葉を交わしただけだったが、今まで知っている他の誰とも違う中里に興味を抱いた涼介は、度々中里を走りに誘うようになった。

互いのホームコースは妙義と赤城。最初はそれぞれのホームコースを訪れて一緒に走ったのだが、すぐに涼介は自分たちのホームコースは避けるようになった。
妙義であれば中里は山を代表するチームのリーダーで、当然のようにナイトキッズが中里の周囲を固めており、中里も対外的にリーダーとしての顔を崩さないと知ったからだ。

 涼介が会いたいのは中里の素顔であって、ナイトキッズのリーダーではなかった。責任感の強い中里は、チームの前ではリーダーとして振舞うのが当然と思っているようで、妙義では涼介はレッドサンズのリーダーとしてしか中里の中でみなされなかった。
 そんなわけで、結局数回か後には涼介は互いが互いの肩書きに縛られない場所を選ぶようになった。


 そんな出会って間もないときのことである。
 二人並んで茜色に染まり始めた空の下で一服していたときだった。

「なあ、俺たちってまるでモンタギュウ家とカプレット家だな」
 いきなり涼介にそう言われて、
「はぁ?」
っと中里は思いっきり怪訝な顔をした。

こうして二人で朝まで峠を走ることは何度かしたが、明け方の涼介はいつもちょっと変だと中里は思っていた。明け方の空が藍色になりはじめの頃はやけにハイテンションなのに、こうして東の空が薄紅色になる頃にはなぜか妙に感傷的なのだ。
何か遠くをみるような目をした涼介が今日も変なことを言い出した。と中里は思った。

「なんだよ、そのモンタなんとかとカプなんとかって言うのは」
「なんだ、中里、知らないのか? シェイクスピアの名作ロミオとジュリエットだぞ」
「いや、ロミオとジュリエットぐらい知ってるけどよ。敵対する家同士の男女が運命の悪戯で出会い、一目ぼれして密かに愛し合うけど、結局その家の争いに巻き込まれて二人とも死んじまう話だろ?」
「ああ、その通りだ」
 満足そうに頷く涼介に対し、中里は顔を顰めた。
「そのどこが俺たちみたいだって言うんだ?」
「そりゃ、満足に俺たちも会えないじゃないか。一族に隠れてこっそり会う。そんな所とかな」
「そ、そうなんか!? お前、家族に俺に会うの反対されているのか?」
 中里は自分がそんなに涼介の家族に嫌われているのかと驚いて目を見開く。大概人というものが好きな中里には、誰かに嫌われていると知るのが一番耐えられないことだった。ひとり沈み込み始めた中里に、涼介はそうじゃないと首を振った。

「違う、俺じゃない。お前のほうだ?」
「は、俺? 俺は別に反対なんかされてねえよ。つか俺今一人暮らしだし、家族とはそうだな、休暇のときしかあわねえしよ」
「そうか、中里は一人暮らしなのか?」
 ふっと一瞬涼介の表情が緩んだ。が、すぐになんでもないように涼介は話を続ける。
「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくって、お前んとこのチームのことさ」
「チーム?」
 ますます訳がわからないというように中里は首をひねる。

「そうだ。互いに、まあ敵対はしてないが違う山のチームのリーダーで、チームの面子があるからって、ナイトキッズの前じゃお前、俺のこと避けてるだろ?」
「いや、俺はそんなつもりはねえけど……。ま、まあ少しはそうか――。
 でもよ、違う山同士のリーダーがつるむって言うのもやっぱチームの奴らの士気に関わるだろ?
 そこはけじめって奴じゃねえ?」
「ほらな、やっぱりロミオとジュリエットじゃないか。ナイトキッズの奴らに目の敵にされた俺は、こっそりお前と会うしかない。ジュリエット姫は俺のことよりチームの外聞を気にして、めったに俺に会ってくれないしな」
「お、おい、なんかそれは違うだろ」
 ジュリエット姫ってなんだよ、と思いながら脱力した中里は抗議した。

「それに、めったにって結構最近会ってるんじゃね? 二週間前もお前と走っただろ?」
 今度は涼介が不満を言う番だった。
「それは二週間も前っていうんだ。俺はもっと中里と走りたいぜ」
「んなこと言ったってよ、そうちょくちょく妙義を離れるわけにはいかねえだろーが。お前だって、赤城でチーム持ってるんだからよ、もっとチームを大事にしろよな」

 あくまでチーム大事の中里の言葉に、涼介は溜息をついた。
 そんな真面目な考え方は中里らしくて好感が持てる一面だが、こと自分に関わる事に関してはそれは余計なものでしかない。

「俺はいいんだ。レッドサンズは俺のやることには何も反対しないからな」
思ったことをそのまま口にした涼介だったが、その俺様な発言は中里の気分を害したようだった。
「お前なー、チーム持ってるんだったら責任持って面倒を見るべきだろ? お前のそういう考え方、俺は感心しねえぜ」

 中里的仁義感に反する言葉を吐いた涼介は、その結果余計に突き放されてしまい軽く落ち込む羽目に陥る。涼介もここで言いたいことはあった。

 確かに中里はよくチームの面倒をみている。

――ただし、チームも中里の面倒をよくみているじゃないか?

ちょっと妙義山に行っただけで涼介は心の底から実感したものだ。

 妙義を訪れた時、涼介はあからさまな警戒感を持ってナイトキッズのメンバーに迎えられた。中里の傍らは常にチームのメンバーが固めており、二人っきりになるなんて機会は爪の先ほどもなかった。
 確かに走り始めてしまえば二人に付いて来れる者はいなかったが……、そんな二人っきりでは意味がない。
だがそれを言っても中里には理解できないだろうし、余計に怒らせるだけだということがわかっていたので涼介は黙っているほかなかった。

 やむを得ず涼介は違う方向からアプローチをすることにする。

「違う山だからって、張り合わなければいけないなんて、今時古すぎるぜ中里。世は国際交流な時代なんだぜ? 違う国同士だって仲良く助け合っていくのが現代ってヤツだろ? オリンピックだってサッカーワールドカップだって違う国同士で楽しくやっていっているじゃないか? いや、むしろ他者がいるからこそ楽しさが際立つ。そうだろ?」

立て板に水のごとく喋る涼介に、最初口を挟もうとした中里だったが、次第にそうなのかなと思い始めてくる。

俺の考え方は古いのか? 違う山同士だって仲良く交流するのが、今風なのか?

「じゃ、バトル――」
「いや、それとは違う。そういう勝負事は完全に仲良くなってからするもんだぜ。そうじゃなければ変なわだかまりができてしまうだろ?」
中里の希望はニッコリ笑った涼介に先取りされて否定されてしまった。

なんか変だなあと中里は思ったが、何が変なのかはよく分からなかった。自分の考え方が正しいと言い切れる自信はなかったし、聞けば聞くほど涼介の理論が納得できる気がした。

キツネにつままれた気分のまま、中里はうなずいた。

「お前の言う通りかもな。違う山だからって張り合う必要はないよな。あ、俺、チームのやつらに言っとくぜ! お前、前に妙義来たとき居ずらそうにしてたもんな。ホント悪かったって思ってるんだぜ?
 あの一回きりで、お前妙義避けるようになったもんな。違う山のリーダーってことでうちの奴ら意識しちまってよ」

 いや、それは違うと思うぜ、中里。

 『俺』だから警戒されたんだぜ。主人の危険を察知する犬のように、やつらは自分から何かを嗅ぎ取ったのだ。ガラの悪いといわれる妙義で鍛えられたそのカンはかなり鋭い。

だが、いくらまわりでガードを固めていても、本人がこれだけ無自覚ではあまり効果はないようだ、と人事ながら涼介はナイトキッズのメンバーに同情した。

ま、どうでもいいけどな。

「ああ、そうしてくれ。そうだ、友好を深める手はじめに、今度うちのチームがやるブルーファイヤーとの交流戦のサポート、ナイトキッズでしてくれないか?」
「おお、いいぜ!」
「それとな、やっぱりチーム同士の仲はリーダーの仲のよさにかかってるんだ。これからも、二人で走りに行こうな」

 優しく微笑む涼介に、中里はきょとんとして、それから大きな眼を輝かせてうなずく。

「そ、そうだな! 俺もチームのやつらに言っとくぜ。レッドサンズと交流戦をする準備として、高橋涼介と仲良くなってくるって」
「ああ」
 心の底から楽しそうにする涼介につられて中里も笑った。





 
「た、毅さん、絶対それって何か間違っていますよ! 違う山のチーム同士が仲いいなんて、聞いた事ありません!!」
「そ、そうですよ。あの、レッドサンズのリーダーってなんか絶対たくらんでますよ」
 妙義に帰ってチームにレッドサンズと仲良くやっていくことを伝えた中里は、チームの面々から一斉に抗議された。自分を取り巻いて一斉に騒ぎ出したメンバーに中里は明るく笑い飛ばす。
「なんだ、お前ら、今の時代狭い世界にとどまってるようじゃ古いんだぜ! レッドサンズは群馬でも強豪チームだし、俺たちも負けないよう頑張っていこうぜ!!」
 リーダーの張りきりように、これは何を言っても無駄だとナイトキッズのメンバーは悟る。


 中里が妙義を流しに行った後、メンバーは額をつき合わせて誓い合った。

「いいか、毅さんから目を離すんじゃないぞ。あの人は厄介ごとに巻き込まれる名人だからな。変なものにこれ以上気にいられないように、絶対毅さんの側を離れるなよ!」
「お、おう!!」

 ナイトキッズの連中が前以上にピリピリするようになったという噂が他のチームに流れるのも、この後すぐの事である。





Fin







うああああ〜(≧∇≦)素晴らしい小説またもありがとうございますっっ
秋羅さんの素敵小説は、合宿所の方にもアップさせていただいてるのですが
こちらにもコレクションさせていただきましたっっv
すみませんコレクターなもので(照)
『「GT-Rの中で二人っきり!!」でおっしゃってた
一緒にいるために涼介が立てた作戦』
と、あのヘボ漫画につけたコメントに、こーーーーんな可愛いお話を返してくださいました(T▽T)!!
涼介は作戦めっちゃ頑張ってますね!!!ちょっとというかかなり騙され気味の中里(笑)が可愛くて〜///
そして頑張れナイトキッズ!!(笑)!!そうですよ!レッドサンズのリーダーはたくらんでますよ!!
そして今以上に変なモノに気に入られちゃいますからっっ
是非またたくさん小説書いてやってください(土下座)(≧∇≦)もっと読みたいです〜v

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