※実際に走り屋やってる彼らを使って映画を撮っていると言う設定になってます


小説 KiKi様

実写版映画によせてvol 2 +++
  











深い水底から水面へと浮き上がるような感覚がして、目を覚ました。
こんな穏やかな目覚めは久しぶりかも知れない。
肌にまとわり付くかけ布団を再び握り締めた中里はそのいつもとは異なる質感に一気に目を開いた。

「 ! 」

見上げた天井は見た覚えのないもの。
あわてて身を起こしさらによく室内を見回してもまったく覚えのない部屋だった。
そう広くない部屋はこざっぱりと片付けられ、大きなベッドの先にはこじんまりとしたソファとテーブル。
壁に作りつけの棚にはコーヒーメーカーがいい香りをさせて湯気を立てており、その脇には小さなトレイにティーパックやシュガーなども用意されている。
それは個人の部屋と言うよりホテルの客室そのものだった。
訳の分からなさに眩暈すら覚えながらベッドを抜け出すと、部屋の出口あたりには使用料金を示す表示ランプ付きのボックスが壁に取り付けられていた。

ガクリ。
壁に手を付き何とか現状を受け入れる。
その先に見えた狭い玄関には男のものの靴が2足。一足は自分のものでもう一つは・・・。

「おきたのか」
「た!・・かはし涼介っ・・・!」

洗面所も風呂も一緒になっているのだろう狭いドアを開けて出てきた人物に呼吸が止まりそうな程驚いてしまう。
いや、不意打ちだからだ。
なぜならこの状況に気づいた時から、こんな所に共にあるのはこの男しか居ないだろうと読んでいたからだ。

「おはよう中里。コーヒー入ってるぜ。のまないか?」

この安っぽい部屋の装飾が、窓からの明るい光を受けてより低俗な雰囲気をかもし出す中で、涼介はそう誘うとまったくこの場に似つかわしくない笑みを浮かべた。





流れるような動作で安物のカップに香り立つ琥珀の液体を注いで差し出される。
思わずそれを受け取りながら、中里はベッドの端にため息交じりで腰掛けた。
どうやってここに来たものかまったく覚えがないと言うのはどう言う事だろう。自分に覚えがないと言う事は、涼介がここへ連れてきたと言う事ではないだろうか。
自分の体に特に変調は感じない。どこかが特別痛むと言う訳でもない。
何もなかった・・・と信じたい。

「昨夜のこと覚えてないだろ?」
「ああ。悪いが全く・・・」
「どこまで覚えているんだ?」
問われて中里は思い出せる記憶をたどってみる事にした。

そうだ、昨夜も映画の撮影があったんだ・・・
昼間は会社。退社後に映画撮影スタッフと合流。
準備から撮影までどれだけの時間がかかったとか、夕べ最後に撮ったシーンは確か・・・

「そうだ!撮影!撮影は無事終わったんだよな?!・・うぁちッ!!」
慌てて立ち上がりかけて、まだ湯気の上がるコーヒーがカップから飛び出し手に跳ねた。
それを見た涼介は自分のカップを棚に置くと中里の手からも同じカップを取りあげる。
「落ち着け。昨日の撮影はちゃんと終わってるよ。・・・見せて見ろ」
少し赤くなった手をまじまじと確認し、涼介は握った手をやっと離した。

「・・・」
「まぁ大丈夫だろ・・・まったく、無茶するからこうなるンだぜ?
いくら会社に迷惑かけないようにと言ったって、無理があるだろうに」
映画出演の依頼があった事は製作サイドからも会社へ直接話が行った事だった。
会社は突然、社員が映画のキャストに抜擢された事に大いに驚いたが、中里に抜けられては業務が滞るのは必須。
ミーハー心から出演には賛成したいが仕事を辞められるのも困る・・・と言った渋い反応を見せた。

中里はそれに対し、仕事に極力影響を出さないようにすると言う条件でこの映画に携わる事になった。映画の内容が、もともと彼らが日常として行っていた夜の峠でのバトルを中心とした物だからには、撮影は自然と夜に行われるのが殆どと言っていい。
中里は昼間は会社、夜は映画の二束わらじでここ数ヶ月やり抜いて来たのだ。
しかし昼と夜と使い別けると言っても、また夜峠を走ることに変わりないとは言っても、プライベートでのチームや自分の走りだけの問題と、映画の撮影とは全く違う。
少々体調が悪いとか寝不足だとか、会社で疲れが溜まってるからと休んだり早めに帰宅して寝る訳にも行かないのだ。

収録中はそんな様子は微塵も見せなかったが、彼特有の人好きする笑顔に、どこか影があるように見えたのは涼介だけだろうか?
そこまでとは言わなくても、中里の体に疲労が色濃く溜まっているのは涼介ならずとも製作スタッフ一同が心配していた所だった。

会社にしてもここまで完璧な勤務を強要はしないだろう。
会社も続ける、映画にも出演すると決めた中里を、むしろ喜んで応援していた風がある。
頼めば有休も時間休でもくれただろう。
しかし元来真面目な中里に妥協は無かった。
同僚と共に出来る限りの残業もこなし、映画撮りに睡眠時間を奪われ。


そして昨夜。
その夜の撮りにOKが出た所で、中里の体がぐらりと傾いた。
とっさにそばにいたナイトキッズ役の俳優が支えたが、その時にはすっかり意識を手放し、昏睡状態に近い眠りに落ちて行ったのである。

この映画に出演する者は脇役こそ俳優ながら、主演クラスのキャストは殆ど素人の涼介ら地元の走り屋そのものと言う異色なキャスティングが目玉だった。
しかし、中でも社会人でありながら主役級の役柄を持っているのは中里一人。
彼がどれだけの疲労と睡眠不足を抱えてたか、彼自身が語らずとも共に製作に携わっているスタッフならば知っている。だからこそ理由を知っている現場の人間には起こすことが憚られ、涼介が身柄を引き受けて、麓のホテルまで運び入れたと言う訳だ。

「そうか・・・すまなかったな」
事情を説明された中里ががっくりと肩を下ろす。
しっかり寝たせいか、ここの所優れなかった顔色も良くなっているようだ。
ふ、と笑った涼介の前で、中里は再び体を跳ね上げる。
「あっ!!って言うか何時だ!?会社っ・・!」
狭い窓しかないわりにすっかり明るい室内は、すでに朝とは言えぬ時間帯だろうと察しは付く。
中里は今度こそベッドから飛び降りた。

「落ち着け。まだ10時だ」
「10時って!!起こせよ!」
「今日は土曜だ。会社は休みだろ?」
「あ」
・・・ふぅ
ドサリとベッドに逆戻りして目の上に腕を乗せる。そしてポツリと言葉をもらした。
「そうだったな・・・」
「やっと落ち着いたか?今日は土曜でお前の会社は休みだが、その代わり昼間撮りがある。
京一と俺と藤原のバトルの日で俺とお前が藤原豆腐店にアイツを迎えに行くシーンだ」
「分かってる・・・」

「撮影は午後からだ。もう少しゆっくりしてて構わない」
「いや、そう言う訳にも・・・」
ここは時間で料金が跳ね上がる・・・多分ラブホで、そして一緒に居るのは涼介だ。
もう随分寝たのだし家に帰って風呂に入って・・・また午後からの撮影に向かわねばならない。
中里は立つと棚に戻されていた自分のコーヒーを飲み干した。

「出よう。涼介。迷惑かけたな」
しかし涼介の足は動かなかった。

「なに、気にしてないさ。それにどうせ撮影にはその衣装のままですむだろう?
ならばゆっくり風呂にでも入って、ここから直接現場に向かえばいい」
「涼介・・・」

お金や時間だけの事ではない。
お前と二人でここに居ること事態が落ち着かなくさせるのだと言う事に、涼介は気が付いて居ないのか。それとも。
さらりとそう言って涼介は自分のカップに手を伸ばした。

「風呂、湯を張ってあるぜ」
「・・・だから」
「倒れたお前を面倒見てやった、俺の好意を無にするのか?」
「・・・」










時間には余裕があったはずなのに、二人は午後の撮影の打ち合わせに姿を見せなかった。現場は騒然となり始めた所で遠くから聞きなれた車のエキゾーストが近づき、藤原豆腐店の前にFCとGTRがギリギリ滑り込んできた。


パ――――――ッ!
FCのクラクションが鳴る。
スタッフが駆け寄る前に、家の中にいた拓海が店から顔を覗かせた。



「忘れたのか。今日は土曜日だぞ。
―――みんなお前とハチロクを待ってるんだ」


涼介が振り返った時、中里は彼自身にしか出来ない笑顔で、肯定して見せた。








おわり
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本当に何もなかったのかなぁ〜(汗)










ぎゃー(≧∇≦)ラブホネタ!!
ありがとうございました〜vvv!!
KiKi様曰く
『映画を見てて、涼介と中里が真昼間から二人で
藤原豆腐店に現われるシーンが気になってたんですよ・・・。
まさか前夜からずっと一緒なんじゃないか!?って(笑)
そんな訳で強引にラブホネタです〜(汗)』
あそこ!めちゃめちゃ気になるシーンですけど
こんな素敵な展開があったら大萌え過ぎです!

本当に何も無かったのかどうか//気になりますが
ラブホから出てきた涼介がヤケにすっきりした顔で
中里がけだる気だったりして(照)

そしてリーマン中里にも萌えです〜//ふふふ
こっちのショーン中里にもリーマンコスをvvv
また書かれてしまったら是非に読ませてやってくださいませっっ(土下座)

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