ヴァン幸せルート小説編 3






「んっ……」
二階奥の部屋に入ると、ドアを閉めるのももどかしいように、ヴァンはガイを抱きすくめる。
そして溜まった何かを吐き出すような、むさぼるような口づけを与えられ、慣れないガイはひたすらに堪えるしかなかった。
それでも、今日知ることとなったヴァンの苦しみを思えば、自分が与えられるものなら何でも与えてやりたい。

あまりに長い口づけに頭がクラクラしてきた頃、ガイは部屋に入った時にチラリと見えた、大きなダブルベッドに転がされている自分に気づいた。そのままヴァンにのし掛かられる格好なのだが、先ほどのキスで少し落ち着けたのか、ヴァンは腕一つ分身体を離して、上からガイを愛しそうに眺めている。

ヴァンの無骨で大きくてけれど暖かい掌が、ガイを形作る全てを確かめたいというように、撫でながら辿ってゆく。

だが衣服がそれを邪魔をする。

ガイの、衣服としては飾り程度の機能しかないように見えるベストの前止めをはずすと、鎖骨を目立たせる襟刳りの白いブラウスの、そのボタンに手をかけた。

一つ一つ、ゆっくとはずしてゆく。

そして、その度に露わになる滑らかな肌を、掌でじっくりと撫でてゆく。

「く…くすぐったい…ヴァン」

その度に小さくびくりと跳ねようとする身体。

「お許しください。もっとあなたに触れていたいのです」

ヴァンの掌が触れている所に、ヴァンの視線が注がれる。
掌が移動すれば、視線も移動する。

なんだか観察でもされているようで、ガイは恥ずかしくていたたまれない。

こんな身体見ても触っても、そんな楽しいことなんかないだろうに…と思うのに、ヴァンをチラリと見上げてみると、うっとりと幸せそうなのだ。

見てはいけないものを見てしまった気分になって、ガイはとりあえず目を反らした。

ボタンを全てはずされてしまうと、肩から二の腕あたりまで、ブラウスの袖がぐいっとずらされる。

腕に絡まる衣服で身動きがとりずらくなってしまったこともガイは気づかないまま、ヴァンの手がボトムにかかって、内心焦りまくっていた。
留め具が外され、黒いスパッツが腰骨ぎりぎりまでじっくりと下ろされる。

無防備に胸から腰までを晒されて、おへその辺りがスースーするのを心細く感じていると、ヴァンは一旦そこで手を止めて、自分が身に纏っていた主席総長の外装を脱ぎ捨てた。中には白い尖った襟のブラウスをアンダーとしていた。
ボトムはそのままなので、ただ上着を脱いだ程度の姿だ。

な、何だかオレだけ脱がされてないか…!?

ガイは焦るが、悲しいかなこの手のことは経験値が無いせいで、抵抗する手だてがない。

腰骨あたりで濡れた何かがチュッと音を立て、同時にひどくくすぐったさを感じて身をよじろうと腰を浮かせてしまったところ、その動きを利用されて、スパッツはブーツ共々やすやすと一気に取り払われてしまった。
「う、うわっ」
驚いて上げた上擦った声は自分では色気のないものだと思ったが、ヴァンのことは喜ばせたらしく、クスリと笑われる。

ヴァンは衣服を脱いでいないのに、自分だけ脱がされてほぼ裸な状態なのが恥ずかしくて、露わにされた部分を隠そうと足を摺り合わせるようにしながら、ベッドヘッドの枕の方にずり上がった。腕に絡まったシャツがすごく邪魔だ。
ずれた袖先で前を隠そうと覆うと、

「ガイラルディア様 隠さずに全て私にお見せください」

あ、何かたくらんでる笑顔っぽいぞ! と気づいた時には、左の足首を捕まれ、軽々とヴァンの方に引き寄せられた。
背中がシャツごとシーツに摺れ、巻き込まれたシャツに引っ張られて腕が余計に自由を失った。
「あっヴァンっ」
足を開かされて、その間にヴァンが陣取ってしまう。膝頭から内股にかけてざらりと撫であげられて、「ひっ」という小さな悲鳴とともにガイはびくりと腰を跳ねさせた。

「実に良い眺めです。ガイラルディアさま」

このエロおやじ! 
と叫びたくなるような笑みの乗った視線を向けられて、
しかも
 こちらも金髪なのですな
と言われたときには恥ずかしさで憤死しそうになった。

顔を真っ赤にして、ガイは抗議する。

「おっ、お前はっ 自分は脱がないでなんだよ! お前も脱げよ!」
「私は今日は衣服を身につけたままの方がガイラルディア様のためですぞ?」
「なっ何で…」
「こうしていれば、まだ理性が保てますからな。私の想いのまま望むままに抱いてしまっては、あなたには堪えきれないでしょう。あなたが覚悟を決めてくださるまでは、じっくりと慣らしてゆこうと約束したではありませんか」
「!………ううっ……」

こんな恥ずかしいことを我慢しても、更にその先がイロイロとあるのか……
ガイにはその先がぼんやりとしか想像ができないのだが、

「怖がらなくて大丈夫です。今日は痛い思いはさせませんから」
今日は!ってなんだよ!今日はって!との叫びは

「あっ…」

動きを再開したヴァンの手によって、簡単に漏れ出る上擦った声に変わった。

「は…うっ……」

掌だけでなく、今度は時折ヴァンの唇で肌を辿られる。
内腿や腰骨や皮膚のやわらかい部分に唇とヴァンの髭が当たると、くすぐったくてたまらないのに。
掌が、唇が、それ以上のなにかくすぐったいだけでない刺激を与えてくる。

一つ一つの刺激に素直に反応して色着くしなやかな身体を、ヴァンは神々しいようなものを手にしている気分で味わっていた。

母方の容姿を強く受け継いだガイは、成長すればするほど美しくなっていった。
小さく泣き虫で例えようもなく可愛らしかったガイラルディアは、悲劇を経て陰りのある鋭さと強さと悲しみを殺す心を手に入れていったが、それすらもヴァンの心を打つ美しさがあると感じていた。

心許す時間に二人きりで過ごす時の甘えるような笑顔も、からかえば返ってくる可愛らしい反応も、たまらなく愛おしいもので。

いつからこれほどまでに、剣を捧げた主の全てを切望するようになったのか。

悲しみに陰る青い瞳、喜びに花咲くような心からの笑顔、剣舞を身に染み込ませてゆくしなやかな肉体の描く軌跡。
私の名を呼ぶ深みを持つ声も。
輝く金糸も端正な顔立ちも
鋭くも甘い優しさを持つ澄んだ青空のような瞳も。

語りつくせないガイラルディアの全てが、いつでも心に深く突き刺さり、甘い苦しみをもたらし続けた。

手に入れてはいけないのだと自分に言い聞かせつつ、それでも欲しいのだと暴れだそうとする心の奥を、なだめることがどれほど難しいものだったか。

いつかホドをガイラルディア様にお返しすることができたならば、己の心を正直に伝えることが許されるのではないか…。そんな間違った希望を抱いてこれまで歩んできた。

だが、ほんの小さなきっかけが全てを覆した。

今、愛しく掛け替えのない主が、この手を許し、私の邪な想いを受け入れようと、必死に羞恥に堪えている。

引き結ばれた形の良い唇が、与えた感覚に震えて堪えきれずに小さい悲鳴を漏らす。
その声音にすら恥ずかしさを感じるのか、白い布が絡まって動きの取れない手を何とか口元に運ぼうとあがいている。
露わにした身体は細さはあるが十分に大人のものなのだが、健康的で滑らかな肌と適度な筋肉に飾られて、力が入る度に芸術的なラインを描き出し続ける。
「あっ……ヴァンっ」
その声が、心が、私の名を呼ぶ。
ああ何という喜びの極みだろう。

金糸から頬を辿って、足のつま先まで、丁寧に飽くことなく、唇を這わせていく。
反応の大きさで、どこが弱いところなのかさらけ出すしかないガイラルディア様が可愛らしくて仕方ない。

ヴァンの体中への口づけが身体の中心だけは避けて一周すると、それだけでガイは息を切らせてしまっていた。
そんなガイを愛し気に見つめながら、ヴァンは軽く頬に口づけしながら
「あなたが私の主人でないなどと、二度と言わないとお約束いただけませんか」
少し切なさをにじませてそう懇願した。
「え…」
昼間の会議室での発言から引きずっての話しらしいと、ガイはしばらく考えてからようやく思いいたった。突然始まった願いごとに、ガイは息を整えるのを苦労しながらも、言葉を懸命に返す。

「でもガルデイオスは…」
「私はあなただからこそ剣を捧げたのです。私の主たる方は、世界中どのような人物を置いても、あなたしかありえない。あなたの騎士であることが、私の生きる希望なのです。どうか剣を捧げ続けることをお許しいただきたい」
「俺なんかで本当に良いのか…?」

「お疑いなら何度でも申し上げます。私の主人はあなたしかいない」

それは真摯でありながら、どこか深く甘えるような色もある低い声。

この声も暖かな腕も…ヴァンデスデルカの存在そのものが、ガイには失えないものなのだと気づかされる。

「わかった。お前の主人としてふさわしくなれるよう、俺も頑張るよ。だから俺の騎士でいてくれヴァンデスデルカ…」
「御意…」

愛しさをあふれさせる笑顔を送りながら
今のままで十分ですよ、と、付け加えることもヴァンは忘れない。

愛しくて可愛いらしい私のご主人さま。

ガイの肩を浮かせて自分の方に引き寄せると、上体を半分ほど寄りかからせて、ヴァンも背中に当たる重ねられた枕に身体を寄りかからせる。

左手で軽くガイの身体を腕ごとひとまとめに押さえるように後ろから支えながら、空いている右手を、先ほどまでの刺激で反応しかかっているガイの中心に初めて触れさせた。
とたんにビクンと跳ねる身体。

「ァ…ア」

僅かに指先で刺激を与えているだけなのに、ガイは初めて他人から与えられるそれに可哀想なほど身体を震わせる。

「ヴァンっ …ゃっ……め…」

ひくつく足がとる形も美しいものだと眺めながら、初々しい色をしたそれを可愛がる。
弱そうな箇所を動きを変えながら、指先で、指の腹で、掌で、丁寧に。
しつこく動かすまでもなく、たったそれだけの刺激でガイは根をあげた。

「あっあ………もっ やっめ… ぁ!っ…」

達しそうになっているのをありありと感じさせる上擦った声音の色香に惑わされそうになりながら。ヴァンはまだ許さないと、ガイのそれから手を一度離し、身体の束縛はそのままに、引き締まった腹から平らだがうっすらと肉の乗った胸元へとやわやわと刺激を与えた。そこも口づけを避けていた、初な色の突起にそっと触れる。
「ぁ……っ」
その先端で指先を細やかに踊らせると、触れていない下肢がびくびくと跳ねる。

「ぁ……ぁっ ヴァっ…ン!」

じらされてもどかしがって、ガイは目尻に涙を浮かべながら知らずに解放を強請る。

その反応に満足しながらヴァンは意地悪くさまよわせていた指先を、ガイの望む中心へと這わせていった。

「ア…」
再度触れられて、ガイは身体を一度緊張させる。
指の先端で愛しい形を丁寧に辿ってから、掌で優しく全体を包み込むと、

ほうっとため息が漏れ、
身体が快楽に弛緩した。


この掌はあなたが欲しがるべきもの。

あなたに快楽だけを与えるもの。

それを与える私をあなたは欲しがっている。

そうあなたの身体に心に教え込むために。


既に十分濡れている暖かなものを、包み込んだ掌で、ゆっくりと、次第に早さをつけて愛撫する。
「やっ…あっア!ァ…!」
悲鳴しか漏らせない唇からのぞく舌の赤に誘われて、覆い被さるようにして口を合わせた。
舌を絡め息継ぎに苦しむガイを抱きしめながら、

これで名前など呼ばれたら、理性が持ちません。お許しくださいガイラルディアさま…。

とヴァンは心の中で少しだけ謝っていた。






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