ヴァン幸せルート小説 5
アルビオールは海路をシェリダンに向かっていた。
本来はグランコクマに向かいたいところなのだが、手に入れた飛行譜石の取り付けはシェリダンのイエモン達に頼もうという判断になった。
譜石の取り付けだけであれば、ガイやノエルでも出来るのだが。
今後のことも考えてメンテナンス等もすべきだとジェイドとルークが主張したことに皆が同意して、シェリダンへの寄港が決まった。
が、実はシェリダン行きの本当の理由は、この数日でガイを襲った精神的苦痛に対して、ジェイドとルークの方が参ってしまっていたからだった。
ジェイドは、ホドの崩落に関して、自身が発明し関わってきたフォミクリーの研究こそが発端になっていることや、そのためにマルクトがホドを見捨てたという事実を、ガイにとうとう告げなければならなかった。
闇を抱えながらも太陽のように笑みを向けてくれる優しい青年。
共に旅をするうちに、ジェイドにとって初めてと言って良い、人間らしい気持ちを向けることになったその青年に。
己の罪を含んだ真実を告げることは、やはりジェイドも恐れていたことだった。
だが、真実を知った彼は、彼の幼馴染みの得た辛酸の方を嘆き、
謝罪をするジェイドには、礼すらしてきたのだ。
一度身近に置いた人間には、とことん甘いのがガイという青年だった。
その彼に昔も現在も精神的に深い傷を負わせながら、彼に対して何かできる立場にないことが、ジェイドを実はかなり落ち込ませていた。
いつも通り食えない態度のまま、とてもそうは見えないジェイドなのだが。
そして、落ち込んでいるのはガイの親友のルークもだった。
ガイがシンクにカースロットをかけられた事件の際に、ガイの過去を知った。
復讐のためにファブレ家に下僕として入り込み、殺すつもりだったルークを結局大切に育ててしまったのだという事も。
ルークにとってはガイは、親友であり、育ての親でもあり、兄弟のように育ちもし、いつでも優しくて美しくて頼りになる存在だった。
何より、アクゼリュスの事件の後、ただ一人だけ、ルークを信じて待っていてくれたガイである。
ルークにとってガイは、大切などという言葉ではとても足りない存在だった。
そんなガイが、故郷で受けた悲壮な惨劇の記憶を取り戻してしまった。
その凄惨な悲劇を与えたのは、ルークの父に当たる存在で。
だからルークには、どんなにガイが過去の記憶に傷ついているのが分かっても、慰める言葉を与える資格が無かった。
父の所行を謝ったとしても、お前は悪くない、と、また無理をして笑うに決まっている。
大好きな人の苦しみに何も出来ない。
それがルークには辛くてならなかった。
ガイの心の傷は、同じ傷を持つヴァン師匠が慰めてくれるのだろうと思う。
敵として対峙することを覚悟していたヴァン師匠は、ガイのために仲間になってくれた。
きっとその事だけでも、ガイの気持ちは随分と助けられていると思う。
けれど、ルーク自身はガイに対して何も出来ていない。
だから、ジェイドとルークは話合った訳でも無いのに、シェリダン行きを希望した。
慰めることができないなら、ガイに別の喜びを。
傷ついた仲間たちに休息を。
ダアトからシェリダンまでは海路で一日半ほどで到着する。
アルビオールは直接シェリダンの専用ドッグに収容された。
メンテナンスも兼ねるので数日は滞在することとなる。
シェリダンの街を少し歩いただけで、ガイは様々な譜業機関を目にしては歓喜の声をあげた。
ここは譜業好きなガイにとっては天国のような場所。
仲間達はそれをいつもなら呆れた顔で見るしかないのだが、今回ばかりは、ガイの喜ぶ姿は仲間達の心からの救いになっていた。
日中ガイはイエモン達の手伝いをさせてもらえることになり、それはもう幸せそうに飛晃艇のドッグへと出かけて行った。
ジェイド、ティア、ヴァン、アニス達はイオンとヴァンがダアトから密かに持ち出した禁書の解読作業を進めた。
ルークはティアとヴァンによって第七音素を操る訓練を続けている。
タトリン夫妻はイオンだけで無く、他のメンバーの世話もしてくれた。
そして、まだ問題を抱えて悩んでいたナタリアの元には、アッシュが訪れていた。
アッシュはナタリアを励ました後、急に彼らの仲間になったというヴァンに驚き怒り、ヴァンに散々悪態をついた後に、モースとディストの行動を調べるため、一人また飛び立って行った。
「やっぱりシェリダンは大型の譜業機関を扱わせたら天下一だよなあ! 大型戦艦や飛晃艇っていったって、精密で緻密な音機関で構築されてるんだから、まさしく譜業の集大成だと思うんだ! それで今日は何とアルビオールのメインコンソールの下の…」
夕食前に宿の部屋に戻ってきたガイは、喜色満面という言葉そのものといった体で、それはそれは幸せいっぱいの表情で今日あったことをヴァンに話していた。
瞳はキラキラと輝き、いつもはお喋りな質ではないのに、今はひどく饒舌になってる。
愛する人が幸福なことを、本来ならば良かったですねと喜んであげるべきなのだが、ヴァンはそれは難しいと感じていた。
なぜなら、そのガイの喜びに、自分が全く関与していないからである。
公爵邸に居た頃、たまにヴァンが贈った音機関でガイが幸せそうな笑顔を浮かべた時は、心から共に喜べたのだが。
今ガイが満たしている幸せいっぱいの表情。
それはヴァンがいても居なくても変わらないもの。
そう思うと、嫉妬ばかり沸き上がるのは仕方ないことだった。
なので、
「それは良かったですね」
と共に喜ぶ振りだけをしながら
「ところでガイラルディア様」
「ん?」
幸せそうな笑顔のまま、ヴァンの問いかけに小首を傾げて聞こうとするガイの姿が愛らしくて、ヴァンは軽く目眩を感じながら。
「今宵はまた、覚悟の続きをしていただきますので…そのおつもりで」
と、耳元に顔を寄せながら囁いた。
「………ぁ」
それまで邪気の全く無かった笑顔が、それだけで急に困惑に満ち、それでもヴァンの言葉で誘発された快楽の記憶に行き着いたのか、頬を勢いよく赤らめると、視線をさ迷わせた。
「う…ん」
ガイは戸惑いながらも、肯定の言葉を出すしかなく。チラとヴァンを上目遣いで見てきた。
それにもヴァンは息が詰まるような愛しさを感じつつ。
このままではまた夕食を抜いて押し倒しそうな衝動を堪えて、
「夕食は皆で揃ってとるとのことです」
今は階下の食堂へと向かうことにした。
「はあ……」
ガイは作業用のツナギを着替えてから行くと告げて、ヴァンに続くことなく部屋の中に居た。
「また…アレをするのか…」
ヴァンが仲間になるために出した条件を飲んだのは自分なので、それを拒否するつもりはガイには無い。
約束は約束である。
約束を守るのが男ってもんだよな!と理性では思うのだが。
先日、一方的にヴァンに与えられたものでも、ガイには刺激が強すぎて。
またアレを……と思うと、恥ずかしくてたまらない。
というか、続きとか言ってた。
だからアレよりは先に進むってことなんだと思われる。
「ううう」
ガイは着替え終わりはしたけれど、足が前に進まなくて、がっくりとベッドに座り込む。
いや、でも!
何とか気持ちを切り替えようと、ガイは自分を励ましてやる。
大人になったら、誰だってすることなんだしな。
突っ込まれる側になるなんて考えもしなかったけど。
女の人が我慢できてオレに出来ないってことは無いだろ。
まあオレは男なんだけど。
世の中意外と男同士のカップルはいるもんだし、その人達が皆ヤってて問題ないことなんだからな。
こう、ちょっと後込みしたくなるのは、経験してないからだ。きっと経験しちまえば、なーんだこんな事ビビってたのか…って笑い話になるに決まってる。
子供が注射とか歯医者とか怖がって、治療が終わってみたら何てことなくてケロってするような、そんな感じなのに決まってる。
そうだ。だからオレはビビらない!
そこまでグダグダ考えて、ようやくガイも夕食の待つ階下へと足を動かすことができたのだった。
夕食は久しぶりに和やかな雰囲気だった。
「へえ、じゃあアッシュが来てたのか」
「ええ 色々と励ましてくださいましたのよ。ガイのことも心配してましたわ」
「あいつも夕飯くらい食ってけば良いのにな」
「そうですわね! 今度は誘ってみますわ」
「あいつのことだからなかなかウンとは言わないだろうけどな」
「言うまで頑張って誘いますわ」
「その強さこそがナタリアだな」
にこやかな幼馴染み同士の会話も弾む。
それから、ジェイドから禁書の解読できた部分の解釈について、簡単な考察が披露された。
「実際ヴァン謡将の助けがなければ、こんな短期間で成果を得ることは無かったでしょうね」
ジェイドはヴァンの有能さも素直に関心している。
ヴァンも、諸悪の根元的存在の死霊使い相手に、素直に相手の有能さを認める発言をし。
その会話にティアがまた、幸せそうに頬を染めている。
アニスもヴァンによって真実を明らかにされたお陰でしがらみからほぼ解放され、両親とイオンに囲まれる幸せを今は噛みしめている。
ルークも、シェリダン行きがガイにとって予想以上に喜ばしかったことや、裏切られても尚慕っていたヴァンにまた剣の稽古などもしてもらえて、浮くような気分になっている。
そんな主人を見て、ミュウもまた嬉しくて仕方なかった。
思いの外時間のかかった晩餐は、地元の度数の強い酒も入って、気分を高揚させてくれた。
だが未成年の多いパーティーであるので、ほどほどの所で皆で宿の部屋へと引き上げる。
明日も同様の作業はあるが、無理せずのんびりと起きれば良いだけだ。
皆にお休みを言って、ガイはヴァンと部屋に入る。
扉を閉めると…。
とたんにシンとした空気に、ガイは例の約束をそこでようやく思い出した。
「先にシャワーを使われますか?」
「あ、う!うん」
どうしたら良いのか戸惑う前にヴァンにそう促され、ガイはその提案に従うことにした。
裸になってシャワーコックを捻ると熱めの湯を浴びる。
体内を心地良く巡っていたアルコールが流されて酔いも冷めてくると、また色々考えてしまいがちになる。
身体を洗う自分の手に、ふと自分の身体に這ったヴァンの手を思い出して
「ふああ!」
その感触の再現を頭を振ってやり過ごそうとした。
「ガイラルディアさま大丈夫ですか? 上せたりしておりませんか?」
ドアの外から、時間のかかっているガイを心配してヴァンが声をかけてくれる。
「だっ…大丈夫」
慌てつつも、ゴシゴシと身体を洗ってから、ガイは身体を拭くのもソコソコにシャワーから出て、バスローブを羽織った。
「ちゃんと髪を乾かさなくてはいけませんよ」
バスタオルで濡れた金糸をもふもふと拭いてから、ヴァンもバスルームへと消えた。
一人になってヴァンを待つガイは、また居たたまれなさに身を浸しながら、バスローブだけを羽織った姿を心もと無く思っていた。
パ…パンツは履いた方が良いのかな…
いやでも、どうせ直ぐ脱ぐことになるんだろうし…………
いやでも、脱がなくても今日は良いですとかそんな………ことは無いんだろうけど…
でもこのままじゃ、あんまりにも無防備過ぎな気も……
普通はどうするもんなんだ…分からない…
とグルグルと考えていると、
ヴァンが予想外の早さでシャワーを済ませ、バスローブ姿で現れた。
な…長風呂派だと思っていたのに…
白いパイル地で長さのあるバスローブはヴァンにとても良く似合っている。
ガイの羽織っているの方は裾が短い。
またわざわざヴァンがダブルの部屋を取ったので、バスローブは男女用の物が用意されていて、身体がヴァンに比べて華奢なガイが、必然的に女物を羽織ることになった。
が、ガイは女性に比べれば長身であるので、細さは問題無かったが、丈が随分と短くなって、それが余計に心もとなさをガイに与えていた。
「髪はまだ少し湿っているようですが」
短いガイの髪は乾くのも早い方なのだが、いつもセットしている髪は湿り気をまだ含んで素直に落ち着き、ガイの端正な顔をしっとりと飾っている。
すぐ乾くよ、と言葉を発しようとしたのだが
ヴァンが伸ばしてきた手に抱き寄せられ、髪の生え際当たりに唇を落とされて
「……ふぁ」
ひくりと鳴った喉から、甘いような妙な声が漏れた。
抱き寄せてきた腕がガイの身体をしっかり支えながら、片手がゆっくりと下の方へ降りていく。
ヴァンの手のひらが、短い裾から入り込む。
「っぁ…」
無防備な太股から腰の後ろまでをゆっくりと撫でられて、やっぱりパンツを履いておけばよかった…と。
「ん…ゃっ」
ヴァンの唇がこめかみを経て形の良いガイの耳をはむ。
そのまま首筋を辿って、するりとずらされたバスローブの襟からむき出しにされた肩口から鎖骨にかけて、軽く歯を立てられた。
その軽い痛みに気を取られている間にも、バスローブの腰紐は簡単に外されて、さらりと前がはだけてしまった。
腰を抱き寄せるまま小さな双丘を楽しんでいたヴァンの手が、足の付け根から背筋をざらりと撫であげる。
「ひうっ」
思わず身を捩るけれど、首の後ろを捕まれて、そのまま悲鳴に似た吐息はヴァンの唇にむさぼられた。
「んんっ んっ」
息が乱れるのに呼吸を整えることもままならない。ずっとヴァンのハスローブの袖を掴んでいたガイだったが、膝から力が抜けかかって、もっと確かなヴァンの背中に腕を回してすがった。
そのガイの手を感じて、ヴァンはたまらずガイを抱きしめる腕に力を入れすぎてしまう。
「んんんっ」
唇を貪られたまま、腰もくだけたガイをヴァンは軽々と支え、そのまま広いベッドへと押し倒す。
ガイの自由を全く許すことなく、身体ごとのし掛かって、ヴァンは熱過ぎる口づけを続けながら、苦しがって抵抗しようとするガイの腕を片手で頭上にまとめてしまうと、空いた手ではだけたバスローブの下の滑らかな身体をゆっくり隅々まで確かめる。
「はっ……ぁ」
ようやく口づけから解放してあげると、ガイは大きく息を継ごうとするのだが、
「ゃうっ!」
そのタイミングで下肢の弱い部分を包みこむように触れると吐息は悲鳴に代わる。
「やっあぁっ…あっぁっ」
刺激に素直に反応する手のなかの愛しいものを丁寧に扱く度に、やはり素直に身体も跳ねる。
逃げようとする腰を足に足を絡めて逃げられないようにしてから、
喘ぎ反る無防備な首筋から胸元、そして敏感な色付く突起へと舌を這わせた。
「やっ…やっ ぁっ ヴァっ…ンッ」
その呼びかけに応えて
「愛して…います ガイラルディアさま」
こちらも乱れる息のまま、耳元でそう吐き出せば、息をのむ音と、ひくりと震える身体。
堪えるように閉じていた瞼がおずおずと開き
「ヴァ…ン」
澄んだ空色の瞳を潤ませながら、甘く名を呼んでくれる。
愛しくて我慢など出来ないと思った。
「ガイラルディ…アさまっ」
それでもガイにそのまま何も施してはいないので、ヴァンは主張する自身を
「ぁ…!」
そのままガイの分身にと重ねた。
手のひらで両の堅さを持ったものを包み込むと、ガイの腹にそれを押しつけるようにして、ヴァンは腰を使った。
「ひ……ぁっ……やっ!ぁ…あ!」
腰の蠢きに合わせて、ガイラルディアから可愛い悲鳴があがる。
熱くなる息を耳元に吹きかけながら、舌を耳に頬に唇にヴァンは這わせた。
強すぎる刺激を与えられ続けたガイが、
「ぁあ!…ヴァ……も……ぃ……!」
先に堪えきれずに身体を震わせながら果てる。白濁したものを吐き出すその最中にも、ヴァンは押し付けるようにして容赦なく腰を使う。
「いやああ! やっゃ!やめっっ!ぁあ!」
ガイラルディアは逃れようと身体をのたうたせるが、ヴァンに組み敷かれたまま、どうにもできずに、その過剰に与えられる快楽を泣きながらも受け入れるしかない。
ようやくヴァンが一度果てると、汗混じりにガイの頬を濡らす涙にようやく気付くことが出来た。
ガクガクと身体を震わせるガイラルディアに、ヴァンはようやくしまったと思う。
こうった事に耐性のまだ無い彼を少しずつ慣らさせていく予定であったのに。
つい自制が効かずに強引にことを進めてしまった。
それでも無理矢理に身体を開くような暴挙だけは思い止まることが出来たのは幸いか。
それでも、今宵はこれ以上強引に事を進めると、快楽からではない涙をガイラルディアに流させてしまいそうで、ヴァンは何とか自重することに思い至った。
ひくひくと嗚咽まじりの息を吐くガイラルディアに、できるだけ優しく言葉をかけて触れる。
「申し訳ありません。いささか我慢が効かず性急に過ぎました。もう怖がらせませんから」
いくつも宥める言葉を重ねると
「……ん…」
まだ熱に潤んだ瞳のまま、金の睫をまたたかせて涙の粒を払うと
こくりと頷いて
組み敷かれている身体の力を抜いた。
熱に染まるその肢体を眼下にして、ヴァンは吐き出したばかりの欲望が直ぐに頭を擡げるのに苦笑する。
気を抜けば欲望に負けて、何処までもこの愛しい人を貪ってしまいそうだった。
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