ヴァン幸せルート小説 10










「話はほぼ全て通りましたよ。イオン様はこのまま宮殿にお住まいいただきます。皆さん全員との協力関係をマルクトは受け入れます。お待たせしてしまいましたね」

大成果とも言える結果を、相変わらず食えない笑顔でさらりとジェイドは言ってのけた。

「いや、十分過ぎるほど早いって。よく議会がすんなり納得したもんだなあ」

パーティーではジェイドと同等に立ち回ってきたガイだが、今回ばかりは、さすが旦那と素直に感嘆の声を上げた。

「そう難しくはありませんでしたよ。何せマルクト側の選択肢は実質一つしかない訳ですから」
飄々とジェイドは続ける。ガイは驚き続けたままだ。

「それにしたって、議会はずいぶんと即決したもんだと思うぜ? いったいどんな脅しを使ったんだいジェイドの旦那は」
「脅しなんて人聞きの悪い。私はいつだって誠心誠意じゃありませんか」
「どこがだよ」
とのルークのつっこみはサラリとかわして。

「ルグニカ戦争が大地ごと落ちたことが、為政者達にはけっこうな衝撃だったのですよ。
視覚的にも大地がぽっかり無くなってしまっている訳ですからね、躊躇できない現実を突きつけられる。
落ちた大地はルークのおかげで軟着陸しましたが、今度は残っている国民の救済問題がある。
障気のことを考慮すれば、ゆっくり議論している時間は無い」
「それで、旦那の出した要求をほぼ即決って訳なのか」
「ルグニカ平野が落ちずに戦争が続いている状態であれば、こんな提案一蹴されていたでしょうね」
「なるほど、…皮肉なもんだな…」

大きな犠牲が出なければ、政治は変わることは無い。それはいつの時代でもどの国でも同じで。

「ですが大佐、兄の起こしたルグニカ平野降下はマルクトに甚大な被害をもたらしています。それについては…」
と、その点に関する議会側の考えをティアはまだ不安に思っていたのだが

「何か勘違いをしていませんかティア」
「え…」
「ヴァン謡将の立場についてですよ。ヴァンは今やただのダアトの一将ではありません。
キムラスカとマルクトとの戦争にルグニカ平野を落とすことで二国を敗走させた、戦勝者なのですよ。
今世界は、マルクト、ダアト、キムラスカという三大勢力に、ヴァン・グランツという新たな勢力を加えた形となっているのです。この勢力に実力的に対抗できる技術を、マルクトは持っていません。ヴァンへの実質的な敗北宣言とうわけです」
「兄が…四番目の勢力…」

それは兄を裏切り者だと追っていたティアにとっては、思ってもみない考え方だった。

「それに絡んでですが、ガイ、マルクトは貴方に爵位と財産を返還するそうですよ」
「え…」
急に振られた話にガイは一瞬とまどったが。

「それも、政治戦略ってやつかい?」

と冷静に受け止めた。

やはり聡明な子だ…とジェイドは内心で誉めつつ。どういうことだという顔をしているルーク達にも分かるように、分かりやすく説明した。

「今や世界はヴァン・グランツの勢力に席巻されている、ということは分かりましたね。
そのヴァンは、今後ガイラルディアという青年に剣を捧げ従うという。
で、その青年はルーク・フォン・ファブレに従っている」
「ガイは下僕なんかじゃない、俺の大切な親友でっ!」
と、ガイに関しては譲れないらしいルークが熱く口を挟む。

「ルーク。この場合実際どうかは関係ないんですよ。どういう形式になっているかが一番大切なのです」

たしなめるジェイドに、うー…と唸るルークを、政治ってなそんなもんなんだとガイが宥める。

「今はルーク達はモースの企みで身分を奪われていますが、ルークとガイとヴァンの関係の形式に気づけば、キムラスカはルークを手の内に戻そうとするでしょう。
そうなると、キムラスカはルークとガイに付いてくる、ヴァンという最強のカードを手にすることになる。
そうなる前に、今ならば浮いた状態にあるガイのカードを押さえてしまおうという、肝計ですよ」
あくまで政治と突き放した話をするジェイドだが。

「そういう話に持ってったの、旦那だろ?」

と、腕を組んで聞いていたガイがニヤリと笑う。

分かりやすいカードゲームに話を託せば、ヴァンという最強カードをどう扱うべきか。
議員達は焦って、ガイを取り込むべきだと自ら提案したのだろう、
そんな光景がガイにはありありと見えた。

「頭の良い子は好きですよガイ。ま、そういうことで、ガイがいかに感動的にヴァン謡将を従わせたか話を盛りまくりましたので、話を合わせて下さいね♪」
とニコニコするジェイドに、ガイはやっぱり食えないおっさんだとため息をつきまくった。

実際の話は確かに絶対バレたくない。伴侶というか嫁というか………むむ。



「ヴァン謡将がユリアの直系の子孫だという話も議録に残しましたが、本当に宜しかったのですね?」

とジェイドがヴァンに確認をする。

フェンデ家がユリアの子孫であるという事実は、ユリアシティ上層部の極一部しか知らない、超極秘事項であった。
ティアも兄からは聞いていたが、あくまで伝説のような、証拠の無いおとぎ話のような話だと思っていた。
譜歌が歌えるためにユリアの子孫なのではと周囲が噂したりはしていたが。

だが兄は知っていた。
フェンデ家は本当にユリアの直系の家系なのだと。

兄は努力家で実力も抜きんでていたけれど、それでも最年少でダアトの主席総長に踊り出たのは、ヴァンの出自を知るユリアシティ上層部の意向が働いてのことだったのだと、ティアはようやく今にして気づくことができた。

理由も定かにされずに特別扱いされる兄に対して、周囲は嫉妬からきつく当たる人も多く、兄が苦労しているのをティアはずっと辛く思って育ってきた。

もしユリアの直系の子孫であることが知られていれば、幼い頃から理不尽な虐めにも遭うことは無かったのかも知れない。

それを考えると、極秘とされてきた経歴を正式なものとして明かすことは、ヴァン・グランツの地位をより確定させる効果をもたらすのだろう。

「政治…なのですね」

そうつぶやくティアに、そうですよとジェイドは笑んだ。

「それでガイ、爵位の返還の提案は受けられますか?」
「そうだな。自由が制限されることはあるかも知れないけど、それで俺自身が出来ることが増えるなら」

笑みを浮かべつつ声を低く鋭く答えるガイに、良い目をするものだとジェイドはまた内心で賞賛し。

「ルークと貴方の関係が友好であるように、マルクトも爵位を返すのはあくまで誠実さを示すためで、従属を求めている訳ではないことを確認してあります。その件は貴族史に明記もされますのでご安心を」
「さすが旦那はソツが無いなあ… ありがたく受けさせていただくよ。計らいをありがとうジェイド」

深い視線はそのままに柔らかさを増す笑みは、ジェイドの好きなガイの笑顔の一つだった。

まったく本当に、この私をここまでタラすとは。しかも天然ですからね。

「恐ろしいものです。天然の力というものは」

と脈絡もなくジェイドがニコニコと言い放つと、ガイはぽかんとした顔をし、
ヴァンが苦々しくジェイドを睨む。


「それで、皆さんのピオニー陛下との謁見ですが、できれば今後のことをまとめて話合う場としたいのですがいかがですか?」

とのジェイドの提案に対して、ヴァン達が是と答える。

挨拶だけしても意味がないので、深い話合いをこちらとしても望んでいるのだ。

「できればユリアシティから障気や預言の研究者にも参加してもらい専門的な意見を聞きたいのです。
アルビオールとノエルをお借りして、ついでにこちらの議員達にも魔界の現状を見せて考えさせたい。
ということで、早くても三日以上はかかりそうですが、謡将はそれで宜しいですか?」

ヴァンはモースを罷免する準備を進めさせているようであり、時間的な余裕がどのくらいあるのかとジェイドは訊たが、ヴァンは問題ないと答えた。

「では申し訳ありませんが、数日グランコクマでのんびりご自由にお過ごしください。議事録を部下に届けさせますので必ず全員目を通して、問題や提案をまとめておいて下さるとありがたいです、それから…」

とけっこうな量の頼みごとをジェイドは皆に押しつけてから、

「明日の午前中に針子が来ますので、ガイとルークとナタリアは採寸されてくださいね」
「採寸?」
「ピオニー陛下がとっておきの衣装デザインをしてくださるそーです」

謁見は議会も兼ねることになると、たくさんの議員や貴族、将校達に囲まれることになる。
ヴァンやティアは将校の制服なので問題ないが、ルーク達は旅装束、ガイに至っては使用人服だ。
さすがにそれでは形式として不味い。という配慮なのだ。

「陛下のご配慮いたみいりますわ」
「陛下がデザインって…マジどんなんなんだろ」
「はは。まあ楽しみにさせてもらうよ。あんまり派手じゃないと良いけどなー」
「ま、陛下のセンスですからねぇ。私が着る訳でないので、私も出来映えを楽しみにしてますよ」






翌朝早くにジェイドは議員達を連れて魔界へ出発した。

朝食を済ませた頃にさっそく針子たちがやって来て、身体のサイズを細かく計っていった。
お針子は皆女性だったのでガイは小さく悲鳴をあげていたが、触れなければ正確に計れないということで、ヴァンがメジャーを持って針子の指示の通りに計ってあげたりしていた。


議事録が届くのは翌日になるらしく、この日は街で買い物をしたり観光をしたりと、またのんびりと過ごすことができた。問題が山積はしつづけているものの、昨日までの緊張は一段落した感なのだ。







ホテルの部屋はジェイドの計らいで元々良い部屋を与えられていたのだが、正式に国賓扱いとなり、最上級の部屋へと移された。

一人一部屋が与えられたのだが、ヴァンはガイの部屋で一緒に過ごしている。
ベッドも普通にキングサイズはあるようで、調度品も数人で過ごせる数が揃って尚広々とした空間は、空虚を感じさせないほど美麗に飾られていた。

「なんかキラキラしてて落ち着かないなぁ…」
ガイはファブレ邸で育ったものの、寝る場所は使用人部屋であったので、こういったきらびやかな空間は仕事場としては慣れているのに、休む場所としてはあまり落ち着かなかった。
「ガルディオスのお屋敷はもっと美しかったですよ」
本来であれば華やかな場で暮らしていたはずのガイ。これまでしなくても良い苦労を耐えてきた主をいたわしくヴァンは思った。

「貴公が望まれるなら、この世界の全てを捧げることも可能なのですが…」

伯爵の位など小さなものだ。ガイラルディアが望むなら、この世界を取ってみせるだけの力がヴァンにはあった。
その全てをガイラルディアに捧げることはヴァンの喜びとなるだろう。

「そんなもん、俺はいらないぜ」

ガイは軽く笑い飛ばす。

「一番欲しかったもんは手にしちまってるんだしな」
極上のタラし笑顔になったガイが、上目使いでヴァンにニカリと笑いかける。
計算してやっているとしたら恐ろしい力だとヴァンは当てられて目眩を感じながら。
素直に敗北を認めてガイの身体を抱き寄せた。

そして耳元で
「早く貴方の全てを抱きたいものです…」
と囁けぱ今度はガイが焦る番で。

「う…ヴァン…。その…グランコクマにいる間は…」

一応議会の心配は少し片づいたものの、まだ本題はこれからなのである。

「ですがこの先時間が出来るとも限らないでしょう。それに」

間を空けてしまうと、また最初から慣らさなくてはなりませんし

とのヴァンの台詞に、ガイは青くなったり赤くなったりした。

そうだ、こっちはこっちで、大きな問題を…命に関わる問題を抱えていたのだ。
なにか打開策を考えなくては! と焦る間にも、ヴァンは抱きしめている腕をゆっくりと腰の方へと移動させ、髪に額にと唇をガイへ寄せる。
そのくすぐったくもだんだんと官能を増そうとする動きに、警戒音が脳内で響くのだが。

ど…どうしよ…

と迷っているうちに唇が塞がれる。

「ん…」
しっかりと抱きしめられたまま口づけを深められるのは、ゾクゾクと身体の芯が震えるものの妙な安心感もあって、ガイはこれ自体は嫌ではないのだが…。

だが流されるままでは最後にはアレを突っ込まれてしまうのだ。

どこかで阻止しなくては…!

ヴァンの舌がガイの舌を何かを思い出させる動きで吸い撫でたとき、ガイは
「あ…!そうだ!」
と思いついた。

とっても良いアイディアな気がする!

ヴァンにふかふかのベッドに押し倒され、手早く衣服をはぎ取られながら
「ヴァンっ ヴァン〜」
とヴァンの手を止めさせようとした。
なんでしょうかと答えながらも、ヴァンはガイの露わになった素肌を愛撫することに余念がない。

「んっ……ちょっ…ちょっと待てっ」

それに早くも息を切らせているガイラルディアが、必死に半身を起こしてヴァンに視線を合わせながら、できるだけ甘い声を作って。

「その……いつもお前に頑張ってもらってばっかりだからさ………その…今日は…オ…俺が……く………」

「く…?」






「く………………………口で………シてやる!」







言い淀みつつ最後の方は決意を込めるというバランスの悪い台詞だったが、ヴァンの動きと思考を止めるには十分だった。

要は他に満足な快楽を与えられれば、アレを突っ込まなくても済むはずだ、とガイは思いついたのだ。

毎回ヴァンが口でシてくるのは、恥ずかしながら十分に気持ち良いと…思うし、ガイはそれ以上を実際望まないくらいに満足させられてしまっているのだ。
だからヴァンだって、口でされたら満足して突っ込もうとしなくなるはずだ…
とガイは考えたのだった。



「……ガイラルディアさま?」
しばらく固まっていたヴァンがようやく、何を言い出すのだこの主は、という困った視線をガイに向けてきた。
ガイはヴァンにダメージを与えられたことにちょっと気を良くした。
だが

「………」
「………?」

なんだか気不味いような妙な空気に流石のガイも、?、となる。

「イヤ……なのか?」
「とんでもありません!」
おそるおそる訊ねてみると、そんなに必死にならなくてもという激しさでヴァンが頭を横に振る。

「その、大変にお気持ちは嬉しいのですが……本当に宜しいのでしょうか」

いつも強引にコトを進めるくせに、ガイからのアクションには慣れないらしい。

「やるって決めたからにはやる」

ガイの方も命がかかっているので必死だ。

甘い空気とはほど遠いのだが。
ヴァンが言葉詰まらせながらも、宜しくお願いいたしますとかなんとか言った気がしたので、
まだほとんど着衣に乱れのないヴァンの衣服を、今度はガイが脱がしていく。

服を脱がすくらい、小さい頃のルークを脱ぎ着させていた経験があるので楽勝だ……。

が…

下肢の方を脱がせようとして、ガイの手が止まった。しばらく考えてから

「もしかして、けっこう…難しかったりするか?」

脱がすことではなく、口で奉仕することはガイにとっては初めてのことで。
手順というか勝手がまず分からないことにようやく気づくことが出来た。


「…難しいことは無いと思いますが…… 歯をお立てにならないで下されば大丈夫です」
「……歯」

ガイは固まっていた。
ヴァンが毎回易々とシてくるのでその通りにすれば良いと漠然と思っていたのだが、考えてみたらされている最中は夢中で、何をどうされていたのか曖昧だった。
それに口の中に何かを含んで歯を立てないってどうやるのだろう。

うーんと考え込んでいると、クスリとヴァンが笑う。

大きな手でゆっくりと愛しそうにガイの頬を撫でてから、
その親指で柔らかくガイの下唇をなぞる。

それはあくまで慈愛に満ちた愛撫だったのだが、

「無理はされなくて良いのですよ」

というヴァンの囁きが、この時のガイには何故か、

「できないくせに」という台詞に脳内変換されてしまっていた。

嘗めてみろってことか!

挑戦されていると思ってしまったガイは、唇に当てられている指を巧く舐めることが試験なのだと考えた。

差し出されているヴァンの親指を両手でがしりと包む。

そしてその指を、ガイはペロリと舐めた。







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