ヴァン幸せルート小説 15










「うー………」
ヴァンに抱き込まれたままベッドの中で。
ガイはもぞもぞと自分の足を擦り合わせた。
隣のヴァンは、

私はもう寝ましたよ。

という顔をして目を閉じている。憎たらしい。

ヴァンの過度なお休みのキスのせいで、ガイが安らかに寝るには少々障害が発生してしまっているのだ。
一人だったら適当に処理ができるのだけれど。今までも宿で一人部屋でない時は、シャワーの時に済ませたりしていたので。
さっき済ませたばかりなのに、またシャワーに入らないといけないのか…とため息をつく。

もぞもぞとベッドから抜け出そうとするのだけれど、
「どちらへ行かれるのです?」
寝ていますよという顔で寝ていたヴァンが、その逞しい腕でガイを捕らえ直した。
「どこだって良いだろ」
その腕をどけてベッドから降りようとするのだが。
「うわっ」
ぐいっと引かれて、ガイの長身は簡単にヴァンの腕の中に、背中を預ける形で収まってしまった。

「何かお困りのことでも?」
ガイを背中から抱き込みながら、ヴァンがわざとらしく恭しく聞いてくるのが、また憎らしい。
「何だって良いだろ。放せよ」
もがこうとするのだが、ぎゅっと抱きしめられて
「ですが…」
「っ!」
ガイの金糸に鼻梁を埋めながら、ヴァンは吐息まじりの低い声を、ガイの耳の後ろにわざと響かせる。
ガイの肌理の整った項に唇を這わせて、ゆっくりと腕を下肢の方へと滑らせていく。

「っぁ! もうっ……触る…なっ!」
すっかり元気な反応を示しているそこの周囲をわざと辿れば、ガイは恥ずかしがってジタバタと暴れようとした。
それを背中からのしかかるようにして押さえて。

「いつもご自分で処理を?」
「っ……そんなの普通だろっ」
「勿論そうです。ですが今日はそんな御気分ではないと言っていらしたので」

わざとらしくそう嘯くヴァンにガイもついつい腹が立って。

「お前のせいだろっ!」

つい叫んでしまう。

「左様でしたか。それは申し訳ありませんでした」
背中から聞こえる声音は、顔は見えていないのに、絶対こいつ顔が笑ってる…と思わせた。

「それでは責任を取らねばなりませんな」

「いいっ! そんなこと」

しなくて良いから! 

と叫んだつもりが

「ヒ!…ぁ!」
ぞろりと夜着の隙間から図々しく入り込んできたヴァンの手に、いきなり敏感な部分を直接触れられて。
身体を竦ませたガイからは、ついつい甘い悲鳴が漏れた。

「あっ…!バカっ!もうっ …やっ…」
ヴァンのバカと鳴くのだが
「お手伝いするだけです。素直に私に任せてください。そう暴れずに」
逃げようとするガイの抵抗などものともせずに、ヴァンは空いている方の手で簡単にガイの夜着をずらして下肢だけを露わにしてから。
「っぁ!……は……」
先端の敏感な部分をくすぐるように弄る。
その手をガイが引きはがそうと無駄な抵抗をしている間に。
忍ばせておいた物でヴァンは器用に片方の手の指を濡らすと
「ッ!! っや……あ!」
ガイの後口へとつぷりと指を進入させた。
「う゛…ヴァン! 」
そっちは嫌だと慌てるガイに
「こちらも痛いばかりでは無くなってきたでしょう」
最初の経験からガイはそちらも感じさせられてきたのだが、ヴァンはわざとらしくそう言ってみせる。
「うっ……」
ガイが答えに窮しているのを良いことに、ヴァンは埋めた指にゆっくりと振動を与えはじめた。
「……!…ゃ」
先端をいじる指と後口に埋めた指で、同時に敏感な部分の感覚をじわじわと高められはじめて。
「ひ……」

ガイはその快楽の波から逃げたい気持ちになって、身体を丸めようとするのだけれど。
そんなことでは、ヴァンの与えようとするものからは何も逃れることは出来ないので。
仕方なくガイは、息を熱く漏らしながら、手に触れるシーツにしがみつくしかない。

ヴァンはガイの敏感な反応の何もかもを指先だけで掌握しながら。
腕に収まるガイの身体や声音が、艶やかに色着いていくのを愛でていた。

柔らかく白い耳をはめば
「…ひっぅ…」
それだけで指の与える刺激とは違う反応が返る。甘い悲鳴はどこまでも耳に心地良くヴァンを満たすばかりだ。

熱く指を迎え入れているそこは入り口は十分に柔らかで、ゆっくりと二本目の指も受け入れる。
後は指で届かない奥をどう傷つけずに受け入れていただくかだ、とヴァンが余計な知略を巡らせていると

「もっ…ヴァ…んっ……くっ」
悩ましさの増したガイの声音に心臓を掴まれた。

「もうご無理ですか?」
わざと緩やかな動きに変えれば
「もっ……じらす…なっ!」
首を後ろに捻って睨もうとしてくる。

その強い光を宿した瞳は、けれどどうにも濡れて潤んでいて。
ついもっと、その瞳を潤ませたいと思ってしまう。

(このような反応を見せられているのだ。私が悪いわけではないな)

と、ヴァンはルーク並に“俺は悪くない”理論を展開すると

「…ぁ」
ガイの身体を正面に抱き直した。

口づけを何度も落としながら絡まり残っていた他の夜着も全て脱がしてしまうと、息を乱したままのガイを、ヴァンは上から見下ろす格好で陣取った。

そして果てたがっているガイ自身を、慰めるのを止めてしまう。
「ぅ…っヴァ…」
そんなヴァンにガイは抗議の声音を含ませる

「!!!……やっ!ヴァ…ン!」
ヴァンはそれを聞かずに、後ろにくわえ込ませていた指だけをゆるゆると動かし始めた。ガイは嫌がって、それを止めさせようとすした。

身体はもうイキたがって限界が近いのだ。意地悪をするのは、同じ男として卑怯だと文句を言いたくなる。

その指の動きから逃れようと身体をずり上がらせようとすると、空いている手で肩の辺りをがっしりと押さえられて、更に果てるには少し足りない刺激をやわやわと与えられる。
身体の内側から与えられるその感覚は、やはり慣れなくて、どうしたら良いのか分からなくなる。

「もっ…!やめっろっ!」
じらす魂胆が見え見えなので、ガイは何とかヴァンを押し退けようとすると
「そう暴れずに。もっと貴公のしどけない姿を見ていたいのだ」
そうしれっと言うヴァンだが。

「ヴァ…ン」

ガイの抗議の瞳を迎える、そのヴァンの視線は、既に酷く欲望で熱を帯びていて。

ガイは文句をたくさん言いたい気持ちと、その視線に怯える気持ちの不安定さに、ぐらぐらと酔いそうになった。
それでもヴァンがその気なら、と、ガイが自身に手を延ばそうとすると
「ご自分でなさる姿を見せてくださるのですか?」
にまりと笑うヴァンのその言葉に、ガイは羞恥に顔を赤くして、延ばそうとしていた手を止めるしか無くなる。
「お前…っが!じらすからっ…だろ! じらす…なっ」

どうにも出来なくて、ガイはせめてもと両腕で赤くなった顔を隠すのだが。

「隠さないでください」
「あっ…やっ!」

ヴァンは片手だけで、ガイの顔を覆っていた両腕を、簡単に頭上にまとめ押さえてしまった。
「大丈夫。ゆっくり。感じてください」
ただ後ろにくわえ込ませた指だけを、じわじわと動かす。
両腕を頭上に縫い止められて、何も隠すことのできない身体で、ガイはただ、その感覚を感じ続けるしかなかった。
その反応をヴァンに観察し続けられながら、その視線すら、身体の内側まで入り込んでくるようで。
「ひうっ……やっ…ぁ!」
しどけなくシーツを蹴る形の良い足や、緊張と弛緩を繰り返す滑らかな内股から胸元にかけてのライン。
仰け反った時の首筋の角度も、熱い吐息を漏らす唇も、整った容貌の浮かべる羞恥を堪える表情も、乱れる金糸からこぼれる光も。

何度でも、いつまでも眺め続けていたい。

指の動きをじわじわと強さを増すと、その反応の切なさは急激に増して。
ヴァンはその光景全てに酔いしれてしまうばかりだ。

「…ぁっ…あっ!ア!…うっ…嘘っ…いっゃ!………ク!!」
背を反らせ四肢を緊張させて、身体を浮かせながら、ガイはとうとう果てる時を迎えた。
その全てをヴァンは見下ろし続ける。

濡れた瞳から溢れた涙が、ガイの滑らかな頬を伝う。
それを視界が捕らえただけでも理性が飛びそうになるのを、ヴァンは何とか堪えなくてはならなかった。

くったりとしたガイに、その後も結局色々付き合わせてしまうことになったのだが。
それでも過度な情欲は、ヴァンとしては抑えていたつもりなのだった。










翌朝。やっぱりガイは朝から機嫌は悪かった。
だがピオニーへの挨拶やアルビオールの出発前の再点検などで慌ただしくなって、不機嫌どころではなくなった。
ピオニーは更に心ばかりだがと、性能重視の高価な装備品を一行にプレゼントしてくれた。

「今回は間に合わなかったが、次は新しい衣装も用意しておくからな」

楽しみにしていろと笑うピオニーの笑顔は気さくで頼もしく、一行を明るい気持ちで送り出してくれたのだった。

アルビオールには、ルーク一行とイオン導師、そしてユリアシティからの代表団が乗り込んだ。
ダアトに向かう前にユリアシティまで代表達を送り、ついでにそこに避難している老マクガヴァンにマルクト議会からの指令書を渡すことを頼まれたのだ。

「フリングス少将さん達、大丈夫かな」
「セシル少将との関係も、あれからどうなったのか気になりますわ」

魔界に降下したばかりのルグニカ平野で、セシルとフリングスの恋の橋渡しに奔走させられた一行は、その後の二人がどうなったのか非常に気になっていた。
だがフリングスのいるエンゲーブにも立ち寄るとなると、日数にロスが生じてしまう。
そこで臨時の総大将であるフリングスには、ユリアシティの老マクガヴァンから連絡をとってらおうという方向になった。

「相変わらず魔界はすさまじい光景だよな…」

障気に覆われた地下界には太陽光は届かず、セフィロトの放つ光と障気の雷に照らされる世界。
ホドが崩落する前にペールに救い出されなければ、ガイもこの溶けた大地の海に沈んでいた運命だった。
崩落と戦火から逃げ込んだセントビナーでは比較的穏やかに過ごすことができた記憶があって、ガイはあの大樹に守られた街が好きだったのだが。
そのセントビナーも崩落し、魔界の海にかろうじて浮かんでいる。
もうこれ以上思いを寄せる世界を、失いたくなかった。


創世記の技術に守られたユリアシティは、魔界に唯一咲く花のような、オアシスのような街だ。
老マクガヴァン達にはすぐに会うことが出来た。

「指令書は確かに預からせていただきます。確認書を渡したいので、書類を読む間お待ちいただけますかな?」
「勿論です」

穏やかな老人であるマクガヴァンは、傍らに控える息子と一緒にマルクト軍からの書類を読んでいった。
先日の議会についてと今後に関する指令が主な内容である。

「……貴殿がグランツ謡将ですな」

老マクガヴァンが視線をヴァンに向ける。ヴァンはそれに簡単に返答した。

「そして……ガルディオス伯爵は……」

その何とも言い難い複雑な視線がガイに向けられる。

「ご挨拶が遅れました。先日の議会の折りにピオニー陛下より爵位を賜りました。ガイラルディア・ガラン・ガルディオスと申します」

老マクガヴァンとは何度も、ルークの使用人としての立場では会っているのだが、ガイは自身の正式な名を老マクガヴァンに改めて告げた。

「おお……やはり。似ておられるのでずっと、もしやと思っておったのじゃ。ペールギュント殿から時折息災であるとは連絡があったのだが…」
「ペールをご存知なのですか?」
「彼とは戦友の間柄でな。覚えていないかも知れんが、……セントビナーに避難してきたばかりの頃に何度か幼いガルディオス殿には会っておるのだよ」
「そう…だったのですか。申し訳ありません。セントビナーに着いたばかりの頃は、実は記憶が曖昧で……」
「……仕方無いことじゃ。幼い者には辛い経験だったじゃろう…」

老マクガヴァンは辛そうに首を振る。
思いがけず始まった昔語りに、その場にいた全員が黙して耳を傾けた。

「ペールギュント殿が身分を隠して暮らすことを選ばれたので、表だって会うことが難しくてな」

そのマクガヴァンの言葉に、ガイはふと、疑問が沸いてくるのを感じた。

「その、セントビナーで暮らしていた頃はペールに任せきりで。ご支援をいただいたのですよね。ありがとうございます」
「いやいや、微力なものじゃったよ」

会話を続けながら。
ガイの中で疑問が大きくなっていく。

ガイは隠れて暮らしていた。

セントビナーでも、身分を隠して暮らしていたのだ。

過去を振り返りたくないという癖から、つい深く考えないで、今まで来てしまっていた。

グランコクマは戦時は要塞化するために、ペールはセントビナーを避難先に選んだのだと聞いていた。
だが同じマルクトなのだ。ガルディオス伯爵家の嫡男が生き延びたことは、明かしても本来は問題無いはずだ。
ところがペールは、老マクガヴァンに密かに支援を頼みながらも、セントビナーで身分を隠して暮らすことを選んだのだ。

「ペールはどうして、セントビナーで隠れて暮らすことを選んだのでしょう」

ガイはその疑問を、素直に老マクガヴァンに訊ねてみることにした。
キムラスカを脱出する時に、シグムント流の見事な剣技を発揮してくれたペール。無事であって欲しいと願いながら。

「聞いておられなかったのか…。報告書にあるように、ホドの崩落がマルクト軍によるものだとは、もうご存知なのでしたな?」
「はい…。では…ペールはそれを知って…?」
「セントビナーに来たばかりの時は、ホドでのマルクト軍の行動に疑問を持っていただけのようじゃったが。
儂がグランコクマでの議会に召集された折り、密かに真実を知って、ペール殿に伝えたのじゃ」
「それは……」

恐らくその時点では、ホド崩落の真相は軍の最高機密だったろう。
それを老マクガヴァンが漏らしたとなれば、彼もただでは済まない。

「生き残ったことを公表してグランコクマに戻れば、貴殿がいつ暗殺されてもおかしくないと、ペール殿は判断されたようじゃ。
あの頃のマルクトでは、貴殿が真実を知ることを、軍上層部が恐れることは容易に想像がつく。
ホドの崩落はキムラスカの仕業。だから戦争を。その大義名分が揺らぐことは許されない状況じゃった」
「そう…だったのですか…」

ペールはその真実をガイには隠して、復讐を望むガイの希望のままに、キムラスカに移り住むための工作に走ってくれた。
やはりヴァンの気遣いと同じに、故国によってホドが滅ぼされたという事実が、ガイには辛すぎると思いやってくれたのだろう。

もしその事実を早い時期に知ってしまっていたら、ヴァンの元で六神将をしているガイラルディア…というのも現実になっていたかも知れない。


そうしてセントビナーでの日々を思い出しながら、記憶はホドでのあの日に遡る。

最近ようやく失っていた記憶を全て取り戻したばかりで、なかなか深く思い返すことは難しい痛みばかりの記憶。

そうして思い返してみると……

(やっぱりだ…… まだ真実が明らかじゃない部分がある…)

と気づきはじめる。

ここまできたのだ。全ての真実を知りたい。

ガイはそう考えるようになっていった。











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