ヴァン幸せルート小説24









途中で気を失ったガイは、それでも何度か突き上げられる動きで意識が浮上することがあった。
喘ぎは既に掠れていて、抵抗する力も縋る力も無く、ガイは延々と続く責めに堪え続けるしか無かった。






次に目を覚ましたのは、翌日の昼近い時間だった。

目覚めてまず身体の酷いダルさに、ガイは呻くことになった。
その呻こうとした声も酷い掠れ具合で。寝返りをうつのも億劫に感じながら、ぼんやりする頭が起きてくれるのをベッドの中で促した。

ふと、額に冷たいタオルが乗せられていることに気づく。
頭も目元もじんわりと痛かったけれど、冷やされているお陰でそれほど苦しい訳ではなかった。もぞもぞと起きあがろうとするけれど、身体が重くて自由にならない。

「ガイラルディア様…気がつかれましたか……」

そのもぞもぞとした音を聞きつけて、洗面器を持ったヴァンが、ベッドへと急いで寄ってくる。濡れたタオルはヴァンが額に乗せてくれていたらしい。
閉じたがる瞼を何とか開いて、ガイはそのヴァンの姿をぼんやりと眺めたのだが…

「ヴァ……ん……?」

掠れてうまく発せられない声で、ガイはそのヴァンの様子に思わず疑問の声をかけた。

「………」

ヴァンは、驚いてしまうくらいに、しょげかえっていた。

そこに居るのは、いつも自信に満ちて、世界の運命をその手に握っているヴァン謡将ではなく。
主人に誤って噛みついてしまった大きな犬が、しょげながら主人の様子を伺っているような。

「あんなことをするつもりでは無かったのです…」

ヴァンは謝罪の言葉すら口にすることが許されないといった重々しいしょげ方で、ため息すら飲み込んで、ガイの額のタオルを冷たい水に浸して絞り、そうっと乗せてくる。

「何か飲まれますか? 食事はできそうでしょうか…」

喉はすごく乾いている。
腹も減っているけれど、今はダルくて取る気になれない。

「の…どかわい…た」

そのガイの掠れた声にヴァンは益々眉を下げながら、枕元にある水差しからグラスに水をそそぐ。
一人では起きあがれないガイの背に、遠慮がちに手を添えて、水が飲みやすい体勢に支えてくれた。
ガイは砂漠で水を求めていた旅人のような勢いで、グラスの水を飲み干した。
慌てて飲んだので、少しけほけほと噎せる。その度に身体のダルさが響いて呻きたくなる。

「食事も、取れるようでしたら直ぐに持ってきましょう。昨夜から何も口にしていないのだから……」
「き…のう?」

ああ、と、ガイはようやく、ヴァンにベッドに連れ込まれたのが昨日の夕方のことで、今がどうやら翌日のお昼頃なのだということに気づいた。

「飯はま…だ今…は…いいけど…」

ガイは重い腕をベッド脇のヴァンに延ばす。いつもならその手をすぐに取るヴァンは、困った顔で、その手に触れていいのか迷っている。

「おま…えは…ちゃんと寝たの…か?」

こんなことになっていながら、ヴァンが徹夜続きだったことを心配するガイに、ヴァンは様々な思いに打ちのめされて、思い切り眉を潜めた。


思うままにガイラルディアを貪り尽くした後、荒れ狂った欲望は満足したのか、目が覚めた時にはガイラルディアを腕に抱いて眠っていたことに気づいた。

そうして腕の中のガイラルディアは………。

ヴァンは一気に自分が青ざめるのが分かった。

慌てながら、血の痕の残る箇所に、しつこく治癒術をかける。
怪我をしているのは体内なので、傷の確認ができない不安に苛まれて、ヴァンは過剰に治癒術をほどこしてしまうことになった。

医者を呼ぶことも考えたが、一晩様子をみることにして、ガイの身体を清めた後、廊下に人のいないことを確認してから、シーツにくるんだガイをガイの部屋へと移した。
泣きすぎて腫れてしまった目元を冷やそうと濡れタオルを当てる。
額に手が触れると、熱が出ていることにも気づいて、ヴァンは更にどっと落ち込んだ。

それから枕元でずっと看病を続けて今に至っている。

「その…ちょうしじゃ、ちゃんと寝てない…んだろ」

自分に向かって延ばされる手に触れて良いのか迷う。そんな資格はもう…
そんな様子のヴァンにガイはくすりと笑って。
ぽんぽんと、寝ているベッドの空いている場所をたたいた。

「ガイラルディア…?」
「こっち…へ…こいよ」
「………いえ…」
「ヴァン」

ガイは頑張って手を延ばすと、解かれたままのヴァンの髪の先を引っ張った。
それに釣られて仕方なくヴァンがガイの方に顔を寄せると、ガイはそのヴァンの頭を

「!」

抱え込むように抱いた。

「オレは今は…ちょっと…うまく動けないから、おまえがこっちこい」

触れる手はあくまでも優しいもので。

それが主の命令ならば…と、ヴァンはガイの横に身を寝そべらせる。

ガイはようやく腕の中に収まったヴァンを、あやすように撫でた。

目の前でヴァンにこんなにしょげられて放っておけないのもあるが、自棄でも起こして何処かへ行ってしまううのではないかと、そんな不安な気持ちをかき立てられたからでもあった。

そんな心配をしてしまうくらい、ヴァンはとてもしょげているのだ。

しばらくヴァンを撫でていると、そうっとガイの背にヴァンの腕が回される。抱きしめるのではなく添えるような力の無さで。

「………どこか…痛むところはないか」

ようやくヴァンはずっと聞きたかったことを言葉にする。
痛む所ばかりだろうと、自分の暴力を深く後悔しながら。
けれどガイは身じろぎしながら、自分の身体の具合を確かめて

「痛い…ってところは無い…みたいだ」
「そうか…」

傷をつけた場所に痛みが残っているようなら医者をと思っていたのだが、その心配はないようだった。

「けど…めちゃくちゃ…ダルい…」
「過度に負担をかけたせいもあるが… 治癒術をかけすぎた副作用もあるだろう…」

すまなかったと謝ることが、やはりヴァンにはできなかった。そんなことで済ませられることではないのだと、深く頭を垂れるしかない。
そんなヴァンデスデルカの様子に、ガイは唇をとがらせると

「もっとさ…嬉しそうな顔しろって…」
「…?」
「せっかく…その、俺たちが、そーゆーことになったんだから、ヴァンがそんな顔してると、やっぱオレ相手じゃ後悔してんのかなって…」
「そんなことはない!!!!」

急に大きな声でガイの言葉を遮ったヴァンに目を丸くすると
ヴァンははっとして

「そういう事では…ないのです」

落ち着いた言葉を選んでゆく。

「あのような事になるはずでは…なかった。苦しめたかったのでは…ないのだ…」

苦悩の滲むヴァンの様子にガイは柔らかく笑う。

「そんなこと分かってるっ…て。今まで我慢ばっかさせたオレも悪いんだし」
「貴公が悪いことなど!」

かしこまるヴァンに

「まあけどけっこう辛かった…から」
「!……」

わざとしょげさせる言葉をかけたガイは

「だから…次はちゃんと、オレばっかじゃなく、おまえにも色々やってやるからな」

ニカリと笑う。

掠れた声のまま身動きの取れない身体で、ヴァンを包み込むように強い笑みを向けてくるガイ。

ヴァンは一度頭を振ると、

貴公には全く敵いません…

と降参して。

「次…は、優しくいたします」

ガイが正解と認めてくれるはずの、そんな答えを口にすることができた。

「ん」

良くできましたとばかりに、ガイはヴァンの額にキスをする。
それを受けてヴァンも、誓いの意味も込めて、ガイの唇に恭しく触れる口づけを落とした。

「なあ…ヴァン…」
「なんでしょう」
「一緒に寝ろとか誘っておいて…悪いんだけど


……………………………………腹へった………」


昨日の昼以降何も食べずに激しい運動をさせられたのだ。
身体のダルさに参っていたものの、ヴァンをなだめているうちに、空腹が勝ってきてしまった。

ぐう… と、派手にお腹が鳴る。

聞けばヴァンも何も口にしていないということで。

「じゃ、何か腹に入れよ…ぜ」

ヴァンから今日は丸一日予定を空けてきたという話も聞いて、

「そんなら午後は昼寝に…しよ。付き合ってくれるんだろ…?」
「御意」

ヴァンに甘い言葉をくれる主人のその甘すぎる甘さに、ヴァンは苦笑する。

どこまでもガイラルディアには敵わないのだ。

主への増すばかりの愛しさに、溺れないようにするべきであるのに。
結局ガイラルディアの存在自身が、それを許したりはしないのだ。


ガイは風邪ひいていることにしてあるらしく、ヴァンが自身で食べやすい食事を運んできて、二人で食事を済ませる。

それから午後は、同じベッドで寄り添って、柔らかい時間を過ごしたのだった。







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