ヴァン幸せルート小説 25







「風邪の具合どうなんだ? いろいろあったから疲れたんじゃねーのか?」

夕方にはガイの具合は大分良くなったものの、まだ歩くにはぎこちなさが残ってしまっていて、風邪だと理由をつけてヴァンと二人で部屋で夕食を済ませた。
すると今日も一日会議にかり出されていたルークが、心配でたまらないといった体で、部屋に見舞いにやってきた。
心配してくれるルークにガイは少し胸を痛めながら。

「もう大分良いんだけど、まあ大事をとって…な」
「そっか、ゆっくり休めよ。オレに何かできることあるか?」

心配いらないからとガイは苦笑するしかなかった。
何せ、ガイがなにかしようとすると、傍らに控えているヴァンがさっさと代わりにやってしまう。
ガイとしては起きあがって身体をほぐしたいのだが、ヴァンがまだ大事を取るべきだと主張して寝る以外なにもさせてもらえないのだ。

あんまり寝ていても辛いと言ってみると、身体中やんわりとマッサージされてしまったりした。

触れる手はどこまでも優しく、ガイはその過保護っぷりに多少当てられていたので。

更にルークに気遣われて、過保護にされることに慣れていないガイは白旗をあげたくなっていた。
ちなみにルークにあれだけ嫉妬していたヴァンは、昨夜の反省もあったのか、今は大人しくルークとガイの会話を傍らで聞いている。

「それより会議の方は進んだのか? お前の方が疲れただろ」

反対にガイがルークを心配した。

「そっちは大丈夫だよ。いろんな話が出たけど、オレが焦ったりすると、…父上や叔父上がちゃんとオレが話しやすいように聞き直してくれたりしてさ」
「そっか」

今までルークに対してのファブレ公爵の態度はとても暖かいとは言えなかった。その公爵の態度に変化があることに、ガイは内心驚きがあった。
本物のルークが生きていることや、彼を連れ去り、代わりにレプリカであるルークが本物として公爵家で育てられたこと。

公爵にとって影響は決して少なくない事実が明らかとなって、それでもその事実を受け入れたと思われる態度の変化の早さに、ガイはなにかファブレ公爵という人物の本質の片鱗をかいま見た感じがしていた。

「それで会議に参加してみてさ、ナタリアとも話たんだけど、キムラスカとマルクトとローレライ教団の代表で集まって、ちゃんとお互いの顔を見ながら、これから世界をどうするか話た方が良いんじゃないかって」
「………そうだな! それはとても大切だよルーク」

そのルークの思いつきの素晴らしさにガイは、よくここまで成長したと感動で泣きそうになってしまった。

「ありがとうガイ! …その、どうでしょうかヴァン師匠…」

ガイの横たわるベッドの傍らで、立ったまま静かに二人の会話を聞いていたヴァンに、ルークがおそるおそる話しかける。
ヴァンはガイに一度視線を向けて頷いてから

「教団としては問題なかろう。両国の代表にイオン導師から呼びかける形が良いのではないか」
「はい! どうか宜しくお願いいたします!」

ヴァンの賛同はルークを喜ばせ、それをガイも嬉しく思う。

「それでその………その時に、アッシュの奴も呼んでもらえないでしょうか…」

キムラスカの代表の中にファブレ公爵は入るであろうし、ルークの考えを悟って、ガイは少し切ない気持ちになった。

「そうだな、各国の代表が集まるなら、アルビオールは2機あった方が良いだろうし、両国の重鎮を乗せるとなったら、ダアト側の重鎮も一緒に乗る方が信用を得やすいだろうしな」

今も魔界に取り残されている人々のことを考えれば、国際会議はできるだけ早く執り行うべきで、そのために移動手段は高速で飛ぶことのできるアルビオールが最適だとガイは考えた。
そのガイの提案にヴァンは頷き

「では六神将にアッシュを探させましょう」
「ありがとうございます! 師匠!!」

自分の提案がヴァン師匠に受け入れてもらえて、ルークは幸せだった。

「ガイラルディア様、そろそろお休みになった方が…」
「あ! ごめんなガイ、休んでたのに俺…」
「寝疲れてたトコだから、見舞い嬉しかったよ ありがとうなルーク」

身体の方は本当に大丈夫なのに、全くヴァンのやつは…とガイは内心ため息をつくものの、ここでルークを引き留めてヴァンの機嫌を損ねるのも本意ではないので。

仕方ないなあ、と、ガイはルークにお休みの挨拶をした。



そうしてまた、部屋にはヴァンとガイの二人きり。

「寝疲れたってのは本当なんだぜ?」

身体の調子が良くなってくると、ガイは身体を動かしたがる。

「ではまたマッサージを…」
「いやもうそれは… あ、シャワー浴びたいかな」

ベッドから何とか出ようとするガイに

「では湯を張りますので」
「い、いや、そこまでやってもらわなくても…」
「シャワーだけでなくゆっくりと温まった方が良かろう」

ヴァンの過保護は頑なだった。
それでついガイも反発心が出てしまうのだけれど

「シャワーくらい好きに入らせてもらうぜ」
「………左様ですか」
「………」

けれどそう強めに主張した後、ヴァンがしょんぼりと尻尾を垂れてしまったので、ガイはしまったと思う。
何だかしょげられるのがどうにもガイには弱いのだ。

「…って思ったけど、支度を頼もうかな…」
「では支度をいたしましょう」

そう言って、嬉しそうにガイの湯浴みの支度をするヴァンに、ガイは仕方ないなあ…と苦笑してしまう。
ガイの言葉に一喜一憂するヴァンを、つい可愛いなあと思ってしまうようになった自分は、終わっているのかも知れない。
だが、

「湯が溜まったようだ」
「え、ちょ、ヴァン!!」

ベッドから降りようとしたガイを、ヴァンは易々とお姫様だっこした。

「歩けるから降ろせって!」
「暴れては身体に障ります」
「どこの重病人だ俺は…」

身体は痛みは無くて、一番辛かった過剰すぎた回復術の副作用もほとんど回復してきているのだ。
起きたばかりの時は、感覚が少し麻痺したような感じで歩きにくかったせいで、ヴァンに余計な心配をさせてしまったけれど。
寝すぎたせいもあるのだから、少し歩いて簡単なリハビリをした方が良いはずなのだ。

けれど、心配そうに顔をのぞき込むヴァンに、ガイは何度も折れるしかなくなり。

短い距離を抱かれて移動してから、脱衣所でシャツを丁寧に脱がされる。
何処までやるつもりなんだ…と悩む間もなく、さっさと裸に剥かれてしまった。

まさか一緒に入るつもりなんじゃ……

ガイが若干青ざめていると

「では私はここで控えておりますので、具合が悪くなったら直ぐに声をかけてください」

ヴァンが少し困ったような表情でそう言ったので、ガイは少し不思議に思いながらも、一人でゆっくり湯につからせてもらうことにした。

ステンドグラス風に模様の配された曇りガラスのドアの向こうにヴァンが控えている。
それはそれで、のんびりはしにくいのだけれど。

一方のヴァンは、ガイラルディアの湯浴みを手伝う気でいたのだが…。

湯を浴びると人間の身体は血圧などが変わって倒れたりしやすくなる。過度な回復術のせいで体力が奪われてしまっているガイの身体は、どこに不調が出るか分からず、ヴァンは心配でならなかったのだ。

けれどガイラルディアの衣服を丁寧に脱がせている間に…

その若々しく張りのある肌に包まれた、すんなりと伸びた肢体が、
…どう艶めかしく色付いてゆくのかを思い出してしまい。

自分自身を押さえることに、自信がなくなってしまったヴァン謡将だったりしたのだった。








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