1959年 ベイ・シティ沖、賭博船ロイヤル・クラウン号船内
何事も二度目はたやすく、そして間違いを犯しやすいものだ。 私が意識を取り戻したとき、目の前にあったのはその男の靴だった。 白と黒のコンビの靴はきれいに磨かれ、つま先には金色の金具が嵌められていた。 痛む頭を動かすと、私を見下ろしている男と目が合った。 ピンクのスポーツシャツに麻のジャケットを羽織ったその男の胸元からは 何か意味があるかのように熟れすぎたオレンジの色をしたハンカチが覗いていた。 「お目覚めかね、名探偵」とメンディ・メネンデスは言った。 「こんなところでまた会えるとは嬉しいぜ」 しかし、その声は少しも嬉しそうではなかった。 私が横たわっていたのは大きなカードテーブルと小さな飾り棚があるだけの 狭い船室だった。 窓は一つもなく、タールと松ヤニの臭いが染み付き、血を吸ったような 濃い赤の絨緞とくすんだアイボリーの壁紙で覆われていた。 私の口のなかは7月のネヴァダのように乾き、頭の中では牛追い鐘が鳴っていた。 意識は少しづつはっきりしてきたものの、体はまだ言うことを聞きそうになかった。 部屋には私たちのほかに三人の男がいて、カードテーブルで酒を飲んでいた。 なかなか豪華な顔ぶれだ。 もっとも、それは豪華という言葉の解釈にもよるのだが。 「二度目は無いと忠告しなかったかな」とレアード・ブルーネットが言った。 私は何年も前に彼が所有するもう一隻の賭博船に潜り込んだことがあった。 そのときの獲物は7フィートもあるへら鹿で、今探しているのは 子リスと渾名される失踪したギャンブル狂の宝石店店主だった。 簡単な仕事のはずだったのだ。 サンセット・ストリップで英語が話せるタクシー運転手を探すよりも。 そして、プードル・スプリングスで世の不条理から目を背けて暮らすよりも。 「まあいい、ちょうど退屈していたところだ」とブルーネットは鷹揚に続けた。 「いっしょにカードでもどうだ。ミリオネア(大富豪)でも」 「面白そうだ」メナンデスは不気味に口元を緩めた。 緑色のラシャが張られたカードテーブルは真夜中の凪いだ海を連想させた。 そして、揃えて置かれたカードは波間に浮かぶ哀れな探偵の死体のようだった。 メネンデスに抱えられた私をランディ・スターが何も言わずに見つめていた。 その目には運命に抗うことの無意味さを知り尽くした男の哀れみがたたえられていた。 「さあ、探偵、席につけよ。生きて帰りたいなら俺たちを負かせてみな」 とメネンデスは言った。 → ゲームを始める → 脱出する |