メイド中里さん続編!涼介×中里
涼介バージョンのメイド話続きデス。

啓介バージョンは無かったことにして読んでくださいませ。

小説KH様v

部屋にいた啓介がリビングへ降りてきた。
もう夕食を始めても良い時間だ。
「啓介、涼介は?」
「アニキ? 今日も大学に泊まるって言ってたぜ」
「またか。最近ずっとだな」
「あぁ、大学の課題が面倒だって珍しく漏らしてたから、大変なんじゃないか?」
今日こそは帰って来るんじゃないかと思って涼介が美味しいと褒めてくれた料理を作ったのに…、とひどくがっかりしている自分に気付く。
涼介の好物を作ったからといって別にどうということはないのに。
啓介と二人きりの食卓で、毅は大皿に盛られたおかずを見ながら呟いた。
「飯とかちゃんと食ってんのかな…」
「どうかなぁ。夢中になると飯も寝るのも忘れるくらいだから」
「え…」
途端に涼介の様子が心配になってくる。
家政夫が必要だと言うだけあって、飯も用意してやらなければ不規則不健康極まりない生活をするだろうことは容易に想像がつく。

「んな顔すんなら持って行ってやれば?」
啓介の言葉に怪訝に見やると、どんな顔をしているのか分からないという心を読んだかに啓介は返した。
「すっげえ心配そうだぜ」
毅はからかう啓介を睨んだ。
「こんな作って、余らせても勿体ねーじゃん。俺もアニキがぶっ倒れても困るし」
「まぁ、そうだな」
啓介らしからぬ尤もな意見だ。

「あ、アニキに会ったら、あんま根詰め過ぎんなって厳しーく言ってやって。中里からならアニキも聞くからさ」
ニシシッと悪戯っ子みたいに啓介が笑った。


啓介と二人だけの夕食を終えた毅は弁当を作ると大学へ向かい、建物へ足を踏み入れる。
啓介に聞いてきた通りに行けば涼介に会えるだろうが、少しドキドキしている。
「弁当置いて帰るだけだしな」
よし、と気合いを入れて歩き出した。
キョロキョロしながら、薄暗い廊下を歩いていく。
所々明かりの点いた部屋はあるものの、建物はしんと静まり返っている。
いくつかの部屋を過ぎた後、教えられた部屋を見つけてノックをした。
「失礼します…。あのー、すみません。高橋涼介って…あれ? 誰もいない」
電気は点いているものの、人の気配が無い。
「間違ってないはずだけど、ここじゃないのか?」
邪魔になるかもしれないと遠慮したのだが、やはり連絡してから来れば良かったと毅は後悔する。
「電話してみるかな…」
迷った末、携帯のコールボタンを押す。
すると、近くでブーンというバイブレーションの音がした。極近くだ。
よく見ると、年期の入ったくたびれた応接セットのソファーの端からの足がのぞいており、携帯はその横の机の上に見える。
覗き込むと涼介がそこで寝息を立てていた。
マナーモード設定のバイブで振動していた携帯を止める。
電光のせいか涼介の顔色が悪く見える。
「ここに置いていけばいいか」
メモを書いておけば気付くだろう。
近くの机に置いてあったメモ帳を拝借して涼介に宛てたメッセージを書き留める。
『多く作りすぎたから持って来た。夜食にでも食べろ。忙しいかもしれないけど、飯くらい食いに帰って来い。中里』
「こんなもんかな。まったく、啓介が言ったみたいに無茶してんだろうな」
「心配してくれるのか?」
「ひ…ッ?!
後ろからのびてきた腕に体を抱きすくめられて、毅は悲鳴を飲み込んだ。
「脅かすな、涼介!」
「俺のために持ってきてくれたんだよな?」
「…まぁ、そうだな。たくさん作りすぎたし」
「それも俺のせいだよな?」
耳元で囁かれた声に体が震えた。
涼介の言葉には変な威力があると思う。
「ちょっ…、とにかく離せ」
「疲れてんだよ。少しくらいこのままでいさせろ」
「疲れてんなら寝ろ!」
「疲れてる時は睡眠より人恋くなるんだよ」
緩むどころかギュッと涼介の腕に力が篭る。
「寝ぼけてんのか?」
「いや。中里がいるのを見た時は夢かと思ったけどな」
毅は大きく息を吐いた。疲れでどこかしらが壊れてるのだろう。
「相当疲れてるだろう、お前。いいから寝とけ」
「そうもいかない。時間は限られてる」
「そうかよ。まぁお前がそれで良いなら言わないけど啓介も心配してた。根詰めるなって言っとけって言われたぞ」
医者の不養生とは言うが、まだ医学生の内からこれでは先が心配だ。
「久しぶりだな…中里の私服。メイド服もイイけど新鮮だ」
「おい、人の話聞いてんのかよ?」
「ああ。心配してんだろ? でもちゃんと食事も睡眠も最小限の摂取はしてる」
「最小限の摂取とかじゃなくて、しっかり寝て食え! 弁当くらいならいくらでも作ってやるから」
それは楽しみだと涼介は笑んだ。
「今日は食ったのか?」
「そういえばカフェインしか摂ってなかったな。有り難くいただくとしよう」
腕が離れて毅はホッと小さく息を吐き、向かいの席に腰を落ち着ける。

すると弁当と向き合った涼介は「いただきます」と両手を揃えてから咀嚼し始めた。

「なぁ、最近帰ってこないけど忙しいのか?」
「ああ。面倒な課題でさ。2時間置きに験体のデータを取らなきゃならなかったり、データが不十分だと突き返さられるし、なかなかキツイ」
学生イジメとひそかに囁かれるほど難度の高い課題を出す教授の授業中、即座に答えられない質問をしたばかりに目を付けられたのが運の尽きだ。
今はやるしかない。
「あんまり無理するなよ。…って、啓介が言ってた」
付け加えた言葉は、照れ隠しでもある。
涼介相手だからというわけではなく誰に限らず、素直な言葉を伝えるが苦手なため、人の言葉を借りて言うのは気が楽だ。
「心配してたぞ。弁当だって啓介が持って行けって言うからだし」
箸が進むのを見ていた毅は立ち上がる。

弁当を渡して帰るつもりが、このまま居座ってしまいそうだ。
「明日も遅くなるなら、連絡しろよ」
「もう帰るのか?」
「そりゃな。お前だって課題やるんだろ」
「食ったら起きてる自信が無い」
カフェインばかりだったのは、満腹になったら眠くなるという弊害もあったため、食事を控えていたという理由もある。
「今度課題が出来なかったらまた暫く帰れなくなるんだが、それでも中里は帰るのか?」
そんな事を聞いては帰るに帰れず、毅は立ち上がりかけていた腰を戻す。
「そう判ってんなら食うな」
「食べてほしかったんじゃないのか?」
「そうだけどな」
「やっぱり中里の飯は美味い」
「はぐらかすな」
何も答える気がなさそうだったので、毅は諦めの溜め息を吐いて、涼介が弁当を平らげていくのをただ見遣った。

綺麗に食べ終えた涼介は向かいのソファに座る毅を呼ぶ。
「こっち来いよ」
「何だよ?」
「責任取って起こしてくれるんだよな?」
起こすくらいはするが、それと涼介の隣に移る必要性には繋がらない。
「来ないなら俺が行く」
涼介が隣に座ったため端まで逃げると、好都合とばかりに涼介は毅の腿に頭を乗せた。
25分になったら起こしてくれ」
「このまま寝るつもりか?!
毅が対処する前に胸の下辺りで指を組み、目を閉じた涼介はマネキンのように動かなくなり、何度も呼び掛けるが答えてくれなかった。

時計の長針が4を指した頃、涼介は瞼を上げた。
いつも目覚めはたいてい目覚まし時計よりも早く、そして覚醒も早い。
瞼を開けたそのちょうど真上には、うなだれた毅の顔が近くにあった。
コクリコクリと舟を漕いでいる様子が浅い眠りにいることが分かる。
心地良い眠りを覚ますのは可哀相だと思いながらも、このまま寝かせておくよりは家に帰して布団で寝たほうが疲れも取れるだろうと考え、毅に声をかけた。
「中里…、中里」
手を伸ばして頬に触れようとするとビクリと体が跳ねて瞼が開いた。
焦点が合うと挙動不審にあたふたとし、そして慌てふためいたことが恥ずかしいのか顔を紅くした。
涼介は枕にしていた腿から頭を上げる。
「俺の我が儘に付き合わせて悪かったな。中里も疲れてるんだろ? もう帰って休んだほうがいい」
咳払いでその場を取り繕って言う。

「少しは寝れたか?」
「ああ。中里のおかげでな」
「そ、そうか。じゃあ…俺は帰るぞ」
「気をつけて帰れよ。弁当美味かった」
お前も頑張れな、と告げて毅は大学を後にした。

「おっ帰り〜、アニキ」
リビングに入ると寝そべっていたソファから啓介が顔を上げる。

「中里は?」
「残業だってさ。だからメシねーよ」
「久しぶりに帰って来たのにいないなんてな」
「タイミング悪ぃ〜の」
キヒヒと啓介が人事を愉しむように笑う。
「俺、弁当買って食っちまったけど、アニキはどうする?」
「外行ってくる」
「付き合おうか?」
目を輝かせて言う啓介は、おそらく一人で時間を持て余していたのだろう。

「食ったんだろ? お前は」
「一人で寂しくメシ食うよりいいだろ?」
難無くもう一食くらい食べてしまいそうな啓介の申し出を断る。
「一人で行ってくる。用もあるしな」
「あっそ。いってらっしゃ〜い」
残念そうな声で言うと、ソファから手だけをのぞかせてヒラヒラと振った。



家を出た涼介は毅の会社へ向かい、路上にFCを停車させると運転席から降りた。
見上げた建物の明かりは半分以上減っている。
涼介は時計を覗いた。
そろそろだと思ったが、建物の中へ入るわけにはいかないため、入口の見える場所へ移動した。
暫く待つと毅が出てくるのが見えた。
「中里、こっちだ」
「涼介? どうしてここに?」
「遅くまでお疲れ様。飯でも食いに行かないか? まだだろう?」
突然現れたことに不思議そうにしている様子に涼介はくすりと笑った。
「家帰ったらまだ仕事だって聞いたから、用事ついでに寄ってみたんだ。ちょうど会えて良かった」
「課題は終ったのか?」
「ああ。出迎えてもらえなくて残念だった」
「悪かったな」
「責めてるわけじゃない。じゃあ行こうか。中里は何が食いたい?」

歩いて行く涼介を慌てて引き止める。

銀行へ行けなかったので財布の中が心配だ。
「あのさ、今持ち合わせが…」
「俺が誘ったんだから奢るぜ?」
そういうわけにはいかないと答えると涼介はしょうがないといったように肩を竦めた。
「律義だな。給料から天引きする。それなら気兼ねないだろ?」
やんわりとした笑顔で言われ、毅は誘いを断れなかった。


食後に頼んだコーヒーが運ばれて来た頃、涼介が言った。
「もうすぐ約束の期間も終わるな」
「変なバイトだったが、助かった。感謝する」
「あっさり言うもんだな。俺としては終わりにする気は無いんだが」
「家政婦さんも戻って来るんだろ?」
「ああ。だから今度は別の場所で頼みたい。もちろん、給料は同じで中里の部屋も用意してある」
顔見知りの涼介からの頼みともあって引き受けたが、他の家ともなると状況が違う。

「そんな不安そうな顔をするな。マンションを借りたんだよ。中里がちゃんと食べて寝ろって言ったから、大学のすぐ傍にさ」
「マジかよ?」
冗談ではなく、すでに入居できる状態にある。
「頼めないか?」

他の家であれば断っていただろうが、高橋家とそう距離も違わない場所で、しかもこうも頼まれたら悩んでしまう。
給料は文句ない。
会社通勤が遠くなるため朝早く起きなければならないのはネックだが、堪えられないわけではない。
「期間は?」
「中里が辞めたいって言うまで」
曖昧な期間だ。自分次第では長くもなり短くもなる。
答えが出せずに毅は迷う。

「…考えさせてくれ」
「中里をあてにして部屋を借りたんだ。良い返事を待ってる」
目の前で笑まれて、毅は言葉を詰まらせた。


―――結局毅には断れるはずもなく、今は涼介のマンションにいる。

⇒終わり


わああv中里さんがとうとうお嫁さんに(≧∇≦)
幸せな涼中をありがとうございますーーーーv
毎日中里さんが一緒にいてくれる生活は夢のようです。
そして膝枕もしてもらいたい放題に!!
と思っていたら、毎日のように啓介がやってきて
啓介も一緒に暮してるのも同然になりそうな(笑)
何にしても目が覚めた時に一番最初に見えるのが中里さんだったら
それだけで幸せいっぱいです!
アニキにはこれからも色々中里さんのために頑張ってもらいます(笑)!






←topへ