日本の社会全体が構造的な非人間的社会に落ち込もうとしている。
普通に働いている人が、
普通の生活を続けられない社会は間違っているのです。
間違った社会は、誰かが正していかなければならないのです。
山形から、そして、全国から東京へ、強制配転されて裁判を起こした友人達は、その誰かです。

現代の”一揆人”達を支援して私も”一揆”側につきたい。
現代の一揆人達へ

詩人会議会員 斉藤範雄

11月28日 中央本部声明
11月29日 中央本部声明

私の友人が50歳になったとたん山形からいなくなった。
東京へ転勤になったという。
もう、4年にもなる。
NTTが設立した地元の関連企業へ再就職せよというもの。
この時、賃金は30%もカットされる。
NTTに残ったらどうなるか。
本人の意志とは無関係に全国配転させますよ、というのだ。
かくして私の友人はNTTに残るといったとたん
山形から東京へ行かされてしまった

NTTに11万人リストラが吹き荒れた。
社長通達として一人々々に決断を迫る。
2001年12月のある夜、私は家族会議を開いた。
山形から遠く離れ雪深い実家に、一人暮らしで、足に障害のある
高齢の母がいる。
その母を想うと心が揺れる。
だが、私は
「NTTの一方的なやり方をどうしても許せない。
一人ひとりのかかえ込んでいる暮らしや家族を無視した、こんなやり方が
日本中にまかり通ったら、労働者の生活は、人生はどうなる。50歳で
NTTを辞めるなんて絶対に許せない。」
と家族に説明した。

妻は、
「お父さんの言う通りよ。
労働者は、会社の使い捨てじゃないわ。人間として悔いのないよう正しいと
想う道を進んだらいい」
と、自分に言い聞かせるように言った。
進学を控えた子どもたちも
「お父さん、応援するよ」
と言ってくれた。
家族一人ひとりにも選択が迫られるのである。

また、ある社員は
「妻が、乳がんを摘出したのだけれど、いつ再発するか分からない。
50歳退職再雇用は絶対許せないのだが、妻の看病もあるので全国配転には
応じられない。しかし、この制度を廃止するために両方たたかうからな」
と、退職再雇用へ苦渋の選択をしたのである。

その後、彼の懸命な看病にもかかわらず、
妻は病魔と闘い、その社員を遺しこの世を去った

私は、このNTTのやり方を聞いて、何てずるく傲慢だと思った。

少子化が問題になってきている。
もう、その影響がでて、つぶれている大学や高校が出てきているのだ。
長時間労働、サービス残業、そして強制配転。
とくに有無を言わさぬ配転がいかに家族を泣かしてきたか。
 子どもをさびしがらせるか。
本人の健康や家族や地域のことなど一切お構いなしの会社への縛りつけ、
私は言いたい。
日本の政府と大企業は、高度成長の利益の陰で、
日本の地域と家族を壊してきたのではないか。
子どもを産めない状態にしてきたのではないのか。

私の目に映った小泉政権の構造改革。
まずは、労働者を徹底的に格差づけし選別をはかるということだった。
正社員、アルバイト、フリーター、派遣労働者、パートと色分けし、
その中でもまた格差づけし、選別し、競争させる。
そして、賃金も格差づけし、差別化する。
その結果どうなったか。
まじめに働いてもアパート代も払えないほどの、
低賃金のアルバイトやフリーターがでてきている。
路上で寝泊りしながら、職場へ行く青年達がいるのだ。
これで、どうして結婚できるか、家族をつくれるか。

山形で友人を囲んでNTTの話を聞くことになった。
ある小さな土建会社の部長の話。
現場監督の母親が倒れて介護が必要となった。
そのため、朝、出勤が遅くなる。
すると、現場の下請けの労働者から文句がでてきた。
俺たちは朝早くから家をでて現場に来ているんだ。
現場監督が来てないんでは話にならねぇ。替えてくれ。
部長はいう。
いやあ困った。
替わりになる現場監督がいねぇんだもの。
このまま長引けば、会社辞めてもらうしかないな。
今は、人間の顔してたら、やっていけねぇ。
仕事のうばいあいだもの。

もう一人。
ある部品メーカの課長。
たしかに、派遣労働者を使うと、三割近く正社員より経費が安くてすむ。
でも使わざるを得ないんだ。
この差は、大きいもの。
下請け単価は、生かさず殺さずだ。
ひどいところは、やっていけないほどの単価を押し付けてくるところもある。
そういう構造になっているのだ。
今は...

選別と格差と差別。
もう日本中、あらゆるところに広がっています。
障害者の作業所、お年寄りの医療、介護。
金がなければ生きていけないようになっている。
なぜこうなってしまったのか。


山形県の最上地方のある農家に、ある木箱が江戸時代から伝わっていた。
いよいよ立ち行かなくなったら開けよ。
それ以外は、開けてはならねえという木箱。
平成になって、歴史学者がそれを開けてみたら、一枚の紙がでてきた。
それは、何と江戸時代、寛永年間に起きた、
月山のふもと白岩一揆の訴状の写しだった。
いよいよ立ち行かなくなったら、この訴状をみて
一揆を起こしなさいという、祖先の遺言状だったわけである。
この白岩一揆は、藤沢周平の時代小説「長門守の陰謀」にでてくる。
長門守こそ、白岩八千石の殿様だったからである。
苛酷な年貢、手当たりしだいに女性を召しあげさせる。
ただ働きの徴用。
たまりかねて、寛永十年(1633年)に、
農民は江戸に出て幕府に直訴した。
が、長門守の兄が庄内藩の城主だったため、
農民の訴えは退けられ、失敗する。
直訴した百姓総代36名は死罪となり、
国元でも百姓130人が捕らえられ磔になった。
だが、白岩一揆のすごいところは、
この後30年経って再び立ち上がったことである。
今度は、江戸幕府に直訴するとともに、国元で城を襲った。
百姓数百人が攻め登り、家老の首を討ち取ったのである。
このとき、庄内藩の兄はもう亡くなっていた。
長門守の味方はいなくなった。
領地は没収され、江戸屋敷も取り上げられた。
百姓達の勝利だった。
藤沢周平は、この小説の中で「天下の注目を浴びた」と書いている。

私は、私の友人NTTの労働者が起こした今回の裁判は、
現代の一揆だと思う。
日本中に蔓延している人間の格差づけ、それと深く結びついている差別。
その上で、大もうけをし、
税金という形で社会還元することをいやがる大企業と、
 それを援助する政府に見直しを迫る一揆なのだ。


「おーい、判決がでたぞ。全面勝利だ!」


9月29日札幌地方裁判所は、NTT労働者の不当配転の訴えを認め
「配転は違法」とする判決を下した。
個別の配転命令は、いずれも業務上の必要性がないのに、又は、配転障害事由(親の介護の必要性等)があるのに行われたものであり、違法であって、原告に対する不法行為が成立する。


「よーし。今度は、残る四つの裁判も勝たねばだめだな。
 NTTは必ず控訴するべ。」


「そうだな。サルでも反省″といえば、反省のポーズとるのに、
 NTTに反省という言葉はないものな」


「もう、50歳定年の目的ははっきりしている。
今年に入ってから、大企業は学卒の新入社員をどんどん採用しているそうだ。若いうちに徹底的にしぼって働かせ、働かせるだけ働いたら、
後は、又、リストラという手で、ポイ捨てだ」。


「黙っていたら、心も体も壊して、会社からほおりだされる。残っても、働きざかりをしゃぶり尽くしたら、後は、さよならだ。50歳定年どころか、いずれ、45歳、いや40歳位まで考えているかもしれないぞ。」


「やっぱり、この裁判は本当に大切だな。裁判所には、今の日本の現実をよく見てほしい。労働者がいて、この社会は成り立っているわけだから、労働者の自由と権利が本当に守られているか。企業はどうあるべきか。社会への責任を感じて裁判所は判決を下すべきだ。」