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藤原とうふ店と書かれたパンダトレノを従えてファミレスの駐車場に入ると、丁度中里くん達も着いたところだった。
ナイトキッズのメンバーは遠慮してるのか赤と黒のマシンの隣を空けているので、私達は遠慮なくその隣に駐めさせていただく。拓海くんも同じに倣ったので、駐車場はなかなか良い眺めになっている。

「よう…」
「秋名のハチロクかよ…」
「こんばんわ…お邪魔します…」

私達が連れてきたのが拓海くんたちだと知って、慎吾も中里くんも目を丸くしていたけれど、中里くんはすぐに嬉しそうな顔になってくれた。拓海くん達がギャラリーに来ていたことは知らなかったみたいで、多分ナイトキッズのメンバーは知っていても余計な情報を事前に入れないようにしていたのかな、と気遣いを感じたり。
「来てくれて嬉しいぜ 席は多目に予約してあるらしいから休んでいってくれ」
スピードスターズのメンバーはちょっと緊張の面持ちで挨拶しながらファミレスに入っていく。
私の後ろに真子。そして入り口のところで少し離れてあげると、やっぱり少し離れていた池谷くんが決死の表情で近寄って行くのが見えた。
二人で少し何か話して、真子が頷いてから二人して店に入って来る。
多分後で話しをする時間をくれっていう交渉なんだと思う。
私は帰りは慎吾にでも送っていってもらって、真子は池谷くんと今夜じっくり話せば良いわよね。
うーん私ってホント気遣いのできる良い女だわー。

「沙雪さん真子さん、こっちっス」
店の窓際のソファー付きのテーブル群一帯が予約席みたいで、テーブルを適当にくっつけて調節しながら席に着いていく。折角だから、ここでもちょっと席順をプロデュースしてみた。

私が真ん中で(笑)目の前が中里くん。そこを中心にしてテーブル一つ分離れた左席一帯がナイトキッズメンバー。私の隣は当然拓海くん♪ その隣が池谷くん、ケンジくん。
目の前の中里くんの隣には当然みたいに慎吾が座ってて、その隣が真子、そして樹くん。その右側一帯はまたナイトキッズメンバー。
真子と池谷くんは対面になっちゃうけど、空気の読める樹くんとケンジくんがフォローしてくれるだろうし、私は今は真子より拓海くんを接待したり、誘ってくれたナイトキッズメンバーとお喋りしてあげたり、中里くんときちんとお友達になったりしなくちゃいけないからね。
頑張るのよ真子。

とりあえず全員ドリンクバーを頼んでから、めちゃくちゃな量の注文でお店の人を困らせつつ、それぞれが中里くんに今日の勝利のお祝いの言葉をかける。ナイトキッズって群馬でもガラが悪いって評判で見た目もそんな感じなんだけど、中里くんの前だと皆ちょっと良い子になってるところが可愛いかもと思う。
慎吾は今日はからかわれる側で不機嫌な顔をして見せているけど、中里くんの隣で嬉しそうにしか見えない。

「今日は二人の全開バトルが見られて楽しかったよー。慎吾は念願の中里くんとのバトルができて良かったわね」
「ケッ… 別に大騒ぎする程のバトルでもねえのに大げさにしやがってよ。どうせ毅とのバトルなんざ、何本か勝負しなきゃ決まらねえんだから、これで決着って訳じゃねえんだぜ」
「…そうだな。納得いくまでいくらでもバトルしてやるぜ慎吾」
「その時はまた呼んでよね!熱いバトルは見てて楽しいもん」
中里くんが目線を合わせて、こっくりと頷いてくれる。慎吾はそれをチラっと見ながらニヤけたりしてる。

真子の方を見ると、樹くんやナイトキッズ達と会話し始めている。このまま自然に池谷くんと会話できたら成功。頑張るのよ真子。

ナイトキッズメンバーに、毎晩遊びに来てくださいーなんて話かけられていると
「あのー…」
挨拶をした後黙っていた拓海くんが話かけたそうにしてきた。拓海くんの接待がちょっとおろそかになってたかも。
「あの…中里さん…」
あら、中里くんに話したかったのね。
「何だ?」
「その…この前はすみませんでした」
「え???」
「中里さんと…啓介さんとのバトルの後、オレ出しゃばったことしちゃって…」
「え、ああ、S15のレインバトルのことか。お前が謝る必要なんて全然ないだろ? オレもあの時は、…あんま余裕がなかったからな。今から思えば追走くらいしてみたかったぜ。勿体ないことした」
「そう…ですか。でもあの…それから」
「ん?」
「最初のバトルの時も、挨拶も無しに俺帰っちゃって。あの頃は自分が走り屋だとか走るの好きとか…そういうのあんまり考えてなかったんで、…すみませんでした」
「えっ…いや、その、別に全然気にすることねえよ。藤原とバトルできただけで、俺はすごく嬉しかったんだぜ? お前みたいな凄い走り屋がこの群馬にいてくれるってだけで、俺達ももっと頑張ろうって気になれるしな」
「中里さんv」

何か二人の世界で熱く語りあっている中里くんと拓海くん… ふと視線を慎吾に向けるとめちゃくちゃ不機嫌そう…って言うか、気まずそう?。
そう言えば、慎吾は拓海くんとのバトルで怪我したんだったっけ? その話振ったら地雷? でもすごい聞いてみたいんだけど…聞いてみちゃおっかな♪
と、ヤバイことを考えていたとき
♪♪♪
近くで携帯の鳴る音が。

「あ… すみません俺です」
拓海くんがもぞもぞとポケットを探っている。向かいの樹くんは「拓海?携帯なんか持ってたのかよ、俺知らなかったぜ」と驚いている。
拓海くんは携帯を開きながら「俺のじゃないし」とぼそりと呟きつつ席を立とうとしてるので
「ここら辺は貸切席だから、出て大丈夫だぜ」
という慎吾の言葉に頷いて、ようやくコールに出る。

「…こんばんわ。はい、バトルはもう終わってます。中里さんが勝ちました」
電話は中里くんの話題で、中里くんを含め私達はつい聞き耳を立ててしまう。
「えっと、今は国道沿いのファミレスに中里さんたちと一緒にいます。打ち上げに参加させてもらってて… はい。ええ、え? あ、はい、判りました、伝えます」
携帯を閉じた拓海くんは
「あの、中里さん」
「何だ?」
「あと二人来ても大丈夫でしょうか。席を取っておいてもらうよう頼まれたんですけど… 近くだからもう着くみたいなんで」
「来るって…誰が…」
「それは…」

それは聞かない方がもしかして良いんじゃないかな…っていう空気がじわじわと広がり始めた頃
窓の外の駐車場から、独特のエンジン音が響いて、キャーvとかオオ!とか言う声が上がる。

有名すぎて目立ち過ぎる白と黄色の車が、中里くんのGT-Rのまだ空いていた反対隣に滑らかに芸術的に駐められる。
二台から降り立つ影に、黄色い悲鳴が余計に大きくなった。


「おいおい…ありゃあ…」
「………」

待つまでもなく、二人が店内に入ると、店内からも悲鳴が上がりかけたり、ざわざわと落ち着かない声で満たされた。
もしかして、店内のお客さん(いつの間にか満席になってた)って、全員走り屋関係? 妙義のギャラリー帰りの人たちばっかりなの? 入りきれないギャラリーが外でたむろっているらしいことに、私達はようやく気づいた。

店内中の視線を受けまくりながら、二人は優雅とも威風堂々とも言える足運びで、迷いなくこっちに向かって来る。

「ようv 邪魔するぜ中里」
「よう♪ そこ座っていいか?」
「……お前らか…」

中里くんは深ーーーい溜息をつきながら、少し慎吾側に座る位置をずらしてあげる。窓際はソファー席だから、詰めればあと何人かは座れそう。ナイトキッズメンバーも詰めて、空いた椅子を差し出す。

長身で金髪を逆立てた少々きつい顔立ちの美青年は中里くんの隣の席にどっかりと腰を下ろし、落ち着いた感じなのに迫力満点の美青年は椅子をテーブルとテーブルの間、つまり私と中里くんの間に落ち着かせた。

「用事が片付かなくて遅くなってしまったんだ。中里のバトルが見られなくて残念だったよ」
「…チーム内のバトルだし、わざわざ見るほどのもんじゃねえよ」
「ま、結果は何て見なくても分かり切ってたからな。ドライブがてら来てやったんだよ。腹も減ってたし丁度良かったぜ」
金髪の青年が中里くんに顔を近づけてニカッと笑う。
「こんばんわ涼介さん 啓介さん」
拓海くんがペコリと頭を下げる。ナイトキッズのメンバー達も、樹くん達も、思わぬスーパースターの登場に緊張しつつ浮き足立ってる感じを振りまきながら挨拶をする。慎吾は警戒モード。真子は…
ありゃりゃ…

「ところでハチロクの隣に青のシルエイティが駐まっていたのが目についたんだが、もしかしてこちらの?」
「あ、ああ、紹介するぜ、碓氷のインパクトブルー、こちらがナビ役の沙雪さんで、あちらがドライバーの真子さん」
中里くんが慌てて私達を紹介してくれる。
「インパクトブルーの噂は聞いてるよ、俺は赤城山のレッド…」
「有名な高橋涼介を知らないはずないよ。バトルは良くギャラリーさせてもらってます。こうして近くで話ができるなんて、ちょっと信じられないかも」
「それは光栄だな」
ちょっとテノール入った甘ーーーい声で、長い睫の綺麗な目に、うっとり…という感じで微笑まれる。うひゃー…としか感想は出てこない。
「今度是非噂の走りを見学させていただいて良いかな?」
ぬかり無く、今度はその微笑みは真子に向けられる。
「あ…あ…あ…」

………真子は顔を真っ赤にしながら、涙目で震えてる。でも視線は高橋涼介から逸らせないみたいで、流し目攻撃をモロに受けて失神寸前って感じ…。

真子は私に隠したがっていたけれど、真子の憧れの人が高橋涼介だっていうのは、実はとっくに知ってるのよね。
あくまでも隠しておきたいみたいだったから触れないようにしてたんだけど。
憧れなんだから隠さなくったって良いハズなのに、それでも隠したいなら、それは高橋涼介への想いが憧れ以上のもので、けれど近寄れない存在だからって無理に思い込もうとしてる反動からなのかも。
真子の挙動不審が池谷くんに分からないと良いんだけど…

ちょっと視線を横にめいっぱい向けて、池谷くんの方を覗いてみると…
ありゃりゃ… ダメじゃん。

池谷くんの顔は、紫っていうか青っていうか、もう緑って感じ? 目が既に死んでるんですけど。

樹くんとケンジくんも、複雑な表情でニガ笑うしかないって様子。
つまりこれって、池谷くんは真子に憧れの人がいるって事を知っちゃってるって訳だ。今日は帰りは私がシルエイティを運転して真子を送ってくってコースになりそう…。想定外だったわね…。。。

弟の啓介くんの方は、私達には関心が向かないみたいで、中里くんをからかって楽しそうにしている。慎吾が中里くんに代わって反撃してあげている。頑張るのよ慎吾ッ 勝負的にはかなり厳しいとしか見えないけど、頑張んなさい!

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