誤解の招き方 4/6



 『愉快な仲間たち』との雑談は息抜きにぴったりだが、ランダムにふかしまくる車が近くにあると、相手の声も聞きづらく、どっちらけ気味になる。だからあの野郎、大人しく下戻って毅に見てもらえっつーに。俺が呟くと、だからサウンドの美的感覚が合わねえんだよシゲちゃんは、と俺の前で鮭の回帰性について語ってた奴が言って、べらぼうにおかしそうに笑い、他の奴らもつられて笑って、また近くでやかましくふかされて、いよいようんざりしたらしく、皆さんそれぞれ愛車にお戻りになられた。俺は元々愛車に腕が触れるくらいのところに立ってたから動かずに、シゲちゃんの美的感覚に合わないってサウンドを聞き続ける。うるせえ。
 さて、そろそろ走るか、それともやかましくふかしてるポンコツシルビアに灸でも据えてやろうか、と考えかけた俺は、遠くから聞き慣れた音が響いてくるのに気付いた。これは毅だ。間違いない。丁度良い、お出迎えしてシゲちゃんを押し付けてやろう。そして峠には静寂が戻る。我ながら良い考えだ。
 時間潰しにパーカーのポケットから煙草を出して、吸う。それから、ふと、妙に感じた。車のサウンドを好むも好まないも個人の感覚で、俺はEG−6のそれを一番好むが、毅のR32のもそう好まないわけでもない。異音が混じってりゃあ気付く程度には。異音というよりは、他の音だ。他の車の音。
 気付いた瞬間、部外者もいなくなって悠々としていた俺の感覚が騒ぎ出す。いや落ち着けよ、俺は俺に言い聞かす。煙草を吸え。ゆっくりと、深く、全身の血液の流れを遅くするように、息が乱れないように。
 よし、落ち着いた。いくらあの家出野郎でも、地元で三日坊主にはならないだろう。馬鹿らしい。落ち着いた俺は、落ち着いたまま、俺の前まで現れた黒のGT−Rを確認して、その後ろから現れた黒いランエボも確認して、さっきよりも神経が騒ぎ出すのを、微妙な気分で感じた。
 地元に部外者が来ると神経が過敏になるのは俺の性分だ。俺は自分の範囲に土足でずかずか踏み込まれるのが生まれつきどうにも嫌いらしく、侵入者に対しては本能的に警戒しちまう。まあ大人げない。分かってるから微妙な気分にもなる。そして、その黒いランエボが三日前、岩城を迎えに来たもんにも見えるから、更に気分は微妙な方向に動いていく。馬鹿らしいが、仕様がない。人間うまくはできてねえ。微妙なもんだ。
 Rから毅が降りて、ランエボから男が降りるのを、煙草をゆっくり吸いながら、俺は見ていた。案の定、ランエボのドライバーは岩城を迎えにきた奴だった。頭に白いタオル巻いて、ミリタリーコート着てる、手強そうな男。そいつはRから降りた毅と顔を見合わせて、笑った。毅もそいつを見て、笑う。二人して、二人だけで、笑って何かを話し始める。
 さすがにウフフアハハの世界じゃねえが、大抵の人間は楽しそうな二人組だという感想を持ちそうな光景だ。俺も思う。楽しそうだ。走り屋が走りで楽しみ合った空気が、嫌になるほど剥き出しで伝わってくる。おい、こういう時にポンコツふかさねえでどうするよ。邪魔しろっつーの。しかし音はしない。匂いはする。炭と焼き魚の匂い。嫌な予感もする。かなり方向性がばらばらな予感だ。
 俺はその予感を一つに絞って、毅に近づいた。岩城を迎えに来た奴が先に俺に気付いて、それから毅が俺に気付く。いや順番逆だろ、興奮残した笑顔を向けてくる毅に心の中でツッコミつつ、俺は言った。
「何だ、岩城の野郎また家出したのか?」
 聞いた毅の顔が馬鹿になる。通じてねえ。俺が絞った予感は違っていたらしい。まあ、来られても微妙だから、外れるのを期待して絞ったんだが。
「いや。こっちに戻ったままだ、心配するな」
 そう言って予感の外れを俺に完璧に示したのは、岩城を迎えに来た奴だった。通じてやがる。四字熟語が似合いそうなツラの男。質実剛健とか臥薪嘗胆とか深謀遠慮とか、特に書きづらいやつが。そのくせジョークもお分かりになる。面倒だな。
 心配などはしておりません、俺が言おうとした時、ポンコツがまたふかし始めやがった。馬鹿め。毅も岩城を迎えに来た奴も、驚いた様子で向こうを見る。俺は煙草を吸って平穏という名の退屈を取り戻して、おい、と毅に声をかけた。
「あいつのポンコツ見てやれよ」
「シゲアキか?」
 不思議そうに毅が言う。ああ、俺は説明してやる。
「サウンドが美的感覚に合わねえんだとよ。さっきからうるさくてたまんねえ。お前なら何とかできるだろ」
 プライドくすぐってやれば、毅は面倒事も自分からしょい込むところがある。今も厄介げに顔をしかめたが、そのまま頷いた。こういう時だけそのマゾ気質がありがたい。
「分かった。じゃあ須藤」
 岩城を迎えに来た奴に毅が目をやり、ああ、とそいつが何もかも分かってるように毅を見返す。毅はそしてポンコツのサウンドをシゲちゃんの美的感覚に合うよう調整するため俺から離れる。残るのは俺と、須藤と呼ばれた岩城を迎えに来た奴。
 須藤。須藤? 何か聞いたことあるな、俺はそいつの平安時代の絵に出てそうな鼻を見つつ煙草を吸う。須藤。岩城を迎えに来たランエボだから、エンペラーの人間だ。エンペラー。赤城の彗星様に負けたエンペラーのドライバー。
「須藤京一?」
 フルネームを思い出し、俺は呟いていた。ポンコツがふかしてねえからその呟きはそいつの耳にも入ったらしい。俺を見たそいつが、ああ、と頷く。須藤京一。なるほど、このツラは高橋涼介にも負けるわな。俺は俺が言えた義理でもねえこと思いながら、煙草を吸って、煙と一緒に言葉を吐いた。
「あー、そうか。あんたがね。こりゃどうも」
「どうも。清次が随分邪魔したようだな」
 挨拶は形式的に、本題は飾り気なく。分かりやすい方法だ。
「邪魔だったのは否定しねえが、峠なんざ、走り屋が所有権主張する場所じゃあねえからな」
 あんたに言われることじゃない、と言外に匂わせる。無事にお帰りになった岩城の尻拭いをしに来たなら、余計なお世話だと。須藤は細い眉を小さく上げて、下げて、小さく頷いて、了承を示す。が、帰ろうとはしない。当たってほしくない嫌な予感ほど当たるもんなのかもしれねえが、エンペラーの須藤京一が俺の相手をしてくださるとは、俺も考えてはいなかった。煙草を吸い切っても、もう一本欲しくなる。間持たせるためにも使っとくか。
「あいつは清次に負けてるだろう」
 俺が煙草に火を点けてると、須藤が言った。俺は須藤を見た。須藤は俺を見ていない。シゲちゃんのポンコツのサウンドを調整してやってる毅を見ている。あいつは毅。こいつは須藤。須藤は俺を見ていない。須藤は俺のことなんざ気にもしていないだろう。だから俺はこいつの顔に煙草を押し付けてやれる。そう考えると気分も落ち着くが、行動に移しちまったら面倒が増えるだけだから、俺は会話に集中することにした。
「そりゃもう、こっぴどく、素晴らしく。ネタにしづれえくらいだよ。するけど」
 ネタにして、無事かどうかを確認しなければ落ち着かないほどの負け方だった。思い出すと、煙草を噛みちぎりたくなってくる。あんなメンタル状態のあいつを矢面に立たせなきゃならなかった、自分に腹が立ってくる。うんざりする。他人にしてやるお話じゃあない。そして須藤が俺を見る。
「ここで清次とバトルはしなかったのか」
 これは、確認のための質問だ。していないことを分かっているくせに、関係者から言質を取りたがっている。しつこい男だ。面倒くせえ。聞き返されねえ程度のことは教えてやるか。
「そんな話にもならなかったな。岩城は走るだけだった。煽りもしねえで。そんな奴とバトル云々って向かうほど、うちも暇じゃないんでね」
「暇じゃない、か」
 須藤はそこで、また毅を見る。俺を見ない。俺のことなんざ気にもしていないことが丸分かりだ。ああ、いけねえな。最近ハイリスクなことをしてないから、どうも考えが危ない方向に進もうとしやがる。落ち着けよ。
「あんたって案外……」
 落ち着くために会話を続けようとして、落ち着いていない俺は言葉の選択を誤った。それでも相手に聞こえてなければ問題はなかったが、ふかしが途切れた中、須藤は俺の声をしっかり耳に入れていたらしく、言葉を切った俺を見た。俺を、見やがった。はっきりと、頭撃つため照準定めるみてえに。
「何だ」
 渋い、続きを強要する声だ。その言い方と態度で俺は、今更気付いた。理屈が好きそうで、しつこくて、物騒な雰囲気。こいつ、絡むと厄介なタイプだ。そんな厄介さにすぐに気付けなかったとは、能天気な毅だとか引き際知ってるうちの奴らを相手にするばっかで、俺の勘も鈍っていたらしい。高橋涼介に勝ちたがるような奴だ、どこかが抜けてて当然だった。抜けた野郎を相手にするのは神経がくたびれる。今更だが、遠慮したい。俺は平和を愛する人間を装って、軽く笑ってみた。
「いや、何でもねえよ」
「言えよ」
 しかしこういう奴は、理屈つけてやらなきゃ納得してくれない。譲り合いの精神がねえ。ああ、しち面倒とはこのことだな。どうする、こうなったら本格的に絡んじまうか。こんな気難しい相手をお客様扱いするのは疲れちまう。
 いや、待て、やめとこう。下手に絡むと毅が後から何か言ってきそうで、そっちの方が面倒だ。俺の名誉にも関わる。ここは優しくなってやろうじゃないか。俺は短くなってきた煙草を慎重に吸ってから、言わない方の理屈をつけてやった。
「言ったら気分害されると思うんで。で、あんたの気分害すると、あいつにネチネチ言われるのは俺なんでね。それはご容赦願いてえんだよ」
「気分を害しても、あいつにネチネチは言わせん。それでいいだろう」
 俺を見たまま、須藤が余分な感情を入れず、言い切る。喧嘩を売ってやがるのかと思う。しかし喧嘩を売ろうとする感情は須藤に見当たらない。きっと意識にないからだろう。結果的に喧嘩を売ることになっていても、構わないんだろう。こいつは俺をその程度にしか考えちゃいないんだろう。俺以上に毅のことを持ち出して、俺の機嫌を著しく悪くしたって構わない程度に。そんな無礼なお客様に使えるほど、俺の優しさは多くない。
 ああ、それでいいさ。俺は煙草を捨てて、なけなしの愛想も捨てて、須藤を見据えた。
「視野が狭いよな」
 そう嘲ってやると、須藤は瞬間的に頬をピクリとさせ、しかし何もなかったような目で、俺に続きを促す。良い根性だ。それに敬意を表して、とことん絡んでやろう。俺はふかしに邪魔されないタイミングで、口を開いた。
「俺も慈悲深い人間じゃねえからよ、潰した相手もいちいち覚えちゃいねえけど、俺に潰されましたって相手が目の前に現れたら、最低限の警戒はするぜ。復讐されるかもしれねえからな。でもあんた、そういう意味で、俺らを警戒してねえだろ。毅はまあ能天気だからともかく、俺も、他のメンバーもだ。直接あいつをネタにしづれえほど負かしたのは岩城の野郎だが、それもあんたの命令があってのことなんだぜ。チームの面子をかけたバトルで、うちは負けた。代表者の毅が負けた。こっぴどく。そしたらその命令を猿山のてっぺんから下しやがった奴を恨んでも、まあ筋としちゃ悪くねえ。うっかり轢いちまったとしてもな。けどあんた、そんな可能性、一つも考えなかっただろ?」
 話を切って、確かめる。須藤が、相変わらず何もなかったような目をしながら、そうだな、と頷く。食えねえ奴。
「だから、視野が狭いってことだよ。あんた、何でも計算してますよってツラの割に、てめえの範囲のことしか考えてねえみてえだから」
 俺の話はそれで終わりだった。いくらかフォローもできるが、最初に俺の優しさを無視して話を聞きたがったのはこいつだし、ならこれ以上俺からこいつにしてやるべきことは何もない。
「正論だな」
 須藤が、感心した風に言う。俺を、まだ狙いは外してないことを知らしめるように見たままで。厄介な奴。そりゃどうも、俺は呟く。お褒めに預かり光栄です。
「お前の言う通りだ。俺は視野が狭い。だから涼介にも負けたし、必要もねえのにここまで来た」
「素直なこって」
 自己満足に付き合う気のない俺は、適当に場つなぎの言葉を吐く。俺の勘は鈍っていた。だが、と須藤が続けた言葉が、俺にぶつけられるのだと、寸前にしか察知できなかったほどに。
「お前のことは警戒してるぜ。あいつと違って、俺を警戒してるからな。領域を侵されないようにと」
 勘の鈍っていた俺は、防御態勢を取るのに遅れて、その攻撃をいくらか直接食らった。俺は最初から須藤を警戒していたが、須藤も俺を警戒していたらしい。それは本能的に警戒するべきことを知らねえ毅と違う俺が、『領域を侵されないようにと』こいつを警戒してたからで、そして俺は須藤が警戒しているとは考えずに接していた。俺のことなんざ気にもしてねえとは考えて。道化た話だ。痛いくらい馬鹿らしくて、守り切れなかった腹に刺さる。
「ま、それが安全だ」
 久々に部外者の言葉生身に食らった痛みを感じつつ、自分を笑うしかねえ俺がそう言うと、だろうな、と俺と同じように、須藤が笑った。理屈屋で、面倒で、しつこくて、物騒な雰囲気で、食えなくて、厄介で、手強い、ランエボのドライバー。俺個人としては、お近づきにはなりたくない奴だ。相手にしてたら落ち着かないし、神経が休まらねえ。だがどうも、須藤の話と毅の態度なんかを考慮すると、俺がこいつと一生関わらずにいることは不可能だと思える。こいつは明らかに毅の領域に入っていて、毅は俺の領域に入っているからだ。まったく、人間うまくはできてねえ。
 ポンコツのふかしは、俺が長々喋ってる間も止んでいた。自分の声も相手の声もよく通る。スニーカーのゴム底がアスファルトを擦る音も。俺は須藤より先に、こっちに歩いてくる毅を見た。経験は勝る。こんなもん、勝っても微妙なことだが。
「話せたか?」
 俺と須藤の前まで来た毅は、俺を見て満足げに小さく頷いてから、須藤を見て、そう言った。誰と話せたってんだ。俺とか。微妙な気分になってる俺は放置され、ああ、と須藤が口だけの笑みを浮かべつつ、毅に答える。
「十分だ。世話になったな」
「大したことはしてねえよ、俺は」
 そして毅も小さく笑う。部外者に対する無駄な思いやりを発揮して。だからこいつは表に立つ。俺は裏にいる。微妙なことばっかだな、おい。俺が溜め息を吐きそうになった時、須藤が懐に手を入れて、白い紙切れを毅に差し出した。
「何か困ったことがあればいつでも言え。できる限り手を貸そう。お互い様だからな」
 律儀さでその食えないツラを隠しながら、須藤が言って、少し考えるような間を置いてから、紙切れを受け取った毅が、ああ、と頷く。剥き出しの、二人きりの、炭臭い空気。傍で吸ってると、吐き気を感じる。
「ただ、もう涼介のケータイからはかけてこないでくれよ。あいつが間に入ると、扱いが難しい」
「……いや、すまん、あれはその何というか、急な話で高橋の奴……」
 吐き気を感じつつも二人の話は聞いてた俺は、そこで吐き気を吹き飛ばすほどの驚きに見舞われたわけだが、そんな俺のことなんざ、二人きりの空気を作り出している二人が気付くわけもねえ。いつもみたく変にうろたえ出した毅の、肩を押すように叩いた須藤は、律儀さを取っ払った顔で、毅にだけ、笑う。
「じゃあな、中里。お前のラインはなかなか綺麗だったぜ」
 そして須藤京一はランエボに向く前、笑っていない目で一瞬、俺を見た。いつでも撃てるんだと言うように。俺も目で言ってやった。いつでも轢いてやれるんだと。一瞬だ。通じたかは分からねえが、分かる機会も欲しくない。黒いランエボが下りに入ってくださると、俺の神経もとても安らいだからだ。一生会わずに済むならそれが一番って相手と今になって出会うとは、つくづく微妙だな。ランエボの後に続くように下っていったポンコツシルビアまで見送ってから、俺は毅を見た。疲れ切っていて、しかし満足が残っている顔。
「直ったのかよ」
 この状況で、満足に浸らせてやりたくもないから、俺はそう聞いた。あ?、と間が抜けた声を出した毅が、俺の視線に気付いて、ああ、と苦笑になり切らないものを顔に浮かべる。
「直ったのかは分からねえけど、あいつの美的感覚には合ったらしい」
「ったく、どんな感覚だってんだ」
「まあ、しばらくは大人しくはなりそうだぜ。多分」
 そこで毅は、今まで出すのを我慢してたみてえに、深く長い溜め息を吐いた。俺はそれが完全に終わってから、吐き気を吹き飛ばすほどの驚きを俺に見舞い、無視された件について、領域を確認するためにも、明らかにすることにした。
「で、お前、高橋涼介のケータイから須藤京一に電話したのか?」
 苦笑になり切らないものを顔に浮かべたまま、毅は固まった。俺は気長に待ってやった。部外者のいない峠で、神経を尖らせる必要はない。そのうち毅は思い出したように動き出す。少しばかり目をさまよわせてから、窺うように俺を見上げ、ばつの悪い表情をしながら、いや、と口をあまり動かさずに言う。
「岩城がな」
「岩城がどうした」
「一週間も、いたじゃねえか」
「一週間もいたな」
「で、一週間も経つんだから、そろそろ、エンペラーの人間にでも一応連絡入れといた方がいいんじゃねえかと……」
 早口に言って、視線を落とし、語尾は消す。俺は表されなかった毅の言葉を、俺の予想で補った。
「で、名前は知ってる須藤京一の連絡先を、そいつとバトルしてる高橋涼介に聞きに行って、ケータイを借りたってわけか」
「……借りたというか、いつの間にかあいつが電話をかけてて、それを俺に寄越したというか……」
 ここまで予想通りだと、恐ろしくなってくる。こいつはどれだけ読みやすい性格をしてるのかと。薄々は分かっていたが、危機意識が足りなかったらしい。これは無防備だ。無防備過ぎる。致命的だ。仮にもうちのリーダー格が、こんな無防備でいいってのか。いいわけあるか。
「そういう行動取る時はよ、一言あってもいいんじゃねえの。チームの人間に」
 とりあえずは内輪の話。『愉快な仲間たち』は愉快すぎるとはいえ、それに頼らず独断で動いたってろくなことにならねえと、少しは認識してくれていればいいんだが。
「……いや、お前らはそんな、気にしてねえみてえだったから、そこは俺だけでやらねえと……」
 毅はまだ、口を大きく開きたがらない。個人行動を反省はしているんだろう。ただ、その原因となった無駄な体面意識と責任感が事態を悪化させる可能性については、認識していないらしい。まあ、だろうな。こいつがそんな広い視野を持っていたら、こんなことにはなってない。俺にしてもだ。広い視野を持っていたら、須藤京一をここに来させないで済んだはずだった。決めつけるなっての、俺はこいつにも俺にもうんざりして言っていた。だからお前は負けるんだよ。
「ああ?」
 そこだけしっかり聞き取りやがった毅が、気色ばむ。おい、やめとけ。この方向は、ただこいつを煽るだけだ。切り換えろ。俺が、止まらなくなるぞ。それはリスクが高すぎる。表に立つ人間としての自覚だ何だって話は、もっと落ち着いている時にやればいい。今はただ、内輪で明らかになってないことを、明らかにすることだけを考えろ。例えば、話だ。
「っつーか、話って何だったんだ?」
 無理矢理進行方向を変えた俺について来れなくなった毅が、置き去りにされたみたいな顔をして、少し経ってから、変な声を出した。
「話?」
「須藤の奴は、何か話しに来たんだろ、俺に」
「そりゃ、岩城の話だろ?」
 現在地を確認し終えたらしい毅が、当たり前に、まったく疑いも挟んでいない風に言った。岩城の話、と俺はただ繰り返した。岩城の話を、須藤は俺にしに来た。
「あいつ、ここで岩城が何話してたか、気にしてたみてえだからよ。まあ、お前も岩城と話してたし、一応話してみるかってことでな」
 須藤は岩城のことを気にしていた。だから俺に岩城の話をしに来て、実際その話をした。こいつの脳内では、そういう解釈がまかり通っているんだろう。ふうん、と俺は鼻で言った。その俺の声の響きに、毅は疑いを感じたようだった。
「違うのか?」
 違うことなんざ考えてもなかったらしい奴に聞かれると、全否定する気も起きなくなる。いや、と俺は首を横に振った。
「違わねえよ。言われてみりゃ、岩城の話だ」
 ほとんど嘘の俺の発言を、だろう、と毅は信じた。馬鹿だ。能天気だ。致命的に無防備だ。あれは岩城の話だったが、岩城の話じゃあなかった。こいつと、あいつの話だ。こいつは毅、あいつは須藤。炭と焼き魚の匂いが服につくほど、同じ場所に、同じ時間いた二人。秋刀魚パーティ、高橋涼介、須藤京一、岩城の馬鹿。俺の神経が、ここにないもんに対して過敏になり始める。煙草を吸うか。いや、もう落ち着くのはうんざりだ。一回この鬱憤を、完全に晴らしてえ。
 毅、と俺は呼んだ。ん、と毅は俺を見る。さっき気色ばんだことなんざ忘れてるみてえな、平和で、親しいツラをして。そのうち思い出すんだろうが、まあ、ちょっとは平和を満喫させてやろう。
「先に下に着いた方が、飲み物おごりな」
 ちょっとだけだ。俺は毅の返事を聞かず、EG−6に乗り込んで、素早く鞭を入れた。俺とこいつとあいつの間にしかないものを感じるために、領域を護るために。あいつの足音も聞き分けられねえ奴に、侵されてたまるかと思いながら




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愛されてる毅さんのお話ありがとうございました!!!
慎吾がんばってます!頑張ってます!(笑)(〃∇〃) !
ひょんなきっかけで清次がやってきたお陰で
慎吾にはすごい強敵がいっぱい出張ってきてしまいましたが
もう、あのお方の今後の動向が気になって仕方なかったり
あの秋刀魚を焼いてるナイトキッズはオレだ!と思ったり(〃∇〃)
ナイトキッズのいる妙義山の愛しい空気をいっぱい吸わせて
いただきました!!
ぜひぜひ続編お願いいたしますっ(土下座)
と、お願い申し上げたら、素晴らしい続きをいただけましたっっ(≧∇≦)//
わあああああvvv


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