ハードボイルド・スクール|レイモンド・チャンドラー短篇集
さまざまなパルプマガジン
1920年代から戦前に隆盛を極めたのが粗悪な紙に印刷された安価なパルプマガジンと呼ばれる娯楽雑誌。その一つであるブラック・マスク誌はハメット、チャンドラーら多くの大作家を輩出し、ハードボイルド派の揺りかごとなった。ただし、同誌は稿料の安さでも知られ、作家達を悩ませたという。ちなみに執筆に約半年を費やしたチャンドラーのデビュー作「脅迫者は射たない」の稿料は一語1セント、全部でわずか180ドルだったらしい。写真はチャンドラーが寄稿した4つのパルプマガジンの表紙。
(左上)Black Mask 1933年12月号*「脅迫者は射たない」
(右上)Detective Fiction 1936年5/30号*「ヌーン街で拾ったもの」
(左下)Dime Detective Magazine 193年1月号*「赤い風」
(右下)Detective Story Magazine 1941年9月号*「山に犯罪なし」

●ここでは、日本で編纂されたチャンドラーの短篇集を紹介しています。●短篇集に収録された作品の多くは、チャンドラーの死後、主人公をフィリップ・マーロウに改められました。●紹介している短篇集には、すでに絶版となっているものも含まれています。
INDEX - 邦訳作品リスト - 長篇全作紹介 - マーロウ・トリビュート - チャンドラー関連書籍 - 登場人物小事典

チャンドラー短篇全集1/キラー・イン・ザ・レイン ハヤカワ文庫
(収録作品)
● ゆすり屋は撃たない【Blackmailers don't Shoot/1933】小鷹信光訳
● スマートアレック・キル【Smart-Aleck Kill/1934】三川基好訳
● フィンガー・マン【Finger Man/1934】田口俊樹訳
● キラー・イン・ザ・レイン【Killer in the Rain/1935】村上博基訳
● ネヴァダ・ガス【Nevada Gas/1935】真崎義博訳
● スペインの血【Spanish Blood/1935】佐藤耕士訳

1933年のデビューから1935年までの間に発表された最初期の6作を収録。

[和書] チャンドラー短篇全集1/キラー・イン・ザ・レイン


チャンドラー短篇全集2/トライ・ザ・ガール ハヤカワ文庫
(収録作品)
● シラノの拳銃【Guns at Cyrano's/1936】小林宏明訳
● 犬が好きだった男【The Man who Liked Dogs/1936】田村義進訳
● ヌーン街で拾ったもの【Pick-up on Noon Street/1936】三川基好訳
● 金魚【Goldfish/1936】木村二郎訳
● カーテン【The Curtain/1936】加賀山卓朗訳
● トライ・ザ・ガール【Try The Girl/1937】真崎義博訳
● 翡翠【Mandarin's Jade/1937】佐藤耕士訳

1936年と1937年に発表された7作を収録。

[和書] チャンドラー短篇全集2/トライ・ザ・ガール


チャンドラー短篇全集3/レイディ・イン・ザ・レイク ハヤカワ文庫
(収録作品)
● 赤い風【Red Wind/1938】加賀山卓朗訳
● 黄色いキング【The King in Yellow/1938】田村義進訳
● ベイ・シティー・ブルース【Bay City Blues/1938】横山啓明訳
● レイディ・イン・ザ・レイク【The Lady in the Lake/1939】小林宏明訳
● 真珠は困りもの【Pearls are a Nuisance/1939】木村二郎訳

1938年と1939年に発表された5作を収録。ここまでがフィリップ・マーロウの初登場作「大いなる眠り」以前に書かれたもの。

[和書] チャンドラー短篇全集3/レイディ・イン・ザ・レイク


チャンドラー短篇全集4/トラブル・イズ・マイ・ビジネス ハヤカワ文庫
(収録作品)
● トラブル・イズ・マイ・ビジネス【Trouble Is My Buisiness/1939】佐々田雅子訳
● 待っている【I'll be Waiting/1939】田口俊樹訳
● 青銅の扉【The Bronze Door/1939】浅倉久志訳
● 山には犯罪なし【No Crime in the Mountains/1941】木村二郎訳
● むだのない殺しの美学【The Simple Art of Murder/1944】村上博基訳
● 序文【Introduction/1950】村上博基訳
● ビンゴ教授の嗅ぎ薬【Proffessor Bingo's Snuff/1951】古沢嘉通訳
● マーロウ最後の事件【The Pencil/1959】横山啓明訳
● イギリスの夏【English Summer/1957】高見浩訳
● バックファイア【Backfire/未発表】横山啓明訳

[和書] チャンドラー短篇全集4/トラブル・イズ・マイ・ビジネス

チャンドラー・ブーム到来?
2007年は日本のチャンドラーファンにとって忘れられない年となった。チャンドラー没後50年を目前に村上春樹訳「ロング・グッドバイ(右写真)」が発表され、さらに待望の新訳による短篇全集(全4巻)が早川書房から刊行された。今回の早川版は発表年順の編集で、全短中編を網羅。訳者も小鷹信光氏、村上博基氏、田口俊樹氏など当代の人気翻訳家が顔を揃えている。また、訳者としても参加している木村二郎氏よる作品改題と解説が各巻に収録されているのも貴重だ。
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チャンドラー短編全集1/赤い風 創元推理文庫(稲葉明雄訳)
(収録作品)
● 脅迫者は射たない【Blackmailers don't Shoot/1933】
● 赤い風【Red Wind/1938】
● 金魚【Goldfish/1936】
● 山には犯罪なし【No Crime in the Mountains/1941】

チャンドラーといえば一人称記述というイメージがあるが、「脅迫者は射たない」など初期の作品には、後期ハメットに倣った三人称記述のものも少なくない。

[和書] チャンドラー短編全集1/赤い風


チャンドラー短編全集2/事件屋稼業 創元推理文庫(稲葉明雄訳)
(収録作品)
● 事件屋稼業【Trouble Is My Buisiness/1939】
● ネヴァダ・ガス【Nevada Gas/1935】
● 指さす男【Finger Man/1934】
● 黄色いキング【The King in Yellow/1938】
● 簡単な殺人法【The Simple Art of Murder/1944】

「簡単な殺人法」は旧来の推理小説におけるリアリティの乏しさや稚拙さを、クリスティーらの実名をあげて罵倒した「ハードボイルド宣言」と呼ばれるエッセイ。

[和書] チャンドラー短編全集2/事件屋稼業


チャンドラー短編全集3/待っている 創元推理文庫(稲葉明雄訳)
(収録作品)
● ベイ・シティ・ブルース【Bay City Blues/1938】
● 真珠は困りもの【Pearls are a Nuisance/1936】
● 犬が好きだった男【The Man who Liked Dogs/1936】
● ビンゴ教授の嗅ぎ薬【Proffessor Bingo's Snuff/1951】
● 待っている【I'll be Waiting/1939】

「待っている」は初の長編「大いなる眠り」発表の年にサタデーイブニング誌に掲載された。パルプマガジンへの決別の姿勢を明らかにした作品だ。

[和書] チャンドラー短編全集3/待っている


チャンドラー短編全集4/雨の殺人者 創元推理文庫(稲葉明雄訳)
(収録作品)
● 雨の殺人者【Killer in the Rain/1935】
● カーテン【The Curtain/1936】
● ヌーン街で拾ったもの【Pick-up on Noon Street/1936】
● 青銅の扉【The Bronze Door/1939】
● 女で試せ【Try The Girl/1937】

この巻に納められた「青銅の扉」は珍しいSF小説。短編全集3の「ビンゴ教授の嗅ぎ薬」と並び、異彩を放っている。
[和書] チャンドラー短編全集4/雨の殺人者

時代は劇画タッチ
一世代前の創元推理文庫本チャンドラー短編全集のカバーデザインはすべて劇画タッチのイラストで、探偵の顔は明らかにロバート・ミッチャムをイメージしていた。これはこれで格好良い。
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世界の名探偵コレクション10/フィリップ・マーロウ 集英社文庫(稲葉明雄訳)
(収録作品)
● 犬が好きだった男【The Man who Liked Dogs/1938】
● 碧い玉【Mandarin's Jade/1937】
● うぬぼれた殺人【Smart-Aleck Kill/1934】

このシリーズは他に、ホームズ、ルパン、ブラウン神父、ポアロ、コンチネンタル・オプ、メグレ警視、クイーン、マープル、ストライカーといった錚々たる顔ぶれ。


[和書] フィリップ・マーロウ―世界の名探偵コレクション10


ベイ・シティ・ブルース 河出書房新社(小鷹信光編・小泉喜美子訳)
(収録作品)
● 赤い風【Red Wind/1938】
● 密告した男【Finger Man/1934】
● ベイ・シティ・ブルース【Bay City Blues/1938】

小鷹信光氏の編集による「アメリカン・ハードボイルド」シリーズの2冊目。シリーズ第1巻はダシール・ハメット。故・小泉喜美子氏はこれによって念願だったチャンドラーの翻訳を果たした。このシリーズの巻末には小鷹氏による「ハードボイルド雑学事典」が収録されているのが嬉しい。



ハードボイルドの伝道師
松田優作の工藤ちゃんでお馴染の「探偵物語」の原作者でもある翻訳家の小鷹信光氏(1936年〜)。数多くの著作で日本のファンにハードボイルドの魅力を伝えてきた、ハードボイルド研究の第一人者だ。
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ヌーン街で拾ったもの ハヤカワポケットミステリ(清水俊二・田中融二訳)
(収録作品)
● ヌーン街で拾ったもの【Pick-up on Noon Street/1936】
● 殺しに鵜のまねは通用しない【Smart-Aleck Kill/1934】
● 怖じけついてちゃ商売にならない【Trouble is my Business/1939】
● 指さす男【Finger Man/1934】

現在手に入るものの中では清水俊二訳で読める唯一の短篇集。主人公名がフィリップ・マーロウに直される前の短編集を底本としているのが珍しい。


[和書] ヌーン街で拾ったもの


チャンドラー傑作集  番町書房(各務三郎編・清水俊二訳)
チャンドラー美しい死顔 講談社文庫(各務三郎編・清水俊二訳)
(収録作品)
● 序説【The Simple Art of Murder/1944】
● 殺しに鵜のまねは通用しない【Smart-Aleck Kill/1934】
● スペインの血【Spanish Blood/1935】
● シラノの拳銃【Guns at Cyrano's/1936】
● 待っている【I'll be Waiting/1939】
● 怖じけついてちゃ商売にならない【Trouble is my Business/1939】
● 殺人の簡素な芸術【The Simple Art of Murder/1950】

創元推理文庫の全集に未収録の『スペインの血』と『シラノの拳銃』が収録されていたのが、当時としては貴重だった。




マーロウ最後の事件 晶文社(稲葉明雄訳)
(収録作品)
● 湖中の女【The Lady in the Lake/1939】
● 女を裁け【Try the Girl/1937】
● 翡翠【Mandarin's Jade/1937】
● マーロウ最後の事件【Philip Marlowe's Last Case/1959】

長篇にそのプロットの大部分が使用されたため、他の短編集に収録されていなかった作品を集めた短篇集。オリジナルでマーロウが登場する唯一の短編「フィリップ・マーロウ最後の事件」も収録している。
[和書] マーロウ最後の事件

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