ハードボイルド・スクール|レイモンド・チャンドラー邦訳リスト
1940年頃のロサンゼルス
(ウィルシャー・ブールヴァード)

不況、横行する犯罪、そして美しい自然。ハメットやチャンドラーのハードボイルド小説がアメリカ西海岸で花開いたのはこのような時代背景とロケーションがあったからこそかも知れない。とりわけ”天使たちの街”ロサンゼルスはその後も多くのハードボイルドや犯罪小説の舞台となっている。

●ここでは、チャンドラーの死後に発表された、フィリップ・マーロウを主人公とするパスティーシュとフィリップ・マーロウをテーマとして書かれた書籍を紹介しています。●紹介している書籍には、現在絶版となっているものも含まれています。
INDEX - 邦訳作品リスト - 長篇全作紹介 - 中・短篇集紹介 - チャンドラー関連書籍 - 登場人物小事典

黒い瞳のブロンド【The Black-Eyed Blonde】ハヤカワポケミス(ベンジャミン・ブラック著/小鷹信光訳)
著者ベンジャミン・ブラックはブッカー賞作家ジョン・バンヴィルの別名義。ブロンドの髪に黒い瞳という珍しい取り合わせの美女がマーロウの事務所を訪れるところから始まる遺族公認のパスティーシュ。時間設定は『長いお別れ』『ロング・グッドバイ』の後(『プレイバック』の前)にあたり、続編的要素が多いため、『長いお別れ』『ロング・グッドバイ』を読んでいたほうが楽しめる。原題「The Black-Eyed Blonde」はチャンドラーが遺した多くのメモのなかにあった将来の作品タイトルの一つだった。また、村上春樹氏の翻訳文体を意識したという小鷹信光氏による訳文も読みどころだ。
[和書] 黒い瞳のブロンド


プードル・スプリングス物語 【PUDLE SPRINGS】早川書房/同文庫(ロバート・B・パーカー著/菊池光訳)
プレイバックに続く長篇第8作として、冒頭部分のみを書いて亡くなったチャンドラーの後をロバート・B・パーカーが引き継いで完成させたもの。マーロウとリンダが結婚していることが話題となった。ただしチャンドラーが書いたのはこの「新婚生活」を描いた4章までで、事件そのものや全体のストーリーはパーカーのオリジナルと言える。1998年にジェームズ・カーン主演のテレビドラマが全米で放映され、日本でも字幕付きのビデオで見ることができる。余談ながら、本書の解説に原寮氏が「いつかは自分も『プードル・スプリングス物語』を完成させてみたい」という旨のコメントを残しており、是非実現させて欲しいと願って止まない。
[和書] プードル・スプリングス物語


夢を見るかもしれない 【PERCHANCE TO DREAM】 早川書房(ロバート・B・パーカー著/石田善彦訳)
おそらくは夢を 【PERCHANCE TO DREAM】    早川文庫 (ロバート・B・パーカー著/石田善彦訳)
「プードル・スプリングス物語」から2年後に再びロバート・B・パーカーによって書かれた純粋なフィリップ・マーロウもののパスティーシュ。もしかしたら本家のスペンサーが行き詰まっていた時期だったのかも知れない。チャンドラー初の長篇「大いなる眠り」の事後談といった内容で、登場人物もほぼ同じ。マーロウが主亡きスターンウッド家を訪ねるところから物語は始まる。「プードル・スプリングス物語」ではリンダとマーロウの結婚というサブテーマに縛られて自由に書けなかった鬱憤を見事に晴らしたパーカーの意欲作。タイトルの"PERCHANCE TO DREAM"はハムレットの台詞で、邦題はハードカバーから文庫になる際に変更された。
[和書] おそらくは夢を


フィリップ・マーロウの事件1 1935-1948 早川書房(バイロン・プライス編/稲葉明雄、他訳)
チャンドラーの生誕100年を記念して出版された、現代の作家がフィリップ・マーロウを主人公にして書いた短篇集。執筆した作家は以下の通り。

マックス・アラン・コリンズ ロジャー・L・サイモン ジョン・ラッツ
ジョイス・ハリントン ジョナサン・ヴェイリン ディック・ロクティ
W・R・フィルブリッツ サラ・パレツキー ジュリー・スミス
ベンジャミン・M・シュッツ フランシス・M・ネヴィンズJr
ローレン・D・エスルマン パコ・イグオシナ・タイボ二世


フィリップ・マーロウの事件2 1950-1959 早川書房(バイロン・プライス編/稲葉明雄、他訳)
1と同時に刊行された短篇集。執筆した作家は以下の通り。

ロバート・J・ランディージ サイモン・ブレッド エド・ゴーマン
エドワード・D・ホック ロバート・キャンベル ロバート・クレイス
ジェイムズ・グレイディ スチュアート・M・カミンスキー
ジェレマイア・ヒーリイ エリック・ヴェン・ラストベイダー

※チャンドラーオリジナルの「フィリップ・マーロウ最後の事件」も併録。


フィリップ・マーロウの事件 早川文庫(稲葉明雄、他訳)
上で紹介したフィリップ・マーロウのパスティーシュ・アンソロジー2冊の抜粋文庫版。収録された作家は以下の通り。「フィリップ・マーロウ最後の事件」も併録。

スチュアート・M・カミンスキー ロジャー・L・サイモン サラ・パレツキー
パコ・イグナシオ・タイボ二世 エドワード・D・ホック ジョイス・ハリントン
ベンジャミン・M・シュッツ ジェイムズ・グレイディ ディック・ロクティ
マックス・アラン・コリンズ ジェレマイア・ヒーリイ ジョン・ラッツ
ロバート・J・ランディージ ジョナサン・ヴェイリン ジュリー・スミス
[和書] フィリップ・マーロウの事件


マーロウ もう一つの事件 角川文庫(イベア・コンテリース著/小林祥子訳)
熱狂的なウルグアイのチャンドラリアンが異様なテンションで書き上げたパロディともオマージュともつかぬ問題作。一応マーロウが主人公ではあるが、いきなり三人称の記述になったり、チャンドラーが容疑者として登場したりし、更にどこかで聞いたことのある名前も多数登場してもう目茶苦茶。本編の後にチャンドラーと同時代の作家たちによる架空の座談会の模様や、あの小鷹信光氏が解くのに70時間かかったという超マニアックなチャンドラリアン・クイズが収録されている。


ロング・グッドバイ〔東京篇〕 ハヤカワ文庫 (司城志朗著)
2014年4月〜5月にかけてNHKで放送されたドラマ『ロング・グッドバイ』(全5回)の司城志朗氏によるノベライゼーション。ドラマの脚本は渡辺あや、キャストは探偵・増沢磐二(フィリップ・マーロウ)が浅野忠信、原田保(テリー・レノックス)が綾野剛、上井戸亜以子(アイリーン・ウェイド)が小雪だった。舞台を日本に置き換えた翻案だが、時代設定は1950年代で、ヴィクターズというバーでギムレットを飲むシーンが登場するなど、原作に忠実なだけでなく、その世界観と雰囲気を大切にした制作姿勢がファンにも好評だった。司城志朗氏は本書で「チャンドラーが使ったフレーズを使わずに、チャンドラーの世界を再現する」という難題に挑んだ。
[和書] ロング・グッドバイ〔東京篇〕


ギムレットには早すぎる アリアドネ企画(郷原宏編著/山本楡美子訳)
「マーロウ自身」「私立探偵」「女」「アメリカ」「酒」「人生・友情」「警察」の7つのテーマ別にまとめられたフィリップ・マーロウ名言集。フィリップ・マーロウを主人公とするすべての長篇小説から選りすぐった名言を新訳で紹介し、その台詞が生まれた背景・状況も解説している。タイトルの『ギムレットには早すぎる』はご存知のようにテリー・レノックスの台詞だが、カクテル関係のホームページではマーロウの台詞と紹介されていることが多いのは何故だろう。


フィリップ・マーロウのダンディズム 綜合社 (出石尚三著)
服飾評論家の著者がチャンドラー作品の「ファッション」にスポットをあてたエッセイ集。フィリップ・マーロウや主要な登場人物のダンディーさ、チャンドラーの驚きべき美意識を32にも及ぶキーワードから解き明かすという趣向が目新しい。原書はもちろん、当時のファッション雑誌や新聞などの文献や周辺資料の調査に裏打ちされ、資料価値に富んだ解説書としても楽しめる。著者のチャンドラーへの敬愛が滲み出る語り口が心地よい。
[和書] フィリップ・マーロウのダンディズム



フィリップ・マーロウ 傷だらけの騎士道的精神 書肆侃侃房 (後藤稔著)
ポアロ、ミス・マープルに続く「名探偵を推理する」シリーズの第3巻。改めて考えると、名探偵という言葉とマーロウとの組み合わせにやや違和感を覚えないでもない。チャンドラーの作品群をミステリーという側面のみで読み解き評価するという、これまでにありそうでなかったアプローチで、長編7作品、短編27作品を解説。さらに映画や TVドラマも詳細に紹介し、DVD・ブルーレイ時代となった現在の流通状況が確認できるのは嬉しい。
[和書] フィリップ・マーロウ 傷だらけの騎士道的精神

 [BACK]