目覚めよと呼ぶ声が聞こえるの読者の声



目覚めよと呼ぶ声が聞こえる」-読後の感想-

 硯塚犀角様,
「目覚めよと呼ぶ声が聞こえる」を拝読させて頂きました。内容の興味深さゆえに,するすると読み終えました。このスルスルと読み終えるという所が本当に素晴らしく、硯塚さんの思う壺にはまったのかもしれません。出版本当におめでとうございます。
 というわけですが,読み終わってから既に2週間以上も経てしまいました。
読後感想文が遅くなりまして,すみません。それもこれも,作者の言われるところの,「いや〜ポルノ小説ですから・・・・・・」たる所以で、どうコメントして良いやらで時が過ぎました。
 昨日は,栂池自然園の水芭蕉巡りで4時間余心地よい汗をかきましたので,感想文と相成りました。それにしてもなんとも,妖艶な艶めかしい表現で,作者の経験深さが滲み出て凄いの一言に突きました。情けないかな,私の到達できない境地で羨ましくも思います。
 また,複雑な展開は難解で,難解さを濡れ場で包み込む手法は、何ともさすがとしかいい様が無く、すがすがしくもあります。往年のポルノ映画的手法でしょうか?

 ところでその後推敲があったのでしょうか?あずさの中で読んだ「はじめに」は,少々露骨過ぎて,これから本書を読む読者の度肝を抜く内容でしたが,今回の冒頭の「はじめに」は、あずさの中で読んだ時よりもかなりスット読めて、良かったです。
 さて,作品の方ですが,当に冒頭述べさせて頂いた通りです。面白い展開と着想をされた作者に対して頭が下がりますが,一方で文也という人格を世に排出した作者の学生時代を思い巡ると、いささか戸惑いさえ感じます。が,それもまた作者の思う壺なんでしょう。
 私自身がブ男故に,美男子の心境は皆目わかりませんし,美少女の心境もまた理解を超えたところにあり,作品の中の文也的な発想があっても不思議は無いなという。妙な納得感を持ちました。また,その辺が大変興味深かったですね。 
 一方で,最近の新聞紙上を賑わす,多くの奇怪で奇妙な事件の本質を突いたような人間心理に,一定の理解を示す内容が随所に表現されており,作者自身,昨今の色々な事件に対して何ゆえかを真摯に向き合っている結果なのかもしれないと思いました。
 奇怪な事件に表立って犯人側の意識についてコメントする事は、ややもすると誤解を招く事があるものですが、それを小説で表現したところに感服です。

文也:
 作品には,何人もの文也が登場するので,多少混乱しました。未だに混乱しております。それも作者の意図ですからしょうがないですね。DNAに刻まれた深い記憶が蘇って開花される瞬間というのは、余りにも神秘的で不可解なものなんでしょうね。
 二人の文也が交錯するすべは,将来の脳腫瘍故の錯乱を予兆させてはいますが,もう少し交錯がうまく表現できていれば,例えば,猫を更に上手く利用してとか、もっと,判りやすかったのですが,それは,むしろ読み手である私自身の読解力の無さを露呈する恥ずかしさかもしれません。
 それにしても,何度も文也が登場するために,作者は,少々強引に双子を生ませてしまいましたが,あれはあれでしょうがなかったのでしょうか?
 栗太郎とピアノ教師を思うと作者には必然ですが読者には少々強引なのかなという気もしました。年齢と共に展開する理子の存在についても少々中途半端かなと思いましたが,これ以上女性心理を展開してみてもピントがボケるだけかもしれませんから、作者の選択で良かったのかもしれません。

展開:
 目くるめく展開は,作者の思う壺ですが,DNAの旅は時空を越えて旅をしており,当に本作品の展開と同じなのですよね。芸術や歴史はこうやって創造され,宇宙の空間と時間も創造されたことを思うとき,少々の強引は,実は強引では無く当に現実であり,真実なのかもしれないと深く感じました。
 文也を生んだ両親。特に父:世間体や厳しさを持ち,確かに東京に愛人もいるのでしょうが,その父について,あるいは母の父でも良いでしょう。彼らの文也以前の昔が気になります。綺麗な母を妻として持つ父にして文也であり,文也にして綺麗な母。両親の昔の逸話があれば,もっと面白かったかもしれませんね。
 DNAは将来に渡って受け継がれていくものだという点において本作品は成功していますが,DNAは受け継がれたものであるという事実にも興味がある所であり,もし,そん な話があれば,より話が膨らんだのかもしれませんが、自らの経験をベースにという以上,それは展開的に難しかったのかもしれませんね。すみません。

描写:
 あと,所々に展開する,妙に専門的な描写がどの程度必要かは議論の分かれるところですが,第5章の後半のDNAの説明については少し語り過ぎてしまったのかなと思いました。本書自身の本質的な内容が故に,ここまで語らなくても読者には判って欲しいところです。
 私が作者なら語らず,読み手に察しさせる手法に頼りたかったところですが,昨今の読者は行間を察しない人もいますから説明しておかないと駄目なのかしれませんね。
 スケベでいやらしく,そして大いなる宇宙を感じさせる素晴らしい本でした。是非,第2段を期待しています。頑張って下さい。

                                       松本市在住 S様より



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 道嵩文也の略歴

1959年 松本市にて誕生
1973年 母 子宮癌により死亡
1976年 由梨子との初体験
1979年 栗太郎の歌を作詞
1980年 K大経済学部に入学
1983年 栗太郎の歌 大ヒット
1984年 K大医学部へ入学
1990年 NYK大学に留学
1992年 理子と結婚
1995年 神戸大震災 
     踏み切りで自殺


 平野道嵩の略歴

1980年 双子兄弟として誕生
1983年 祖母と松本市へ移住
1998年 突如、学問に目覚める
2000年 母(平野玲子)死亡
2004年 プラズマ相対理論発表
2010年 ノーベル物理学賞受賞


伊集院理子の略歴

1965年 世田谷区で誕生
1984年 K大医学部進学
1992年 道嵩文也と結婚
1993年 長女冬美を出産