トラウマを乗り越えるために


外傷性ストレス障害(PTSD)とは?

外傷後ストレス障害(PTSD)とは「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-IV)などで、外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disoder)として分類される不安障害の一つです。
人が日常的に体験する範囲を超えた「極度に外傷的ストレス」にさらされた後経験するさまざまな症状のことです。
トラウマになるショックなできごととは、死にそうになったり、大怪我をしそうになったり、身体に脅威が及んだりする出来事を直接個人的に体験することで、被害を受けた本人が「強い恐怖と無力感および戦慄」を感じることが、PTSD発症に関わってるとされてます。

ジュディス・ハーマン博士(ハバード大学・精神科医)によると、「このような反応が起こるのは、行動が無益な時である。抵抗も闘争も可能でないときときは、人間の自己防衛システムは圧倒され、解体に向かう。危険に対する通常の反応を構成するものは、いずれも、その有効性を失いながら、現実の危険が去った後も長時間持続する。それも正常とは違った、激しすぎる状態が続くのである」(ジュディス・ハーマン著『心的外傷とストレス』)とされています。

私たちは生命や身体を危険に晒す、日常経験する範囲をこえるようなできごとが突然、身に降りかかったとき、誰でも大きなショックを受けます。
戦慄的なできごとがトラウマ記憶として脳に刻まれ、脳の中に冷凍保存されてしまうのです。これを恐怖記憶と言います。それまで自分が持ち合わせている方法では、「なんとかしのぐ」ことができなくなり、様々な状態(症状)が私たちの身に起こるようになります。

外から閉ざされた密室、家の中で、夫や恋人から日常的にトラウマとなる恐怖を加えられることで、ドメスティック・バイオレンス(モラル・ハラスメント)被害女性の多くが複雑性PTSDを発症してしまいます。


トラウマとなるショックなできごととは?

航空機事故・列車事故・船舶事故・自動車事故・原発事故などの、人為的な災害
地震・地震・津波・洪水・山崩れ・雪崩・火山噴火・台風などの、自然災害
殺人・レイプ・暴行などの、暴力犯罪
テロ・戦闘行為やその目撃・拷問・強制収容所などの、戦争行為
拷問、殺人の目撃・救急隊等のおびただしい数の死体の目撃をするなどの、死を招く事故の目撃
ドメスティック・バイオレンス、モラル・ハラスメント・性暴力・暴行・強盗・人質など死の脅威に晒された経験、個人に対する攻撃


外傷性ストレス障害(PTSD)は、次の3つの症状をくり返す。

@過覚醒 A再体験・侵入 B回避・麻痺(狭窄)、これ等の症状は、本人に大きな苦痛を与え、社会生活、職業生活、日常生活などの重要な領域において機能障害をもたらします。

1 <過覚醒>
いつ同じ危険が起こるかもしれないという感覚からくる症状です。些細なことで驚き、イライラし、眠れなくなり、悪夢を見、自律神経系の慢性的な興奮状態をもたらします。怒りがコントロールできなくなり、集中ができなくなる症状が出ます。

2 <再体験・侵入>
危険が過ぎ去り長時間経過してからも、その出来事を何度も<再体験>することが起きます。過覚醒時にはフラッシュバックとして、睡眠中は外傷性悪夢として再体験します。
出来事に関連した刺激(トリガー)によって、脳に映像として刻まれてる恐怖記憶(トラウマ)が再現され、いま現実に起きてるかのように生々しく体験し、瞬間的に過去に体験した感覚や感情が甦り、ぞっとするような強い恐怖に晒されます。この現象をフラッシュバック、イメージの<侵入>といいます。
普段、トラウマ記憶は冷凍保存されていますが、何かのトリガーをきっかけに、瞬時に恐怖記憶が解凍されるのです。余りにも記憶が生々しく蘇り、過去の現実に連れ戻されるので、自分が死ぬのではないか、発狂するのではないか、恐怖や悲しみ、苦しみや怒りが込みあげ、何が何だか分からなくなりパニック状態になることがあります。

3 <回避・麻痺>
人は恐怖体験を思い出すことで、トラウマを受けたときと同じく恐怖や不安感に襲われるので、それに関連した刺激を<回避>しようようとしするのは、自分の身を守ろうとする自然な防衛反応です。
そのことを思い出すものや人や会話を避けたり、自分が以前していた活動に無関心になったり、人から孤立し引きこもったり、自分の将来に希望を持てなくなり、生き生きとした感情を失い、外界とのつながりを維持できなくなったりもします。
暴力によって無力化され、抵抗も全く無駄である時、人の自己防衛システムが完全に停止し、<精神的麻痺>が起こります。
人は現実の恐怖生活から脱出するのではなく、自分の意識を変えることで、その生活から抜け出そうとします。従って恐怖経験を思いだすまいとして、<解離性健忘>が起こり、外傷の重要な部分を思い出せなかったり、<感情の麻痺や無感覚>が起きたりします。

トラウマ経験を回避することにより、@過覚醒 A再体験・侵入 B回避・麻痺(狭窄)を避けようと意識することで、再び過覚醒亢進状態に陥り、@ABの悪循環を繰り返すということが起こります。


PTSDの診断は?

上記のような症状の悪循環が1カ月以上続き、社会的、職業的、他の重要な生活の機能に問題が起きているとき、医師によってPTSDと診断されます。

急性PTSD … 症状の持続期間が3カ月未満
慢性PTSD … 症状の持続期間が3カ月以上
遅発性PTSD … ストレス経験から6カ月経過して発症する場合
複雑性PTSD … ドメスティック・バイオレンスや虐待被害を原因として発症した場合