コラム トラウマを受けた人への接し方
性格的に体力的に強い人(男性)は、人生の辛い試練に耐えられる、弱い人(女性)は試練に対応できずに、長く苦しむと思われています。しかし、これは誤解です。性格的に体力的に強いとか弱いとか、男か女かには関係ありません。 トラウマの出現と深刻さは、トラウマとなったショックの大きさ、強さ、時間、そこで経験した死の脅威が関係します。 被害当事者は誰でも、死の恐怖をもった過酷な経験を忘れたいと思いますが、それは不可能です。他者から受容され、適切なサポートを受けることで、「自分は生きていいのだ」と、思えるようになり、不条理な出来事を過去の経験の一部として、自己の人生に統合できると、回復に結びつきます。 被害当事者が理不尽な暴力を受け、人権が侵害されていたことに気づき、正統な怒りをもてるようになることが、カウンセリングの目標の一つです。当事者が加害者に対して怒ることは自己回復のための強力なモチベーションになります。 1 安全で安心な場で、その人が話すことを信じて耳を傾ける。 2 当事者のプライバシーを守る。 3 受容と共感を持って聞く。 4 当事者が沈黙することも多く、沈黙を共有することも重要である。 5 「気持ちは分かる」など、安易なことは言わない。 6 災害や事故などの不条理な出来事に対して、「あなたに責任はない」と伝える。 7 「あなたが悪いのではない」「よく頑張ってるよ」「ひとりぼっちじゃないよ」と伝 える。 8 「早く忘れなさい」「いつまでも過去のことにこだわらず、新しい人生に踏み出しな さい」などと、説教しない。 9 「あなたにも悪いところがあったのでは?」「気をつければ」「我慢しなさい」等、 決して責めてはならない。 10 思い出せないことを、無理に思い出させようとしない。 11 重要なことは何度でも伝える。 12 迷う、考えを変える、失敗する、悩み抜く、時間をかけて当事者が選ぶことを尊重 する。 13 あなたの考えを押し付けない。 14 焦らない、回復には時間を要する。 15 ケアを受けることが嫌な人、援助をしてほしくない人もいるので、押しつけてはな らない。
〔参考図書〕 『心的外傷と回復』 ジュデイス・L・ハーマン著(みすず書房) 『トラウマを乗り越えるためのセルフヘルプ・ガイド』 オロール・サブロ=セガン著 (河出書房新社) 『生きる勇気と癒す力〜性暴力の時代を生きる女性のためのガイドブック〜』 エレン・バス+ローラ・デイビス著(三一書房) 『犯罪被害者の心の傷』 小西聖子著 (白水社) 『トラウマとジェンダー〜臨床からの声〜』 宮地尚子著(金剛出版) 『NHK人間講座トラウマの心理学』(2000年 10月〜12月) 小西聖子著 (NHK出版協会) 『あなたが悪いのではない~子供時代に性的虐待を受けた女性たちをカウンセリングする〜』 リンダジンガロ 田上時子監訳 (発行 ビデオ・ドック 発売 木犀社) 『サバイバーズハンドブック〜性暴力被害回復への手がかり〜』 性暴力を許さない女の会:編著 (新水社) 『レイプ・踏みにじられた意思』 S・ブラウンミラー 幾島幸子訳 (勁草書房) 『御直披(おんちょくひ)』 板谷利加子:神奈川県警察本部・性犯罪捜査係長 (角川書店) 『性犯罪被害にあうということ』 小林美佳著 (朝日新聞出版) 『STANDO 立ち上がる選択 〜レイプで人生は終わらない〜』 大藪順子著 (いのちのことば社フォレストブックス) 『Working With Women ワーキング ウィズ ウィメン〜性暴力被害者支援のためのガイドブック』 フェミニストセラピィ研究会編 (フェミックス) 『フェミニストカウンセリングの実践』 井上摩耶子 (世界思想社)